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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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(36) 死滅回遊 2/8





世の中にクリスマスソングが溢れ返る季節がまたやって来た。一年なんてモノは長いようで短くて。クリスマス商戦に踊らされるCM一色だったのがある日を境に和風なCMに衣装替えをし、そこから新年を迎えるのもあっという間。年が変われば、『行く、逃げる、去る』のカレンダーのクリンナップが駆け抜けて、また年をひとつ取るわけだ。いよいよ三十路の鳴海は笑うしかない。
去年のクリスマスは勝とそしてエレオノールと三人で過ごした。勝は生まれて初めてのクリスマスパーティーに物凄く喜んでいた。ありきたりな白い生クリームに赤いイチゴの載ったケーキなのに「おいしい!」とパクついて、サンタのマジパンは「ぼくのたからもの!」と言って机の引き出しにしまっていた。
鳴海は勝が楽しんでくれただけで良かったし、何より、エレオノールが隣にいてくれること、それだけでサンタさんありがとうだった。
来週のイブにはまた、三人でパーティーを開く予定。エレオノールのイブの予定を押さえることが出来た瞬間の、安堵たるや計り知れない。今年はリシャールという難敵がいるためだ。
鳴海の何もかもが集束して、エレオノールに向かう。自分とエレオノールとの間に生まれたコンデンサレンズは外れることがあるんだろうか。エレオノールが最上の幸福を手に入れる為ならば、自分は砕けてなくなったって構わないと心底思う。


そのエレオノールは今、鳴海の目前で身体を横向きにして立っていた。金曜日の帰宅ラッシュ、人熱きれ、密着する程の距離、ぎゅうぎゅうのスシ詰め状態。
ここは満員電車の中。
鳴海はエレオノールのために、他の乗客から我が身を盾にし、自分と扉に挟まれる彼女に少しでも空間を確保してやる。エレオノールはぼうんやりと流れる車窓を眺めている。電車に揺られる度に、胸元に彼女の柔らかい重みを感じる。鳴海の視線を感じたのか、疲れの覗く顔が上を向いた。
「大丈夫か?」
鳴海の問いにエレオノールは「うん」と小さく頷いた。
「…ナルミ、本当にすまない。お仕事中だったのに呼び出してしまって」
既に数回耳にしたフレーズを、エレオノールは再度繰り返す。
「なァに。気にすんな。もう帰り支度するトコだったし。それに、こういう時はオレを呼べって、昔っから言ってたろ?」
「それって私が高校生の時の話でしょう?」
「期間を区切った覚えはねぇよ」
と頭をポンポンと叩いてやる。鳴海の言葉にエレオノールはホッとした表情を見せた。


エレオノールが痴漢に遭った、と鉄道警察から連絡を受けた鳴海は仕事を放って飛んで駆けつけた。電車から降りたエレオノールがふらふらと倒れ込んだことから駅員が駆けつけ発覚した。残念なことに痴漢には逃げられてしまっていた。血相を変えて迎えに行った先で放心しているエレオノールを見つけ、鳴海を認めた瞬間にじんわりと目元を濡らすエレオノールの頭を「よしよし」と撫でてやって、ふたりして帰路に着いているのが只今の現状なのだった。
満員電車ってのは望む望まないに関わらず、赤の他人がまるで恋人同士の距離感を得られる、ある意味異常空間と言える。鳴海にしたって通常、エレオノールとこんなにも身体を添わせることなんか、それが例え数分間の出来事であっても、有り得ない。どんなに望んでも、だ。
それが今、エレオノールがひたっと胸と胸を合わせてくっついている。
呼吸がかかる近さ、柔らかい身体、声に出すのは憚られるが、こんな好い女に密着されたら痴漢したくなる気持ちは男として分からないでもない。それを普通は、理性って奴で押し殺すわけで。


「私…、またナルミに迷惑をかけてしまったんだなって思うと」
エレオノールは見るからに、申ーし訳なさそーうな表情をしている。
「おまえが気に病むことは何にもねぇってば」
エレオノールは被害者なんだから申し訳なく思う必要なんてどこにもない。
「でも…」
「いーんだよ。オレはおまえの保護者みてぇなもんだから」
「保護者…?」
「日本じゃ他に頼るヤツいねぇんだろ?幾らでも頼れって」
エレオノールが火照ったような頬で見上げてくる。うん、可愛い。どうしたってクリクリと頭を撫でてしまう。
とにもかくにも。
エレオノールが今回、自分に連絡を寄越してくれたことに、鳴海はホッとしていた。彼女の中で『頼りになる助け』として、真っ先に連想されたのがリシャールでなくて良かった。どんな時でも彼女の助けになりたい、どんな時でも彼女に頼りにされたいのだ。万感の想いでエレオノールを見下ろすと、彼女は頬を赤く染めて、潤んだ瞳で鳴海を見つめていた。
ふと、あれ?、と思う。
エレオノールに熱く見つめられるのは嬉しいのだけども、何か違う。満員電車で車内温度が高いことを考慮に入れても、顔の赤味が少し強い気がする。よくよく見れば目付きもどこかとろんとしているし、電車に揺られているとはいえ、上半身がフラフラしているような。


「おまえ、熱があるんじゃねぇの?」
「え…?」
鳴海はエレオノールの額に掌底を押し当てる。一瞬、ひくっとしたものの大人しく為すがままになっているエレオノールの頬やら首筋やらも、まァついでに、と触れて体温を計る。体温高めの鳴海の手の平よりも若干ポコポコと感じる、エレオノールの肌。
「やっぱちょっと熱ィな。どした?さっきまで普通だったのに」
「風邪っぽい感じは…しないけど…」
エレオノールは、鳴海にベタベタと触れられたせいで無駄に赤くなってしまった顔をやや鳴海から背けて俯いた。
「変な目に遭ったからな。気疲れしたんだろ。知恵熱みてぇなモンか」
「そんな…幼児みたいな…」
くら、とエレオノールの頭が大きく振れた。
「おおっと」
網棚にかけていた手で咄嗟にエレオノールの後頭部を支えると、鳴海はそのまま彼女の上体を自分の胸に凭れかからせる。抱かれるように背中から回した腕で肩を支えられ、エレオノールは次第に身体から力を抜くと、完全に体重を鳴海に預けた。
「マジで大丈夫か?」
「大丈夫…でも、ちょっと、ぼうっとする…か、な…」
「強がるなってのに」
「こうしていると…楽、…」
「抱えててやるから、立ったまま寝られるなら寝てろ。ま…後、数分の話だけどな」
「…本当…気持ち、いい…」
「寝たら寝たで、家まで担いでってやるから心配すんな」
太い指にバッグを抜き取られた細い右手が、鳴海の胸元を掻きコートの襟を握った。それはまるで樹皮にしがみ付く蝉のようで、鳴海は小さい笑いでエレオノールを揺する。エレオノールは鳴海の胸板に顔を擦り寄せ、胸一杯に大好きな匂いを吸い込むと、ゆるゆると瞼を閉じた。
鳴海はエレオノールの肩をそっと撫でた。
カタン、カタン、と電車が揺れる度に、エレオノールの身体が自分にめり込んでいくような気がする。


この電車がどこまでもずっと走り続けてくれればいい、
海の上すらも船のように走って、どこまでも、どこまでも。
そうすれば、余計な考えをも振り切って、いつまでも一緒にいられるのにな。
鳴海はとっぷりと夕闇に沈んだ車窓に目を遣って、苦苦と笑った。


鳴海の匂いを、温もりを感じるほどに身を寄り添い、逞しい腕に支えられる。こんな状況を生んでくれた、あれほど嫌いだと思っていた満員電車が好きになる。
鳴海に触れている、触れられている、ただそれだけで、気持ちが良い。
鳴海に掴まって電車に揺られ、良からぬことを考える。今ナルミが私に痴漢してくれたら、なんて考える。きっと熱に浮かされているせいだ。
ナルミにだったらおぞましさなんて感じない、嫌悪なんて覚えない、ひたすらに快感だけを享受する。
ああ、今ここでナルミのその硬いのでぐちゃぐちゃにして欲しいのに、と。
怖かったことも、気持ち悪かったことも、穢されてショックを受けたことも全て、『気持ちの良いこと』に塗り替えられるのに、と。
悪魔の蛮行を受けた身体の疼きは止まらないのに、鳴海が触れることでむしろ激しく煽られて、こうして寄り添っているだけでエレオノールの頭の中も身体も蕩け出しておかしなことになっていく。
「大丈夫。オレが傍にいるから。何にも怖かねぇよ」
肩を抱く鳴海の手に力がこもる。鳴海の腕に抱えられて、エレオノールの性器はズキズキと勝手に収縮を繰り返し始めた。トロトロと溢れ出た蜜液は既に濡れ切ったショーツから滲み出し、腿の内側をじっとりと湿らせていく。


鳴海の手、鳴海の匂い、鳴海の感触。
鳴海に嬲られたい、でも清廉な彼は、そんなことを夢にも思いはしない。
だから、自分の脳裏に思い描くしか術はない。
今日遭遇した出来事を壊れた記憶デバイスのように繰り返し繰り返し、エレオノールを弄る手は鳴海のものに変えて。愛しい鳴海の指がエレオノールの膣内に激しい抽挿を繰り返し、擦られて生まれた熱で全身が蕩け出して蜜になる。犯罪者の指に悶える嫌悪感は消え、ただ、鳴海の愛撫を甘受するだけの幸福に取り巻かれる。
快感に鳥肌が立ち、ふるふると身を竦めた。
「おい、辛いのか?」
鳴海の問いに小さく首を振る。
「ならいいんだけどよ…後、もうちょっとだから辛抱しろよ?」
後もう少しで鳴海から離れなければいけないの…?ぞくぞくする痺れに身を任せ、エレオノールは鳴海の胸元に顔を埋めた。


エレオノールが欲望に負け妄想に浸りきっていた裏で、鳴海は必死に理性を掻き集めていた。
エレオノールの様子がおかしい。痴漢に遭うなんて非常事態だ、幾ら冷静を絵に描いたようなエレオノールだって尋常ではいられない。それを踏まえた上で、様子がおかしい。
否、おかしいのは自分なのかもしれない。図らずも彼女を抱きとめ、密着する機会を得たから、だから具合を悪くしているエレオノールがやたら色めいて見えるのだろう。弱っている彼女を色っぽく感じ、性的な目で見る自分は鬼畜だ。
距離が近すぎる。エレオノールが甘く香る。その香りがいつぞやの風呂場で自慰をした記憶を揺り起こす。彼女に働いた官能的な狼藉を思い出す。


堪えろカトウナルミ……
ここでおっ勃てたらシャレにならんぞ……!
自制しろ自制…!


あんなことがあった直後だ。エレオノールだって興奮しているに違いない。
自分は彼女に全幅の信頼を受けているんだから決してそれを裏切るような真似をしてはならない。
降りる駅まで数分、欲望に殴りつけられてグロッキーになった理性を励ましながら鳴海は懸命に堪えた。



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