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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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(35) 死滅回遊 1/8





エレオノールは乗降口脇で文庫本を片手に電車に揺られていた。
今日はコーヒー豆を仕入れている業者の開く試飲会があり、お店を臨時休業した。その後はせっかく街に出たのだからと買い物をしてのその帰りだ。基本的に移動をしない仕事をしているエレオノールなので正直、電車は不慣れだ。帰宅時間にはまだ早いが満員に近い。日本の電車はどうしてこうも混んでいるのだろう。こんなことならもっと早くに帰るんだったと少し後悔する。
ガラス窓に映る車内を見渡して、釣り広告に描かれたクリスマスツリーに目が留まった。来週はクリスマスイブだ。去年と同じく、鳴海と勝と三人でパーティーをやろうという話になっている。一年前の、大はしゃぎしていた勝を思い出して、今年はどんなことをして喜ばせてあげようかしら、なんて思う。
エレオノールにとっても非常に楽しいクリスマスだった。鳴海がたくさん笑わせてくれた。鳴海が同じ空間にいてくれるだけで、エレオノールは泣きたいくらいに嬉しい。
「ナルミ…」
文庫本で覆う口元から漏れる彼の人の名前は、熱い吐息に姿を変えた。目を上げて窓の外を見遣る。空は灰色の雲が重く立ち込め、流れゆく木立は強い寒風に揺すられている。近いうちに天気が崩れるのだろう。
もう一度、彼女の心に深く根を張る男の名前を呟いて、ただそれだけで切なく啼き声を上げる己の秘芯を恥じ、内股を強く引き締めた。


鳴海を想うだけではしたなく劣情が蕩け落ちるようになってもう随分になる。きっかけはミンシアの語った、彼女と鳴海の濡れ話だった。ミンシアの話に嫌悪感を抱いた反面、鳴海に抱かれた彼女に羨望も抱いた。それに触発されて視た夢は、今も鮮明に覚えている。ミンシアの話をそのまま踏襲した、鳴海に抱かれる夢だ。
以来、エレオノールは毎晩のように自分を慰めている。鳴海に抱かれ悦ぶ自分を思い描きながら。
最低だと思う。背徳を覚える。
鳴海を、穢してしまっている。
彼の心の中には、彼が愛したひとが棲んで出て行かないから、エレオノールの想いは行き場がない。永遠に愛する対象には見てもらえない。鳴海から得られるものは、ただの情。
欲深な空ろが鳴海が欲しいと疼き、喘ぐから、エレオノールは指先でそれを慰め続けるしかない。けれど自分の指は悪戯に己の性欲を半端に高めるだけで、蜜だけを夥しく溢れさせ、身体の奥底にドロドロとしたモノを溜め込む一方だ。彼女の指は、彼女の欲深さには短く細く拙い。
「は…」
人に囲まれた電車の中だというのに、鳴海を慕いじわじわと疼き出すカラダに、エレオノールは唇を噛んだ。ふる…、と小さく身体が震えた。秘裂が、はしたない生温かな蜜を垂らす。


ナルミはずるい。
ナルミのやさしさが一番残酷。
私を一番喜ばせるのも、一番悲しませるのも、ナルミなのだから。
私が触れると困ったような瞳をするくせに、自分は時に平気で触れて来る。
触れなければ、知らなければ、欲しがることもなかったのに。
チークキスだって、私がどれだけの想いで「もうしない」と宣言したか。
それを「欲しかった」とあんな、無邪気な笑顔で言われたら    
違う。悪いのは自分だと思い直す。
諦めの悪い自分の未練を鳴海は掬い上げてくれただけ。きっと物欲しそうな顔をしていたに違いない。だから鳴海がキスをくれただけの話だ。フランスに帰国する前の晩に彼がくれたハナムケのキスと何ら変わらない。鳴海がくれるのは情、ただのお情けだ。
それを、さも意味があるかのように受け止める自分がさもしいだけ。


一度でも彼に抱かれることが出来たら
私の想いに諦めはつくのだろうか?
でも、一度でも抱かれてしまったら
今のもどかしくも温かな関係性はきっと元にはもどらない


ふう、と大きな溜息を吐き。そして、視線を本の文字に戻した時だった。
ふと、エレオノールは太腿に違和を覚えた。
硬い、何かが突き刺さるようにして当たる。エレオノールはそれが何かに思い至り、恥ずかしさから反射的にカッと身体が熱くなって、全身が強張った。
痴漢。
明らかにエレオノールの腿を誰かの劣情が突き、誰かの手が弄っていた。どれが誰の手足かも分からなくなるような満員電車の中で、声を上げる勇気は簡単には出ない。あまり目立ちたくない意識の強いエレオノールには尚更のことだった。
この電車は快速で、後二駅分我慢すれば、目の前の扉が開く。5,6分、やり過ごせば何とかなる。最寄り駅ではないけれど途中下車してしまおう。
滅多に電車に乗らないエレオノールだけれど、痴漢に遭うのは初めてのことじゃない。むしろ彼女は、数少ない機会の乗車をする度、大勢に紛れて悪さをされた。だから電車は好きじゃない。放っておこう、少し触られて嫌な気分をするだけ。ちょっとの間、我慢してやり過ごすことにした。
しかしその判断が間違いだったと、後数分でエレオノールは痛切に知ることになる。


太腿を弄る手はスカートの中に潜り込むと大胆にも尻を鷲掴み、エレオノールはヒッと小さな悲鳴をあげそうになるのを必死に堪えた。これまで遭遇した痴漢とは何かが違う、とエレオノールが考えている間にも、じっとりと汗ばんだ手の平は柔肉をぐにぐにと揉み続ける。円を描いて捏ね回すような動きを繰り返される。
そのうちに、エレオノールは自分の身体に起きた反応に愕然とせざるを得なかった。揉まれる尻に引かれて恥丘の肉が伸縮し、莢に包まれた秘芽を不要に刺激する。痴漢されて反応していることに激しく動揺した。
理由には思い当たる。さっきまで鳴海のことを想っていたからだ。鳴海に抱かれることを考えて、既に情欲が蕩けだしていたから。
膝頭を閉じようとしても、いつの間にか誰かの膝が後ろから挟みこまれていて叶わない。扉と座席と痴漢とに挟まれて身動きが出来ない。次第に尻を揉み上げられる度に、自分の身体の芯が濡れたように喘ぐようになった。男の指が徐々に奥へと伸び、ショーツの上から秘裂を擦る。食い込んだクロッチがしっとりと濡れているのが感触で分かり、エレオノールは羞恥心からきゅっと目を閉じた。
「…ッ」
身悶える女の仕草に悦んだ指はストッキングを引き裂くと一気にショーツの隙間から滑り込み、叢を掻き分けて直接エレオノールの秘所を触った。既に溢れ返っていた蜜が、凌辱者の指を滑らした。
上気した顔を文庫本で隠し、歯を食い縛る。恥ずかしい、などと言ってはいられない、声を上げようと思った。
でも。
自分の秘裂はヌルヌルとした蜜を滲ませ、痴漢の指を迎え入れてしまっている。もしも声を上げたとて開き直った凌辱者に「こいつは痴漢されて悦んでいる、だってこんなに濡れている」と大声で喚かれたら?それが痴漢行為によるものではないのだとしても。こんな場所で卑猥な感情を抱いて濡れていたのは自分のカラダだ。何の申し開きが出来ようか?こんな人の目のたくさんある所で『淫乱女』のレッテルを貼られたら、目立つ銀色の自分には逃げ場などどこにもない。


どうしたらと逡巡しているうちに一気に荒れた呼吸が首筋に吹き掛けられる。興奮が伝わってくる。それはそうだろう。獲物は自分の凌辱行為に悦んで濡れたと思っているのだろうから。自分のもたらす淫猥な行為を受け容れていると思っているのだろうから。違うと伝えられないエレオノールを置き去りに、指は秘裂を積極的に弄り出す。
もう、これ以上は我慢できない!
エレオノールは後ろに左手を回し、痴漢の手を掃おうと躍起になった。しかし、エレオノールのか弱い細腕など、欲情のケダモノの気違い染みた力に敵うわけもない。逆に捕まり虜にされて、誘われる、欲望の肉塊へと。湿気て、膨らんだ、狂気の沙汰、性的凶器、むりやり握らされ扱かされる。そして、姦淫を司る悪魔の指が、一息にエレオノールの体内に侵入した。
「く… …ぅ… …ッ…」
痴漢に嬲られてることを誰にも知られたくない。顔を文庫本に埋め、屈辱に耐える。それでも犯人に当たりをつけるために窓ガラス越しに自分の背後を伺って     背後の男と目が合い、心が凍り付いた。
そこにいたのは、エレオノールが高校生の時に悩まされたストーカーだった。執拗に、エレオノールを追いかけ回し一度、レイプ未遂を犯した男。あの時、鳴海が駆けつけてくれなかったらどうなっていたか、恐ろしくて想像も出来ない。男の目がニイと笑う。西の空に沈む下弦の月みたいな形で。恐怖が甦る。恐怖に口を塞がれてもう声が出ない。
「ああ…こんなに濡れて…。やっぱり…君は僕を愛していてくれてたんだね…」
耳元で囁かれた。
抵抗する、心が折られた。


混乱する、心が破れ出す、膝がガクガクと震えている。
クチュクチュと身体が鳴っている、耳と口を閉じる。縋る。
悪夢。悪夢。
夢なら早く覚めて。
責め苦を身体の奥底で受けながら、エレオノールが想うのは、明るい、黒い瞳。
彼女のナカが蠢く指を、甘く噛む。
そうじゃない、悦んでいない!
ああ。カラダが切なく啼いてしまうのは、鳴海を思い出したから。
決して、凌辱者の愛撫のせいなんかじゃない     


次の駅に着く直前、白い手の中に生ぬるい粘々した何かが吐き出された。
他人に無関心な人の林の中、心に夥しい罅を入れられた彼女は、浅ましい肉欲に汚された。



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