忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。





エレオノールの母の大伯母にフランシーヌという人がいた。彼女は貧しかったが博愛に満ちた優しい女性だった。
そんなフランシーヌに想いを寄せる兄弟がいた。奥手で堅物で頼り甲斐のある兄と、人懐こく賢くどこか甘えん坊の弟。そしてフランシーヌが愛し、選んだのは兄の方だった。
先にフランシーヌを好きになったのは自分なのにと、自分を差し置いて彼女に求婚した兄に裏切られたと、弟はフランシーヌを攫い、姿を消した。兄は必死になって行方を捜したが、数年後やっとのことで見つけたフランシーヌは病の床に伏せ、間も無く儚い人になった。
兄から奪ったものの、最期までフランシーヌの心は弟のものにはならなかった。その事実は、愛する女性を失った男を更に狂わせた。


時代を下り、フランシーヌの姪が娘を産んだ。名をアンジェリーナと言った。成長したアンジェリーナは、フランシーヌの面差しを受け継ぎ、美しく育った。
いつしか、フランシーヌを失った弟が後に他の女性との間に設けた息子が、アンジェリーナと出会い、恋をした。しかし、アンジェリーナはその息子の恋心に気付くことはなく、息子の友人と結ばれた。エレオノールはアンジェリーナの娘に当たる。エレオノールは母親と瓜二つに育ち、引いてはフランシーヌの血を色濃く受け継いだ。
そして、アンジェリーナを親友に奪われ血の涙を流した男の息子が、エレオノールの夫なのだった。


好みや執着というものは遺伝するのだろうか。少なくとも粘着気質という物は受け継がれたようだ。
男の血筋の者達は、執拗にフランシーヌの系譜に連なる彼女に似た女性を追い求めた。
今、三代に渡る執念が実り、エレオノールを正式に妻として迎えてはいるけれど、彼女の心は離れている。
大昔、フランシーヌ本人の心が、彼の手では届かない遠くを彷徨っていたように。







「帰るのか?」
自分の腕から抜け出そうとするエレオノールに、加藤はどこか拗ねた声で訊ねた。
「お昼過ぎだし…」
「もうそんな時間かぁ…」
エレオノールといると時間が経つのが早い。
「たまには家の中のカメラに映っておかないと不自然だもの」
一日の大半を防犯カメラを気にしなくていいベランダで過ごしている体でいるのだとしても、昼には昼ご飯を食べている姿を映さねばならない。
夫を送り出した後ベランダに現れた彼女を迎え入れてから三時間余り、寸暇を惜しんで抱いていたというのに、この喪失感は毎度慣れない。他人の妻なのだと思い知らされる。


「そっか…」
「後で、また来るから。そんな顔をしないで」
そんな、とは、どんな顔なのだろうか。子供をあやす母親のようなキスを額にもらう。
「いつ頃来る?」
「…三時頃、かしら。きちんと薔薇の手入れもしてあげないといけないし。それまで待っててね、ナルミ」
加藤   鳴海とエレオノールが男女の仲となってから季節は移ろい、三ヶ月程が経った。エレオノールのベランダでは秋の薔薇が見頃になっている。
あの日以来、エレオノールは夫が不在の日はベランダの仕切り版の穴を潜り、欠かさずにやって来る。鳴海と身体を繋ぎにやって来る。


エレオノールがベランダに出ると、待ってました!、とばかりに仕切り板が外される。エレオノールは薔薇の大鉢をずらして穴を潜ると、その前で膝をついて待ち構えてくれている鳴海の腕に飛び込むのだ。ベランダ内では立ち上がることはせず、頭を低くして窓から家の中に入る。そして思う様、セックスに興じるのだ。


夫とはまるで違う、力強い身体。エレオノールが経験したことのない情動を鳴海は与えてくれる。
これまで、前戯は単なる辱めだと思っていた。さっさと始めてとっとと終わらせてくれればいいものを、と心の中で歯噛みしていた。男根を舐めるよう強いられることも屈辱でしかなかった。本番行為は単なる凌辱で、苦痛以外の何物でもなかった。
嫌悪しているにも関わらず快楽を覚えてしまう我が身も疎ましく、いっそ早く終わらせることが出来るならと性技を磨いた。命じられるがまま、されるがまま、決して能動にならず従順に徹する、それがこれまでのエレオノールだった。


でも、鳴海はエレオノールの知る男たちとは違った。
前戯はあくまでエレオノールを気持ち良くさせるための物であり、何かをしろと命じることもない。行為はひたすらに慈愛と労りに満ちた上で激しく求められた。事後も終わるや否や離れて行くのではなく、身体の火照りが次の熱に変わるまで、寄り添い抱き締めてくれた。
優しいキスを幾度となくくれ、他愛のないお喋りに付き合ってくれる。エレオノールは自分のことに関する話題の持ち合わせがないので困ってしまうのだけれど、鳴海が時折、こぼす身の上話に興味を寄せた。
昔は親の仕事で中国に滞在していたこと、そこで拳法を習ったこと、父親は早くに亡くなってしまったけれど母親が会社を継いで今も向こうにいること、自分と弟は進学のために帰国したこと。


「弟さんは何をなさっているヒト?」
と訊ねると、鳴海は少し困ったような淋しい顔をして
「死んじまったんだ」
と言った。
「ごめんなさい、知らなくて」
と謝ると
「謝るこっちゃねぇさ」
と笑顔を見せてくれたが、それから弟が話題に上ることはなかった。
身内を亡くす辛さや淋しさはエレオノールにも分かる。鳴海の明るい笑顔に差し込む影に、エレオノールは気付いていた。孤独なエレオノールは、鳴海が抱える孤独の匂いを嗅ぎ取っていた。


「…アリバイ作りに家に戻んなきゃってのは分かってる、けど」
布団の中で迷子の下着を探すエレオノールの腰を引き、自分の腕の中に連れ戻す。
「ナルミ?」
「片時も、離したくねぇんだ」
「ナルミ…」
悩ましい溜息を肌に受け、エレオノールはうっとりと目を閉じ、身を逞しい胸に預けた。
「オレは土日の日中しか、おまえとこうしていられない。夜は…毎晩がオレにとっちゃ地獄だ…」
ぎゅう、と骨が軋むくらいに抱き締められる。この息苦しさすら、今のエレオノールには心地良い。
「おまえが…この壁の向こうでアイツに抱かれてんだと思うと、気が狂いそうになる。ここを」
太い指がエレオノールの秘裂に深々と挿し込まれ
「アイツが味わってんのかと思うと…堪んねぇんだ…」
ぐちゃ、と掻き回された。幾度となく吐き出し満たした精液が、押し出され溢れる。感じる点を指先で穿れば、膣に切なく指が食まれた。


「だ、ダメよ、ナルミ、私一度、帰らなきゃ…」
駄目、と言いながらほんの少し愛撫しただけで男の劣情を煽る反応を見せる。愛していないはずの夫に対しても、こんな媚態を曝しているのか。
隣家同士の間取りはシンメトリーで、鳴海宅の寝室の壁の向こうはエレオノール宅の寝室だ。曲がりなりにも高級と冠を戴くマンションなので声が筒抜けとまでは行かないが、夜のしじまに耳を澄ますと微かに情事の物音が壁の向こうから聞こえて来る。壁に耳を付ければ、なお良く、聴こえる。
    まさか、こんなんなるなんて、思いも寄らなかった…」
エレオノールの喘ぎ声を数え、鳴海は営みが終わるのをじっと待つしかない。


「おまえの時間がもっと欲しい」
ずるり、とエレオノールの膣内から指を引き抜く。
「おまえとずっと一緒にいたい」
精と蜜に塗れた指をべろりと舐め、次いでそれをエレオノールの口元に突き出すと、彼女は丁寧にペロペロと舐め取った。根本まで咥え、窄めた唇でゆっくりと吸い上げる。
「私もよ、ナルミ…」
男の濡れた指を豊かな乳房で拭いながら
「私も、あなたにだけ、抱かれていたい…」
と唇を重ねた。ねとりと舌が絡み合い、太い指に乳首を捏ねられ、エレオノールは熱い吐息を漏らした。


「なあ」
「なあに?」
「一緒にならねぇか、オレ達」
突然のプロポーズにエレオノールはハッと身を引き、信じられない物を見るような瞳を鳴海に向けた。
「絶対ぇにオレの方がおまえを愛してるし、おまえを大事に思ってる。アイツと結婚してる意味ってゼロだろ?離婚、て出来ねぇの?」
囁くように問われ、エレオノールは力無くふるふると首を横に振った。
「無理だわ…あの人がそれに応じるとは思えない」
あの病的な執着心を持つ男は、エレオノールから別れを切り出されようものなら手の付けられない程に激昂するだろう。軟禁生活は監禁生活となり、ベランダに出ることも許されなくなるに違いない。


「あの人の目の黒いうちは、私に自由なんてないわ」
「目の、黒いうち…」
あの男が生きている間は、身動きが取れない。どんなに愛し合っても不義密通を重ねるしかない。
「オレ達は、隠れて逢い引きするしかねーんだなぁ」
鳴海は、ふう、と長嘆息をして力無く笑った。大きな手がエレオノールの頬を包む。
「オレはおまえと一緒になりてぇ…おまえに晴れ晴れと笑わしてやりてぇんだ」
優しい光の灯る黒い瞳に見つめられて、エレオノールの銀色の瞳が潤んで揺らいだ。
「わ…私もよ…、あなたが好き…」
エレオノールの背が敷布につき、片脚が持ち上げられるのと同時に猛る硬い肉が彼女の身体に突き込まれた。
「おまえを抱くのが、オレだけならいいのに…!」
日々高まる独占欲に困惑しつつ、鳴海はエレオノールの奥を強く穿った。



next
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]