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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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(18) 盈盈一水 6/8





「私なら、ここにつけるのに」
たおやかな腕が差し出され、エレオノールの人指し指が鳴海の耳朶を掬い上げた。
ぞく…、とする。不意に与えられた官能に、鳴海は息を呑む。
エレオノールが緩やかに近づいてくる。
相手の顎に手を添えて、首を丁度いい角度に曲げようとするエレオノールの力に鳴海は逆らわない。
す、と鳴海の髪に鼻筋を差し入れて、その耳朶の裏に、エレオノールの唇が押し当てられた。
エレオノールの熱い息が耳にかかる。
胸に胸が押し付けられ、柔らかく歪む乳房の圧力と、薄い布地一枚挟んでその存在を主張してくる突起のそれと分かる硬さに、既に立ち上がっていた鳴海の肉幹は極限まで膨張した。鳴海の肉が硬く尖ったことは肌を接しているエレオノールにも具に伝わっているはず。ぞくぞくとした痺れが、エレオノールを感じる身体の全てに伝わる。
込み上げてくる衝動に任せてエレオノールを押し倒してしまいそうになるのを必死に抑えて、両腕を背後に回しカウチの座面を爪で掻いた。
エレオノールの腕が鳴海の首に回される。
唇が鳴海の肌をきつく吸い上げる。
内出血を知らせる微かな痛みに、鳴海の目がほんの少し細められた。
エレオノールがゆっくりと唇を離し、鳴海の肌に小さな花弁のように刻まれた朱印を確認すると満足気に指先で触った。
「ここなら…こんな風に赤くなっても髪の毛で隠れるもの。ね?」
「こんな、とか、ね、とか言われても、オレ、見えねぇから」
鳴海は顔を赤らめて、エレオノールがつけた自分からは見えない所有印を指で擦った。自分の胴体に馬乗りになるエレオノールのカラダから甘い花の蜜が香り、次第に呼吸が荒げてくるのを自覚する。


「ナルミ」
「な、なんだよ」
「キスにはキスを、返して…?」
真正面から覗きこまれる。酒飲んで酔っ払っているくせに、透明なそれは鳴海を吸いこもうとする。
ぐ、と唇を噛み締める鳴海の前でエレオノールはサイドの髪を耳にかけて催促した。普段は髪に隠れてる耳は白く、仄明るい照明に光って見えるほどだ。ごくん、と鳴海は生唾を呑み込むが、砂を噛んだような口の中の渇きはちっとも潤う気がしない。
キスにキスを返すだけ。いつものチークキスの交換と変わらない、エレオノールと距離を置く理由を声高に叫ぶ理性にそう言い聞かす。
ゆるゆると手を伸ばして、エレオノールの耳朶を摘まんだ。すると敏感な部分に温もりを感じたエレオノールが婀娜っぽく首を竦めた。彼女の周りの花の香りが濃くなる。
鳴海はそうっとエレオノールの肩を抱き寄せると、ひたりと胸を合わせた。小さな後頭部を手で支え、鼻先で滑らかな外耳を辿り、耳朶の裏に唇を押し当てた。薄い皮膚にそっと舌を這わせ、軽く吸い上げる。
唇に触れるしっとりとした肌が、花色に香り、鳴海は惑う。
エレオノールが小さく息を呑み、顎を上げた。その反応に鳴海の理性が揺らぎ、首を深く傾ける。このまま、耳朶を齧り、しゃぶり上げてしまいたい欲求を押し殺し、更に強く吸い上げて、唇を離した。唇を離した後も、彼女をしっかと抱き締めた腕を解くことが出来ない。


白い肌に色濃く刻まれた痕。
オレの、所有印。
ずっと消えなければいいのに。


どれだけの時間こうしていただろうか。そのうちに、エレオノールの静かな寝息が鳴海の肌に沁みる。鳴海から与えられる体温と抱きとめられる心地よさに、エレオノールのアルコールに浸った神経は睡魔の誘いについて行ってしまった。鳴海は大きな溜息を吐く。
顔を上げてエレオノールの寝顔を息がかかる近さでじいと見つめた。何て綺麗な寝顔だろうか。長い睫毛が、白磁のような肌理細やかな肌に櫛の歯のような濃い影を落とす。
「エレオノール…」
熱っぽい声で囁いた。それが刺激となったのか、エレオノールがくぐもった声を出した。美しい眉が切なそうに顰められ、形の良いふくよかな唇が吐息を漏らす。
びり、と感電したような刺激がまた、鳴海の背筋を走った。落ち着きを見せる間もない肉に更なる血が漲っていく。まだ膨れる余地があるのかと自分でも驚きだ。
エレオノールを離せと鳴海の脳ミソは命令を出したが、それは身体に拒否された。エレオノールが欲しい。彼女の幸せ云々を説いたところで、それが鳴海の本心だ。欲望を顕著に体現した肉は硬く大きく張り詰めている。じゃじゃ馬はその上に跨って
「おまえ…分かってんのか…?これって凄ぇカッコだぞ?」
薄い布地越しの恥丘を鳴海の劣情に押し付け、劣情を押し潰している。
エレオノールの太腿から伝わる体温、肉樹に伝わるエレオノールの湿度が、鳴海の頭をまともに働かせてくれない。


眼下の女が見せる艶めかしさに、忍耐を強いられていた願望が雄叫びを上げる。
止めた方がいい、と理性が訴える。
欲望は、聞く耳を持たない。
鳴海の親指が薄桃色の唇に触れた。触れるか触れないか、そのもどかしい距離を保って、唇の輪郭をなぞる。エレオノールがピクリ、と反応した。じれったい愛撫に微かに首が振られ、はあ、と熱い吐息がこぼれる。
甘い息を受けた指を白い肌に滑らせてゆく。
滑らかな頬を伝って、細い顎を辿り、耳朶へ。
さっき、キスをした場所。
ふるり、と耳朶が震えた瞬間。
エレオノールは身を捩り、小さな、けれどあからさまな喘ぎ声を漏らした。
鳴海の身体が、ぞくり、ぞくり、とする。
初めて聞いたエレオノールの『女』の声。
今まで鳴海が見たことのない彼女の『女』の部分。
そしてずっと、見てみたい、と熱望していた彼女の『女』の部分。
今、エレオノールは鳴海の指先の愛撫に、眠りながらもしどけない反応を見せている。指の動きに合わせてエレオノールが身をくねらせ、色めいた溜息で更なる愛撫を催促する。エレオノールが艶めかしく悶える度に、鳴海の下腹部に着いた肉欲の種火が大きくなっていった。
橙色の暗い照明に艶やかに光る銀糸の髪と、それに負けぬ、眩しいくらいに光り浮かび上がる白い柔肌。彼女に落ちた灯りが作り上げる玄妙な陰影が、その造形の素晴らしさを浮き彫りにする。


止めないといけない。
頭では分かっていても身体が言うことをきかない。
鳴海の身体は理性からの指示を受け入れるどころではなく、荒げていく呼吸を御するので手一杯だった。
呼吸音でエレオノールを起こしてしまいそうなくらいに、激しい興奮と葛藤に見舞われていた。
妄想の中で彼女にしてきたことを、生身の彼女に出来る機会の到来。
でもそれはやはり、妄想の中でだから許されることで、現実にしてしまったら、いけないこと。


分かっている、理解している、痛いほど、苦しいほど。
でも、鳴海は徐々に顔を寄せて行く。
誘蛾灯に向かう、虫のように。
光の先に待つのは死だと、虫と違って知っているのに。
溺れて死ぬか、燃えて死ぬか、蟲惑の毒に侵されて死ぬか。
どれも今の自分の死に様にはおかしくない。
破滅しても構わないと、男に愚かな考えを抱かせる程に、エレオノールは花なのだ。
壊れ物を扱うようにやさしく。
眠り姫が起きないように。


「オレは…おまえを…骨まで…」
喰らってしまいたい。
ゆるゆると、手の平でエレオノールの流線を辿る。
なだらかな背中から一気にくびれる腰へ、腰を両手で包む。
ぞく、と震えた鳴海の手の動きが、エレオノールの肢体に伝わり、剛直の上でしっとりとした秘肉が擦れた。
「はッ…あ…」
快感の電流が鳴海の背筋を駆け上がり、ぎくり、と全身が引き攣った。鳴海に身を預けたエレオノールの首が、かくん、と真後ろに仰け反った。軽く開いた唇が鳴海を誘っている。大きな襟ぐりからは堕落を誘う深い谷間、更に目を落とせば、エレオノールの股の間でスウェットを突き破ろうとしている自身の欲望。鳴海は深く目を瞑り、大きく太く、息を吐き出した。
男根がギチギチと音を立てて、今にも張り裂けてしまいそうなくらいに怒張している。
もうダメだ、これ以上。
ハ、ハ、と犬のように息を吐いて、ごくり、と唾を呑み込んだ。
柔らかな耳朶に軽くキスをして、熱く息を吹きかける。それでも、エレオノールは目を覚まさない。


風呂場でエレオノールをサカナに自慰をした段階で、鳴海の内圧は元々高まっていた。それにこれだけの刺激が上乗せされたら。これまでもずっと我慢してきた。我慢に我慢を重ねて、ずっと。
ふつ…、と鳴海の理性の糸が静かに切れる。
鳴海は柔らかそうな肉を覗かせるエレオノールの口に、齧りついた。舌先で歯列を割るといとも簡単に肉厚の舌が彼女の口腔に収まった。舌を絡め取る。唾液を味わう。過去に一度だけ交わしたキスを思い出す。
鳴海が望んでいたキス、あの後誰とキスをしてもエレオノールがくれた官能には遠く及ばなくてその度に萎えた。想い出を美化しているだけかとも考えた、でも今、理解する。
ただ単に、オレはエレオノールを求めていただけだったんだと。
深く舌で舐ぶっても、甘い肉を食んでも、目を覚まさないエレオノールに征服欲が湧き上がってくる。彼女の口の中に溢れた唾液はこぼれる前に全て啜り上げ、飲み下す。しつこく唇を重ね続ける。ちゅ、ちゅっと舌を吸い上げる。舌が唾液を弾く音が鼓膜を穿つ。
張り出すスウェットの突端に、じわり、とシミが浮かび、瞬く間に色を変える面積を拡げていった。
唇は唇から耳朶へ、己のつけた所有印をしんねりと舐め上げ、首筋に舌を這わす。エレオノールが小さく漏らした甘い声でついに臨界点へと押し上げられた鳴海は、彼女の身体をカウチの上に静かに横たえた。もどかしそうにTシャツを脱ぎ、眠るエレオノールの上に覆い被さった。


「エレオノール…」
さんざん理由を付けて彼女から距離を置こうとしていたくせに、泥酔している彼女を犯そうとしている。
自分が自分で何をしたいのかが、分からない。
意気地無しで、卑怯者で、でも、彼女には誠実で、真摯でありたい。
エレオノールは鳴海の宝物だった、ずっと両の掌の中に大事にしまっていた。
けれど、彼女の伴侶として相応しくない自分はいつか彼女を絶対に手放さなくてはいけない、でも、絶対に手放したくない。
我慢しないと、なのに、我慢が困難で、本音と建前が矛盾だらけで、矛盾が幾つも重なればそれはいつか、真実にならないだろうか。
胸の痛みに気が狂う。


握り潰してしまうくらいの想いの丈をこめて、エレオノールの乳房を揉み上げる。
鳴海の大きな手に負けじと納まる程のそれは想像以上に柔らかく、ただ柔らかいだけでなく弾力をもって手の平を押し返す。服の上から親指の腹で乳首を軽く擦る、するとあからさまにエレオノールの腰が跳ねた。彼女に触れるだけで引き起こされる下半身を揺さぶる刺激に、鳴海は思わず歯を食い縛った。
折れそうに細い鎖骨を手の平で包む、このまま圧し折ってしまいたくなる。
ああ、もうだめだ、もうこれ以上は、
エレオノールの下半身を覆う布を剥ぎながら、唇で、弱竹のような首のラインをなぞる。
時折、甘く吸って、時折、甘く噛んで、下りて行く、堕落を誘う谷間へと。香り立つ肌を味わって行く。
こいつはオレの女なのだと独善的な独占欲に心が蝕まれる。
オレの物だと言う証を深く刻んでしまおう、やさしいエレオノールはオレの愚かしさもきっと、赦してくれる     


「うわああん…!」
子どもの泣き声が微かに聞こえた。
「マサル…」
勝をひとり、置き去りにして来たことを、鳴海は思い出す。
勝は、引き取られた親戚のうちで受けた折檻のトラウマから暗闇の孤独を恐れ、時に悪い夢を見て泣く。
そうだ、勝。もしあいつが夜中に目を覚ました時、隣にオレがいなかったら。呼び掛けても真っ暗闇の中で独りぼっちだったら。トラウマを抱えるあの小さな心に圧し掛かる不安はどんなに大きいだろう?
ハ、と我に返る。
「オレ、…は…」
見下ろすと、自分の脚の下でエレオノールが力の抜けた身体をくったりと投げ出していた。ホットパンツが腿の中ほどまで引き摺り下ろされ、脱げかかったショーツからは銀色の草叢がほんの少し覗いている。
意識の無いエレオノールを犯そうとしていた自分に鳴海は慄いた。
彼女の乱れた服を震える指で必死で元に戻すとカウチから飛び降り、じりじりと距離を取る。
理性が立ち返る、自分が仕出かそうとしていた罪に、鳴海は顔を覆った。
「す、すまん…エレオノール…」
鳴海は喘ぐように謝意をこぼすと、ブランケットをそっと掛けてやる。そして、脱ぎ捨てたTシャツを握り締めそのまま彼女の部屋を後にした。



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