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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






件の幽霊オオカミは幽霊なんかじゃなかった。
ちゃんと実在するピカピカ銀色の女のオオカミ。
それもとてもキレイな、子どもの目から見てもとびっきり綺麗なオオカミ。





銀と黒の詩。
そのよん、ともだちや、再び。(よん)





マサルが初めてナルミの家の中に入ったとき、とても殺風景だという印象を受けました。
生活に必要最低限の家具しかなくて、オモチャも一人遊びができるようなものしかなくて。でも、マサルが友達になってからはナルミの部屋はとても賑やかになりました。ゲームも増えたし、マサルと一緒に撮った写真が壁を賑やかに飾って、最近ではリーゼの写真も加わって一層華やか。
食器やコップも3人分になったからって、大きな食器棚なんか買ってきて
「ひとりだと凝った料理も作る気が湧かなかったからよー」
なんて言いながら、キッチンツールも充実してきて、狭い部屋がギュウギュウ詰めで昔の見る影なんてどこにもありません。
今、勝がお邪魔した銀色オオカミの家の中は、その、昔のナルミの家の中みたいでした。
清潔だけど、何もありません。
ベッドとテーブルと椅子と小さな整理ダンスだけ。



「ごめんなさいね。お友達が来てくれたのに、気のきいたものが何にもなくって」
銀色オオカミはいい香りのする紅茶と、ジャムを添えたスコーンをトレーに載せてやってきました。
「ううん、僕が急に来たから。ありがとう」
マサルがにっこりと笑うと銀色オオカミも嬉しそうな顔をしました。
「わあ、このスコーン、すごく美味しい!あの…まだ名前を訊いてなかったね。僕、マサルっていうんだ」
「私は、しろがね、と言います」
マサルはその名前が彼女にピッタリだと思いました。
「しろがね、って呼んでもいい?」
「ええ、どうぞ」
「これ、しろがねが作ったの?」
「はい、私の食事用に…本当にごめんなさいね、こんなものしかお出しできなくて」
「そんなことないよ。とても美味しいよ」
「よかった」
柔らかな表情を浮かべるしろがねはとてもとても綺麗です。
でも、すぐに一転、表情を曇らせました。



「トランプ、とかでもあればいいのですが、ウチにはマサルさんに遊んでもらえるようなものが何もないのです」
しろがねは心底申し訳なさそうにしています。
しろがねのうちにはトランプもないんだ。ナルミ兄ちゃんの淋しい部屋にもあったのに。
もしかして、しろがねもナルミ兄ちゃんみたいに淋しいのかな……?
マサルはにこりと笑顔を浮かべます。
「そんなこといいんだ。お話しよう!僕、しろがねのこと、いろいろ知りたいんだ」
「わ、私のことですか?」
「うん。ダメ?」
しろがねはふるふると頭を振りました。
「そんなことはありません。けれど聞いても面白い話はできませんよ」



「面白くないなんてことないよ!しろがねはもうずっとこの森の奥に住んでいるの?」
マサルはさりげなくさりげなく話を切り出しました。
「いいえ、私がここに来たのは今年の夏頃です」
「その前はどこに住んでいたの?」
「遠く遠くにある、銀色のオオカミの森に」
「銀色のオオカミの森?」
マサルはちょっと目を丸くしました。
「そうです。ここからずっと北にいったところにある銀狼の森。そこのオオカミは皆、私と同く瞳も髪も銀色なんですよ」
「それがどうしてこの森に引っ越してきたの?この森にはしろがねの他にオオカミっていないって話だよ?」
しろがねは少し困ったような顔をしました。



「何て言えばいいのかしら……そうね、私は迷子になってしまったの。銀狼の森はあまりにも遠すぎて、帰り道が分からなくなってしまったの」
「迷子?」
「可笑しいでしょ、大人なのに」
「銀狼の森に帰りたい?」
「そうですね……故郷ですし。やさしい人たちが待っていますから……」
しろがねは辛そうです。
「ごめんね、しろがね。僕、訊いちゃいけなかったんだね?」
「そんなことはないですよ、マサルさん」
しろがねの顔はまた柔らかくなりました。
「友達には何でもお話するものでしょう?」
しろがねの言葉にマサルはパッと顔を輝かせました。



「よかった!それで、しろがねはここに一人で住んでいるの?」
「そうです」
「こ…恋人とかダンナサンとかはいないの?故郷の森にも…?」
これがマサルの一番訊きたいことでした。
ドキドキと勝の心臓が音を立てます。まるで自分がしろがねに告白するみたいです!
しろがねは。
いいえ、と首を振りました。
「ホントに?好きなオオカミとかもいないの?」
「いません。それでなくとも、ここには私と同じオオカミがいないですし…」
しろがねはそこまで言いかけて、先日出会った無礼なオオカミを思い出しました。





月の美しい真夜中に、しろがねは近くの温泉に入りに行きました。
森の住人はしろがねを『幽霊オオカミ』と呼んで怖がって彼女の住む森深くにはやってこないので(若干名のヘンな男たちは除く)、小さなこの温泉はいつも彼女の貸切でとても気分がいいのでした。
レモンを輪切りにしたような月に、物音を全て吸い込む白い雪、滑らかなお湯。
温泉はしろがねの淋しい心を癒してくれました。この森には知っている者が誰もいなくて侘しくて、懐かしい森に一刻も早く帰りたくて。独りぼっちが、不安で怖くて。
そんなぽっかりと穴が開いたような心を温泉は温めてくれます。



しろがねがいつも通り、のんびりと手足を伸ばしていると、誰かが突然現れました。誰かとこの温泉とかち合うなんてことは初めてでした。その誰かはバサバサと服を脱いで裸になると、冷え切った身体を熱い湯にどぶり、と浸けました。
それはそれは、大きな真っ黒いオオカミでした。
この森に住み着いて初めて会った、自分と同じオオカミでした。
しろがねを見た黒オオカミもまたビックリ顔をしていましたが、そのうちに彼女に欲情をしたようで彼の身体は大きく変化しました。
しろがねはぎょっとして、貞操の危機を感じずにはいられません。
逃げなくては!しろがねは立ち上がりました。
けれど、後ずさっても黒オオカミは間を詰めてきます。
とうとうしろがねは逃げ場をなくしてしまいました。



しろがねの目前に立った黒オオカミは本当に大きな男でした。
盛り上がった胸の筋肉は分厚くて、しろがねに手を伸ばす腕は丸太のように太くて硬そうで。
強そうで、逞しくて。
黒い瞳は濡れたようにやさしく光っていて。
何で彼はこんなに泣きそうな瞳をしているのだろう?そんなことを考えた、一瞬の油断がいけませんでした。
しろがねは黒オオカミに唇を奪われてしまったのです。



その晩以来、しろがねは温泉に行けなくなってしまいました。
マサルは今、「この森にしろがね以外のオオカミはいない」と言いました。
ならば、黒オオカミは隣の森に住むオオカミなのでしょう。
急に現れて、急にキスをした、酷いオオカミ!
しろがねはマサルと会話をしていることを忘れて、指で自分の唇を撫でました。





「どうしたの?」
「い、いいえ、何でもありません!」
黒オオカミのキスの感触を反芻していたなどと言えるはずがありません。
「今度はマサルさんのお話を聞かせてくださいな。マサルさんは好きな女の子、いるのですか?」
ほんの少し赤い顔のしろがねはマサルに話を振りました。今度はマサルが赤くなる番です。
「い、いやっ、好きだなんて子……いるけど……あ、あのね、リーゼさんっていってね…!」
マサルはまんまと乗せられて、大好きなリーゼの話を夢中でしていました。
しろがねは上手く話題を変えることができてホッとしました。



「あら、もうこんな時間」
しろがねの声でマサルが時計を見上げると、何とこの家を訪れてから3時間近くが経っていました。
窓から差し込む太陽の光もオレンジ色を帯びた黄色になっていました。
「おしゃべりが楽しくて時間が経つのを忘れてた」
「大丈夫?帰れますか?」
「うん、平気だよ」
マサルは立ち上がりました。
しろがねはとても淋しそうな顔をしています。
「あの…マサルさん」
「なあに、しろがね」
「あの…お代、払わないとダメでしょうか?」
マサルは首を傾げました。
「お金はあります。ないわけじゃないのです。ただ…私は…マサルさんと本当の友達になりたくて。本当の友達の間にはお金のやり取りはないでしょう?」



ああ、そうか。
僕は『ともだちや』だって言って、この家にあげてもらったんだっけ?
マサルはすっかり忘れていました。
しろがねがナルミと同じようなことを言っているのがマサルは嬉しくてなりません。



「うん、喜んで。僕もお代をしろがねからもらうつもりはなかったよ」
「よかった」
しろがねは淡く微笑みました。
「じゃあさ、明日も遊びに来てもいい?」
「ええ、お待ちしてます」
「僕の友達も一緒でいい?しろがねに紹介したいんだ。きっとしろがね、楽しくなるよ」
「いいですよ。明日は美味しいケーキを焼いておきますね」
マサルはニコニコと笑います。そんなマサルをしろがねが銀色の瞳でじっと見つめるので
「僕の顔に何かついてる?」
さっき食べたスコーンの食べかすがくっついているのかな?と、マサルはほっぺたや口元を袖でゴシゴシと擦りました。



「いいえ、そうじゃなくて。マサルさんは…とてもいいお顔で笑いますね」
「僕、最初からこんな風に笑えたわけじゃないんだ。僕にね、笑顔が大事だって教えてくれたお兄ちゃんがいるんだ。僕のダイスキなお兄ちゃん」
「そうですか。きっと、とても良い方なのでしょうね」
「うん!明日、紹介するよ!」
「楽しみにしてます」
マサルはしろがねにさようならをすると、夕闇迫る森の中へと駆け出しました。
しろがねはマサルの背中が見えなくなるまでずっと見送っていました。





やった!
上手くいったぞ!
しろがねはきれいな女のオオカミで、彼氏もいない、好きなオオカミもいない!
ナルミ兄ちゃんに紹介できる!
明日、兄ちゃんを紹介する話もつけた!





ナルミは一体どんな顔をするでしょう?
どんな笑顔をマサルに見せてくれるでしょう?



「うっわー!明日がすごい楽しみっ!」
顔がムズムズと緩んでしまうのを止められません。
マサルは嬉しくて嬉しくて、薄暗い森が怖いなんてことも頭から吹っ飛んで、文字の如く飛び跳ねてリーゼの家に駆け出して行きました。



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