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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






私はずっと独りぼっちだった。
自分が独りだということを忘れそうなくらいに、独りでいることが当たり前で何の疑問も持たなくなりそうなくらいに。
でもそんな私に手を差し伸べてくれた優しい子ギツネ、私の、友達。





銀と黒の詩。
そのよん、ともだちや、再び。(ご)





次の日、しろがねは朝早くから起きだして一生懸命家の中を磨き上げました。ただでさえ何にもない清潔な家でしたが、それでももっともっときれいにしました。今日もまた、友達のマサルが遊びに来てくれるのです。それも、今度は何人かの友達を連れて。
マサルはとてもやさしくて賢いキツネでした。だからきっと、マサルの友達もマサルのようなやさしい子たちでしょう。



しろがねは家の周囲に甘くて美味しそうな香りを漂わせて、約束通りケーキを作りました。前の晩から頑張って3つも大きな丸いケーキを作りました。
フワフワの白いクリームに真っ赤なイチゴの乗ったケーキ。
間にたくさんの木の実を挟んだスポンジもデコレーションも全部チョコレートのケーキ。
それからしっとりと濃厚なチーズで作ったレアチーズケーキです。
その他にもフライドチキンやサンドウィッチやキイチゴの特製ジュースなど、テーブルに乗り切らないくらいにいっぱいの料理!



「皆さんに美味しいって言ってもらえるといいのだけれど……」
誰かのために料理の腕を振るう、なんてもう何時以来の話でしょう?
「ああ、昨日マサルさんに、『何人でいらっしゃるんですか?』と訊いておくべきだった…。これで足りなかったらどうしよう?」
しろがねは大きな期待と小さな不安の入り混じった気持ちで、マサルがやってくるまでの間、森で摘んできた花を生けたり、用意したグラスや皿を何べんも確認したり、銀色のカトラリーが曇ってないか布巾で擦ったりしてソワソワ落ち着かない時間を過ごしていました。



とんとんとん。
玄関の扉が軽い音を立てて、誰かが来たよ、と教えてくれました。
しろがねはパッと顔を明るく輝かせると玄関へと向かいました。





「隣の森に何の用だよ?皆してリーゼちゃんちに行くのか?」
意気揚々と太いしっぽをフリフリ歩く小さなキツネの後ろを、怪訝そうな顔をして背中を丸めたオオカミが続きます。
「おおい、リーゼちゃんの家に行くんならオレなんかお邪魔だろうによ」
「そんなことないでしょ」
マサルは赤くなって反論します。
「おーおー、いっちょ前に赤くなってよ。無理すんなって。オレのことは気にせずに…」
「もお。違うの!黙ってついてくれば分かるよ!」
キシシ、と笑うナルミの言葉をマサルは素早く遮りました。



これから行くところが銀色オオカミのしろがねの家だということはナルミには内緒です。
この先でリーゼと合流して3匹でしろがねの家にむかうのです。
昨夜はあまりにもワクワクして、マサルはほとんど眠ることができませんでした。





ナルミ兄ちゃんはしろがねを見たらどんな顔をするだろう?
笑うかな?呆然とするかな?
ナルミ兄ちゃんはしろがねとちゃんと話せるかな?
夢中になって話しかけるかな?それともあがっちゃって何にも話せないかな?
ナルミ兄ちゃんは僕に何て言ってくれるかしら?
兄ちゃんにオオカミを紹介したくて暗い森を独りで探検したんだよって教えたら何て言ってくれるかしら?
偉いぞ、って、ありがとう、って言ってくれるかな?
太陽の笑顔を見せてくれるかな?
ぎゅううって抱き締めてくれるかな?
頭をクリクリってあの大きな手の平でしてくれるかな?
そしたら僕言うんだ!
だって大好きな兄ちゃんのためだもん!怖いのなんて平チャラだったよ!って……。





マサルが妙にウキウキしている理由が皆目分からないナルミは何度も首を捻りつつ、ついて行きます。
途中で待ち合わせたリーゼもいつもと違って、何かを含んだような笑みを浮かべています。それに先導するふたりの向かうのは、隣の森の更に奥なのです。
「何だよ、どこへ行くんだ?隣の森の奥に行くのなら、オレんちを西へ真横に行った方が早かったじゃねえか。何も遠回りして来なくても……」
「な・い・しょ、だよ」
「行けば分かりマスヨ」
「ちぇ」
ナルミはちょっと、仲間はずれにされた気がしてただでさえ淋しい気持ちがもっと淋しくなりました。マサルは可哀想かな、とも思いましたが後もう少しで目的地なので、心を鬼にして(というほど大袈裟なものではないけれど)黙っていました。



「ほら、兄ちゃん着いたよ」
マサルが指差すところに、小さな家がありました。
「何だ?知り合いの家か?」
「うん。新しい僕の友達の家」
「新しい、友達?」
「うん」
「私も初めてなんデス」
「……そうなの?」
ナルミが見下ろすマサルの顔はもうピカピカに光っていて、何だかとっても嬉しそうでナルミは何が何やらさっぱりでしたが、まあ、マサルがいいならいいか、と思いました。
「じゃあ、行くよ?」
とんとんとん。
マサルは逸る気持ちを抑えて、銀狼宅の玄関の扉を叩きました。





「はい!いらっしゃい!お待ちしてましたよ」
扉を勢いよく開けて、きれいな銀狼がマサルを出迎えました。
今日もしろがねはとてもきれいです。
マサルはにっこりと笑いました。



「こんにちは、しろがね。今日は約束通り、友達を連れてきたよ。しろがね、こっちはリーゼさん」
マサルは自分のすぐ隣に立っていたリーゼを紹介しました。
「コ、コンニチハ」
「こんにちは、リーゼさん。あなたのことは昨日マサルさんからたくさん聞きましたよ?とても可愛いガールフレンドがいるって」
リーゼは同性の目から見てもとびきりキレイなしろがねに目を丸くしていましたが、マサルが自分のことを『可愛いガールフレンド』と紹介していたことを知って、頬っぺたを真っ赤にしました。
「本当に可愛い娘さんね」
「うん…」
マサルも一緒になって真っ赤になっています。



「そ、それからね、もう一人、昨日話したでしょ?僕の大事な兄ちゃんの…ナルミ兄ちゃん、こっち来てよ、早く!」
ナルミは玄関の扉の影に立っていました。正直、マサルの新しい友達にあんまり興味がなかったのです。自分の中の悩み事に手が一杯で。
一刻も早くしろがねと対面させたいマサルはナルミの太い腕をぐいっと引っ張っります。
「おおい、そんなに引っ張んなって…」
ぬっ、と玄関向こうが『ナルミ兄ちゃん』で暗くなりました。
ずい分、大きなキツネさんね。
「こんにち…」
しろがねがにこやかに挨拶をしながら目を上げて、そこで見たのは……先日、自分に裸で迫ってきたオオカミではありませんか!
しろがねは挨拶が途切れ、奇妙な息苦しさを覚えながら男の顔を凝視しました。



「初めまし……て……って!」
ナルミもまた挨拶途中で絶句しました。
だって、ずっとずっと再会したいと願っていた女オオカミが突然目の前に現れたのですから!
「な?な?何…?」
ナルミは言葉になりません。しろがねとマサルの顔を交互に見遣るだけです。
「しろがね、こちらがナルミ兄ちゃん。僕の大事な友達だよ。兄ちゃん、こちらがしろがね。昨日できた僕の友達」
「マ、マママ、マサル、だって…何で?」
ナルミはまともに言葉が出てこないようです。



マサルは、そんな舞い上がったナルミの瞳の中にキラキラした星が見られただけでもう充分なのでした。



End 



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