忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






幽霊オオカミ。
見慣れない森の奥。
ちびっこキツネが怖くないわけがない。





銀と黒の詩。
そのよん、ともだちや、再び。(さん)





森の奥、と言ってもナルミの家がある辺りと景色はあまり変わりません。
けれど、思わず鳥肌が立ってしまうのはこの森にもたくさんの雪が積もっていて寒いからか、初めて来た森だからか、ひとりぼっちだからか、それとも『幽霊オオカミ』といつ出くわすか分からない恐怖心からか、マサルには分かりません。
リーゼは森の動物たちが「ここからは入らないようにしよう」、と張った自主規制線で別れました。
一緒に行きマス、リーゼはそう言ってくれたけれど、本当に危険かもしれない幽霊オオカミのところに彼女を連れて行くことは男としてできなかったのです。ナルミだったら絶対にそうします。
「僕は兄ちゃんみたいに強くなりたいんだ。こんなことくらいへいちゃらさ!」
ヘナヘナと脚の間に入りたがる尻尾を無理無理に膨らまして歩きます。
声も心なしか震えていますが、そこは空元気でカバーです。



薄気味悪いくらいに静かな森の中に時折、イジワルな鳥の声が突然響いてマサルの心臓を何度も苛めました。
びくびくこわごわ。
耳だって横に寝てしまいます。
「どこまで奥にいけば『幽霊オオカミさん』に会えるんだろ…」
リーゼさんの話だと「夜遅くに現れる」んだっけ?
マサルは空を見上げました。木々の枝と枝の間から青空がのぞいています。
「夜じゃないと……やっぱり出てこないのかなぁ……」
昼でも薄気味悪い森の中を、真夜中過ぎに一人で幽霊オオカミを探して歩き回る…考えただけでぞっとします。
「そうなったら、ナルミ兄ちゃんに打ち明けて一緒に探してもらった方が……ううん、ダメダメ!」
マサルはブンブンと首を振りました。



もしもこれが本当に噂で、きれいな女の幽霊オオカミなんていなかったら?
いても、女じゃなくて男のオオカミだったら?
百歩譲って、きれいじゃない、女のオオカミだったら?
何にしたってナルミはがっかりするでしょう。
マサルはナルミに元気になってもらいたいのです。これで女のオオカミだと突き止めて、ナルミに紹介することができたら、ナルミはどんなに喜んでくれるでしょう。
ここしばらくナリを潜めてしまった、ピカピカの太陽な笑顔で
「よくやった!マサル!ホントにありがとな!」
ってあの大きな手の平で頭をクリクリと撫ぜてくれることでしょう!
「やっぱ、おまえって友達だよなっ!」
ってあの太い腕でぎゅうって抱き締めてくれることでしょう!
考えただけでマサルの心はワクワクしました。



「暗いのだってちっとも怖くないよ!もしもこれで明るいうちに会えないってなったら、今日はリーゼさんのうちに泊めてもらおう」
リーゼはお母さんと双子のお姉さんと暮らしています。
リーゼさんのおうちにお泊り。
考えただけでドキドキします。
そして、夜中に頑張って勇気を振り絞って探検すればいいんだ!
むしろ、明るいうちに『幽霊オオカミ』に会えなくてもいいや、って気にすらなってきました。





楽しい想像をしながらずんずん進むと、道の先に一軒の小さな家が見えてきました。
森の中にぽつん、と淋しそうに建つ家。
まるでナルミの家みたい。
「もしかして……ここが幽霊オオカミさんのおうち?」
マサルはソロソロと近づきます。窓にはカーテンがかかっていて中の様子が分かりません。
とても静かです。
「誰もいないのかな……留守なのかな……」
マサルが物音でも聞こえないか、とドアに耳をつけたとき、急にそのドアが開き、勢いで小さなマサルはぼむんと飛ばされてしまいました。



「誰だ!まったくしつこいったら……あ、あら?」
瞳を尖らせて家の中から出てきたのは、とてもきれいな女のオオカミでした。
マサルの目がまん丸になってしまうくらいに美人の、すごい美人のオオカミ!
彼女は小さな男の子をドアで跳ね飛ばしてしまったことに気がついて、慌てて駆け寄りました。
「ご、ごめんなさい!大丈夫?怪我はありませんか?」
銀色の髪の毛はまるでお日様の光を受けて輝く雪のようですし、瞳はナルミに連れてってもらった夜の温泉で見た銀色のお月様のようです。
「ここのところ、変な男たちがよく来るものだから、てっきり……本当にごめんなさい」
「うん、大丈夫。平気だよ」
マサルがにこっと笑うと、銀色のオオカミもホッとした顔になりました。オオカミは立ち上がるマサルの服の汚れをパッパッと掃ってくれました。生身の手。足だってちゃんと生えています。
このきれいなオオカミは幽霊なんかじゃなくて、本物の『生きた』オオカミです。



何だ、すごくやさしいじゃないか。ナルミ兄ちゃんの時と同じ、ちっとも怖くないや。
その上、見たこともないくらいにきれいで。
ナルミ兄ちゃんに教えてあげたら絶対に喜んでくれる!
きれいすぎて、きっと兄ちゃんはびっくりしちゃうぞ。
そうしたら、これからは4人で遊べる。
僕と兄ちゃんが川で釣りをしているのを、お弁当を持ったリーゼさんと銀色オオカミさんが笑って見ててくれたりして……。
マサルの中に楽しい未来予想図が広がります。
あ、でも、もしも、『ダンナサン』とかいたらダメだよね?
どんなにきれいな女オオカミさんでも、ナルミ兄ちゃんに紹介できない。
そこのところ、きちんと調べないと……。



「こんな森の奥にこんな小さいあなたが何の用?迷子になってしまったの?」
銀色オオカミは膝をつき、マサルと視線を合わせるとやさしく訊ねました。
「ううん、そうじゃないんだ…」
マサルは何かいい口実はないかな?と思いました。
ナルミに紹介する前に、まず自分が仲良しになった方がいいのです。
ひらめきました。
あ、そうだ!いいこと考えた!



「僕ね、『ともだちや』なんだ。一時間百円、二時間二百円で『ともだち』になるよ。ともだちいりませんか?」
「ともだち…?」
「うん、僕、あなたと友達になりたいんだ」
銀色オオカミは一瞬びっくりしたような顔をしましたが、すぐに淡く柔らかい表情になると
「どうぞ、お入りください。小さなキツネさん」
と言いました。



やった!
マサルはとっても喜んで、銀色オオカミの開けてくれたドアの中に足を踏み入れました。



next
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]