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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。




最近、やっぱりナルミの様子がどうにもこうにもおかしい。
あんな元気のないナルミの姿は見ていて辛い。
何かやさしいオオカミのために何かしてあげられないか、小さなキツネは考える。







銀と黒の詩。
そのよん、ともだちや、再び。(に)







「どうしちゃったんデショウネ。ナルミサン…」
雪塗れのオオカミの姿が見えなくなった時、リーゼがぽつりと言いました。
マサルは少し考えてから
「ナルミ兄ちゃん……きっと淋しいんだよ……」
と返事をしました。
「淋しい、デスカ?」
「うん」
マサルはしゃがみこむと雪玉を作り始めました。コロコロと転がして雪合戦の玉よりも大きくしていきます。



「きっとね……兄ちゃんは自分と同じオオカミの友達が欲しいんじゃないのかな?って僕、思うんだ」
「友達ナラ、マサルサンや私が毎日遊んでいるデショ?」
リーゼの言葉にマサルは一生懸命考えをめぐらします。
「うーん、僕たち、とはまた違くて……」
雪玉が直径30センチくらいになったので、マサルはもうひとつ雪玉を作り始めました。リーゼもマサルが何を作ろうとしているのかが分かったので、自分もそれを真似して雪玉を作り始めました。



「うまく言えないけど、多分、女のオオカミの友達が欲しいんじゃないかな……前に、『おまえとリーゼは仲がよくていいな』、って兄ちゃんが言ってたんだ。僕が「うん、とっても仲良しなんだ」って言ったら『本当にうらやましいよ』って……」
リーゼはマサルの口から『自分たちが仲良しである』と肯定されて、ほっぺたが赤くなりました。
「僕は兄ちゃんのことは大好きだよ。でも、リーゼさんを好きって気持ちとは違う好きでしょ。何かこうもっと幸せな……」
そこまで言いかけて、今度はマサルが赤くなりました。小さな恋人同士はふたりとも顔を赤くしたまま、黙々と雪玉を転がしました。



「だからね……兄ちゃんも『幸せな気持ち』になりたいんだと思う。僕たちと遊ぶのは楽しいけれど……兄ちゃんが欲しいのは僕とリーゼさんみたいな……『幸せな気持ち』なんだと思う……」
リーゼさんといるときの楽しい気持ち、嬉しい気持ち、何だかちょっぴり切ない気持ち。
男友達とはまた違う、幼いながらも充実した気持ち。
「女の人のオオカミ、デスカ……」
「この森にはね、オオカミは兄ちゃんしかいないんだ……だから……」
女のオオカミさんがいれば、ナルミ兄ちゃんもあんなに萎れてないで、ちょっと前の元気な兄ちゃんに戻るはずなんだ。どうにかしてあげたい。兄ちゃんは僕にいろんなことを教えてくれた。だから今度は、僕が何かを兄ちゃんにしてあげたい。僕ができることならどんなことだってしてあげたい。



「あの……マサルサン」
「なあに?」
「もしかしたら私……女のオオカミサン、心当たりがあるかもしれマセン」
「え?ホントに?!」
マサルは瞳をキラキラと輝かせます。
「デ、デモ、不確かなことなので期待ハズレかもシレナイ……。私もちょこっと噂で聞いタだけダカラ……」
「いいよ!聞かせて!」
マサルの勢いにタジタジとしながらリーゼが教えてくれたのはこんな噂でした。





リーゼの住む森は、マサルの住む森のお隣にあります。
リーゼが罠にかかった自分を助けてくれたおじいさんのところに恩返しにいく前の夏頃から、森の中に流れた噂がありました。



『森の奥に幽霊オオカミが棲みついた』という噂。



そのオオカミは夜遅くになると現れて、森の暗がりの中でもぼうっと銀色の光っているのだそうです。月の出ない真夜中の闇の中でも自らが発光しているかのように朧に儚げに。
初めにその噂を言い出したのは、森に住むアナグマ・ナオタでした。
ナオタの話によると、そのオオカミはとてもとてもきれいな女のオオカミなんだそうです。瞳も銀色に燃えていて、冷たい視線でナオタを射抜いたのだとのこと。その瞳に見られたそのナオタは魂を抜かれてしまい、彼女のことしか考えられなってしまいました。
話を聞き、好奇心から森の奥にその幽霊オオカミを探しに行ったナオタの友達のノリ・ヒロというイタチ兄弟がやはり魂を抜かれて帰ってきました。
それ以来、森の奥には誰も近づかなくなりました。



魂を抜かれた者たちは憑かれたように森の奥に行きたがりますが、周りの者たちが行かないように見張っているのだそうです。
そしてどんよりとしたその噂が森の中に立ちこめたのです。





「幽霊なの?」
「分かりマセン。噂なのデス」
マサルは正直、怖い、と思いました。
でも、本当は幽霊なんかじゃなくて、本物の女のオオカミなのかもしれません。
ナルミだって本当はとってもやさしいオオカミなのに、『オオカミは乱暴者なんだ。嫌われ者じゃなくちゃいけないんだ』とワザと怖いフリを森の皆の前でしているのです。だから、もしかしたら、それと同じ理由でその女のオオカミも、周りにそういうフリをしているだけなのかもしれません。
ナルミと同じで、やさしいオオカミなのかもしれません。



「僕、その幽霊オオカミさんに会ってみる。とりあえずひとりで行って探してくる」
マサルの言葉にリーゼは顔色を変えました。
「ええ?マサルサン、そんな……ナルミサンに今の話を教えて一緒に行った方ガ……」
でもマサルは首を横に振ります。
「ううん。もしもこれが本当に噂で、そんなオオカミがいなかったら……兄ちゃん、きっと期待した分ガッカリしてもっと元気をなくしちゃう」
「デモ、魂を抜カレルっテ……、そうでもなくテモ、食べラレちゃったラ……」
リーゼはハラハラと心配そうな様子で、両手を胸の前で組みました。
「うん、ホントはね、すごく怖いよ」
マサルは雪玉をふたつ重ねて雪だるまを作りました。頭に葉っぱを挿して三角耳にします。
キツネの雪だるまの完成です。



「でもね、大丈夫だよ、リーゼさん」
マサルはにこっと笑いました。
「兄ちゃんも森で怖いオオカミだって噂があったけど、ちっとも怖いオオカミじゃなかったよ。今回も同じだって保障はどこにもないけど、僕は『オオカミ』を信じるよ」
リーゼも雪だるまを作って同じように耳を作り、マサルの雪だるまの隣に並べました。
「僕、兄ちゃんのために何かしてあげたいんだ」
真っ直ぐなマサルの決意にリーゼも微笑を作ります。
「じゃあ、私はマサルさんを幽霊オオカミさんが出るという噂の場所に案内シテあげマスネ」
ふたりは目を合わせてもう一度ニコリとすると立ち上がり、手を繋いで歩き出しました。



「女のオオカミさん、ホントにいてくれるといいなぁ」
ふたりの後姿を仲良く並んだふたつの雪だるまが見送っていました。





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