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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。




次の日は朝早くからナルミの家で作戦会議。
あーでもない、こーでもない。
片想いの小さなキツネのために頑張って頭を絞るやさしいオオカミ。







銀と黒の詩。
そのに、秋ギツネ(中)。







「結局、マサルの存在に気付いてもらえないと話になんねーんだよな」
いくつか案を出し合ってからのナルミの結論。



「まずはやっぱ、友達になれ」
「でも、どうやって?」
マサルは不安げに目をしぱしぱとさせました。
「相手は人間だからなぁ…人間とキツネ、じゃ話もできね…」
ナルミはそこまで言いかけて、ポンと手を打ちました。
「おまえたち、狐狸は化けられるだろーが、いろんなものに」
日本の昔話に出てくるキツネやタヌキは変化できることがステータスです。
「そ、それはそうだけど…何にでも化けられるようになるには尻尾がふたつに分かれるくらい長く生きないと…」
「でも、人間になんのはできるだろ?耳と尻尾引っ込めりゃいいんだから。他人に化けんのは難しくてもよ」
「僕、化けるの苦手なんだ…」
「いーから、やって見せろよ」



ナルミは狐の変化を直に見られることになって当座の問題そっちのけでワクワクしているようです。マサルは表に出て適当な葉っぱを一枚ぷちりと採るとそれを頭に載せました。
「じゃあ、やるよ」
「おう」
マサルは両手で印を結んで、何やらごにょごにょ口の中で唱えると、どろん。
白い煙がパッと上がったかと思うと……そこにさっきとあまり変わらないマサルがいました。
「あんま、変わんねーなぁ…」
それもそのはず、ここは童話の世界。動物も人の姿をしているのですから。彼らが動物の姿で見えるのは人間だけです。しかも、マサルの頭には三角の黄色い耳がぴょこんと残っています。



「耳、変化してねーぞ?」
「だから僕、化けるの苦手だって言ったでしょ?でも、他は大丈夫だよ」
マサルはくるり、とナルミに背中を向けました。大きなふさふさ尻尾は影も形もありません。爪も牙もなくなっています。
「僕、半化けにしかできないんだ。こんなんで平気?」
ナルミはうーん、と考えて、マサルのあちこちをジロジロと見回して
「平気だろ。耳は帽子かなんかで隠せばいい」
と言いました。ナルミは家の中に引っ込むとバンダナを持ってきて、それをマサルの頭にクルクルと巻きました。マサルの三角の耳がすっかり隠れています。



「おっし、完璧!人間の子どもにちゃあんと見えるぞ!じゃあ、早速行くか!」
「行くって、どこへ?」
「どこって、あの子のところに決まってんだろ?」
ナルミはひょいとマサルを肩に担ぎます。
「え、そんな、もう?!だって心の準備が…!」
「おまえの心の準備なんて待ってたら、あの子が嫁にいっちまうわ!」
「待ってよ、ナルミ兄ち…うわ!」
ナルミは玄関の扉を思い切り足で蹴飛ばして、ばたんっ!、とものすごい音で閉めると人間の村に向かってものすごい勢いで駆け出していきました。





それから半時も経たないうち、マサルは意中のあの子の住む村の中にいました。ナルミは昨日よりももっと村に程近い村の全景が見下ろせる小高い場所で待機することにしました。マサルが行く当てもなくトテトテと村中を歩き回っているのが時々見えます。
さあて、何して暇つぶしをしようかな。
そんなことを考えながらナルミは欠伸を噛み殺しました。



マサルは心臓をドキドキさせながら村の中で女の子を捜します。村人たちが
「あの子見かけない顔ね。何処の子かしら」
というような視線をマサルに向けます。その度にマサルはキツネの正体がバレやしないかとヒヤヒヤして、両手で三角耳をバンダナの上からキュッと押さえました。どこに行けばあの子がいいのか全く分からず、ウロウロウロウロ。
あっちにウロウロ、こっちにウロウロ。
こんなんじゃ、ただ歩いているだけで怪しまれちゃうよ!
ああ、もっと偵察してあの子の情報を集めてからの方がよかったんじゃないかな?
だって住んでるところも、名前も分からない。
それに僕はこの村の中なんて何も分からないのだもの。



どうしていいのか途方に暮れていると、マサルは突然後ろから
「どうしたノ?」
と声をかけられました。
挙動不審だからとうとう声をかけられちゃった!
マサルの心臓は飛び出してしまうのかと思いました。
恐る恐る振り返ると、何とマサルの好きなあの子がニコニコして立っているではありませんか!



「頭が痛イのデスか?頭、押さえテマスけど」
大きな黒い瞳をにっこりとさせて微笑む女の子はとってもとっても可愛くて。
「ううん、い、痛くないよ!ちっとも!」
両手をぶんぶん振りながら、マサルは真っ赤な顔で答えます。
「あっ、あのね、僕、マサルって言うんだ!」
女の子の丸い瞳がさらに大きくまん丸になります。舞い上がって舞い上がって、声も裏返って、でも言わなくちゃって何が何だか分からなくなって、
「僕、君と友達になりたくて遠くから来たんだ!」
マサルは気がついた時には唐突に、何の脈絡もなく、そう叫んでいました。





「そっかぁ。リーゼちゃんっていうのかぁ」
「うん。とっても可愛い子だったよ……」
帰る道々、キラキラ星たちが歌う満天の星空の下でナルミはまたマサルを肩車していました。



リーゼはマサルと友達になってくれました。
おまけにマサルはリーゼの家で晩ご飯までご馳走になったのです。
ナルミが待っていてくれていることは頭から抜けてしまいました。
(あんまりマサルが帰ってこないのでナルミはすっかり熟睡していました。)
リーゼの家にはやさしそうな年をとったおじいさんとおばあさんがいました。
おばあさんが夏の終わりに腰をうって、それ以来床に臥せっているのだそうです。だからリーゼは大変なふたりのためにお手伝いにきているのだそうです。
マサルがいる間もリーゼは甲斐甲斐しくクルクルと働いています。だからマサルもできるだけそのお手伝いをしました。
「ありがとうございマス。マサルサン」
リーゼににこっと微笑んでもらえて、マサルはこれまでに感じたことのない気持ちを心の中に大事にしまいました。その後も時間を忘れていっぱいお話をして、ようやくマサルがナルミの元に戻ってきたのは辺りがとっぷりと夜になってからでした。



全精力を使い果たしたマサルは、歩く力も残っていないようです。
「よかったな、友達になれて」
「うん。ありがとう、ナルミ兄ちゃん……ごめんね、こんなに遅くまで……」
「なあに、気にすんな」
マサルはナルミの肩の上でこっくりこっくりと船を漕いでいます。
「危ねぇなぁ…よいしょ」
ナルミは肩車からおんぶに変えました。まもなくナルミの大きな背中の上でマサルは寝息を立て始めました。
「まったく、他愛ねぇなぁ」
ナルミはククク、と笑います。
でも、その笑いはすぐに消えてしまいました。



友達が幸せになってくれるのは嬉しいことです。いつも、マサルが嬉しそうに笑うとナルミも嬉しくなります。今日だって、ナルミはマサルが幸せそうなのでそれだけで幸せです。
だけど、何だか、淋しいのでした。
これからはきっと、マサルはリーゼと過ごす時間が増えるでしょう。それはナルミと過ごす時間が減るということです。マサルはずっと友達だけれど、だから友達がいなかった昔とは違うけれど、また独りぼっちの時間を持て余さなければなりません。



「こればっかは仕方ねぇよ。お互いに恋人ができれば…」
言いかけて、溜め息が言葉を遮りました。
『お互い』、違うな、オレにはいない。恋人も、好きな娘も。好きになってくれる娘も。
何しろ、同じオオカミが周りにいないのですから。呼吸を止めてしまうような焦燥感がナルミを苦しめますが、本当にこればかりはどうしようもありません。



「あ~あ…。さっき寝すぎちまったからなぁ…今夜はきっと、眠れねぇなぁ…」
眠れないのは他にも理由があるからだと、ナルミは分かっていました。
淋しいのは嫌いでした。
胸の中にぽっかり穴が空いてしまいました。
「誰かこの糸、手繰り寄せて、くれないか、千切れるほど…」
ナルミはリーゼと一緒に遊ぶ幸せな夢を見ているマサルを背負いつつ、溜め息をつきつつ、星が何やら囁く道をトボトボと歩きます。
自分の家がとんでもなく遠くにあるような気がしてなりませんでした。



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