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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。




毎日毎日が楽しくなった。
だって友達ができたから。
楽しいから時間があっという間に過ぎていって、気がついたらいつの間にかもう豊穣の季節を迎えていた。







銀と黒の詩。
そのに、秋ギツネ(上)。







森の葉っぱが赤や黄色に色付いてとってもきれいです。
風が吹くとまだ半分緑色の混じる葉っぱたちが手を振ります。
その中の小道を大きなオオカミが小さなキツネを肩車をして散歩をしていました。ナルミとマサルは秋の歌を気分よく大きな声で合唱しながら、落ち葉を踏み踏み進みます。マサルは歌に合わせて手に持ったススキをふりふり。






マサルはナルミと友達になってからいじめられっ子ではなくなりました。
あの乱暴者のオオカミと(本当は事実と違うのだけれど)友達になった、それはマサルを見る周囲の目をぐるりと変えさせました。それだけの度胸がマサルにはあるんだ、皆はそう思いました。自信のついたマサルの笑顔はこれまでみたいないじけたものではなくて、お日様みたいにあったかい、キラキラしたものになりました。まさにナルミがマサルにみせる笑顔、そのものです。だから、これまでのいじめっ子はマサルに一目置くようになり、いつしかマサルの新しい友達になりました。(もっとも、マサルをいじめたらナルミが黙ってはいないだろう、という恐怖心も手伝いましたけれど。)
でも、おかげでマサルの日常はとても楽しいものになりました。
いじめられっ子だったなんて、まるで嘘のようです。



それもこれも、全部ナルミのおかげなのです。
マサルにとってナルミは頼もしい兄のような存在、年は離れているけれど無二の親友、大好きな人なのです。マサルはナルミみたいに強くなりたいと心から思い、毎日ナルミに拳法を教わるようになりました。ナルミはとてもやさしいのに、オオカミ、というだけで皆から怖がられています。ナルミも「オレはオオカミだから」と、皆のまえではわざと乱暴者のフリをします。童話や物語に出てくるオオカミは悪者でなければならないのです。
そのせいで友達がいません。
ナルミ兄ちゃんのおかげで僕にはこんなにたくさんの友達ができたのに。
それを思うとマサルはナルミが可哀想になるのでした。



マサルを担いだナルミが大股でずんずん歩いていくと、道が二股に分かれました。左へ行くとナルミの家のある方角です。だからナルミが迷わず足を左の道に向けるとマサルは慌てて大声で言いました。
「ナルミ兄ちゃん、お願い!右に行ってよ!」
「右は人間の村の方角だぞ?」
「うん、いいの、お願いだよ、そっちへ行こう」
マサルの声は何だか真剣です。
「おーし、しっかり捕まってろよ」
ナルミはマサルの足をがっしりと押さえるとものすごい勢いで駆け出しました。
「うわあっ!あははははっ」
ナルミが走り去った後にはふたりの楽しそうな笑い声だけが残りました。



マサルの案内通りの場所につくと、ナルミはマサルを下ろしました。そこは村に程近い、道路脇の草むらでした。
「ここに何があるんだ?人間に見つかっちまうぞ、こんなに村に近いと」
小さいマサルはともかく、とんでもなく大きなナルミは草むらに身を潜めるのだって大変です。
「ちょっと待ってて」
本当にマサルの顔が真面目なものなので、ナルミは少し首を傾げながらも大切な友達に付き合うことにしました。草むらに大きな身体をごろり、と横にしました。カアカアと鳴きながら烏がねぐらに帰ります。大きな熟れた柿のような夕日が山の稜線を染めています。だんだんと夕暮れ時を迎えようとしています。
暗くなっちまうぞ、ナルミはそう言いかけましたがマサルがあんまりにも真剣な顔をしているので、言葉を飲み込みました。手持ち無沙汰なので鼻先を横切るコオロギやスズムシをキャッチ&リリースして時間を潰しました。



どれくらいの時間、こうしているのでしょう。夕日もその顔の半分を山間に隠しています。秋の虫の大合唱の中、ナルミがじっとしていることに耐えられなくなり始めていた頃、
「あっ!来た来た」
マサルが声を落としてヒソヒソと言いました。
ナルミがマサルの指差すほうを見るとひとりの可愛い人間の女の子が籠を担いで歩いてくるところでした。どうやら畑仕事の帰りのようです。
腰まで届く長い黒髪の、色白で瞳のきれいな女の子です。黒い瞳にやさしい光が星のように瞬いています。
マサルはその女の子を見て、ほうっと溜め息をつきました。ほっぺたが夕日のように染まっています。



「ほー…」
ナルミは目を細めてニヤリ、と笑いました。
「なんだマサル、おまえ、あの子に惚れてるな?」
「もお黙っててよ!気付かれちゃうだろ?」
本当にふたりの会話に気付いたのか、女の子はふたりの前でぴたりと足を止め、凸凹コンビの潜む草むらの方をじっと見つめました。マサルと(特に)ナルミはできるだけ身を縮めて息を殺しました。女の子はしばらくそのまま訝しそうにふたりの方を見ていましたが、そのうち村へと帰っていきました。
マサルはその後姿が見えなくなるまで熱心に見送ると、ようやく呼吸をするのを思い出したかのように大きく溜め息をつきました。






帰り道、マサルはナルミに、あの女の子のことが好きなことを打ち明けました。
「一目惚れなんだ。半月前にひとりで散歩してたとき、森に林檎を採りに来たあの子を見かけたんだ。夢中でその後を追いかけて、あの村の子だって分かったの…」
マサルはまた溜め息をつきました。
「あの時は無我夢中で追いかけたけれど、次の日からは人間の村の近くにひとりで行く勇気がなくて…」
何しろ人間、って奴らはキツネを見るとすぐにその毛皮を欲しがるのです。
「ナルミ兄ちゃんに一緒に行ってもらおうと思ったんだけど、何て言えばいいのか分からなくて…」
それはオオカミの毛皮も同じでした。しかもオオカミは『恐ろしい生き物』という理由だけで銃を向けられてしまうのですから、大好きなナルミにそんな危ないことを頼みづらかったのでした。



「でも今日たまたま、あの分かれ道まで来たから思い切って兄ちゃんにお願いしたんだ」
「そっか…気兼ねすることなんざねぇのによ」
だって、オレたち友達だろ?
ナルミはマサルの頭をポンポンと撫でました。その言葉にマサルの口の端が持ち上がります。それからナルミは少し心配そうな視線をマサルに向けました。
「でもよ…あの子、人間だぞ?ちょっとキツネ臭い娘だからおまえが惚れたのかもしれねぇけどよ…」
「うん、分かってる。でも、好きなんだ」
マサルはきっぱりと言いました。
小さいながらも男らしい顔をしているマサルにナルミはやさしく笑いかけ、その心の中で真剣に好きになれる相手を見つけることができたマサルを少し羨ましく思いました。何故なら、ナルミは好きになれるような相手に出会えたことがこれまでに一度だってないのですから。



「じゃあさ、明日、どうしたらいいか作戦を練ろう」
「ありがとう、ナルミ兄ちゃん」



その後のふたりはナルミの家に着くまで黙ったままでした。
マサルは小さな心を締め上げる初恋の甘酸っぱさに胸がいっぱいで。
ナルミはいまだ出会えぬ己の運命の相手に心を馳せて。
大きな影と小さな影を長く並ばせて、星明りの道をゆっくりと歩いて帰りました。



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