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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。





とあるところの、とある山の、とある森の中。
動物たちが人の姿をして人の言葉を話す童話の世界。
でも、人間の目から見れば、やっぱり物言えぬ動物にしかみえない、そんな動物たちのお話です。







銀と黒の詩。
そのいち、ともだちや。







森の中の一軒の家にナルミという名前の大きな大きな真っ黒なオオカミが住んでいました。
ナルミは心根のとてもやさしい、真っ直ぐな気性のオオカミでしたが古今東西、物語に出てくるオオカミは『悪くて』、『イジワルで』、『乱暴者』と相場が決まっていましたから、彼もそのように振舞っていました。『やさしいオオカミ』なんて評判が立ったら恥ずかしくて表を歩くことなんてできませんから。オオカミの風上にも置けません。
先祖代々が童話や物語の中で築き上げてきた『誇り』や『威厳』が地に落ちてしまいます。



ナルミはそれはそれは身体が大きいですし(クマのヤツや、トラのヤツにだって負けません)、言葉遣いはもともと乱暴、それに拳法の達人なのでものすごく強いです。顔だってどちらかといえば強面でしたから皆から怖がられるフリをすることは造作もないことでした。
でも、そのために友達がいませんでした。
それはとても淋しいことでした。
近くに同じオオカミでもいればよかったのですが(そうすれば同じ悩みを分かち合えるのに)、残念ながらここらへんでオオカミはナルミだけなのでした。
でも、ひとりぼっちだからと言って淋しい顔なんて人前でできるはずがありません。なんてったって、自分は『怖~いオオカミ』、なのですから。



同じ森にマサルという小さなキツネがいました。
マサルはとても賢くて心やさしい子ギツネなのですが、どうしてか皆にいじめられてしまいます。だからマサルにも友達がいませんでした。
友達はいじめられっ子のマサルの味方になってくれるはずです。一緒に遊んでくれる友達さえいれば、こんなに淋しい気持ちになることなんてないはずです。ひとりでも友達さえできたのなら、もしかしたら他の皆もマサルをいじめなくなるかもしれません。



だからマサルは『ともだちや』を始めました。
一時間百円でお代を戴いたお客さんの『ともだち』になるのです。
『ともだちや』と大きく書いたのぼりを立てたヘルメットを被って、両手にちょうちんを持って、
「え~ともだちやです。ともだち、いりませんか?さみしいひとはいませんか? ともだち、いちじかん、ひゃくえん。ともだち、にじかん、にひゃくえん!」
そう大きな声で宣伝しながら森の中を練り歩きました。
いじめっ子たちは指を差して笑って、マサルを囃し立てます。
ウズラのお母さんには 「赤ちゃんが寝たばかりだから静かにして!」 と怒られます。
「よう、ともだちや、ともだち買うぞ!」 と呼び止められて、マサルは何回か『ともだち』になりましたが無理やりに相手に合わせてばかり。 それもお代を戴いたら『ともだち』じゃなくなってしまうのです。



「いい考えだと、思ったんだけどなあ……」
ヘルメットの上ののぼりも曲がって、へしゃげたちょうちんを引き摺り引き摺り、森の中をトボトボと歩きます。
「ともだちやです……」
宣伝の声も最初の頃のような元気も大きさもありませんでした。



もう、やめちゃおうかな……。
マサルがそう考えながら一軒の家の前を通り過ぎようとしたとき、誰かが 「おう、マサル」 と声をかけました。それもとても大きな低い声で。
マサルの心臓は割れそうなくらいにバキンと鳴りました。森一番の乱暴者、オオカミの声です。マサルは恐る恐る声の方を振り返りました。その家の戸口にナルミが立っていました。 マサルがナルミに会うのはこれが初めてでした。



噂には聞いていました。
森の奥の方に、大きな身体の乱暴者のオオカミが住んでいること。
皆怖がってオオカミの住む森の奥には行かないということ。
マサルなんて一咬みで殺されるぞ!いじめられっ子がよく言うセリフ。
ああ、僕、考え事をしていて森の奥まで来たのに気がつかなかったんだ!
噂通りの、そしてマサルの想像してたよりもずっと大きなオオカミでした。真っ黒い髪を長く垂らした、真っ黒くて力強い光を放つ瞳の、背のとても高いオオカミ・ナルミがニヤリと笑っています。



きっと僕が五月蝿くて、気に入らなくて、食べる気なんだ!
マサルはガタガタと震えました。怖くて怖くて、耳が真横に寝て、尻尾が脚の間に入ってしまいます。
ナルミがゆっくりと近づいてきました。
何て太い腕!大きな掌! ころされちゃうのかなぁ……とマサルが青くなっていると、ナルミはそんなことにはとんと気付かない様子で意外なことに 「遊んでけよ。暇で暇でたまらなかったんだ」 と言いました。
「へ…」
「さ、家に入れよ」
ナルミはマサルの背中をぐいぐい押します。マサルはちっぽけなキツネなのでナルミの怪力に抵抗することなどできません。
ああ、きっと、当たりのいい言葉で油断させてから僕を殺す気なんだ……マサルはカチンカチンに固まって泣くこともできません。だって、オオカミって狡猾で残忍な生き物と決まっています!



ナルミの家は殺風景な家でした。大きなベッドと小さなテーブルと中くらいの段ボールしかありません。 あとは部屋の隅に服が雑多な物と一緒にうず高く積まれているだけ。
ナルミは段ボールの中をごそごそと漁るとトランプを取り出しました。
「マサル、おまえは何やりたい?」
「は、はいっ?!」
「緊張すんなよ、何のゲームで遊びたいんだ?おまえの好きなのやろうぜ?」
「僕の好きなの…?」



これまでマサルに「何をして遊びたい?」なんて訊いてくれた人なんていませんでした。いつもいつも仲間外れで。トランプなんていつも輪の外から眺めているだけで。
『ともだちや』で『ともだち』になった人たちだって、自分にマサルを付き合わせたのです。
マサルはじわっと涙が滲んできてしまったので、ナルミに気がつかれないようにそれを拭きました。
「し、七並べ…」
「おーし!」
トランプを切るナルミはやさしそうに楽しそうに笑っています。マサルにはもう、ナルミが皆が悪く言うような『悪いオオカミ』には見えません。さっき考えた通り、ナルミは狡猾なオオカミでマサルを油断させようとしているだけなのかもしれません。マサルの気が緩んだところをガブッとするつもりなのかもしれません。
でもそれでもいいや、とマサルは思いました。



「負けねえぞ~」
ナルミが言います。
「僕だって負けないよ」
マサルは言い返しました。そんなマサルの表情を見て、ナルミはにっこりと笑いました。
七並べをやって、ババ抜きをやって、ポーカーをやって、ダウトをやって……。 勘が頼りなゲームは圧倒的にナルミが強く、頭を使うゲームは大人なのにナルミはマサルに敵いませんでした。
「おまえは頭がいいなぁ」
ナルミは大きな手の平でマサルの頭をクリクリと撫でてくれました。 とてもやさしくて温かい手でした。マサルは嬉しくなりました。
ふと、時計を見るとあっという間に二時間が過ぎていたのです。楽しくて楽しくてちっとも気がつきませんでした。



「あの、オオカミさん……」
キッチンでマサルのために取って置きの葡萄ジュースをコップに注いでいるナルミの背中に呼びかけました。
「んあ?オオカミさん、じゃなくてよ、オレの名前はナルミってんだ。そっちで呼んでくれ」
「う、うん、あの、ナルミ…兄ちゃん…」
「なんだ?」
何だかナルミの返事は弾んでいます。
「あの……お代をまだもらってないんだけど……」
「なんだと?お代だって?」
突然、ナルミは声を荒げました。
顔も思いっきり不機嫌なものになり、さっきまでの笑顔がどこにもありません。



「マサルよ、おまえは『友達』から金をとるのか?それが本当の友達のすることかよ? オレは『ともだちや』なんて呼んだつもりはねーんだよ!」
そういえばナルミは「おう、マサル」と呼び止めたのでした。 ナルミの目は三角に尖って、太い尻尾はさらに太く膨らんでいます。
「ほ、本当の、友達?」
「おう、本当の友達だ」
「じゃ、明日も、遊んでくれるの?遊びにきてもいいの?」
「明日も、明後日も、明々後日も、ずーっとだ。おまえの来たい時に来ればいい」
マサルの目から大粒の涙がこぼれました。 ナルミはマサルの傍にしゃがみ込むと、その太い腕をマサルの首の周りにぐるりとまわしました。
「マサル、おまえってさ、オレがいつ見かけても他の奴らに苛められててよー、見ててすげぇ歯痒くてさぁ。あいつらにいっつも一言言いたかったけど、オレは『オオカミ』だからよ」
いいことはしないと相場が決まっているオオカミだから。



「それにおまえとオレって何となく似てるからよ」
友達がいない、ってとこが。
「どこが似てるの?僕、ナルミ兄ちゃんみたいに強くないよ?」
「強くなればいいだろが。それにオレは全然強かねぇよ」
「僕も…強くなれる?」
「もちろん!オレよかずっと強くなれるさ!」
泣くなよ。ナルミは言います。
「おまえっていい笑顔してんだからさ、いつでも笑ってろ。堂々といい顔で笑っているヤツを苛めるヤツなんて、そのうちにいなくなる」
それからふたりは葡萄のジュースで乾杯しました。 淋しいふたりはようやく、仲よしの友達を作ることができました。



マサルは一番星の輝く空を見上げながら上機嫌で歩いて行きます。
僕にも友達ができた!とっても強くて、とってもやさしい(それは内証)、ナルミ兄ちゃん!
マサルは道すがら、ゴミ箱に『ともだちや』ののぼりのついたヘルメットとちょうちんを捨てました。 もう、必要のないものだからです。
「え~ともだちはいりませんか?さみしいひとはいませんか?ともだちはただ!いつまでもただで―す!」
マサルの心は嬉しくて嬉しくて、大きな声で一番星に向かって叫びました。



End





postscript 内田麟太郎さんの絵本、『ともだちや』のパロディです。ほとんどまんまです。読んだことのある人、そしてこの本の好きな人、こんなものを書いてごめんなさい。私はこの『ともだちシリーズ』のオオカミとキツネがとても好きです。最初はキツネをしろがねで、とも考えたんですが、オオカミとキツネでは種族が違いますからね。つがいになれません。やはり鳴海としろがねは最終的に夫婦にならねば。どんなエンディングになるかは分かりませんが、とりあえずこの世界をふまえて連作にしてみたいと思ってます。


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