忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






銀と黒の詩。
そのろく、春夏秋冬 ~ひととせ・夏~





2.例えどんなに楽しくても


「やっぱり行かない、ってどうして?」
ミンシアはナルミに詰め寄りました。
「昨日は行くって言ってくれてたじゃないの!」
ナルミはミンシアからそういう反応が返ってくるだろうと予想していたので難なく、
「オレはオオカミだからな。森の連中と一緒に仲良くお祭り騒ぎ、なんてやっぱできねぇよ」
とかわしました。



今日は夏祭りの当日。マサルたちは祭りで使うホタルノネドコを採りに行こうとナルミを誘いに来たのですが、ナルミが「行かない」と言い張るのです。
「だけど兄ちゃん、僕たちとは仲良しじゃない。ともだちじゃない。そんなこと…」
マサルがでっかい目をこれでもかと見開いて訴えます。ナルミは組んでいた腕を解いてマサルの前に膝まづきました。ナルミにとっては姦しいミンシアよりもずっと辛い相手です。マサルに悲しそうな顔をされるのはナルミには堪えます。ナルミは眉を困った形に寄せて訴えました。
「マサル、おまえはな、いいともだちだぜ。数少ない、オレを理解してくれるヤツだ。でもよ、他の連中は違う。オオカミは怖いんだ。それに怖いと思わせておいた方がいいんだよ。森にひとりくらい誰もが認める悪者がいた方が平和なんだ」
「そんな…」
「いいんだ。それにな、オオカミなんかが行ったら皆が心安く祭りを楽しめねぇだろ?せっかくの年に一度の祭りなのに可哀想じゃねぇか」



皆には怖いフリをして嫌われるように仕向けながら、皆のことを思い遣るオオカミ。
マサルは切なくなって下を向いてズボンの腿をぎゅっと掴みました。
「そんな…それじゃ兄ちゃんが可哀想だよ」
「いいんだ。ありがとな」
ナルミは泣きそうになるマサルの頭をクリクリと撫でました。
「オレのことは気にするなよ。何も広場に行かんと見られねぇってもんでなし。流星群やホシホタルだったらここいらでも見られるしな」
するとミンシアが
「だったら私も行かない!」
と叫びました。それにマサルが
「僕も!」
と続きます。
ナルミが首を巡らすとリーゼも「私も行きまセン!」と鼻を膨らましています。ナルミは友達の気持ちがとても嬉しく、とても心が温かくなりました。ひとりぼっちでないのは何て素晴らしいことなのでしょう。だからナルミは明るく元気な顔でマサルやミンシアの背中をバンバンと叩きました。



「ありがとな…気持ちはありがたく受け取る。だからな、ホント、オレを思うなら行ってこいよ、みんな。祭りをやる広場はホタルノネドコで飾り付けをされてすげえきれいなんだろ?年に一度の市も立つんだろ?色んな屋台で色んな食いモンやなんかが売られてるって話じゃねぇか。行けねぇオレの代わりに色々買って土産を持ってきてくれよ。な?今年は去年までと違ってともだちがいるから行かなくっても祭りの土産が手に入る」
ナルミはニヤリと笑いました。
「本当に…兄ちゃん、それでいいの…?」
「ああ、おまえらがオレの分まで祭りを楽しんで、具に色んなことを楽しんで、その土産話を聞かせてくれりゃあサイコーだ」
心と同じく温かなナルミの手の平がマサルの頭をやさしく撫でます。マサルは手の平を帽子のように載せたまま、こくん、と頷いてみせました。ナルミが顔を上げるとミンシアもリーゼも首を縦に小さく振りました。



「そういや、しろがねは?」
ナルミは立ち上がりながら、最初から気がついてはいたけれど口に出す機会のなかった、迎えに来たメンバーにあの目立つ銀色がいないことに触れてみました。
「あの…しろがねさんもナルミさんと同じことを言ってマシタ…。来る途中に誘いに行っタのですガ、自分はオオカミだから行かない方がいいダロウって」
申し訳なさそうなリーゼの言葉にナルミは苦笑いして言いました。
「だろ?オオカミってのはそんなもんなんだよ」



【オオカミの実情】を祭りに行かない理由に挙げているナルミでしたが、もしもここにしろがねが来ていたらマサルたちと一緒に出かけていたでしょう。しろがねがいたら、しろがねと一緒なら。森の皆の迷惑にならない程度に祭りに参加していたに違いありません。でも、しろがねは来ませんでした。だからナルミは例年通り、祭り不参加、ということにしたのです。
ただ、しろがねは自分とは違う意味で【オオカミの実情】を言い訳にしているだけかも知れないが、とナルミは心の中で思いました。自分と一緒にいることが嫌、それが彼女の一番の理由だったら?そう思うとナルミの胸がキリキリと痛みました。
「しろがねにも【土産話】を頼まれたんだ。祭りが終わったら一緒にしろがねの家に行こうよ、兄ちゃん」
マサルがナルミの手をぎゅっと握りました。ナルミはそれを握り返しながら「ああ」と答えました。
「祭りが終わる時分、広場の外れの樫の樹の下で待ってるからよ」
「うん、分かった!」
マサルはようやく、ぱあっと明るい笑顔を見せました。



「さあさ、おまえら早いとこ行かねぇと目ぼしいホタルノネドコ、他のヤツらのかっさらわれちまうぞ?今日は森中のヤツラが我こそは一番でっかい花を探すって息巻いてるだろうからな。こんなところでいつまでも油を売ってる場合じゃねぇだろ?」
ナルミの言葉にマサルもリーゼもミンシアもハッと顔色を変えました。
「そ、そうよ、祭りに参加と決まったらこんなことはしていられないわ!ミンハイに特大の花をプレゼントするんだから」
「私もマサルサンのために一生懸命探しマス!」
「僕だって!祭りギリギリまで粘って大きなのを探すんだ!」
「な?一刻も早く行かねーとピンポン玉くれーのしか残ってねぇかもしれんぞ?」
ナルミは三人の背中をぽんぽんと押して玄関に誘いました。



「それじゃあ兄ちゃん、お言葉に甘えて祭りを楽しんでくるよ」
「ああ、楽しんで来い」
「ミンハイ、お土産をたくさん買ってくるから」
「ああ。姐さんも初めての祭りなんだからオレはともかく、楽しんできてくれよ」
「では行ってキマス!」
「おう、行ってこいや」
マサルたちはナルミに手を振りながらホタルノネドコの一番の群生地に向かって揚々と歩き出しました。にこやかに三人を見送って、彼らの後ろ姿が見えなくなるとナルミはふう、と肩で息をつきつき家の中に戻りました。静まり返った部屋の壁に賑やかに並ぶたくさんの思い出の写真。写真でもすぐに目につく美しい銀狼。ナルミはじっと、自分を涼やかに見つめてくるしろがねを見つめ返しました。





もしも。
オレとしろがねがもっといい関係だったら。
もっともっとありえねぇくらいに心が浮かれて、オオカミがどうの、なんて言い訳なんてしねぇで星祭りに行ったと思う。
他のヤツらにどんな目で見られたっていい。
しろがねの喜ぶ顔が見られるのなら。
銀色の流星群、銀色の光を散らすホシホタル、白銀のホタルノネドコの灯籠。
それらは銀色の狼にさぞかし映えるだろう。



綺麗なオレだけの銀狼、おまえがオレに笑いかけてくれたら。
オレは、一生、おまえを大事にしてやるのに。
今夜は星祭り。
愛を告げることのできる日。
そうしたらオレだって特大のホシノネドコをしろがねのために探しに行ってる。
でも。



オレの想いはしろがねを困らせるだけ。
決して好意を顕わにしないと約束したんだ。
愛を語らない、触れない、そういう約束。
どんなにオレの中で想いが膨らんでも、それを吐露することは許されねぇ。
どうしてオレだと困るのか、さっぱりなんだけどさ。





「どんなに楽しくったってよ…しろがねがいなくちゃ…」
マサルがいても、大事なともだちがいてくれても。愛する唯一の女がいてくれなければ自分の心は晴れないのだとナルミが気がついたのはいつのことでしょう?
ともだちがいなくてひとりぼっちだったあの頃。
愛する者に出会いたいと切に願っていたあの頃。
愛する者を知って再会を祈っていたあの頃。
愛する者の態度が頑なで悩んでいたあの頃。



いつだって心は痛かった。その時はその時が一番の辛さだと思っていた。でも過去を振り返ってみればどれもこれも、今の心の痛みには敵うまい。
愛されると困る、などと言われてしまったら。
愛してくれるなと言われたようなものだ。



ナルミは壁に手をついて、額をつけて淡く微笑むしろがねに「愛している」と呟きました。
「おまえには迷惑なんだとしても。それでも…オレは…愛さずにはいられねぇ。一縷の望みがまだあるはずなんだ」
ナルミは身体を屈めるしろがねの額に唇を当てました。そして再びしろがねの写真を食い入るように見つめると、決然と家を飛び出し森へと姿を消しました。





ナルミが向かったのはしろがねの家。
しろがねの家の前にはたくさんのホタルノネドコが置かれていました。これはおそらく、【幽霊オオカミに魂を抜かれてしまった】男たちからのプレゼントに違いありません。
「あいつはいい女だからなぁ」
ナルミは苦笑しながらしろがねの家にそうっと近づきました。しろがねの家は窓という窓にきっちりとカーテンが閉められひっそりとしていて、家の主がいるのかいないのか、さっぱり分かりません。しろがねはきっと、彼女にとっては煩わしいだけであろうこのプレゼント攻撃を避けるために居留守を使っているに決まってます。
「ま、オレも別段、あいつに直接手渡しする気はねぇからいいけどよ」



本当は。
マサルとリーゼみたいに花の交換をしたいけれど。



ナルミは道すがら摘んできたホタルノネドコをしろがねの家のポストに挿し入れました。大きさはどちらかと言うと小ぶりな花です。この際大きさは置いといて一番最初に「キレイだな」と思った花を摘んできたのです。玄関先に並ぶ花の大きさには到底及びもつきません。それらには男たちからの猛烈アピールが綴られているであろう手紙が添えられてます。
「…オレの名前なんか…残せるわけねぇもんな」
こんな小っさい花、花束に埋もれちまうだろうけど。
ナルミは柔らかいはなびらを指先でなぞり、やさしく撫でました。何となく、しろがねの頬に触れたような気分になれました。とりあえず、今日という日に匿名でもしろがねに愛情を届けたかったナルミは満足げな笑みを浮かべ、走って帰路に着きました。





西の空が黄金色に染まり出しています。
いまだ明るい空に目をこらすと、気の早い流れ星がキラキラと光っているのが分かるでしょう
間もなくお待ちかね、今年の星祭りが始まります。



next
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]