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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






銀と黒の詩。
そのろく、春夏秋冬 ~ひととせ・夏~





1.星の祭り


「星祭り?」
マサルとリーゼとミンシアとナルミ、そしてしろがねでナルミの家でとうもろこしの皮を剥きながら明日の夜にマサルとナルミの住む森で毎年行われる祭りのことが話題にのぼりました。この森に来たばかりで日の浅いミンシアが「何それ?」といった顔で聞き返します。
「あれ?教えてなかったっけ?」
「そうデスよね、ミンシアさんは他所の森から来たから知らないデスよね?」
マサルがしろがねを見るとしろがねも「初耳です」といった顔をしていました。
「そうかぁ、僕たちにとっては当たり前だったからあえて言わなくても知ってるものだと思っていたし、行くものだと思っていたから…ごめんね。ね、兄ちゃん」
「あ?お、おう」



ナルミはマサルに話を慌てて合わせましたが実はナルミもすっかり忘れていました。むしろこれっぽちも気にしていませんでした。
祭り、なんてものは怖くて悪いオオカミは無縁のもの。そんなところに行って、本当は怖がらせるべき動物たちと浮かれているオオカミなんてどこにもいません。本当は行ってみたくて仕方がないナルミでしたがぐっと我慢して我慢して毎年過ごしているうちにすっかり頭から抜けてしまっていたのです。何しろひとりぼっちの自分には全くと言っていいほど関係のないものだったのですから。



「で、星祭り、ってどんなことをするの?」
ミンシアが訊ねました。
「明日の夜は流れ星がたくさん降ってくる日なんだよ」
明日の夜は南の空に流星群の訪れる日です。毎年毎年、決まった時節にやってくる夜空の贈り物はそれはそれはそれは見事で、ちょうど新月のために輝きを霞ませるものもなく星は我が物顔で夜空を通り過ぎることができるのです。ナルミやマサルの住む森では「星祭り」と称し、空が白むまで流星の競演を楽しむのでした。
「それでね、流れ星に合わせてホシホタル、っていうホタルがね、たくさん飛ぶの」
「ホシホタル?」



ホシホタルはナルミたちの住む森にだけ群生する小型のホタルです。ぼんやりと朧げに光る他のホタルとは少し違い、キラキラと星屑を散らしたような銀色の残像を描いて飛ぶのです。そのホシホタルはちょうどこの流星群がやってくる期間だけ、求愛行動をして発光するのでした。
「本物のお星様みたいにキラキラ光るんデスヨ」
リーゼが以前、家族と見に来たときの幻想的な光景を思い出してほうっと溜息をつきました。
「それはもう、ものすごく綺麗なんデス」
天井には流れ星、地上には蛍。眩しく輝く夜の動物の森。



「へえ。星とホタル、キラキラ光る綺麗なものを見物しに行くわけね」
「そう。それでね、祭りには『ホタルノネドコ』っていう花を皆持っていくの」
「ホタルノネドコ?」
これもまた、ミンシアにもしろがねにも初耳でした。
「森の中のところどころに群生地があるんだよ。真っ白い、花びらのたくさんある、フワフワの虫のベッドみてぇな花が」
オレんちの近くにもあったなァ、と思いながらようやく話の流れに追いついたナルミが口を挟みました。
「ふうん。何でそんな花持って行くの?」
くすっ、とマサルとリーゼが顔を見交わして笑い合います。



「その花を好きな人にプレゼントするんデス」
「え?」
好きな人、という言葉が出てきてミンシアはグッと身体を乗り出しました。静かに黙々ととうもろこしの毛をもじいて話を聞いていたしろがねも手を止めて、更に真剣に耳を済ませます。
「プレゼントされたホタルノネドコにホシホタルが止まったら、そのふたりは永遠に仲良しでいられる、って言い伝えがあるんだよ」
「両想いになレルんですヨね」
「ずっと傍にいられる、離れても…心は思い合っていられる。そんな言い伝えがな」
ナルミはチラッと視線をしろがねに走らせました。しろがねは興味があるのかないのか全くはかれない表情でじっと膝の上のとうもろこしを見つめていました。ナルミも自分の拳に目を落とし、胸の中に込み上げた何かをそっと吐き出しました。



「じゃあ、絶対に行きましょうね、ミンハイ!」
ミンシアがナルミの腕を捕まえて誘うと、考え事をしていたナルミはびっくりして「お、おう」と返事をしました。そのやり取りにしろがねの耳がピクと動き、指に力がこもりとうもろこしの葉っぱに濃い緑色の筋をつけました。
「最近じゃホタルノネドコは大きければ大きいほど相手への愛情の大きさを表しているって話で、皆、できるだけ大きい花を探すのに躍起になるんだよ。当日の昼間なんて花畑は大混雑するんだ」
これまでは母親と見に行ったり、苛められっ子ながらも友達と見に行っていたマサルなので花の大きさなんてどうでもよかったのですが今年は違います。だって可愛いガールフレンドのリーゼがいるのですから。
リーゼのために誰よりも大きな花を見つけなければなりません。



「自分の手でホタルノネドコを摘む、っていうのが肝心なんだって、川獺のタニア先生が言ってた。先生が授業で言ってたんだけれど、ホタルが止まるのにも根拠があるらしくってね」
「じゃあ明日は頑張って、大きいのを探さないといけないわね」
ミンシアはもうマサルの話など聞いてはいません。誰よりも大きなホタルノネドコをナルミに手渡すことを誓ったミンシアは鼻息も荒く、拳を硬く握り締めました。
「どれくらいだと大きい!って皆が思うの?私はその花を見たことないから分からないんだけど」
ナルミとマサルが顔を合わせました。
「そうだなァ…マサルの、頭くらい?かな?」
「僕はバレーボールくらいのだったら見たことあるよ?」
「そ、そんな大きい花なの?」
「大抵はテニスボールくらいなんだけどな。たまーにあるんだと、デカいのが」
ナルミは両手でまるを作ってミンシアに説明しました。



「よおし!絶対に誰よりも大きな花を見つけてみせるんだから!」
「問題は花の大きさじゃないんだよ?タニア先生が言うには小さくても自分が摘んだホタルノネドコにホシホタルが留まってくれるかが大事であって…」
「ミンハイに大きいの、プレゼントするわね!花の大きさが私の愛情の大きさだと思って!」
相変わらず、ミンシアはナルミに大きなホタルノネドコを渡すことに夢中で、マサルの話が耳に入りません。マサルもミンシアに話すのを諦めました。
「僕、頑張って大きなの見つけるからね!」
「私も大きなのを見つけマスから!」
小さな恋人たちも自分たちの世界に突入です。



ナルミは皆が大騒ぎしている中、少しも輪の中に加わらずにひたすらとうもろこしの皮を剥き続けている銀色のオオカミをチラリチラリと盗み見ました。
酷い雷雨にふたりで雨宿りをしたあの日から、しろがねはナルミのことを怒ることがなくなり、とてもやさしくなりました。ナルミを怒ってばかりいた頃にマサルたちの前でわざとしていた「仲のいいフリ」、その両方が平均化された結果のようです。
しろがねはやさしくなりました。いつも淡く笑っているように見えます。けれどそれはナルミにしてみれば非常に「素っ気無い」ものに感じられるのでした。当たり障りのないやさしさで目に見えない壁が作られているようで、それ以上踏み込むことができないのです。
ナルミは身体中がどこかチリチリと焼かれるような落ち着きのなさに、もうあれからずっと苦しんでいました。



しろがねがふと、とうもろこしから顔を上げ、ナルミと瞳が合いました。心を揺らがせる嬉しさにナルミの尻尾がパタパタっと床を掃きました。露草を濡らす朝露のように儚い笑みが口元にはあります。けれど、ナルミと合わす瞳がどうにも悲しそうで。
「あの、さ、しろがね…」
ナルミからの会話を避けるかのように、しろがねは長い睫毛を伏せました。同時にナルミの尻尾も、パタ…と動きを止めました。



しろがねはオレに「好き」という気持ちを訴えないで欲しいと言った。
告げられても応えられないから、困るのだと、言った。
どうしてオレだと困るんだ?
どうして、オレとの間に距離を置こうとする?
体よく、オレに伝えたのか?
あなたのことは嫌いなのだと。



グルグルグルグル、このことばかりがナルミの頭の中を巡ります。
本当は嫌われているのでしょうか?
でも、あの日、しろがねは自分にくちづけをくれたように思うのです。しろがねにはナルミの想いを受け止められない何らかの事情があるのかもしれません。それさえなければしろがねも意地を張ることなく、ナルミの腕の中にずっといてくれるのかもしれません。
そうは思ってもやはり、自分の儚い願望でしかないのだ、自分は好かれてはいないのだ、しろがねはうるさい自分を黙らせるために、もしくは愚かな自分に同情してくちづけてくれたのだ、と答えが巡ってくるのです。
しろがねが自分をどう想ってくれているのか、全く分かりません。
でも、ナルミはしろがねが好きなのです。好きで好きで堪らないのです。
明日は星祭り。
好きな人に愛を伝える機会が与えられる日。





でもオレは。
愛を口にすることは許されないから。





盛り上がる3人を横目にナルミもしろがねも、各々が切ない吐息を漏らすのでした。



postscript   教育テレビで番組と番組の間に5分間の「プチプチアニメ」ってのがあります。その中に「Jam the housnail」ってシリーズがありまして。カタツムリが主人公のクレイアニメです。殻が家の形をしているのです。その中に「好きな相手に花をあげてそれに虫が止まったら両想い」みたいな回があって…はっきり言ってうろ覚え。でも、ま、それがモチーフであることには間違いがないので。はい。



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