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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。

 

 

 

 




 

 

 

 

Unbalance.

 

 

 

 

 

 

 

8Beleive it ?  - 2 -

 

鳴海はギイがエレオノールに会いにやってくると決まって夜の街に消える。

エレオノールをギイに任せ、そして空が白むまで戻ってくることはない。

夜通し、女を抱く。

一晩に 2,3人の娼婦を買う。

鳴海のペースに合わせると女が壊れてしまうので、河岸を変え、相手を変える。

ただひたすら、精液を吐き出すことに専念する。

エレオノールと二人きりのときは女を抱いて性欲の処理をすることが叶わないから溜まっている、というのがひとつ。

自分は成熟した女性に対し欲情できることを思う様、確認したい、というのがひとつ。

そして、ギイが帰った後、エレオノールに間違いを起こさないように、飽きるほど女を抱いておきたい、というのがひとつだ。

 

 

 

 

 

今回も東の空がようやく明るさを見せ始めた頃、白い息を吐き吐き、宿へと戻ってきた。

お陰様で身体の中は空っぽだ。

女を抱く目的のうちふたつは達成できた。

だけれど、後もうひとつは、どんなになっても達成はできないだろうことを鳴海は知っていた。

虚しさだけが残る。

鳴海が自室の扉を開けると、そこにはさも当然のようにギイがいて椅子に腰掛け、ワインを傾けていた。

鍵をかけて出かけたのに何故ここにいる?なんて疑問は今更湧かない。

相手は何でもありの『しろがね』なのだから。

だから鳴海の第一声は

「エレオノールは寝ているのか?」

だった。

「ああ、隣でまだ休んでいる」

「そうか」

鳴海は水差しからコップに水を注ぐと、それを一気に飲み干した。

ふう、と大きく息をつく。

 

 

「ずい分とお盛んだな」

「おう。おまえがオレに子供を預けていってくれたお陰で、こんなときくらいしか女を抱きにいけないもんでな。お陰で楽しめたぜ?ブロンドに赤毛にブルネット……今晩も頼むぜ、エレオノールのことは」

「よく身体が持つな。精力の化け物だな、おまえは」

「好きに呼べよ」

鳴海はドサリとベッドに身を横たえた。

頭の下で両手を組み、瞳を閉じる。

『しろがね』の身体というのは難儀なものだ。

あんなにも体力も精力も使い果たしてきたのにもう回復の兆しを見せている。

眠気もどこへやらへと去ってしまった。ギイが探るような瞳を自分に向けているからなのかもしれない。

 

 

「で?何の用だ、オレに」

「察しがいいな」

「用がなければ、おまえがわざわざオレの部屋で待ってたりしねぇだろ?」

瞳を閉じたまま話しかけてくる鳴海にギイはゆっくりと首を向けた。

「僕が会いに来ると毎晩のようにおまえは女を買いに行く、これはおまえにエレオノールを託してから変わらない。けれど、ここしばらく、おまえの女の抱き方は常軌を逸しているように思う。何かあったのか?」

「何にもねぇよ?何があるってんだ?」

鳴海は嘯いた。

ギイの視線は鋭い。生来、嘘をつくのが苦手な鳴海は果たしてそれをつき通すことができるのか?

はっきり言って自信はまるでなかった。

ただでさえ、自分の中のそれは爆発したくて仕方がないのだ。

鳴海はググッと喉元に込み上げてくる塊を難しい顔で呑み込んだ。

「心配には及ばねぇよ、ギイ。エレオノールとふたりの間は女に不自由しているもんだからよ。その期間ももうけっこうになる、それだけだ」

「そのエレオノールのことなのだが」

鳴海はギクリとした。

ギイの手が核心に伸びてくる。鳴海はそう直感した。

「なぁ、ギイ。少し眠らせちゃくんねぇか?さすがに夜明けまで女3人を相手にしてきたとあっちゃぁ…」

ギイは鳴海が逃げをうったのが分かった。だから

「ナルミ、おまえはエレオノールのことをどう思っているのだ?」

と単刀直入に切り出した。

 

 

「なあにを言い出すのかと思えば……どうもこうも、もうじき9歳の少女、オレにとっちゃ『妹』みたいなもんよ。4歳の頃からオレが親代わりだったにしちゃ、ずい分と上品に育ったもんだよなぁ。よくおまえにも言われたっけ、『エレオノールにおまえの口の悪さ、下品さが感染るんじゃないかとヒヤヒヤさせられる』ってよ…」

できるだけ平静を装ってはみるものの効果は薄い。心臓が早鐘のよう。

むしろ妙に口数が増えてしまって逆効果なのが自分でも分かる。

こういう質問が飛んでくるだろうと予想をしておきながらこのザマだ。

「誤魔化しはいい。おまえの本心を言え」

「本心も何も」

「おまえは嘘をつくのが下手だと、僕が知らないとでも思っているのか?おまえが嘘を言うときのクセを、僕が知らないとでも思っているのか?なめられたものだな」

ギイは畳み込む。鳴海は退路を絶たれる。

「……」

鳴海は眉間に深い皺を寄せた。そもそもギイに舌戦で勝てる筈がない。

「ナルミ、おまえはエレオノールを『男として』どう思っている?」

「『妹』」

「まだ言うのか?」

ギイの声があまりにも冷ややかで、あまりにも挑戦的で、あまりにも核心を突きすぎるから、とうとう鳴海は切れた。

「うるっせぇな!そんなにオレの本心が聞きてぇのかよ!」

鳴海は跳ね起き、ギラギラと光る瞳でギイを睨み付けた。

 

 

「じゃあ、言ってやるよ!オレはエレオノールを愛している!あんな幼いエレオノールを一人の女として愛し、その未熟な身体を抱いてしまいたいと思う気持ちを我慢するために馬鹿みたいに商売女を何人も相手している、エレオノールの代わりに!これでおまえは満足か?!」

噛み付くようにエレオノールへの愛を吼える鳴海の目元には苦渋が滲む。

「おまえには分からねぇのかよ?オレがどんな想いであいつへの気持ちを押さえつけているのか?こっちゃあ、死に物狂いなんだぞ?こんな気持ちを……言葉にしちまったら……認めちまったら……それが恐ろしくて沈黙を守っていたのによ?!おまえは…!」

鳴海の手がギイに伸び、その胸倉を掴んだ。

「おまえには分からねぇ!」

そう叫んだ鳴海の声が徐々に弱まる。

鳴海を覆う苦渋の色が全身に及ぶ。

「分かる……筈もねぇ……。だってよ、オレだって信じらんねぇもん……信じられるかよ?30歳にもなる男があんな女の子に心底、惚れてるなんてよう…」

ギイのシャツを握り締める鳴海の拳が小刻みに震えた。

恋を煩う男の目尻が涙で濡れる。

「ナルミ……おまえは短気だが素直な男だな」

「うるせぇよ…」

鳴海はギイから手を離し、腕で目元を擦った。

そして、力なくベッドの上に座りこむと、ガックリと項垂れた。

 

 

 

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