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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Unbalance.

 

 

 

 

 

 

 

3Snow drop.

 

「ねぇ、ナルミお兄ちゃま?あすこに生えているお花は何というの?」

エレオノールに促されて首を巡らしたところには可憐な白い花がところどころに咲いていた。

「さあて、あれは何て言うんだろな?」

「エレオノール、ナルミのように風雅を理解できない男は知らないだろうから聞くだけ無駄だぞ?彼にとって花は食えるか食えないか、だからな」

「お兄ちゃま、お花食べるの?」

エレオノールは丸い瞳を更に丸くさせる。

「そりゃあ、食える花もあるさ。食用花ってのがあんだから。ナスタチウムなんてその代表格だし、ほら、春になればそこらじゅうに生えてくるタンポポだって食おうと思えば…。それに菊ってのはオヒタシにする美味い…って、風雅を理解できないって何なんだよ、ギイ!」

エレオノールは両手を鳴海とギイに引かれて、間に挟まれて歩く。

ギイに噛み付きそうな顔をする鳴海が可笑しくて、エレオノールは楽しそうにクスクス笑った。

「そんじゃあ、おまえは分かるのかよ?」

「ギイ先生は分かるの?あすこのお花の名前」

「スノードロップと言うんだ」

ギイは澄ました顔であっさりと答えた。

「すのーどろっぷ?」

「『雪の耳飾り』が名前の由来だよ。イヤリングみたいに見えるだろう?」

「あ、本当」

スノードロップ。アダムとイブがエデンを追放された日、凍える彼らに春を告げるために生まれた花。

 

 

鳴海は、ギイが自分の知らないことに難なく答え、それに小さなエレオノールが感心したような瞳を向けるのが何となく面白くなくて、「ちぇ」と唇を尖らせた。

「へえへえ。どうせオレは花の名前も知らない雅の分からない、無知無学な男だよ」

鳴海がそっぽを向くとエレオノールが言う。

「お兄ちゃまは私に食べられるお花の名前を教えてくれたでしょ?」

鳴海の言っていることはよく分からなかったけれど、何だか鳴海が拗ねていることだけは理解できたのでエレオノールは鳴海に慰めの言葉をくれたのだ。

「やさしいなぁ、エレオノールは。ありがとな」

鳴海は温かい笑顔をエレオノールに返した。

エレオノールも嬉しそうだ。

おやおや、4歳児に慰められるとはな。

口に出すとせっかくのエレオノールの気遣いに水を差しそうだったので、ギイはフッと鼻の先で笑うだけに留めた。

 

 

 

 

 

エレオノールは鳴海のことを「ナルミお兄ちゃま」と呼ぶ。

そしてギイのことは「ギイ先生」と呼ぶ。

「何なんだろうなぁ、この違いは」

「僕はこの子が物心がつく前から『先生』の触れ込みで会っていたし、実際に人形繰りも彼女に手ほどきしたしな。何だ、ナルミ、『先生』って呼んでもらいたいのか」

ギイがニヤリと笑う。

「ナルミ先生……いい響きじゃねぇか。何だか尊敬してもらってるような感じするだろ?」

「お兄ちゃまはお兄ちゃまよ?先生じゃないわ?」

ふたりの会話を聞いていたエレオノールが口を挟む。

「なぁ、オレは何で『先生』じゃねえんだ?」

「お兄ちゃまだから」

「訳わかんね」

鳴海はまたふてくされたように唇を尖らせた。

「まぁ、いいじゃないか。エレオノールはおまえを実の兄のように慕っているってことなんだろうから」

「実の兄……ね」

鳴海は少し黙り込んだ。

 

 

あんまり……エレオノールに『兄妹』の目を植えつけたくないと感じるのは何故だろう?

エレオノールはまだ4歳なんだから、そんなことどうでもいいだろうに。

 

 

鳴海もギイも、エレオノールがふたりをどう見てどう感じているのかは分からないし、エレオノールだって深い意味なんて持ってはいない。

ただ、実際にこれだけは言えることだが、エレオノールが兄のように思っているのはギイの方だった。

偶然にも自分と同じ銀色の髪をしているからかもしれない。

エレオノールはギイを兄として、時に父として慕っていた。

何でも知っていて、何でも教えてくれる綺麗な兄。

そして鳴海のことは意外なことに、兄、だとは欠片も思っていなかった。

言わば「近所のカッコイイお兄ちゃま」的な位置づけで見ていた。

強くて、やさしくて、逞しくて、温かな。

ある種の憧れを持って、鳴海のことは純粋に好きだった。幼心に異性として。

 

 

 

 

 

ギイはエレオノールが事の他、鳴海に懐いてくれたことに喜んでいた。

これで、僕は僕の仕事に専念できる。

エレオノールを脅かすアイツを調べ上げ、追い詰め、その尻尾を掴んでやること。

愛するママンの仇を必ずこの手で挙げてみせる。

そしてエレオノールの周囲から脅威を取り除いてやるのだ。

常に傍に居ることだけが守るではない。

僕は攻撃的に彼女を守護してみせる。

エレオノールを鳴海に託すことができれば、彼女はこの世で一番の安全地帯に匿われることになる。

何しろ鳴海は誰よりも強く、ギイが最も信頼する人物なのだから。

 

 

「何だよ、ジロジロ見やがって」

「何でもない。おまえのこんなに近くで並んで歩くと視野が狭いな、と思っていただけだ」

「け」

「ナルミお兄ちゃまもギイ先生もケンカしないの」

「「はい」」

エレオノールを中心にやさしい笑いの花が咲く。

 

 

 

 

 

いまだ雪の溶け残る道を三人は歩く。

それを見送る白い花。スノードロップ。

 

 

エレオノール。

おまえにはまだ教えてやることはできないが、スノードロップはおまえの誕生花なのだよ。

1月1日の誕生花。

花言葉は 「希望」。

 

 

いつかおまえの元に希望に満ち溢れた未来が訪れるように、全力を尽くすから。

僕も鳴海も。

それまでどんな辛苦にも耐えるのだ。

深雪にも寒風にも負けないスノードロップのように。

 

 

 

End

 

postscript   ちなみに、1月1日生まれの人。

「雪にも寒風にも負けないスノードロップのように、辛抱強い性格を持っています。

あなたの望みは、いつか必ず叶えられるのです。持って生まれた合理性、まじめさを大切にして

一生を自分らしく貫き通すことです。」

(366日 誕生花の本 『日本ヴォーグ社』より)

 

 

 

 

 

 

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