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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

Unbalance.

 

 

 

 

 

 

 

2Eleonore.

 

鳴海がエレオノールと出会ったのは18歳の時、エレオノールは4歳の幼女だった。

 

 

 

 

 

ゾナハ病だった鳴海はギイに拾われ、『しろがね』となった。

初めの頃は生命の水やら自動人形やら、何が何だか分からなかった鳴海だったがギイに連れられキュベロンに行き、『しろがね』誕生の秘話を全ての『しろがね』の師であるルシールの口から聞いた。ゾナハ病の何たるかを知り、旅先でか弱く小さな子ども達が自動人形のばら撒くゾナハ病で苦しみもがき死んでいく様をまざまざと目の当たりにし、元より正義感の強かった彼は自動人形に憎悪を燃やした。

鳴海はギイのパートナーとなり、自動人形の首領・フランシーヌ人形率いる『真夜中のサーカス』の殲滅を誓い、文字の如く粉骨砕身した。

彼は他の『しろがね』のようにマリオネットは使わない。

鍛え抜かれた己の肉体と、磨きぬかれた技とで人形を破壊する。

鳴海は『しろがね』となって半年足らずで自動人形達に、『デモン』と恐れられる存在となった。

ともすると憎悪の余り、人間らしさが消えて行きそうで自分でも怖かった。 

 

 

ある時、ギイがキュベロンから特命を受けた。

その内容はパートナーである鳴海にも知らされず、ギイは単身どこへやらと旅立って行った。

しばらく何の音沙汰もなかったが、数ヵ月後、ギイは再び鳴海と合流した。

どんな任務に着いていたのか、ギイは一言も言わなかったし、鳴海も一言も訊かなかった。

ギイは自分から口を開かなければ何を訊ねても答えてはくれない男だということは長い付き合いで分かっていたし、本当に鳴海に伝えるべきことは隠し立てをしないことも知っていたからだ。

それからのギイは度々、行き先も告げずに別行動を取ることが多くなった。

ふらりと居なくなり、ふらりと戻ってくる。

 

 

そんな相棒の行動が当たり前のこととして少しも気にならなくなっていた、例の特命を受けてから4年程が経ったある日。

ギイがいつものように前触れもなく鳴海の前に現れたとき、彼は小さな女の子の手を引いていた。

銀色の髪を肩まで垂らした、真ん丸い青色の澄んだ瞳の、ハッと人の目を引くような可愛い少女。

「ナルミ、詳しいことは後で話す。彼女はエレオノールと言う。エレオノール、こっちの大きいのはナルミと言う名前だ。これからはナルミも、僕らと一緒に暮らすんだよ」

一緒に暮らす、とはどういうこった?と思ったけれど、生来子供好きな鳴海はしゃがみこんでエレオノールと目線を合わすと

「初めまして、エレオノール。これからよろしくな」

と人懐こい笑顔で挨拶をした。

 

 

エレオノールはびっくりしたような表情で鳴海の顔をマジマジと見つめていたが、そのうちに大きな大きな瞳が潤んできたかと思うと、大粒の涙がボロボロボロボロと零れ落ちた。

「お、おい……泣くなよなぁ…」

鳴海は術もなくオロオロとする。

「おまえが子供に泣かれるなんて珍しいこともあるもんだな。ま、常々、泣かれないことの方が不思議だったのだ。こんなゴリラのようにデカい強面の男に子供が懐くことの方が異常だろう?エレオノール、このおじさんはこんな顔してるけど、少しも怖くはないのだから、そんなに泣くんじゃない」

エレオノールはふるふると首を振る。

「ギイ先生。私、怖いから泣いてるんじゃないの」

エレオノールはほんの少し舌足らずの、鈴が転がるような声で言うと、目の前の大きな胸にしがみ付いた。

「嬉しいの。やっと会えたの。嬉しいの」

エレオノールは鳴海の胸でえぐえぐと泣いた。

『やっと会えた』の意味が分からない。道中、ギイがこの子にオレの話でもしてたのか?

何にせよ、子供の言うことは意味不明なことが多いものだ。

「そうか、オレも嬉しいよ」

子供の話の内容が理解できない、こんなときは、子供の言葉を肯定してやると間違いはない。

 

 

鳴海は小さく震えるエレオノールの肩をそうっと抱いた。その身体は温かなウサギのよう。

やさしく抱き抱えないと押しつぶしてしまいそうな弱弱しさ。

子供特有の甘い体臭が鳴海の鼻をくすぐった。

「ほら、もう泣くな。可笑しいぞ?」

鳴海は涙で汚れたエレオノールの頬を指で拭ってやる。

「ありがとう」

そう言い鳴海を見上げるエレオノールは確かにあどけなくて幼いのだけれど、4歳にしてはどこか大人びていた。

吸い込まれそうに澄み切った、鏡のように磨かれた瞳。

鳴海は魂が彼女の中に落ち込んでいくような錯覚を覚えた。

そして、彼はエレオノールにある種の懐かしさもまた感じていた。心が震え、その奥底がざわめく。

そんな自分に鳴海は戸惑いが隠せない。

何故なら相手はまだ幼い女の子なのだから。

そんな幼女に大の大人な自分がどうしてこんなに胸をときめかせているのか。

 

 

 

 

 

『やっと会えた』。

その言葉はエレオノールの中に棲む人物から派生した感情を指し示した言葉。

エレオノールの瞳を『懐かしい』と感じたのも、心がざわめくのも、鳴海の中に棲む人物の記憶。

今生では今日初めて出会ったふたりだったけれど、彼らが生まれるずっとずっと昔にその魂は結びついていた。

けして添い遂げることのできなかった悲しい愛だったけれど、死ぬ間際までお互いを愛していた。

来世での再会を願って。

 

 

願いは叶い、こうしてふたりは出会った。

『しろがね』の不死の身体を持った男と、人形のように美しい少女の姿で。

 

 

ふたりは気付かなかったけれど、初めて瞳を見交わしたこのときから、鳴海とエレオノールの魂はひとつに融け合い出していた。

ゆるやかに、深く、硬く、濃密に……。

 

 

 

End

 

 

 

 

 

 

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