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義務教育を終えてない方はご遠慮ください。
Unbalance.
1.My fair lady.
葡萄色に染まる街並みを人波に逆らって男は歩く。
周りの誰よりも頭一つ分以上突き抜けて背の高いその姿はどんな遠くからでも目立った。
ただでさえ目立つのに、更にすれ違う人々が振り返ってまで彼を見るのは、その右手でひとりの少女と繋がっているからだろう。
歩く度に星屑が散るような銀色の髪を靡かせて、大人の足に懸命について行こうと小さな足を前に出す。
これでも男は少女のためにできるだけ狭い歩幅で歩いているのだが、それでも彼女にとってはやや早足になるようだ。
見るからに東洋人の特徴を示す黒目黒髪の大男と、まるでフランス人形のように美しい青目銀髪の少女。
誰もがアンバランスを覚えるそのふたりはしっかりと手を繋ぎ、家路を急ぐ人々とは反対の方向に歩いていく。
男の手を少女がきゅっと握った。
「どうした、エレオノール?」
ずっと下にある少女の顔を覗き込もうとして、男の長い髪が揺れた。
「ううん、何でもないの、ナルミお兄ちゃま」
エレオノールは銀色の頭を振った。本当に星が散りそうだと、鳴海は思う。
「疲れたのか?」
「うー…ん、少し」
10歳の少女には一日中移動を強いられることは堪えるのだろう。
けれど、エレオノールは決してそれを表に出さない。
当てもない旅。いつまで続くか分からない旅。
自動人形の気配を追いながら、それを見つけ出し、破壊する旅。
それを延々と繰り返すが『しろがね』たる鳴海の運命。
目に見えぬ、得体の知れない追っ手から、姿を晦まし逃げる旅。
それが生まれながらに課せられた、エレオノールの運命。
ふたりにはひとつところに居られない理由が在った。
「ごめんな、気が利かなくて」
「いいの、お兄ちゃま。私はナルミお兄ちゃまとこうしていられるだけで嬉しいのだから」
そう言って花のように微笑むエレオノールが、鳴海はとても可愛い。
移動中、常に繋がれている手と手。
もうかれこれ6年近く、鳴海の左手の中には必ずエレオノールの小さな手がある。
柔らかくて、繊細で、ちょっとでも力を入れたら壊れてしまいそうな、そして自分への全幅の信頼を寄せる手。
6年間、少しずつ少しずつ、鳴海の手の中で成長していくエレオノールの手。
今では繋いでないと不自然に思えるくらいだ。
手の中が空っぽだと、由来の分からない不安が押し寄せてくる。
今の鳴海にとって、エレオノールが全てだ。
この身に変えても彼女を守りたいと思う。
エレオノールと共にあること、それが今の鳴海の望むこと。
自動人形の破壊よりも強い欲求。
かつての鳴海は宿敵の自動人形たちに『デモン』と呼ばれ、それらに恐れられるくらいに心を人形破壊に捧げていた。
人の心を失いかけるほどに、鬼神のような戦いに身を投じていたのに。
それがいつの間にか、エレオノールが幸せな未来を掴むこと、掴ませてやること、それが彼の何よりも優先する最大の目的になっていた。
未だ硬く閉じた薔薇の蕾が綻び、大輪の美しい花を咲かせるまで見守るが、鳴海に託された役目。
「今日はこれで宿に入ろう」
「はい!」
エレオノールは鳴海を見上げ、微笑んだ。
その笑顔に鳴海も瞳を細くする。とくとくと、胸の中を温かくする。
彼女はさぞかし、美しい娘に成長するだろう。
世界中の男達が結婚したいと声高に叫び、彼女に手を差し伸べてくるだろう。
富のある者、地位のある者、名声のある者、才能のある者、見目麗しき者。
彼女の伴侶を選ぶにあたってはおそらく争いも起こるに違いない。
まさに傾国の美貌。
エレオノール。
おまえの幸せのために、オレは選りによりをかけて最高の男を選んでやろう。
オレとギイとで、素晴らしい男を選りすぐってやろう。
おまえの幸せのために。
おまえの、幸せのために。
オレには有り余るほどに時間があるのだから。
年恰好も、佇まいも不釣合いなふたりは更に強くぎゅっと手を握り合った。
薄闇が迫る中、ふたりの背後で街灯に青白い灯が灯る。
人気の少なくなった石畳の上に細長い二つの影が寄り添うように伸びていた。
End
postscript ゲストブックでの何の気なしの書き込みから生まれたSSです。
とりあえず、一話完結型の連作形式で書き進めていくつもりでいます。
鳴海は『しろがね』で19歳、エレを託されて共に旅をする役目を担ってます。
エレは10歳。誕生の際、『しろがね』にはならなかったけれど身体の中に柔らかい石を持っていて、
アンジェからその子供に石が移ったのではないかと感づいたディーンから身を守るために鳴海と放浪の旅に出ています。
大人の鳴海×少女エレのお話、この先、多分に小児性愛的描写が出てくることが予想されます。
はっきりいって、故意に倒錯した世界に流れをもっていくつもりですので、そういうのは好きじゃない、という方はここでおやめください。