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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

Unbalance.

 

 

 

 

 

 

 

24. The calm before the storm.

 

「おまえたち、何かあったのか?」

 

 

夜も更けて、それまで3人で団欒を楽しんでいたエレオノールがひとり立ち上がり

「もう、遅いので部屋に戻ります。ギイ先生、ナルミお兄様、おやすみなさい」

そう言ってペコリと頭を下げて自室に戻っていた姿を受けてギイが言った。

エレオノールはこれまで決してひとりでは眠らず、常に鳴海と眠り、ギイが来たらギイの布団に潜り込んでいたというのに。

「成長しただろ、あいつ。自分の部屋でひとりで寝られるようになって…」

「だから何があったのか、と訊いているんだ」

前回来たとき、エレオノールは『鳴海のお嫁さんになるのが夢なのだ』と無邪気に微笑んでギイに伝えた。

鳴海と一緒に眠るのは当然のことのように話していた。

これまでだって何度もひとりで眠るように口を酸っぱくして言っても何だかんだと効果がなかったのに。

今夜のエレオノールがまるで別人のようにギイの瞳に映る。

 

 

「何だ?おまえ、実はエレオノールと一緒に寝るのが楽しみだったんじゃねぇのか?」

「ふざけるな。僕は真面目に訊いているんだ」

ギイとしても可愛い妹と一緒に夜の長話をするのを楽しみにしていた気持ちが全くないと言っては嘘になる。

だが彼はそれをおくびにも出さずに鳴海を問い詰めた。

鳴海は困ったような笑顔を貼り付けると

「好きだって告白されたよ。オレと結婚したいんだとさ」

と、寂しそうに言った。

「そ、それでおまえは」

「勿論、断った。オレは『しろがね』だからってよ。……これでよかったんだろ?ギイ?」

暗い笑顔で鳴海はギイに同意を求める。

「ああ、おまえは正しいよ」

ギイは鳴海の行為を手放しで肯定した。

「そっか。そうだよな……正しいよな……」

鳴海はソファの背もたれに深く寄りかかるとギイの言葉を口の中で何度も反芻した。

「我慢できなかったのはおまえではなくて……エレオノールの方だったか」

「意外か?」

「まあな」

ひでぇなァ、鳴海が苦笑した。

「でも…あながち、間違ってもいねぇ。我慢も限界だった。だから返ってよかった、あいつの気持ちが分かって。おかげで冷静になれたからな」

鳴海はテーブルの上の冷えたコーヒーを口に運んだ。

「道理で今日、エレオノールが大人びたように感じられたわけだ」

「失恋してひとつ大人になったんだろ、実際」

おまえもな、ナルミ。

ギイは心の中で呟いた。

 

 

「それで?肝心な話はどうなっている?何か掴めたか?」

鳴海が『しろがね』の仕事仕様の瞳をギイに向ける。

「ああ、やっとだ。やっとあいつの正体も居所も割れた。ディーンは我々がこれまで追っていた『真夜中のサーカス』とは『別物の自動人形のサーカス』

の団長らしい。我々は便宜上それを『新・真夜中のサーカス』と呼ぶことにした」

「『しろがね』なのに、自動人形の首領をやってるってのか?何のために?」

「さあ、それは本人の口を割らせないと分からん。何でママンを殺したのかも」

ギイの顔が復讐鬼のものになる。

「いずれにしてもディーンが自動人形たちと裏で繋がっていることは確かだ。ふたつのサーカスに分かれている理由も、その関係も全く分からん。

しかし、奴が裏切り者であることは間違いない。『しろがね』本部はディーンを叩くことを決定した」

「それで?」

「ディーンに気付かれないように作戦が秘密裏に進んでいる。来月」

ギイは翌月のカレンダーのひとつの日付を指差した。

「この日の24時に『しろがね』の選抜隊は『新・真夜中のサーカス』のテントを急襲、殲滅戦に出る」

「勿論、その選抜隊の中にはおまえも含まれているんだろう?」

「当たり前だ」

ギイは見ている者が凍りつくような笑みを口元に浮かべた。

「この10数年、一日千秋の思いを嫌というくらいに味わった。あいつの喉笛を切り裂くのは僕の仕事だ。誰にも譲らない」

ギイの瞳は底無しに冥い瞳だ。

「なあ。オレも選抜隊に加えてくれねぇか?」

ポツリ、と鳴海が口にした。

「何?おまえにはエレオノールの守護という…」

「ディーンの脅威を排除すれば、オレはエレオノールを護らなくてもいいんだろ?だったら一番の即戦力を連れて行かねぇってのもおかしな話じゃねぇか。

それにオレはおまえのパートナーだろ、おまえの背中を守るのがオレの仕事だろが」

ギイの瞳が真っ直ぐに鳴海の瞳を捉えた。

「ナルミ」

「オレとおまえが組めば無敵なんだからさ。ディーンの野郎を殺すのもあっという間だろうよ」

沈黙が訪れる。ギイが沈思黙考する。

 

 

「エレオノールはどうする?」

「もう、エレオノールは大人だよ。オレじゃねぇ『しろがね』とでも上手くやっていけるさ」

鳴海は笑顔を浮かべているのに、やりきれない、苦しそうな印象をギイに与える。

ギイは目を伏せ、ワインで喉を湿らせた。

「そうか。おまえがそう言うなら……エレオノールは正二に託そう。それが一番いいだろう。そうなれば親子であることを隠す必要もなくなるのだから」

「そいつァいい。喜ぶだろうなァ、エレオノール。親父に会えたらなァ…親子の対面、か…」

鳴海は明るく笑った。

「そしたら……親子水入らずでしばらく暮らせばいい。失われた10数年を補うように。そうして……幸せに父親の元から嫁いでいけばいいんだ…」

「ナルミ……おまえはもしかして…」

「何だ?」

「いや、何でもない」

変なヤツ。

鳴海は最後に一言吐き出すように言うと、それきり黙ってしまった。

 

 

嵐の前の、静けさ。

 

 

 

End

 

 

 

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