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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Unbalance.

 

 

 

 

 

 

 

18. Crack.   - 3 -

 

ベッドの上に鳴海が知らない女と居る。

鳴海も女も身体に何も身につけていない。裸。

これまで自分だけの場所だったところに。

女は鳴海の腹の上で弾んでいた。

その都度、女のくぐもった甘い声と、荒い呼吸、規則正しく軋むベッドの音と、これまた規則正しい濡れた穴を穿つ音が

まるで音楽のようで。

「ああ……気持ちいいわ……こんなに奥まで……突かれて……」

女が囁く。女の大きな乳房が撓む。

「おい……またイきそうになってるんじゃねぇのか?おまえ…」

低く唸るような鳴海の声も何か熱っぽくって、エレオノールがこれまで聞いたことのない声だった。

「口でやってくれ。このままだとまた置いてけぼりにされちまいそうだ」

「いいわ……イかせてあげる。『お兄さん』…」

女が鳴海の腹の上からどくと、その股間に天を向くペニスのシルエットが浮かび上がる。

それを見てエレオノールは心臓が跳ね上がった。慌てて口から飛び出しそうになった声を両手で押し込んだ。

女は鳴海のペニスを頬張った。美味しそうにねっとりと亀頭や肉茎、陰嚢を丹念に舐め回す。

鳴海は感嘆の吐息を漏らし

「う……さすがに、上手いな……」

と女を褒め、女は一心不乱に鳴海のペニスに愛撫を与え続けた。

 

 

エレオノールは目の前で繰り広げられる光景に見入り、これをどこかで見たことがあると思った。

否、「経験したことがある」と思った。

男の身体を跨ぎ、あの股間のモノで串刺しにされる感触。

そして、そのものを口に含まされ、口の中に吐き出された苦い何かを飲み下す感触。

『エレオノールは』経験したことはなかったが、『エレオノールの中の誰か』はそれを知っていた。

だから、エレオノールは今、ようやく理解した。理解できた。

自分が幼い頃から繰り返し見るあの悪夢の中で、自分が一体何をして、何をされていたのか。

性交。

夢の中のエレオノールはそれを強いられていた。エレオノールはそれをするのが嫌だった。怖くて辛いだけのものだった。

夢の中の男もエレオノールに性欲をぶつけるだけで、何も与えようとはしない。

エレオノールから何かが齎されるのを待つだけで。

その男はエレオノールの身体から得られる快楽にただ没頭しているだけかに見えて、本当はどこか苦しそうだった。

エレオノールの知っている性交は苦しくて辛くて切ないもの。そんな性交しか彼女は知らない。

なのに、鳴海と女は悦んでいる。

性交を楽しんでいる。

エレオノールの悪夢の中の行為と何ら変わりが無いのに。

 

 

『恋人』だから?

好きな人とだから?

だから、そんなことをしても嫌じゃないの?

気持ち悪くないの?

もしかしたら私も、ナルミお兄ちゃまとだったら気持ちよくなれるの?

ううん、きっと私だって、あの女の人のように嬉しくなれる。

お兄ちゃまとだったら!

そうしたら。

私の悪夢も終わる。

 

 

そう思った刹那、エレオノールの中には俄かに嫉妬心が芽生えた。

それに付随した怒りや悲しみも一緒になってエレオノールの心を苛む。

鳴海に抱かれて悦んでいるのが自分でないことに。

大好きな鳴海に抱かれている、自分以外の女がそこに存在することに。

そのために鳴海が自分を邪魔にしたことに。

そして、鳴海にとっての自分はただの子供でしかないことに。

否定しようもない現実がエレオノールに迫る。

鳴海と性交を楽しむ女の身体は成熟しきっていた。

胸にも尻にも柔らかそうな肉がのって、如何にも『美味しそう』で。

エレオノールは悔しくて、こんな感情を抱く自分が浅ましくて醜くて、嫌いで、もうどうしようもなく自分を抑えることができず

その瞳からは新たな涙がぱたぱたと零れ落ちた。

堪えても堪えても、漏れる嗚咽を止めることはできなかった。

 

 

 

 

 

鳴海は頂点にまで高まった塊を吐き出すところだった。

純粋に眼下の淫靡な絵柄に気持ちを昂らせて、女の口の中に精液を吐き出す瞬間だった。

エレオノールの泣き声が聞こえてきたのは。

それまで意識的に締め出していた愛する少女の姿が目の前に引き出される。

咄嗟に声のする方に頭を廻らし、戸口にしゃがみ込んで涙を流すエレオノールと瞳が合った途端、鳴海は射精した。

「ぐ…っう…」

「ん……」

女は喉を鳴らしそれを呑み込む。

舌先で鳴海のペニスをきれいに拭うと

「二度目なのにけっこう量が多い…」

と鳴海を見上げた。その鳴海はあらぬ方向を見つめている。

「どうしたの?気持ちよくなかった…?」

戸口を見つめたまま固まっている鳴海の様子が変なので、その方を女も見、そのとき初めてエレオノールの存在に気がついた。

 

 

「あら?もしかしてお隣の『妹』さん?とんでもないところを見られちゃったわね、『お兄さん』?」

女が見たのは、この世のものとは思えないほどの美少女だった。

月明かりの下にいるエレオノールの表情は明るく照らし出されていたから、苦もなく読み取れた。

女は『ちっとも似てない兄妹ね』、という印象を受けた。

それから、『兄』を見つめる『妹』の瞳の中に『女』が居ることにもすぐに気付いた。

だから、ほんの少し、自分は大人の女であり、鳴海に抱かれたという優越感から意地悪をしてみたくなった。

「子供には刺激が強すぎたかしら?」

そう言って、大きな乳房を押し付けるようにして鳴海の背中を抱き締めた。

それを見たエレオノールがハッとした顔になる。手がワナワナと震えている。

 

 

鳴海ははあっと溜め息をついた。

鍵を閉めなかったのは失敗だった。

こんな爛れた現場をエレオノールに目撃されてしまった。

オレの姿は彼女の瞳にどんな風に映っただろうか。

やさしい『兄』の顔の下に、欲望の渦巻いた『男』の顔を隠しているのだと知って。

幻滅したのか?幻滅して、泣いているのか?

鳴海はエレオノールの涙を見つめながら、それとは別の考えが浮かぶ。

いや、だがむしろ、これでよかったのかもしれない。

子供のエレオノールには衝撃的すぎる場面かもしれないが、これでもうオレと同じ部屋に寝たいとも思わなくなるだろう。

幾らか軽蔑をして、オレから距離を取ってくれた方が、オレも楽になる。

それに衝撃も何も、エレオノールはもしかしたらオレがこの女と何をしていたのか少しも理解できていないに違いない。

何しろ、男の前で裸体を晒すことの恥ずかしさも知らなかったようなネンネなのだから。

 

 

そして女に言った。

「……悪いが今日はこれで引き上げてくれ。萎えちまった」

「そう?そうは見えないけれど」

鳴海のペニスはまだ面を上げている。女の目に映るそれは、硬そうで太くて長くて、もう一度楽しみたかったのにと恨めしく思った。

この少女が現れなかったら実際に楽しめたのだ。

「しばらくこの町にいるの?」

「この宿にもう一泊するつもりだ」

「だったら、明日……あ、もう今晩になるのね…また私を呼んでくれる?他の娘じゃなくて私を指名して……サービスするから。

それに今日の分はロハでいいわ。プロとは言えないもの、今日の私。商売抜きでもう少し、あなたに抱かれてみたいの、駄目?」

「分かったよ」

「絶対よ?」

女は鳴海に濃厚なキスをし、鳴海もそれに応えた。

自分に突き刺さる視線に痛みを感じながら、必要以上に女のキスに応じる。

「キスも巧いのね、あなた」

女は手早く身支度をすると

「あんまり『お兄さん』の邪魔をしたら駄目よ?『お嬢ちゃん』?」

とエレオノールに声をかけて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

女の居なくなった部屋を沈黙が覆う。

時折、エレオノールが漏らす嗚咽以外は何も聞こえない。

鳴海もエレオノールも身じろぎ一つしない。

月光が音も時間も吸い上げているかのようだった。

エレオノールが落とす涙が白い光に照らされて、月の雫のようにキラキラと輝いては堕ちていった。

 

 

 

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