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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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分類に悩む読み物です。
義務教育を終えてない方はご遠慮ください。


 

 

 

 



 

 

 

 

Unbalance.

 

 

 

 

 

 

 

15Crazy for you .  - 3 -

    

「ナルミお兄ちゃま、お先にありがとう。次どうぞ」

エレオノールがシャワールームから上機嫌で出てきた。

濡れた髪を拭く仕草もいつも通りなのに、鳴海の目には少し違って見える。

より、女に見える。

鳴海はグッと唇を噛んだ。

自分はこんなにも我慢に我慢を重ねているのだというのに!

その度に、少女に欲情してしまう自分を愚かに思い、自己嫌悪に陥らねばならないというのに!

どうしておまえはそんなにもオレの前で無防備な姿を晒すんだ!

そんなにもオレを道化にさせてぇのか!バカヤロウ!

 

 

「エレオノール、着替えはシャワールームで済ませろと言っているだろう?!どうしてオレの言う事が聞けないんだ!」

突然の鳴海の大声にエレオノールの身体がびくん、と跳ねた。

咄嗟に目を向けた鳴海は俯いているせいで長い髪が顔を覆っていてその表情を窺うことができないが、拳をワナワナと震わせていることから、怒っているのだとエレオノールは即座に理解した。

「あ、あの、ご、ごめんなさい……」

鳴海がこれまでエレオノールに対し声を荒げたことなど一度だってなかった。

叱られたことなんてなかった。

いつもいつも鳴海はやさしくて、こんな風に頭ごなしに怒られた経験なんてなかったから、エレオノールは初めて鳴海に対し恐怖を覚えていた。

叱責されて怖いのではない。

嫌われたらどうしよう、という恐怖。

見放されたらどうしよう、という恐怖。

もう、笑ってくれなくなったらどうしよう、という恐怖。

エレオノールは歯の根が合わず、カチカチと硬くて軽い音が彼女の頭蓋骨に響く。

「いいか、『兄妹』なのだとしても、おまえはもう10歳なんだ、羞恥心ってものを覚えろ!他人に対してだけじゃなくて、『兄貴』にもだ!だからおまえはガキだって言うんだ!」

「ご、ごめんなさい、お兄ちゃま!怒らないで、もうしませんから!お願い、怒らないで、ごめんなさい、ごめんなさい…!」

エレオノールの声が涙に濡れ出した。

唇を噛み締めすぎて、鳴海の口の中に血の味が充満した。

「…もういい!先に寝てろ。今、『オレの言ったこと』、理解できたな?」

鳴海は着ているシャツを荒々しく脱ぐとソファの上に乱暴に放り投げた。

それから自分の着替えを手にすると

「いいから泣き止め。そして大人しくベッドに入れ」

と言いつけた。

鳴海はエレオノールを視界に入れるのが怖くて、さっさとシャワールームに入るとバタリ、とドアを閉めた。

 

 

グスングスン、と少女の嗚咽がドア越しに聞こえる。

「……最低だな、オレは」

ドアに寄り掛かったまま、鳴海は低く呻いた。

確かに決まりを守らなかったエレオノールも悪いが、それでも向こうは10歳の無邪気な子供だ。10歳くらいじゃ、『兄貴』に羞恥心を覚えろというのは酷な話なのかもしれない。

幼いのに抑圧された生活の中、周囲からの目もない鳴海とふたりきりでいられる寝支度をする時間だけが彼女のリラックスできる時間なのに。

怒鳴って叱るほどに彼女は悪いことをしたわけではない。

鳴海は当たってしまったのだ。幼いエレオノールに。我慢することがあまりにも辛くて、苦し過ぎたから。

「大人気ねぇなぁ……オレは……」

可哀想なことをした。

エレオノールはささいなことで怒鳴られてどんな気持ちだったろう。

悪いのはオレ。

未成熟なエレオノールの身体に劣情を覚える大人のオレの方。

「でも……それもこれも、オレからあいつを守るためなんだ。最低な男から自衛しなけりゃなんねぇんだから……」

どうにかしよう、絶対に。

とりあえず、これからは別々の部屋を取ることだ。

ツインなど生温い。

鳴海は逆上せ上がった頭と滾ってしまったペニスを鎮めるために氷のような冷水シャワーをひたすら頭から浴び続けた。

 

 

 

 

 

鳴海が長いことシャワールームに篭っていたのは、結局冷水シャワー如きでは治まらなかった昂りを吐き出す作業を幾度か繰り返していたからだ。

更に自己嫌悪のドン底に身を置きながら表に出てくるとエレオノールは鳴海に言われた通り、ベッドでひとり眠っていた。

鳴海が先程脱いだシャツを胸に抱き抱えて、丸くなって、頬に涙汚れをくっつけながら。

「馬鹿だなぁ……それはオレの血と汗で汚れて臭ぇだろうが。ほら、放せ…」

鳴海はベッドに腰掛けるとエレオノールの手からやさしく洗濯物を外そうとした。

けれど簡単には取り返せなかった。ぎゅううっと握りこまれたそれを力任せに取り返すとエレオノールが起きてしまうかもしれない。

だから鳴海は諦めた。

泣き疲れたエレオノールはじっと身じろぎもしないで眠っている。

「ごめんな……今日のこの涙はオレのせいだ」

涙で冷えた頬を擦り、温める。

しばらく鳴海はエレオノールの寝顔を見つめていたが、ついっと身体を屈めるとその胸元に頬をそっと押し当てた。

ふわっと甘くエレオノールの体臭が香る。

「同じ石鹸で身体を洗ってるはずなのになぁ……何でこんなに違うんだろ……」

極近くてエレオノールが抱えている自分のシャツは臭いだけなのに。鳴海は小さく笑った。

更にゆっくりと頬を押し付ける。

浅いけれど、確かに存在する弾力。

この弾力は日増しに強くなり、それに顔を埋めたいと願うオレの愚かな欲求も比例して強くなっていくのだろう。

 

 

「こんなに小さいのにオレをこれほどまでに狂わせるんだな、おまえは…」

鳴海はエレオノールのわき腹に手の平を当てた。

 

オレはおまえに狂っている。

 

その手がゆっくりとエレオノールの身体のラインをなぞる。細くて直線に近いラインを。

 

おまえが成長した暁には、オレはどうなっちまうんだろう?

 

親指が胸元の緩やかな膨らみに引っ掛かった。柔らかい、成長過渡のもの。

 

本当に、おまえが誰か他の男のものになる姿を微笑ましく見守ることができるんだろうか?

 

鳴海は頬を押し付けたまま、顔をずらした。それにつられてエレオノールの乳房が形を変えた。

 

確実にここに存在する『女』。

 

「く…っ」

鳴海は苦々しく身体を引き剥がした。

シャワーを浴びながら全部吐き出した筈の愛欲がムクムクと頭を擡げ始めたからだ。

鳴海はエレオノールの身体に布団をかけてやると、部屋の灯りを落とした。

そして自分は小さなソファに窮屈そうに横になると

「明日からは二部屋、とることにしよう…」

と呟いた。

 

 

 

 

 

寝付けそうになかった。

今夜も長い夜になりそうだった。

 

 

 

End

 

  

 

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