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義務教育を終えてない方はご遠慮ください。
Unbalance.
13.Crazy for you . - 1 -
葡萄色の町並みを通り抜け、青い街灯の下を幾つも潜り抜ける。
家路を急ぐ人々の姿も疎らになった町外れの小さな宿に鳴海とエレオノールは部屋をとった。
宿の近くの料理屋で簡単な夕食を済ませ、真っ直ぐにまた寝床の宿に戻ると、フロントにこの界隈の新聞を何紙か数日分、部屋に届けるように頼む。
その土地土地で不可解な事件や事故がないか、確認するのが『しろがね』の習慣になっている。
自動人形が絡んでいるかもしれないからだ。
それが終われば今夜はもう、寝るだけ。
「疲れたろ、エレオノール?先にシャワーを使って来い」
「お兄ちゃま、先に入っていいわ?だって今日、お兄ちゃま、血が…」
そこまで言って、エレオノールはきゅっと美しい眉を寄せた。
今日は自動人形に遭遇した。
一体一体の戦闘能力は鳴海の敵ではないものの、圧倒的に数が多過ぎた。
飛び道具が武器な人形が何体か混じっていたのも痛かった。
エレオノールを庇いながら戦うハンデを科せられている鳴海は負傷し、血を流した。
それが自分のせいだとエレオノールは自分を責める。
せめて自分の身を守れるくらいの術があればよかったのに。
『しろがね』である鳴海は、既に傷は癒えている。
でも、エレオノールは血で汚れている鳴海を気遣って「お先にどうぞ」と言ってくれているのだ。
「だから、おまえが先に入れ。オレが先だとシャワールームを血で汚しちまうからな。気持ち悪いだろ?」
エレオノールは別に鳴海の血など気持ち悪くとも何ともない。そんなこと、別にかまわないのに。
「オレはコーヒーを一杯飲んでからにするからよ。先に入ってくれ、な」
「はい、お兄ちゃま」
エレオノールは鳴海が彼女自身を優先することに関しては決して折れないことを知っているので、それ以上主張することは止め、ありがたく先にシャワールームに入ると服を脱いだ。
肌着だけになったとき、ちょっといい考えが頭に浮かび、「そうだ!」とぽんっと手を打ち、ひょい、と頭だけドアから覗かせる。
「ねえ、お兄ちゃま」
「あん?」
「だったら、一緒に入ろ?そうすればいっぺんに終わるわ。ちょっと前までは一緒にお風呂に入ってたでしょ?」
コーヒーを入れようとしていた鳴海の手元でソーサーとカップが、ガシャシャッ、と賑やかな音を立てた。
「な、なあに言ってんだ。早よ入れ!」
図らずも想像し、胸が激しくドキドキする。
ちょっと前っつったって……風呂に一緒に入って身体を洗ってやってたのは、かれこれ4年も前の話だろが?
「あれ?お兄ちゃま照れてるの?」
エレオノールはちょっと期待した。
ナルミお兄ちゃま、ちょっとは私のこと、意識してくれているのかな?と。
事実、それは図星もいいところなのだが、鳴海はそれをエレオノールに決して知られてはならないので誤魔化し、茶化した。
「け。だあれが。そんなぺったんこの胸したガキんちょに誘われても嬉しくとも何ともないっての!オレの好みは巨乳だからな。もわっか、胸を育ててからそーゆー色っぽいこと言ってくれって。手足ばっか伸ばしやがって」
エレオノールの期待はぱちん、と音を立てて割れた。
ほっぺたがぷうっと膨らむ。
「どうせ私はお兄ちゃまから見たらまだまだガキですよーだ!」
「そうだなぁ。早く大きくなってオレにサービスしてくれよ。そしたら喜んで一緒に風呂に入ってやるぜ。…ま、後数年は望み薄だな」
鳴海はカラカラと笑う。
背中を向けて自分を見ようともしない鳴海にエレオノールはべえっと舌を突き出した。
「いーから、入れって。風邪引くぞ?」
「分かりました!」
バタン!といささか乱暴にシャワールームのドアは閉められた。
湯気の立つコーヒーをカップに注ぎながら、鳴海は徐々に真顔になり、暗く沈んだ瞳をした。
エレオノール。
オレは一度だっておまえをガキだなんて思ったこたぁねぇよ。
どんなに幼くたって、小さくたって、オレにとっては唯一無二の女なんだから。
「もうッ!何でナルミお兄ちゃまってああもデリカシーがないのかしら?」
ギイ先生とは月とスッポンよね!
エレオノールはプリプリと怒りながら下着を脱いで一糸纏わぬ姿になった。
シャワールームの中に備え付けられている小さな鏡の中に目を向けると、ひとりの少女が目を尖らせて怒っていた。
童顔で、肉付きの薄い、痩せっぽちの少女。
鏡の中の少女がエレオノールの胸を眺めた。
成熟した女性のものとは比較にもならない真っ平らな胸。
「はあ」
エレオノールは溜め息をついた。
鳴海にからかわれてもちっとも文句の言えない身体。
「どうしたら胸って大きくなるのかしら?」
エレオノールは手を自分の胸に当てた。弾力を感じる前に肋骨に到達してしまう。
すれ違う、道行く女の人は皆、ふかふかした柔らかそうな胸をしているのに。
「男の人って何で女の人の大きなおっぱいが好きなのかしら?触ると気持ち良さそうだからなのかな?」
エレオノールは自分の胸を鏡越しでなく、直に見て、またも
「はあ」
と溜め息を漏らした。
「私の胸が育つ前に、ナルミお兄ちゃまにおっぱいの大きな恋人が出来ちゃったらどうしよう…」
鳴海にしてみればまず在り得ない話だか、エレオノールにとっては深刻な悩みだ。
「考えてても仕方ないわよね……シャワー浴びよう……あ、あれ?着替え持ってくるの忘れちゃった」
シャワーを浴び終えた濡れた身体で荷物を漁るよりは、シャワーを浴びる前の今取って来た方が断然楽だ。
エレオノールは躊躇うことなく素っ裸のまま、再びシャワールームを出た。
「おう、早ぇなぁ、もう出たのか。身体、きれーに洗っ……ぶぐっ…!ゲホっ、ガハっ!」
熱いコーヒーが変なところに入り、鳴海は派手に咽てしまった。
ドアの開いた音がしたから何気なくシャワールームの方に視線を向けたら、全裸のエレオノールがぴょいっと飛び出して来たのだから。
「ゲホっ、あちっ、ゲホゲホっ」
咽た衝撃で飛び散ったカーヒーカップの中身が手や膝に思いっきりかかり、慌ててコーヒーカップをテーブルの上に戻したら据わりが悪くひっくり返してしまい、勢いよく零れたそれは鳴海の服やソファの座面にも染みを作った。
「どうしたの、お兄ちゃま!咽たの?飲みながら喋るからよ!大丈夫?」
全裸のエレオノールが真っ赤な顔で咽続ける鳴海の傍に飛んできた。
鳴海の背中をとんとんと叩く。しつこい様だが、全裸のままで。
「こっち来るな、そんなカッコでオレに寄るな!せめてバスタオルくらい巻いて来い!」
と言いたくて堪らなかったが、鳴海の口から出てくるのは激しく咳き込んだ音だけだった。