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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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あんばらんす





★ふいに 小鳥がつまんだ宇宙が びりびり破れてこぼれた★





その日、鳴海が仕事を終えて帰宅すると殺風景な筈の単身用ワンルームが、今日はクリスマスか七夕かというくらい、見事にデコレイトされていた。
壁中にびっしり貼られた、色取り取りの星、ほし、ホシ。
「な…何…?」
開いた口が塞がらない。鳴海はただただ、呆然と玄関に立ち尽くして
「なんの冗談だ、この光景…」
を、眺めるしかなかった。


どうにかこうにか我に返り、部屋に上がって星を見る。
仕事柄、見覚えのあり過ぎる色味のラインナップ。
「折り紙で折った星か…」
コレ、全部?
折り紙の色見本にある色全部、あるんじゃないだろうか程にカラフルだった。
見上げればプラネタリウムよろしく、天井にまで星がびっしり。
「…剥がすの、大変じゃねェか…」
とブツクサ言いながらも、コレ、掲示物に転用できねェかな、なんて瞬時に考えてしまう辺り、ワーカホリックかもしれない。


何にしてもだ。
「こんなイタズラしたの。一体、誰だよ…」
施錠された部屋に上がり込めるのは、空き巣か幽霊くらいなもんだろうが
「どっちにしてもオレの縄張りに踏み込むたぁいい度胸だ。さぁ、相手してやる、出て来いや」
ぼきん、と指の関節を鳴らした瞬間、いきなり視界が真っ白になった。
今の、自分の指を鳴らした音だと思っていたが、ラップ音だったのか…
人生33年にして幽霊とやらに出くわすのは初なのだが、
「幽霊って打撃効くんかね…」
相変わらずに世界が白いまま、でも別に眩しいわけじゃない。
手を伸ばす、触れた。
何だ、目前が、何か白いモノでいっぱいになっているだけか、と気付く。


光沢のある生地がふわふわっと、良く見れば刺繍だかレースだかでゴージャスに飾られているそれが、何故か鳴海の顔の真ん前に現れて、視界を塞いだのだ。
「何だ、コレ…カーテンか?これも部屋のイタズラ飾りの一貫なのかよ…」
とりあえずは邪魔なので片側に寄せようと、布地を纏めるためにそれを抱える。
すると、鳴海の腕に重みが乗った。
中には芯のようなものが二本通っていて…


「…先生?」
耳に微かな声が届く。若い女性の声。
そして理解する、腕で抱えたそれはカーテンではなくて、生きた人間だと。
いつの間にか、鳴海は女性の身体を横抱きにしていた。
そろそろと、視線を上へと移動させる。
純白の布地の切れ目、その先に美しいデコルテ、折れそうなくらい細い首、顔はチュールで隠れてる、けれど覗く、形の良い唇には、微笑み。
「先生…」
二度目の呼び掛けに応えようと、息を吸い込んで       


鳴海は、消魂しい目覚ましに起こされた。





☆☆☆☆☆





せんせい おはよう
みなさん おはよう
おはなも にこにこ わらっています
おーはよう おーはよー

せんせい おはよう
みなさん おはよう
ことりも ちっちと うたっています
おーはよう おーはよー


幼稚園児たちが元気に朝の挨拶の歌を歌う。
オルガンを弾いて歌声に伴奏をつけているのは、可愛らしいヒヨコのエプロンがやたらと似合わないデカい男。
広い肩幅、厚い胸板、太い腕、ゴツい脚。
狭い教室に窮屈そうな大きな身体。


鍵盤ふたつをいっぺんに押しそうなくらいに太い指が意外にも器用に弾いてはいるものの、彼の前ではオルガンが別の楽器のように小さく見える。
鍵盤ハーモニカ、と言ったら言い過ぎだろうが、まぁそんなもんだ。
彼の体重を支える椅子の脚だって今にも圧し折れそう。
男と比較したら子どもたちの椅子や机なんかは人形の家具にしか見えない。


子どもたちが歌い終えると、男はぐるりと向き直り、呼びかける。
「さあ、朝の挨拶をしようか。さ、ご一緒に!」
「せんせい、おはようございます!みなさん、おはようございます!」
オルガンの椅子から立ち上がったデカい男も一緒になって頭を下げた。
「さー。いよいよ来週、卒園式だ。今日も練習。やることが山盛りてんこ盛りだ。チャキチャキ行こうぜ」
「はあーい、なるみせんせー」
強面な上に無駄に縦にも横にもデカい男、加藤鳴海は幼稚園の教諭なのだった。



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