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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






夏休みもまもなく終わる、とある日の夕暮れ時、しろがねは街に買い物に出ていた。

勝とヴィルマと3人でサーカスの買い物が終わったついで、晩ゴハンを外で食べるのもたまにはいいかも、ということになり、せっかくだから鳴海のバイト先の多国籍料理を出す居酒屋にでも行こうか、てなことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAND BEIGE 

 

Phrase 1. サハラの夕日をあなたに見せたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居酒屋って、大人がお酒を飲むところでしょ?子どもが行ってもいいの?子どもが食べるもの、あるの?」

「大丈夫ですよ、お坊ちゃま。保護者同伴なんですから」

「平気よう。アンタのよく知ってるデカイ図体して酒もロクに飲めない男がよく言ってるじゃない。酒のつまみは白飯のいい友になるって」

3人は乗り換えのために人混みのごった返す連絡通路を歩く。

銀色の髪と瞳を煌めかせた絶世の美人と言われるしろがねと、如何にも『危険な女』な匂いをプンプンとさせる美女ヴィルマが連れ立って歩くと、どうしたって衆人の目を引くが、このふたりはもう慣れっこだ。一緒に歩く勝は誰も彼もがぽかんとした顔で振り返ってふたりを眺める姿が、可笑しいなぁ、と思う。

「それにしても、なんでまあ、酒も飲めないのに居酒屋でバイトしてんのかねぇ」

「兄ちゃんのバイトしてる店はガイジンがよく来るんだって。兄ちゃんは英語も中国語もできるからね」

「だから重宝されて、バイト代がわりと良いと言っていたな」

「相変わらず、バイトの好きな男だね。そんなに稼いでどうすんのさ?」

「中古でもいいから車を買いたいと言っていたな」

しれっとした顔で鳴海の話をするしろがねを、ヴィルマは美味しそうな獲物を見るような瞳で見る。

 

 

 

 

「ねーえ、しろがね」

「何だ?」

「最近、ナルミとどうなのよ?進展してるの?」

「ばっ、いきなり何を言う!」

お坊ちゃまの前で!

赤い顔でムキになるしろがねにヴィルマは真っ赤な唇をニヤリとさせる。

しろがねはヴィルマのニヤニヤ笑いに耐え切れず

「何にもない!そもそも、私とカトウは何でもない!」

と、言い捨てるとスタスタと心持ち早足になる。

「照れることないじゃない。ねぇ?」

「ねぇ?」

「お、お坊ちゃままで、そんな…!」

「だって、しろがねはナルミ兄ちゃんのことがずっと前から好きなんでしょ?僕だって横から見てて分かるよ?」

ニコニコしながら勝に図星を指されて、しろがねの顔はこれ以上ないくらいに赤くなる。

 

 

 

 

「マサルに言われちゃ、さすがのアンタも言い返せないわねぇ」

ククク、と笑うヴィルマを睨みつけるがそんなに赤い顔では全く効果がないどころか逆効果だ。ヴィルマの腹は捩れた。

「こんなところでそんなに笑うな!人が見てるだろう?」

「だってさ…!あー、可笑しい!これで世間はアンタのことをクールだの、ポーカーフェイスだのって、アタシに言わせればこんなに分かりやすい娘は他にいないってのに…!」

「五月蝿い!」

「ま、肝心の超脳筋男が気がつかなきゃ何の意味もないんだけど」

「兄ちゃん、鈍いからね…」

「超絶ね。あれだったら博物館とかにある、原始人の作った鈍器の方がまだ鋭いわよ」

「ヴィルマ、もう黙れ!いくぞ!」

更に早足になるしろがねの背後で、ヴィルマと勝は目を見交わせてクスクスと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加藤鳴海と才賀しろがね。

天然記念物並みに鈍い男と、素直になれない天邪鬼乙女のふたりは出会ってずいぶん経つのに平行線のまんまだ。

口を開けば憎まれ口の、ケンカばかりの毎日。

それでも離れられないふたり。

友達以上恋人未満。

未満も未満、ほとんど友達の域を出ていない。

(それはきっちり友達、ではないのか?、という気もするが。)

 

 

 

 

そんなふたりのうち、乙女の方は自分の相手に対する愛情をいつの間にか認めるようになっていた。ヴィルマに茶化されるとこうしてムキになって否定する。否定したって海千山千のヴィルマにはバレバレではっきり言ってその抵抗は無駄なのだけれど。

しろがねは決して鳴海の前ではそんな素振りを見せない。

好きだなんて知られてたまるか!と、むしろ鳴海に対して強い態度に出てしまう。何しろ、しろがねは特定の誰かを好きになる、恋をする、なんて初めての経験だからどうしていいのか皆目見当もつかない。自分の気持ちを持て余している状態だ。

もしも、自分が鳴海を好きだということが彼にバレて、嫌がられてしまったら?

鳴海の気持ちが分からない以上、今まで通りの関係を崩したくない、それがしろがねの望みだった。

 

 

 

 

一方の鳴海は、というとしろがねのことをどう位置づけているのかさっぱり分からない。女心もしろがね心も分かっていない鳴海は、ありていに言って、恋愛意識は低い。

恋愛に興味があるのかどうかも怪しい。

しろがねには、鳴海、という男は身体を鍛えたり、子ども相手に遊んだり、男友達とワイワイやっている方が楽しそうに思われる。鳴海が自分を『女性としてみている』、なんて感じたことは一度だってない(実際は別としても、少なくともしろがねにはそう感じる)。

ヴィルマはよく鳴海をオモチャにして遊んでいるのでそこんとこの事情にはわりと詳しいが

「あれは全く救いようがないわよ」

と言う。

(言いながらニヤニヤ笑っているので、ヴィルマが肝心なことは黙ってしろがねで楽しんでいることは確実だが、当のしろがねにはそんなことは分からない。)

 

 

 

 

鳴海が自分のことをどう想っているのかが分からない。

でも、自分も鳴海とどうしたいのか分からない。

どういう関係になりたいのか、分からない。

分かっていて目を瞑っているだけなのかもしれない。

いずれにしても、自分は鳴海以外の男には興味が持てないし、鳴海に言い寄ってくる女なんて自分以外にはいるはずもないのでそんなに急ぐこともない、しばらく放置して様子見をしよう。しろがねがそう思い立ってもう長い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、しろがね。ナルミに素直になってみせれば?あの脳筋だって態度が変わるかもよ?」

「まだその話をするのか?私はカトウのことは何とも想っていないというのに!」

「そんなことばっかり言ってると、ナルミを他の女に掻っ攫われちゃうわよ?」

「ふん。カトウを好きになる娘がこの世にいるとは思えない!あんなにデリカシーのない、おせっかいで腕っ節しか取り得のない男を!」

「あ、ナルミ兄ちゃん!」

「え?!」

さんざん鳴海を悪く言っていたのに勝の言葉にすかさず反応したしろがねの瞳はキラキラして、一生懸命、鳴海の姿を探しているのが一目瞭然だ。ヴィルマは声を殺して笑った。

しろがねがキョロキョロと辺りを見回すと、3人と同じ方向に流れる遠目でも間違えようのない後姿が目に入る。

髪を長く垂らした、通路の天井に頭がつきそうに背の高い、大きな身体。

しろがねの頬が緩み、柔らかい、きれいな顔になる。

 

 

 

 

「兄ちゃん!」

と鳴海に向かって走り出した勝は背が低くて気がつかなかった。

3人の中で一番背の高いヴィルマはすぐに気がついた。

しろがねも、ヴィルマとほとんど同時に気がついた。

鳴海との予想外の遭遇で嬉しさに輝いた顔が瞬時に目一杯曇ったのを見て、ヴィルマはまたも楽しそうにニヤリとした。

 

 

 

 

「ナルミ兄ちゃん!」

勝の声に鳴海は立ち止まり、振り返り、声の主を見つけるととても嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「よう、マサル!どうした、こんなところで?」

鳴海は膝をつき勝と目線を合わせると抱き締めて、その頭を大きな手の平でぐりぐりと撫でた。勝もとても嬉しそうに笑う。

「今日は晩ご飯を兄ちゃんのとこで食べようって、しろがねとヴィルマと3人で」

「しろがねと?」

鳴海がパッと顔を上げるとそこへしろがねとヴィルマがやってきて足を止めた。鳴海が見上げるしろがねは必要以上に無表情を装って、瞳だけで不機嫌を訴えている。その理由が皆目分からない鳴海は、首をひねるが、はっきり言ってそんなしろがねにも慣れているので特には気にしない。冷たく黙っているしろがねに代わってヴィルマが挨拶した。

「こんばんは。これからアンタのバイトしている店に行こうとしてたのよ。…ところでナルミ、そちらさんはだあれ?」

 

 

 

 

しろがねが硬化した理由。

何故なら、鳴海の隣に可愛い女の子が寄り添うようにして歩いていたから。

「ああ、オレと同じ店でバイトをしている…」

「ファティマ、と言います。初めまして」

ファティマはにこやかに自己紹介すると、ぺこっと頭を下げた。

「で、こっちがしろがね、ヴィルマ、勝。オレの」

「ナルミさんがよくお話しするサーカスの皆さんですね?」

「そうそう」

しろがねとファティマの目が合う。にっこり。

ファティマが人懐こそうな暖かい笑顔を難しい顔をしている自分にも向けたので、しろがねは少し吃驚してしまった。

「これからオレたちもバイトに入るところなんだ」

「へえ、ナルミもやるじゃない?同伴出勤?」

「ち、ちげーよ!ヴィルマ、言葉をもっと選んでくれよ。同伴出勤ってイメージが悪ぃ」

「何でよ?『同伴』って『連れ立って行く』ってことでしょ?あってるじゃない」

「そんな、ホステスとその客、みたいな言い方しねぇでも他の言い方があんだろ?」

「ガイジンのアタシにそんなムツカシイ日本語の言い回しを期待しないでよ」

「どこがムツカシイ、だ!変なことばかり流暢に話しやがって!」

「私は新しく入ったばかりでお店のことがまだよく分からないので、ナルミさんに教えてもらっていたのです」

ファティマが鳴海に助け舟を出す。

「ふたりでバイト前に茶ーしてた、ってワケね」

「そうです」

にこにこと返事をするファティマは、豊かな長い髪を左右に振り分け、耳の後ろで太い三つ編みにして前に垂らしている。褐色の張りのある肌に輝く瞳、健康美が全身から溢れている美人。

とても可愛い娘だな、しろがねは思った。

ファティマを見る鳴海の瞳が必要以上にやさしいように、しろがねには思われてならない。

 

 

 

 

鳴海がいつも一番やさしい瞳を向けているのは自分だということにしろがねは、気付かない。

 

 

 

 

「ふうん。ナルミったら、人の面倒を見られるの?そんなに無神経で無作法で単細胞なのにさ」

「ヴィルマ、」

ずいぶん言いたい放題言ってくれるじゃねぇか。

鳴海がそう言いかけた言葉は、驚いたことにファティマが遮った。

「そんなことありません!ナルミさんは親切でやさしくて、とても面倒見のいい方です!」

傍らで、しろがねの瞳がまん丸になった。

ヴィルマの赤い唇は楽しそうにめくれ上がる。

「私はまだナルミさんと出会って間もないですが、ナルミさんがとても、素敵な方だってことは分かります!」

ファティマは真っ直ぐな瞳で鳴海を弁護する。鳴海への本心からの好意を隠そうともしない。

「やー、ファティマは人を見る目があるなぁ」

鳴海はその好意にはまず気付いてはいなさそうだが(鈍いので)、ストレートに褒められて単純に喜んでいる。しろがねは鳴海のそんな様子を少し面白くなさそうな顔で観察した。

「ファティマはずいぶんとナルミを買ってるんだねぇ」

「それはもう!」

鳴海を語るファティマの瞳には星が輝いている。

「初めて会った日に自己紹介をしてくれたときの笑顔がとっても素敵で…!それにナルミさんは大ジョッキを一度に10杯運べるんですよ?!吃驚しました!力持ちの人って頼もしいじゃないですか!」

いやあ、参ったなあ。そう言いながら照れて頭をガリガリと掻く鳴海にしろがねの唇は尖る。

 

 

 

 

その後、5人でバイト先に向かったがその道中、しろがねが口を開くことは一度もなかった。

前を鳴海と勝とファティマが楽しそうに談笑しながら歩く。

その数歩後ろを歩く、鳴海の背中を穴が開きそうなほど強く睨む(見つめる?)しろがねと肩を並べて、ヴィルマは『楽しくなりそう♪』とほくそ笑んだ。

 

 

 

postscript     素直なファティマと素直になれないしろがねの鳴海争奪戦(?)です。
原作のファティマは鳴海への愛を貫いて満足のうちに死んでいきます。もしもファティマが瀕死の状態から一命をとりとめ死ななかったら、最終回を待たずして鳴海とくっついていた可能性が大きいのでは?と思うのです。ミンシア姐さんよりもはるかにエレにとっては手強いライバル。同じ『しろがね』同士、エリ様告白のときと違い謝りながら泣く女の記憶は鳴海にない、しかも自分のために命をかけて戦い、真っ直ぐな好意(それも鈍い鳴海にも分かるような好意)を示し、可愛い。鳴海の性格からいったら目茶苦茶ファティマに情が移りそう。結局、ファティマは鳴海に愛を告げることなく舞台を去ります。そんな健気なファティマに 思いの丈を鳴海にぶつけさせてあげたいなぁ、と思ったのでした。
それから蛇足ですが、
私のパラレル創作の中での銀目銀髪はしろがねだけ(ギイ等しろがねの家族系は例外)にしたいので、ファティマはこの話の中では違うとお考えください。彼女はアラブ系砂漠の民、ベドウィンですからしろがね化する前は黒目黒髪だったのでしょう。でも、『しろがね』イメージのファティマが好きって方がほとんどだと思うのであえてファティマの髪や瞳の色に感する表現はしません。そちらがお好きな方はどうぞ銀目銀髪ファティマで読み進めてください。
 

 

 

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