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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






人待ち顔のしろがねがいる。

いつもよりもあどけなさを漂わせて、きょときょとと辺りを見回して探している。

オレのことを。しろがねが探している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAND BEIGE 

 

Phrase.8 地の果ては 何処までか 答えてはくれないの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラクションの音源を見つけたしろがねは同時に鳴海もみつけた。あどけないままのしろがねの瞳と視線がぶつかる。フロントガラス越しで良かった。照れが隠せる。鳴海は赤くなりながらそんなしろがねに、「よっ」と手を上げた。

鳴海は「きっとしろがねはオレを見つけたからいつも通りの澄ました顔に戻るんだろうな」、そう予想した。鳴海の見慣れたちょっと冷たさを感じさせる、取り澄ました涼しい白い顔。

だけれど、鳴海を見つけて車に駆け寄ってくるしろがねは何だか嬉しそうで、助手席に乗り込んできた彼女は驚いたことにほんの少し、頬をピンク色に染めていた。お団子にした両手をちょこんと白いワンピースの膝の上に揃えて、

「ごめんなさい、寄る所があったものだから遅れてしまったわ」

なんて、いつもよりずっと女らしくて丁寧な口調で話すしろがねは、何気なく横を向いたら思ったより近い鳴海との距離にまごついたのかピンク色を更に濃いものにしてもじもじと俯いた。

 

 

 

 

かっ。

可愛いっ。

 

 

 

 

何なのよ、どうしたのよ、今日のしろがねさんの反応は?

思わず鼻の下が伸びる。

「カトウ?どうかした?私、何かついてる?」

「いや、別に何も…」

人並み外れて整った目と鼻と口と、その他の顔の部品以外は。

「お…可笑しいか?」

大きな銀色の瞳の目元がくくっと曇る。

「べっつに。どっこも可笑しかねぇよ」

曇っていた目元が緩むと彼女の唇が「よかった」と動いた。

 

 

 

 

か……可愛いじゃねぇかよ。

 

 

 

 

ずっと凝視しているのも何だから、と鳴海はサイドブレーキを下ろすことでさりげなく視線をずらす。

「と、とりあえず店に向かおうか?」

「はい」

は、はいって返事、付き合いは長いがしろがねの口からオレ宛に出たのは軽井沢まで遡らねばならん。

鳴海はドキマギを隠しつつ、バクバク言う心臓を押さえつつ車をスタートさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日のしろがねは何がどうなってこんななって、何が彼女をこうさせているのか。

鳴海の心の中は謎々でいっぱいになってしまって会話どころではない。チラリチラリと横目でしろがねを盗み見るのが精一杯で、そんなしろがねは何をしているのかと思えば、きょろきょろと鳴海の車の中を見回したり、流れる車窓を眺めたり、彼女の態度がどうしてこうなのかは分からないけれど、気分が良さそうなのだけは分かる。

「ずい分待った?」

突然話しかけられて鳴海は心臓がばくんと鳴った。

「い、いやそんなには…車を受け取る時間を考えたらオレの方が待つのは計算のうちだったし…」

「そう。なら良かったわ」

「寄る所…って、買い物でもしてたのか?」

「え?ええ、そう。ちょっと…買い物」

しろがねはバッグの取っ手をきゅっと握った。

(いつも出かけるときには手ぶらに近いしろがねなのに、今日のしろがねの手には幾分大きなバッグを提げていて珍しいな、と鳴海は思った。)

ふたりの会話はここで途切れる。

小さく流れるカーラジオがふたりの間を辛うじて取り持ってくれる。

『ええと、何か話題話題…』

いつもだったら、「少し黙っていたらどうだ」、「お坊ちゃまだってゆっくりしたいだろう」なんてしろがねに言われてしまうくらいに多弁にもなれるのにな。

胸が妙に膨らんでしまっている鳴海は上手く気の利いた話題を探すこともできなくていささか困った。

 

 

 

 

「カトウ、どこで食事をするか決めたの?」

また話題をしろがねが出した。いつもと違って言葉数の少なくなってしまっている鳴海とは逆に、今はしろがねの方が多少多弁になっている。それもまた珍しいことだ。

「うん、前にさ、皆でいったことがあったろ?有機野菜料理メインのランチビュッフェ。あそこにしようかなって思ってよ。値段もリーズナブルだったし」

値段も手ごろなビュッフェ。以前、サーカスの面々と行って(リーズナブル、と言っても貧乏サーカスの連中にとっては充分ご馳走料金。)店の人に嫌がられた経験のあるお店。

今日も如何にもたくさん食べそうな大男が来店して、お店の人たちは困らないかしら?としろがねは苦笑した。

「別にいいのに、値段なんて。コース料理を出すお店だって平気」

確かに仲町サーカスでは薄給だ。けれどしろがねにはこれまで世界中の大サーカスに所属していたときに稼いだお金がそのまま手付かずに残っているのでプライベートで使う分は全く困らないのだ。

「いーよ、充分充分。コース、なんて肩が凝っちまうって。どんなところでもオレは満足。だって今日は…」

おまえとふたりっきりでメシが食えるんだもん。それもサーカスの買出しの帰りにファストフード、じゃなくて、ちゃんとしたレストランでよ。ファストフードだってオレはしろがねとだったら嬉しいのによ、今日は本当にデートみたいだし。

ここまでをきちんと台詞としてしろがねに伝えれば、しろがねとの気持ちのすれ違いなんて決して生まれないのに。

 

 

 

 

赤信号で車が停まる。また、車の中が静かになる。鳴海の心臓はやたら滅多ら五月蝿いのに、それに反比例してふたりの間は静かになってしまう。

『ええと…話題話題…』

「まだ車の中が『誰のものでもない』匂いがするわね」

しろがねが話を繋ぐ。鳴海は助かった、という気持ちになる。

「そうだなァ、どっちかって言うと前の持ち主の匂いがまだ沁みてんのかな?ま、そのうちに慣れた匂いになるさ」

信号が青になったので走り出す。

さっきファティマを乗せていたときは開いていた窓は今閉じられている。何となく、しろがねとふたりきりの外から隔絶された空間を作りたかったから。そのために、動物並みの嗅覚を持つ鳴海の鼻には、この車内にはしろがねの甘い体臭が立ち篭っているように感じられる。

ちょっと、この左手を横に伸ばせばしろがねの手に届く。それを包むように握ってみたら彼女はどんな顔をするんだろう、手を跳ね除けたりするだろうか、いや、今日のしろがねだったら意外と赤い顔で受け入れてくれるような気がしたりしないわけでもなく、なんて考えていたらまだ黙り込んでしまった。

オレは妙に意識しすぎなんだろうか?

 

 

 

 

だって今日のしろがねは、オレを待っているように見える。

 

 

 

 

「車、なんて買ったらこれまで以上にサーカスの皆にいいように使われてしまうわよ、きっと?」

しろがねが黙りがちな鳴海をフォローする。

「まァ、それも覚悟のうちだからな。元々、車があった方が手伝いに行きやすいから、てんで買ったようなもんだしな」

チラ、としろがねに視線を向けると、銀色の大きな瞳が自分のことをじっと見つめていた。

慌てて目線を正面に戻す。

ホント、何なんだろう?今日のしろがねは。

「カトウ…あのね」

「うん?」

鳴海はあんまり今日のしろがねを見ると事故を起こしそうなので耳だけ向けて返事をする。

「あの、この車のね…あの…助手席に一番最初に乗せてくれてありがとう」

しろがねの、らしくない素直な言葉。

傍で聞いていれば、ありふれた、何の変哲もない言葉。

けれどしろがねにとっては鳴海に素直に感想を述べることも、素直に感謝を述べることも滅多にありえないことなのだ。

竹に花が咲くくらいに。

否、と言うよりも初めてだ。こんなに素直なしろがねを目の前にするのは。

「あなたにね、そういう風に『特別』みたいにしてもらえるの、すごく…その、嬉しいから…」

あれ?あれ?

今、しろがねってどんな顔してる?どんな顔でオレを見てる?

鳴海はそれを知りたくて堪らないが、結構なスピードで走っている上に、ちょうどすぐ脇を爺さんの乗ったバイクがフラフラと走行しているので引っ掛けそうで怖くって、真横を向くことがどうしても出来ない。

声色と台詞の内容だけで判断すると、助手席に恋する乙女が座っているようなんですけど?

「いや、何、おまえにそう言ってもらえれ、ば…」

そう言いかけて、鳴海はハッと息を呑んだ。

 

 

 

 

違う。一番最初に乗ったのは、ファティマだ。

あやややや、マズったな。

確かに「愛車の助手席、一番最初におまえを乗せてやる」と、昨日電話で約束した。

すっかり忘れてた。てゆーか、ああいう状態のファティマを見つけたらそんな約束をしていたとしても乗せるが人情ではないか?

ああ、でも。理由をつけてファティマを後部座席に乗せればよかったのか?

ああ、でも。でっかいラグでうしろは窮屈になってたしなァ…不可抗力、だよなァ…。

何にせよ、知られなければいいことだ。

ファティマがしろがねの前に助手席に座ったことも、車に乗せたことすらもしろがねに気付かれなければいいことだよな?

 

 

 

 

けれど、鳴海、という男は嘘をつくのが下手で、隠し事をすることも不得手だったから不自然なくらいに気色ばんだ。普通に話を続ければいいものを、変に話途中にするものだから、しろがねに

「どうかしたの?」

なんて聞き返されて

「いやっ、何でもねぇ!」

何て黒目が魚になってスイスイと泳いでいってしまい更に不自然さをアピールする。

「……」

しろがねが探るような痛い視線で鳴海を観察する。

「ホント…どうかしたの?」

「何にもしねぇよ?」

「誰か、乗せたの?ココ…」

「何でだよ、乗せてねぇって。おまえに約束したじゃん、オレ。最初に乗せてやるって」

うわあ。ヤバイ。

嘘なんて慣れないものつくから、溺れてしまいそうに苦しい。

「あのね…嘘つかれるくらいなら、どんなことでも本当のこと言ってもらったほうが」

「嘘?オレが嘘?おまえにつくわけねぇだろが?!」

嘘の上塗り。

そんな言葉を身をもって体験中。

どうやってこの場を誤魔化そうか、なんてことをやっていると事故しそうで怖い。

どうしてオレって同時にふたつのことを完璧にこなせないんだろ?

「ホントに?」

「ホントだって!」

「カトウ、前!赤!」

「うげ」

 

 

 

 

しろがねに返事をするのに一瞬集中してしまった結果、赤信号に気付かず信号無視をしそうになった。慌てて急ブレーキを踏む。

「わ、悪ィ…」

しろがねへの嘘の言い訳に、信号無視の事故をすんでのところで回避した恐怖&安堵。

こんなに心臓をガンガン言わせるくらいに酷使したことって今までにあったか?

そんなことを考えつつ、謝りを口にしたとき、ダッシュボードの上の小さなメモが慣性の法則でふられた勢いでハラリ、としろがねの足元に落ちた。しろがねがそれを拾う。

「メモ?こんなところに置きっ放しにしとくとなくす…」

しろがねの声がだんだんと小さくなって、途切れたな、どうしたんだろう?と鳴海が怪訝に思ったとき、べちんっ!と太腿に平手打ちと一緒にメモが返された。

「痛って!何すんだよ?」

腿の上に鋭い痛みとともに残されたメモに目を落とし、その途端、鳴海は血の気の引く音を聞いた。

 

 

 

 

                                             

『Desafinado』というお店です。簡単な地図を書いておきます。

分かりやすい場所なので迷うことはないと思います。

それでは今度の木曜日、19時に。楽しみにしています。

ファティマ

                                             

 

 

 

 

英語で書いてある短いメモ。

勿論、しろがねも英語は読めるわけで。

これ以上はない、と思っていた心臓の鼓動の速さに更に上があったことを、鳴海は身をもって知った。

 

 

 

 

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