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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






さっきまでのしろがねは本当に可愛かった。

鈍い鈍いと言われるオレにも感じられた控えめな「好き」の気持ち。

天邪鬼女が信じられないくらいに素直だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

SAND BEIGE

 

Phrase.9 破いた写真は 宙に舞い踊り 無くなってくだけなのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「車を停めて。どこでもいいから」

 

 

 

 

しろがねの口調が一気に冷たく強張ったものになってしまった。

エアコンが効きすぎたか、なんて自分を誤魔化してみても誤魔化せるものでもない。

目的地のレストランまでにはまだある。

鳴海は何とも嫌な脂汗を全身から滲み出しながら、まあ、このまま運転を続けていたらいつか事故るかも、と思い、しろがねの言う通り、交差点を過ぎたところで車を停車させた。

チキチキとハザードが点滅する音が静まりきった車内に響く。

 

 

 

 

「あの、その、なんだ……それはその……すまん、さっき偶然、ファティマに会ってよ……すげぇ大荷物だったから、その…」

雰囲気に呑まれて寡黙になってしまっていた鳴海が一転、多弁になる。

ある意味、いつも通りの鳴海、なのだが。

そしてさっきまで気の利いた言葉を探せなくて黙りがちだった鳴海に代わり、おしゃべりになっていたしろがねが口を噤む。

これもある意味、いつも通り、なのかもしれない。

「だから…えー…、すまん。約束破って…」

頭を下げる。けれど、しろがねは窓の外に顔を向けて鳴海を見ようともしない。

「なぁ。謝るから。頼む、怒るなよ、もう…」

「違う」

しろがねからぶっきら棒な返事が無造作に返ってきた。

「違う、って何が」

「私が怒っている理由。約束を破ったから怒っているのではない」

「じゃあ何だよ」

しろがねは黙っている。黙っているから答えがもらえなくて、仕方ないから鳴海は自分で考えてみた。なかなか答えを見つけられない鳴海にしろがねは業を煮やす。

「分からないの?」

「う、うん…」

仕方ないな、という言葉を吐き出しているかのように大きな溜め息をつく。

「あなたが、嘘を、ついた」

「嘘?」

「私に」

しろがねは鳴海を見ようとしない。

 

 

 

 

「大きな荷物を持った知り合いと出会ったら、私とそういう約束をしていたとしてもここにその人を乗せるのがあなただ。それくらい分かっている。私がそんなことで臍を曲げるとでも思ったのか?」

確かに自分よりも前に、それもよりによってファティマが座った事実は正直しろがねには大変面白くないことだ。けれど、大抵の人間なら困っている人に手を差し伸べるが人情だろう。鳴海なら尚更だ。そしてそれを上手に気付かれないようにするという、大抵の人間なら朝飯前にするようなことが鳴海にはできないこともしろがねには分かっている。

だから初めから、「約束を破ることになってすまん」の一言があればそれで済んだ。

なのに。

なのに、鳴海は自分に嘘をついて誤魔化そうとした。

しろがねはそれがどうしても許せない。

考えたくも無い、鳴海とファティマの間に何かあるのかと、醜い邪推をしてしまう自分が生まれてしまう。

 

 

 

 

「でも、おまえがあんまり嬉しそうだったから…言い出せなくて…」

「嘘をついたのを、私のせいにしないで。本当は、何か私に言えないやましいことでもあったのではないの?」

ヤキモチが口をつく。

しろがねのその言い様に鳴海はカチンとくる。

「何だよ。ヤマシイコトてのぁ?」

しろがねは顔を背けたまま、鳴海の腿に張り付いたままの小さな紙を指差した。

「それを知られたくないから、嘘で誤魔化そうとしたのではないの?」

「別にいいじゃねぇか、飯を食うくれぇ」

今度はしろがねが鳴海の言い様に傷ついた。

なら、あなたは私が他の男の人と夜に食事をしても平気な顔でいられるの?

そういうことよ?あなたが無邪気にしようとしていることは。

 

 

 

 

「それに…その約束の日が何の日か、あなたは分かっているのか、カトウ?」

言われて鳴海は考えて

「何の日か、って?え…あ、オレの誕生日」

はたっ、と手を打った。

「そう、お坊ちゃまがあなたのためにパーティーを開くんだ、って一生懸命準備をなさっている…」

しろがねの指がカバンの持ち手をきゅっと握って、自分の身体に引き付けた。

「あー…、いや、まいったな…」

鳴海はガリガリと頭を掻いた。口の中で何やらをブツブツと呟いて、その日のスケジュールを組み立てているようだ。

「…大丈夫。勝の方にはちゃんと出るよ。少し早めに切り上げることになっちまうが、急いでその後にファティマと合流すれば…。ちっと遅刻するだろうが、どうせオレは飲まねぇし、バイクで飛ばせば何とかなるだろ」

「ファティマとの約束を断る、っていう選択肢はないのか?」

しろがねの大きな瞳が更に大きく見開かれる。

「だって、その店ファティマの知り合いの店だって話だし。そっちにも悪ぃだろ、突然断ったら」

「たっ、」
誕生日の夜をファティマと過ごすの…?

しろがねはバッと鳴海の方に振り向いて、視線が合う直前にまた顔を窓の外に向けた。

ヤキモチがはっきりとした言葉の形で飛び出しそうになったのでしろがねは慌てて口を閉じた。

「何だよ」

「いい。何でもない」

しろがねは俯いて、カバンを抱き締めた。

 

 

 

 

しろがねにはしろがねなりのプランがあった。

彼女としては決死のプラン。

誕生日パーティーの後、今カバンの中にあるプレゼントと一緒に気持ちを伝えること。

「あなたが好きです」、と。

でも、鳴海はその大事な日をファティマと過ごすと言う。

自分には少しも時間を与えてもくれないでファティマの元に急ぐと言う。

自分同様、鳴海を愛しているファティマのことだから、その日が鳴海の誕生日と知った上でのディナーだろう。

どうしたらいい?

『行かないで』、そう言えばいい?それが、今の私の素直な気持ち。

これからは思ったことを素直に鳴海に伝えよう、そう決めたのだから、今、その言葉をカトウに言うべきなのだろう。

 

 

 

 

「カ、カトウ、あの」

「ちょっと飯を食ってくるだけだってのによ…ヤマシイとか言われちまったら何かムカツクぜ」

しろがねの素直な言葉は鳴海の仏頂面に遮られた。どうやら頑ななしろがねの態度にふてくされた鳴海の様子に、しろがねはピキキ、となる。

「ファティマとは何にもねぇのによ」

鳴海がふくれっ面になる。しろがねの言いたかった言葉がどこかに吹き飛んだ。

どうして私が責められねばならないの?悪いのはカトウでしょうに!

「どうだか。その後に『何か』をするつもりなのかもしれないだろう?」

一種、この台詞もしろがねの素直な気持ちの表れには違いない。

「てめっ!何にもねぇって言ってんだろ!」

「あなたは私に嘘をついた。今のあなたの言葉もまた嘘でないという確約はどこにもない」

「たった一回の嘘をここまで引っ張るか、普通?」

「普段嘘をつかない人だから!だからたった一度の嘘に効果があるのだ!あなたが普段からオオカミ少年だったら私も軽く流せた!」

 

 

 

 

好きなのは、おまえただひとりなのに。

その気持ちが伝わらない。

もどかしいくらいに気持ちがすれ違っていく。

鳴海のイライラが募る。

「言いてぇことがあったらはっきり言やぁいいだろが!おまえって本っ当っに素直じゃないよな」

鳴海はイライラで頭が煮えていて、思わず口をついてしまった言葉が元に戻せないものだと気付いたときには後悔の嵐。

しろがねは傷ついた顔になった。

違う!

今日のしろがねは素直だった!

オレが舞い上がって言葉を失ってしまうくらいに!

可愛くてきれいで、オレが嬉しくて堪らなくなるくらいに!

こんなに態度を変えるためにはしろがねはものすごく頑張ったはずなんだ。

それを今、オレは頭から否定しちまった!

 

 

 

 

「あ、あのよ、しろがね、今のは」

「だったら、ちょうどいいじゃない。ファティマと付き合えば」

ようやく合ったしろがねの瞳は据わっていた。

「あ?」

「ファティマは私と違って素直だもの」

「だからファティマとは何ともねぇって」

どうしたら分かってくれんだよ?

「この際、いい機会でしょ。誕生日に彼女とのディナーって」

「しろがね!」

鳴海はしろがねの腕を掴んでぐるっと自分の方に向かせると真面目な顔を近づけて、そして心を決めた。

告白しよう。

それを置いてはっきりと自分の気持ちをしろがねに伝える術はない。

最初から、もっと早く、伝えるべきだったんだ。

「しろがね聞いてくれ、オレはな…おまえのことが」

正面から向き合うしろがねの視線が鳴海の瞳から、しろがねの頑固さを嘆くその口元へと移動する。しろがねが非常に険しい顔になったな、と思った瞬間、鳴海はかなり乱暴にしろがねに髪を掴まれてバックミラーへと顔を押し付けられていた。

どう考えても告白を受ける女のすることではない。

「な、何…?」

「口元を、よく、見てみろ」

細い鏡の中の自分の顔を苦労して覗き込むと、その唇近い頬に、淡い色のキスマークが見事についていた。別れ際にファティマが残していった、『お礼の』キスの跡。

「あ…あれ?」

おかしいな。

さっきっからどうして流れがこっちにきちまうんだろう?

ざざざ、と血の気の引く音が聞こえる。

ファティマには自分のキスマークの名残でしろがねと鳴海をケンカさせようという意図は全くなかった。純粋に鳴海へ愛情を表現したかっただけ。

けれど、意図せずともそれは立派なケンカへとふたりを導いた。

 

 

 

 

「こんなのをつけて、何が『何ともない』だ、莫迦!」

「だ、だから、話を聞けってのに!」

「何?また嘘を言って誤魔化す気?」

鳴海の頭に血が上る。あれは他愛ない嘘だった。それもただ、しろがねに嫌われたくないからついてしまった慣れない嘘。

しろがねを騙す気なんてこれっぽっちもなかったのに!

「こんの分からず屋!天邪鬼!」

「何ですって?」

売り言葉に買い言葉。

「ああもう、分かったよ!おまえの望み通り、ファティマと付き合ってやらあ!」

「カ、カト」

「ファティマはオレのことを『好きだ』って言ってくれたしな!素直な女の方が可愛いよ。おまえみてぇな天邪鬼は相手するだけで草臥れるだけだもんな」

鳴海の投げた言葉にしろがねの瞳がまん丸になる。水面張力の限界を迎えたコップの表面みてぇだな、目の前のしろがねの瞳を見た鳴海の感想。

「だったら、あなたの好きにすればいい!私にはこれ以上はもう無理なんだから!」

精一杯、素直になろうと頑張った。思った気持ちをそのまま鳴海に伝えた。

それでも鳴海が「まだ素直じゃない」と言うのなら、もうどうしていいのかなんて分からない!

しろがねの瞳から大粒の涙がボロボロッと零れて、それを目撃した鳴海の頭は一気に冷えた。今日の鳴海の脳ミソは煮えたり、冷えたり、全くもって忙しい。

 

 

 

 

「カトウの莫迦!」

「あ、しろがね!」

しろがねは車から飛び降りると、そのまま雑踏に消えた。

鳴海はもうハンドルに突っ伏すしかしょうがなく、額が無駄に長いクラクションを鳴らす。

「ちっくしょー…オレの馬鹿…!」

天国から地獄の距離は異様に近かった。

鳴海はひたすら、己の不器用さを呪った。

 

 

 

 

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