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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。






勝がせっかく開いてくれた誕生会も顔に貼り付けた笑みとは裏腹に楽しむことができなかった。

しろがねも一見いつも通りのしろがねだったけれど、一度も目を合わせてくれなかった。

素直だとか天邪鬼だとか、それどころの話じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAND BEIGE 

 

Phrase.10 さよならを私から 決めた別離れの旅なのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しろがねが怒って車を降りた後、鳴海は何度かしろがねの携帯にかけたけれど、それにしろがねが出ることはなく折り返しの電話がかかってくることもなかったから、『誕生会で会うからいいや。話はその時にしよう』とそれ以上の連絡を取ろうとする努力は放棄した。

 

 

 

 

そしてその当日、しろがねも一応は鳴海の誕生日を祝う場にいたはいたが、彼女の淡い笑顔は完全に子ども達に向けてのものであって、鳴海には顔を向けることすらしなかった。鳴海は何とか話を切り出すきっかけが欲しくてチラチラとその白い顔に視線を彷徨わせていたものの、あんまりにしろがねの態度が徹底して頑なだったから、そのうちに『オレのしたことはそんんんなに臍を曲げるようなことなのかよっ!』と鳴海の方も意固地になってお互いを故意に無視する環境が出来上がっていた。

結局、最後の最後まで鳴海としろがねが言葉も視線も一度も交わすことなく鳴海の誕生会は終了した。終了するや否や、しろがねはどこへやらへと姿を晦まし鳴海と話し合う機会すら与えてくれなかった。

鳴海は『あなたと話すことは何もない』としろがねに言われたようなものだ。

『お好きなように誰とでも付き合えばいい。別に私はあなたのことなんて何とも思っていないのだから』と。

 

 

 

 

「ちぇっ!」

鳴海は眉間に深い皺を寄せて、背中を不機嫌に丸めて、足元の小石を蹴り飛ばしながらバイクを停めたところまでやってきた。

「ちぇ、ふざけんなよな。何なんだよ、あの態度…」

しろがねが年に一度の自分の誕生日にくれた態度を思い出すにつけ腹が立つ。

いささか乱暴にヘルメットを取り上げて、ぶちぶちと文句の止まらない口をそれに押し込もうとした時、背後から声をかけられた。

「アンタ、しろがねに何をしたのよ?」

自己都合で誕生会を早々に切り上げて退散しようとしている鳴海の背中に鋭い声が突き刺さる。

「その当て甲斐のありそうなでっかい背中を的にしてやろうかね」

ヴィルマはせっかちにも両の手の中で光るナイフを玩んで、鳴海に向けて投げる素振りを真似して見せた。

「…マジで投げるのは勘弁してくれ」

いくら鳴海の反射神経が動物並みだと言っても、この近距離では絶対に刺さる。ヴィルマは戯れで本当に鳴海の肉にナイフをめり込ませそうだ。今日のヴィルマは特に、だ。しかも背後にはでっかいバイクが塞いでいるので右か左に逃げるしかない。刺さる確率は高そうだ。

鳴海は諦めて被りかけたヘルメットを脱ぎヴィルマに向き直った。

「じゃあ答えなさいよ。何したの、しろがねに」

「何をした、っつわれても…」

鳴海は図らずも言いよどむ。

何をしたのか。

鳴海としてはしろがねに『何か悪さをしよう』なんて気はどこにもなかった。

しろがねとのランチは楽しみで楽しみで仕方なかったのだから。

ただ困ってそうなファティマを見かねて、しろがねとの約束がぽんと頭から抜けてしまって、そのことをちょこっと誤魔化そうとしたのがどうにも間が悪かったようで、しろがねの逆鱗に触れて、嘘つき呼ばわりをされて、何だかそれが妙に引っ掛かって、売り言葉に買い言葉になって、ケンカして、今の今まで口を利いていない。

それだけ、のことなのだが。

鳴海はヴィルマに説明するのも面倒になったので非常に掻い摘んで

「ケンカした」

とだけ返事した。

 

 

 

 

「だからどうしてケンカになったのかを訊いてるんでしょうが」

ヴィルマの声色が鳴海の簡単な返事のせいでイライラしたものになる。

「ケンカの仲直りが目的のランチだったんじゃないの?何でそれが更に悪化してるのよ?」

鳴海が気持ちよくOKしてくれたとしろがねがあんなに喜んでいたのに、とヴィルマは口元歪めた。

「だったら、しろがねに訊きゃあいいじゃねぇか。四六時中一緒にいんだからよ」

そのイライラは鳴海にも感染ったらしい。ふてくされた口調になり、ただでさえ悪い目付きが更に悪くなる。

「あのコが貝になってるからアンタみたいな脳筋に仕方なく訊いてるんでしょ?」

「仕方なしに訊くんなら最初から訊かなきゃいいじゃねぇか。どうせ単細胞の話なんて要領を得なくておまえには分かんねぇよ」

時間がねぇのにおまえとこんなくだらねぇ話なんざしてられるか、と鳴海は再びヘルメットを手に取った。

「しろがねとケンカして仲直りもしないで放っといて、ファティマちゃんのところに行くわけ?」

「放ってるつもりはねぇぞ?すぐにいなくなったのはしろがねの方だ」

ヴィルマの言い方がいちいち引っ掛かる。

「晩メシは約束だし。それに、ファティマと付き合えっつったのはしろがねだぞ?言っとくけどな」

「ふうん、それでアンタはファティマちゃんと付き合うっての」

付き合うかどうか、付き合わない、と即答する自信が今の鳴海にはない。

この間まではしろがねのことしか目になかったから、他の誰かと付き合う可能性があるだなんて考えたこともなかった。

ファティマにキスをされて告白されて、ファティマってこんなに素直で可愛かったんだと気付いたその反面、しろがねとはケンカしてお互いの気持ちがすれ違って、だから思わずファティマと付き合う自分っていうものを正直シミュレートしてみた鳴海だった。そしてそれは意外としっくりくるものだった。

しろがねとファティマ、どっちの方が好きか、と訊かれれば断然しろがねだ。でも男と女なんて分からないモノ。

もしかしたら、付き合ってみたらファティマのことの方が好きになってしまうのかもしれない。そんなモノなのかもしれない。

好きだ好きだと毎日言われ続けたら、自分も好きになってしまうものなのかもしれない。

だから自信がない。

それに今、ヴィルマに対しものすごく反発したい鳴海だった。このケンカ腰の、守銭奴ヴィルマに!

 

 

 

 

「さあな。ま、ファティマは素直で分かりやすいしな。オレを好きだって言ってくれたし」

あの天邪鬼とはえらい違いだよな、鳴海は嘯いてみせる。

「その天邪鬼がどんな気持ちで『ファティマと付き合え』って言ったと思ってるのよ?天邪鬼なのよ?そこんとこ分かってるの?」

「知らねぇよ、そんなこと!しろがねに面と向かってそんなことを言われたオレの身にもなってくれよ」

「アンタの身になんてなれるわけないでしょ?そんな無駄な筋肉の塊になんか」

「あのなァ、オレの身になれ、っつーのはそういう意味じゃなくて」

「分かってるわよ、冗談に決まってるじゃない。バカ!」

バカ、と最上段から言い切られて鳴海は不機嫌そうに唇を尖らせた。

ヴィルマはサングラスを少し押し下げて負けず劣らず不機嫌そうな瞳を覗かせた。

「しろがねはね、ここんとこずっと素直だったのよ?だのにまた元の木阿弥、いいえ、それよりも頑なになっちゃって…それに機嫌もメチャメチャ悪いしさ。子ども達以外とはまともに口を利かないのよ?アタシなんて事情を知っているせいで故意に無視されてんだから。アンタのせいでしょ?責任取んなさいよ」

鳴海はヴィルマの物言いに何度もカチンとくる。

「責任とか、何でそんなに大袈裟な話になんだよ?ただちょっとケンカして昼飯が一回おじゃんになっただけだろ」

「しろがねとはランチがおじゃんなままでもファティマちゃんとはディナーなのね?そんでもってファティマちゃんとお付き合いするんだ」

ヴィルマにそんな風に畳み込まれるように言われると分からなくなる。

確かに自分はしろがねのことが好きなのに、だったらファティマと本当に付き合ってやろうか、なんて意固地な気持ちが湧いてくる。

天邪鬼で本心がどこにあるのか鳴海にとっては複雑怪奇なしろがねよりも、自分に対し行為を惜しげもなくくれる素直なファティマの方が傍にいて楽なのは火を見るよりも明らかだ。こんなに悪し様に言うヴィルマだけじゃなく、こんなにも好きなのにそれをちっとも理解してくれないしろがねにも意地悪がしたくなる。

ワザと他の女と付き合って見せたくなる。

オレの有り難味が分かったか!いなくなってからじゃ遅ぇんだぞ?!

そう思い知らせてやりたくなる。

 

 

 

 

「ま…成り行きだよな…こればっかりは」

それはそんな(はっきり言って浅い)考えから出た言葉だった。そしてその言葉は血相を変えて文句を言うだろうヴィルマへの撒餌のつもりでもあった。しろがねにとっての自分の価値を再確認させてやろう、そんな気持ちが根底にあったのは間違いのないことだ。

けれど、ヴィルマはその餌に食いつくことはなかった。

「そう。アンタのしろがねに対する想いってそんなもの。分かったわ」

ヴィルマがあっさり引き下がるような発言をケロリとしたので鳴海はかえって面食らって拍子抜けした。

「な?」

「そんな男、しろがねには相応しくないから。とっととファティマちゃんのとこに行きなさい。しろがねには私が慰めておいてあげるから」

「え、ちょっと」

ヴィルマはしっしっと動物を追い払うような手振りをしている。

そんな対応をされると急に寂しくなって、妙な焦りが湧き上がる。

「ちょ、ヴィルマ、オレの話を」

「ファティマちゃん、今夜はきっとヤらせてくれるわよ」

「え?」

ヴィルマの語る衝撃的な可能性に鳴海は今自分が何を話そうとしていたのか忘れてしまった。

「だってアンタの誕生日だもん。『私がプレゼントです』、なんてストレートな女の子のお約束じゃないの。頑張んなさいよ」

「……」

そ、そうかな?ヤ…れんのかな?ファティマと?

そんなことが脳内を巡っていると鳴海の赤い顔に書いてある。ヴィルマはフン、と鼻を鳴らした。

 

 

 

 

「ほうら。アンタ、結局、ヤれるなら誰でもいいんでしょ?日照りが長そうだもんね。いつ降ってくれるか分からない甘露よりも、目の前に差し出された一杯の水道水の方に目も眩むわよ。仕方ないない」

「な、何だよ、その言い方?」

「あ、そうね。ファティマちゃんは可愛いもの。水道水、なんて失礼だったわね」

「そうじゃなくて!それじゃあまるで」

まるでオレは食えるモンなら何でも食う節操無しみてぇじゃねぇか!と鳴海は文句をいいかける。が、

「ナルミ、女同士のセックス、って結構いいものよ?お互いに女だとどこをどういう風にすればいいのか、遊び慣れた男よりもずっと分かっているし、男なんて大体一、二度イったら終わりだけれど、女は波が引けば何度でもイけるし。一晩中でも楽しめる。味を占めたら男よりも女の方が病みつきになるわ」

と、いきなり始まった迫力あるヴィルマのレズ談義に黙り込んだ。

「な、何が言いたいんだよ」

「別に。時間なんでしょ?早く行きなさいよ」

ヴィルマに言われて時計に目を落とす。

「あ、やべ!」

バイクを目一杯飛ばしても遅刻が確定な時刻。

「で、でも」

今のヴィルマのレズ談義に嫌なフラグが立っているような気がして、鳴海は後ろ髪を引かれて仕方がない。

「早く行きなさいよ?約束なんでしょ?行かないとタイヤに当てるわよ?」

しゅっ、とヴィルマの手から本当にナイフが飛んだ。

すと、と落ちたナイフは鳴海のバイクの後輪との距離1ミリの地面に刺さる。

「やめろって!投げんな、分かったよ!」

鳴海は何かを言いたげにヘルメットを被るとそのままバイクで走り去って行った。

 

 

 

 

「ばぁか」

ヴィルマは視界から消えた鳴海にベッと赤い舌を出した。

「アンタがそのつもりならいいわよ。しろがねはアタシがもらっちゃうんだから」

ヴィルマは真っ赤な唇を三日月のように曲げて笑うと、大股でしろがねのいるトラックへと歩き出した。

 

 

 

 

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