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エレオノールは大きくなったら何になりたいの?
おにいちゃまのおよめさん。
あらあら、おにいちゃまのお嫁さんにはなれないのよ?
なれるもん。エレはおにいちゃまにおよめさんになるんだもん。
いいさ、お嫁さんにもらってあげるよ、エレオノール。
ふふふ。いつかエレオノールにも素敵な人が現れるわ。今のうちね、ギイ。
こんなに可愛いお嫁さん候補がいるのも。
そうだね、ママン。でもこんなに可愛いお嫁さんはそうはいないなぁ。
おにいちゃまよりもすてきなひとなんていないもん!
エレはおにいちゃまがいいんだもん!
Pocketful of Rainbow.
~ポケットが虹でいっぱい ③ ~
「小さい頃はいっつもそう言ってくれていたのにな…」
妹の幼き頃を回想し、ギイは力なくハハハと笑った。
あまり仕事中に思い出し笑いをするのはよくない。今もお向かいの女子社員に「どうしたのかしら?」という視線で見られてしまった。
ギイはその場を取り繕うように
「全く仕方がないな、ナルミの仕事は大雑把で」
と付け足した。お向かいの女子社員は鳴海の大雑把な仕事を笑ったのか、と納得したようで自分の仕事に戻った。
こんなとき、鳴海のことを得がたいキャラクターの持ち主だと思う。
いやいや、今はナルミのことはどうでもいい。
問題はエレオノールなのだ。
そしてまた、ギイはエレオノールとの関係をどのように修復すべきかの重要議題を熟考し始めた。今日も朝から仕事なんて手につかない。
エレオノールは「兄さんのバカっ!」、「兄さんなんて、もう知らない!絶対に許さないんだから!」を最後のセリフとし、あれ以来一言も口を利いてくれない。
それどころか、家の中でも同じ空間を共有してくれない。巧みに食事の時間をずらし、ギイが帰宅すると共に家族団らんの輪からさりげなく離脱するのだ。
エレオノール誕生からこの方、兄妹ゲンカしたこともなければ、ましてこんな風にエレオノールと話すらしない日などなかったというのに。
いつもいつもおにいちゃまおにいちゃま、大きくなったら兄さん兄さんと懐きまくってくれていたというのに。
それがエレオノールに反目されて、もうかれこれ一週間にもなる。
「全部あの脳筋の存在がいけないのだ」
今度は周囲に可笑しく思われないように口の中で呟いた。
こちらはこちらでギイのことを終始悩ませる。あれからずっと「エレオノールと会う機会を作ってくれ」攻撃の手を休めないのだ。
それにどうやら鈍いなりにもエレオノールのあの日の態度から、彼女が自分のことをホモホモ言っていたのはギイの作り話だと悟ったらしく、伝家の宝刀、『エレオノールはホモっぽい男には興味がない』も使えなくなってしまった。そうでなくても薬と同じで使い続けると常用性が出来てきて耐性がつき利かなくなるようだ。元より、見るからに打たれ強そうで、むしろ打たれていることにも気づかなそうな鈍感男なら尚更だ。
おかげでこの一週間、それでも何とか凌いで来たがそろそろギイの方が限界に近づいていた。鳴海の鬱陶しさから逃れ、エレオノールの反目を解くことができるなら、もうそれでいいのではないか、という気になってきている。
「エレオノールがいいのなら、それが一番いいのかもな…」
ギイは思い悩んだ末にとうとう、そう結論付けた。
よし、今晩エレオノールに言おう。そして仲直りして、エレオノールの笑顔を久し振りに見よう。
ギイは溜め息混じりに妹の交際を認めることにした。
ぼんっ。
考え事ばかりのギイの頭の上にクリップボードが乗せられる。
高級な香水と、濃厚なフェロモンの香り。
「コ、コロンビーヌ部長…」
コロンビーヌはギイと鳴海の直属の上司に当たる。
「最近、少しも仕事に身が入ってないのがミエミエであなたらしくないわねぇ」
危険で過激な熟女の匂い漂うコロンビーヌはきれいに整えられた爪を、これまたきれいにルージュの引かれた唇に咥えると
「仕事が滞っているわよぉ?」
と穏やかだけれど背筋の凍るような声色でギイを責める。
「私は一回しか注意をしないわよう?これで改善されないようならグラツィアーノ君と組ませるわよ?」
この上目遣いが怖い。
「はい、停滞している分は絶対に今日中に何とかします!」
コロンビーヌは「頼んだわよ」と一言、腰をフリフリ去って行く。
ギイは大きく息を吐き出した。
「あんな大法螺吹きのカピなんとかと仕事を組めるか」
その晩、帰宅したギイはむっつり膨れてリビングから出て行こうとするエレオノールを追いかけて、彼女が自分の部屋に篭城しようとするところで妹の部屋に何とか滑り込んだ。
「出てって!兄さんの顔なんか見たくないの!」
「エレオノール、僕が悪かった!謝る!」
「知らない、兄さんなんか!嘘つきなんだもの!」
ぼふっ!ぼふっ!とエレオノールがベッドの上の枕やクッションを投げつけてくる。ギイはそれを全部受け止めて、もうエレオノールが投げるものが何もないことを確認してからエレオノールに近づいてベッドに腰掛けた。エレオノールにも座るように促して彼女がその傍らにしぶしぶ座ると
「すまなかった。だから今度、ナルミを交えて食事をする席を設けるから」
と切り出した。
「本当に?!」
案の定、ギイからの提案を聞いたエレオノールは顔を輝かせる。
あっという間のケンカの和解。
そのエレオノールの様子にギイはホッと安堵する一方、やはり、そこはかとない一抹の淋しさを覚えた。
「本当だ」
「いつ?」
「いつ、って日取りはまだ…」
「明日は?」
「明日…?」
「善は急げ、っていうでしょう?」
さっきまでのふくれっ面はどこへやら、エレオノールは機嫌良さそうにニコニコとしている。
可愛いなぁ、エレオノール。
ギイは折れた。
可愛い妹の笑顔には敵わない。
「分かった。仕事を調整してみる。だが、ナルミの都合だってあるのだからな?ナルミがダメだって言ったら諦めろ?」
多分、ナルミのあの調子じゃ、エレオノールに会えると知ったらどんな横車でもあの馬鹿力で押しそうだが。
「もう嘘はつかないでね」
「ああ、もうつかない。本当にすまなかった」
エレオノールはころん、とギイの膝の上に頭を乗せた。
「兄さん、ごめんね。意固地になって」
「いいんだ。僕が全部悪かったのだから」
エレオノールだって大好きな兄とケンカがしたいわけではなかった。
そしてどうしてギイが鳴海にそんな嘘をついたりしたのかが理解できないわけではない。ギイは妹の自分を事の外大事にしてくれるから、その周りに寄ってくる男達の存在が気に入らないのだろう。
これまではエレオノールの自分の周りに群がってくる男達をギイが追い払ったり、近寄ってこれない環境を作ったりすることに特に文句もなかった。エレオノール自身にそういう男達に興味が湧かなかったからだ。
けれど、鳴海は違う。
鳴海のことはエレオノールが好きになったのだから。
だから、兄のしたことがどうしても許せなかった。
「ごめんね、私、兄さんに酷いことを言ったわ。大嫌い、なんて嘘だから」
ギイはエレオノールの丸い頭を撫でた。
小さい頃からずっと、エレオノールは兄に頭を撫でられるのが好きだった。
やさしいやさしい、私の兄さん。
私の自慢の兄さん。
「兄さん……大好き。ありがとう……」
エレオノールは気持ち良さそうに瞳を閉じた。
ギイは心中複雑ながら、エレオノールが何とも言えないくらいに幸せそうなので、きっとこれでいいのだと自分に言い聞かせつつずっとエレオノールの頭を撫でていた。
postscript 小エレに自分のことを「エレ」と呼ばせたかっただけの導入部分・・・・・。実際の愛称は「エレ」じゃないんでしょうけどね。エル、とかエリーとかになるのかな?でもやっぱ、エレはエレだなぁ。コロンビーヌが擬人化して登場しているのはそういうサゼスションを頂いたからです。小ネタで出すのも面白いかも。カピなんとかは親のコネで入ってきた仕事のできないバカボンボン、ってとこでしょうか?他には若手でやり手のアルレッキーノ課長と、すぐに「己には関係ない」と失敗した仕事を部下に押し付けるドットーレ係長と、チャイナドールの頭の上に乗って社内を練り歩いて睨みを利かすパンタローネ専務がいます。何の会社でしょうね、ここは。