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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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元々鳴しろ勝が仲町サーカス団員→軽井沢→行方不明→再合流
の設定の原作ベースパロ。






リラックス





「あっ…」
ヤバい、と思ったときにはいつも手遅れで。
まあ、気付いたからってそれを自分で止められるものでも抗えるものでもないんだけど。
ぜひ…ぜひ…
呼吸が段々と苦しくなる。関節も筋肉も、全身が締め付けられるように痛みが走る。
この先もお付き合いしていくことは重々覚悟している、それの名はゾナハ病。
鳴海はたった今、我が身を襲った発作に喉元をおさえ、身体を丸め、顔を顰めた。
バイトのお昼休み、バイト先近くのカフェで食事中の出来事。こじゃれてて、静かで、カップルや若い女性客が多い店内。鳴海だって男がひとりで(しかも見るからにガテン系の男が)食事をするにはそぐわない店だってことくらい分かってる。だけど小奇麗な店しか並んでない場所なんだから仕方ない。
隣の席に座る男女が、いきなり具合悪そうになった大男に迷惑そうな視線を不躾にぶつけてきた。


ここで笑いを取るのはきっついなぁ…。変なヤツ、とか、どっかおかしいんじゃないの、とか、そんな視線は慣れっこだけどさ。
TPOってのは弁えないといけない。下手をすると通報されてお縄になってしまう。さすがに仲町サーカスに面倒をかけるのはよくない。
まだ食べ始めたばっかりで、残すのはもったいない。しょうがねぇ、我慢してとっとと食って表に出よう。
鳴海は食事を手早く懸命に口に詰め始める。せっかくの料理もまったく味が分からない。
ちぇ、ホントに忌々しいぜ、ゾナハ病ってヤツは。


「カトウ?」
傍らから声をかけられて、鳴海は顔を上げた。銀色の瞳と目が合う。そこにはしろがねが涼しい顔で立っていた。
「しろがね…」
「あなたのバイト先近くに用事があったのでたまたま寄ってみたら食事中だと言われた」
(訳:用事があるフリをしてランチのお誘いに来てみたら、先に食事に行ってしまった後だった)
彼女は当たり前のように鳴海のテーブルにつく。
不思議なことに………鳴海の発作は治まった。自分は笑わせようとか何にもしてないのに。目の前のしろがねは、ちっとも笑ってないのに。いつも通りの、澄ました顔なのに。


「この店をのぞいたら偶然大きな身体が見えたから…まぁ私も昼がまだだし、せっかくだからランチを一緒に済ましてしまおうかと思って」
(訳:すごくガッカリしたけれど「近くの店で飯食ってるはずだよ」と言われたので、一軒一軒しらみつぶしに覗いていたら大きな身体が見えてすごく嬉しくて…よかった、これで一緒にランチができると思って)
反応の薄さに目を向けると、鳴海は喉元を押さえて固まっている。
「……どうした?もしかして発作か…?」
黙っている鳴海に、しろがねは少し心配そうな表情を作った。
「いや…、起きてたけど、治まった…自然と」
鳴海の言葉にほんの少しだけ、しろがねの顔が緩む。その柔らかい表情は、必ず鳴海の胸をドキドキさせた。


「そうか、よかった。…それにしても最近多いな、自然に治まることが」
「そうだな」、と返事をして、それは常にしろがねがいるときだと鳴海は思い当たる。
しろがねといるときは発作も初めから起きない。
「もしかして、治ってきてんのかな……ビョーキが」
「そうだといいな」
ふたりは顔を見合わせて、ふふっと笑った。





鳴海の傍にいるだけで、しろがねはリラックスできるから。
鳴海は傍にいるだけで、しろがねをリラックスさせることができるから。





だから発作は治まるのだけれど、その事実にふたりが気付くのは…だいぶ後のこと。



postscript
以前の後書きより再録。

私のゾナハ病に対する一考察。
他人の副交感神経を優位状態に持っていくこと=リラックスさせること、これがゾナハ病の発作を治める唯一の方法。他人をリラックスさせるひとつの方法が「笑わせること」。だから本来は笑わせることに固執しないでも、他人をリラックスさせる術は他にもあるとは思います。鳴海なんかそれこそマッサージ師か整体師になればもっと簡単に他人をリラックスさせられるでしょうが(鳴海が整体院かカイロプラクティックの店を開いたら常連になります)、原作のテーマが「笑い」ですからね、彼の選択肢は他にはありませんでした。

私の創作の前提である「軽井沢生還」の場合、鳴海はあの後もしばらくはゾナハ病とお付き合いしたと思います。でも、勝に出会い、いざとなれば彼に笑ってもらえば、かつてのように何日も誰からも笑ってもらっていない、とか、コンビニでご乱心、とかしないですみます。
それ以上に、しろがねの存在は鳴海にとって大きい。話にも書いたように傍にいるだけでリラックス状態なんだから。鳴海は「傍に居る」ということをしさえすれば、しろがねはリラックスできるんですよ。発作が起きかけても、鳴海がそれと気付く前に治まってしまう。

しかも、しろがねは生命の水を持ってますからね、鳴海のゾナハ病が完治するのも時間の問題です。時間はかかるけれど、しろがねの身体の回りを漂う生命の水が少しずつ鳴海の体内に取り込まれるかもしれないし、怪我をしたしろがねの傷口を舐めるかもしれない(これ可能性高そう)、しろがねの食べ残しを口にするかもしれない(これも可能性高そう)、もしくは一番手っ取り早く、唾液の絡まるようなキスを一発すれば唇を離した頃には治ってます。
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