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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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元々鳴しろ勝が仲町サーカス団員→軽井沢→行方不明→再合流
の設定の原作ベースパロ。






理解不可能(後編)





次の日の朝、鳴海が洗面所代わりの水飲み場にやって来た時、そこには既に勝としろがねの姿があった。しろがねは勝に「おはよう」の挨拶を済ませているようだった。
しろがねは勝とにこやかに会話をしている。
ちくしょー
鳴海はむぅっと頬を膨らませた。
大人気ない、そうは分かっているけれど、ちょっと(いやかなり)勝が羨ましい。
要するにヤキモチ。
鳴海としてはしろがねが勝と接するみたいにしてみたい(正しくはしてもらいたい)のに。
せめて普通に会話をするってだけでも嬉しいのに。
口を開けば憎まれ口ばかり、ケンカばかり、鳴海はそんなしろがねが理解できないで振り回されてばっかりでいい加減に内圧が高まっていた。
鳴海は表情を勝仕様のにこやかなものに変えると
「ぅおはよー、勝」
と挨拶する。
鳴海はしろがねが毎朝自分にするのを真似て、声をかけるのを勝に限定する。
「おはよう、鳴海兄ちゃん」
勝は鳴海が自分だけを呼ぶのを受けて、このふたりはもうすでに朝の挨拶を巡る一悶着を終えているのだと勘違いした。


鳴海はしろがねの前を、そこには誰もいないかのように通り過ぎる。
こんな奴は無視無視。
普段オレがどんな気分なのかを味わいやがれ。
ま、こんな人形女、オレにシカトされたって痛くも痒くもねぇだろうがな。
「もう顔を洗い終わったのか?」
「うん。これから歯磨き」
「そうか。じゃ、蛇口を貸してくれ」
「いいよ」
鳴海はしろがねに一瞥もくれずに顔を下に向け、蛇口を捻る。
しろがねは黙ってその場に立っている。鳴海は盆の窪辺りに銀色の視線を感じた。
どうせ睨んでんだろ。シカトしやがって、ってよ。


鳴海が構わず水飛沫を上げ始めると
「勝サン、朝ごはんができマシタ!」
と今日の朝飯当番のリーゼが勝を迎えに来た。
「今日は日直だって言ってたデショ?私も今日は早く行く用事があるノデ一緒に行きマショウ」
「うん。じゃあ、早く食べちゃおう。兄ちゃん、先行くね」
「おう」
流水音に混じって砂利を踏み踏み複数の遠ざかる足音。
あの人形女も勝にくっついて行ったこったろう。
ふん。
鳴海は鼻を鳴らしながら首にかけたタオルに手をやりつつ、蛇口を閉める。
と、視界に女物のスニーカーがチラリと入った。
「……」
鳴海がそろおっと顔を上げると何かを言いたげなしろがねが黙って立っていた。
睨んでる。シカトされたのが余程お気に召さなかったのか?


でも今日の鳴海は強気だ。絶対に口を利かないと決めたのだから。
可愛さは余ると憎たらしくなるのだ。それも100倍にも。昔から言うだろが。
鳴海は手早く顔をタオルで拭くと、ちゃっちゃっと歯を磨いて洗顔道具を鷲掴みし、黙ーってその場を離れようとした。
相変わらず無言で佇んでいるしろがねの前を、鳴海は大股で、これまた無言で通過する。
と、鳴海のTシャツの裾が引っ張られ、鳴海の足は止められた。
「……………何だよ」
鳴海はぶっきらぼうに突き放す。
「……」
しばらく待っても返事がないから、鳴海は肩越しに、仕方なしに振り返る。
すると、今にも泣きそうな顔のしろがねが上目遣いで見上げているではないか。


か、
可愛いじゃねぇかよ…。


鳴海の鼻の下は伸び、心臓は跳ね回る。そしてそんなしろがねに
「あ?……え?」
と戸惑っている鳴海にいつもツンツンしている人形女は
「……おはよう……」
と初めて朝の挨拶を先に口にした。





可愛さ余って憎さ100倍なら、憎たらしさも余ればまた愛情に変わるのか?
それも100倍になるのなら、元々よりも10000倍?
よく分かんね。
ともかく、しろがねの中に可愛らしさを見出してしまった鳴海はさっきまでの断固たる決意はどこへやら
「おはよ」
と返事を返していた。
しろがねが鳴海の頬に手を伸ばす。鳴海はしろがねに向き直った。
鳴海もそろそろと両腕を伸ばす。
いつも冷たく見えるしろがねが柔らかく笑ったような気がした。


あくまで気がしただけだった。


ギリギリと鳴海の耳朶が引っ張られる。
「痛ぇ!何すんだよ」
「二度と無視なんかするな。失礼なヤツだな」
しろがねが威嚇するように言い放つ。
どっちが失礼だよ!
鳴海のツッコミを待たず、いつも通りのつり目女に戻ったしろがねは言いたいことを言うと鳴海を残しスタスタと朝食をとりに行ってしまった。


「なっ…何なんだよ、もお」
鳴海はヒリヒリする耳を手の平で抑える。
「ちぇ。遠慮無しに人の耳を引っ張りやがって…何なんだよ、あの女!えっらそーにっ!マジで理解できん!」
ブチリブチリと不平不満だらけの鳴海も不平不満を口にしながらも、可愛くないしろがねの中に可愛い表情を持つしろがねもいることは理解できて、どうしたらもう一度見られるかな、なんて考えて食卓へと向かった。
鳴海も何となく、しろがねに夢中のノリとヒロの気持ちが分かるような気がした。



◇◇◇◇◇

postscript
妄想の蛇足その2。

鳴海が仲町にいた期間はリーゼの合流後、ヴィルマ襲撃の直前くらいまでが妥当ではないかと(勝手に)考えています。かつての鳴海の姿を知っているのは仲町の3人で充分だと思うし、リーゼも鳴海を知っていてもいい。ヴィルマは何にも知らない立場だからしろがねが鳴海への想いを打ち明けられることもあるだろうし、法安と涼子は知らなくても黒鳴海とは普通に交流が持てる。皆が皆鳴海に同情するのではなく、中には三牛親子のように真から鳴海の存在に警戒する連中がいた方がいいだろうし。

ほんの短期間でも一緒にいれば、鳴海って忘れられない人物になると思うんです。サハラで出会った『しろがね』達がそうだったように。鳴海を知っていれば、黒賀に修行の旅に出てしまった勝に誰も新入りの話をしないのも「鳴海が帰ってきたことを勝に教えたいのは山々だけれど、彼はすっかり変わってしまってしろがねを憎悪しているなんてどうしても言えない。だから勝には鳴海のことを黙っていよう」という意識が生まれて鳴海を知らないメンバーに申し合わせたと納得できる。原作でももしかしたらしろがねがそのように根回ししたのかもしれないけれど、そんな描写はどこにもないし、ノリたちが鳴海に好感情を持っていないのは明らかなので本来なら絶対に鳴海の悪口を勝に言うと思うんですよ、例えしろがねが「言わないでください」って言ってもね。人間ってさもしい生き物なので誰か特定の人間を嫌う感情に共感が持てたときって仲間意識が芽生えてその話が話題に上るはずなんです。連帯感を覚えるためには有効な手段です。だからパクリとも誰も言わないっていうことが不自然なんです。

だけれどもメンバーの半数が鳴海を知っていて、しろがねと勝とそれから鳴海にも同情を覚えていれば話は全く別です。口に上らせてはいけないという空気が流れます。涼子あたりが口を滑らせそうですがリーゼが言い含めれば黙ってくれそうですし。

すみませんね、妄想垂れ流しで…(汗)。
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