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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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元々鳴しろ勝が仲町サーカス団員→軽井沢→行方不明→再合流
の設定の原作ベースパロ。






理解不可能(前編)





「ぅおはよーう」
加藤鳴海は大きな欠伸をしながら洗面所として使われている公園の水飲み場へとやってきた。首から下げたタオルをTシャツの襟ぐりの中に突っ込む。
「おはよう、鳴海兄ちゃん。特大の欠伸だねぇ」
先に顔を洗いに来ていた才賀勝が顔を拭きながら笑顔で答える。
鳴海はその極上の笑顔に応え、極上の笑顔を返す。
「ホント、おまえのおかげでオレはゾナハ病の発作が怖くなくなったぜ」
蛇口を捻って勢いよく水を出す鳴海の傍でハブラシを口に突っ込んだ勝が
「よはったへ」
と言った。


才賀勝と加藤鳴海は勝の相続した遺産を巡る争いの最中知り合った。
鳴海は勝の命の恩人だ。
勝は才賀の家を出て、とある事情から潰れかけの貧乏サーカス・仲町サーカスに身を寄せた。他人を笑わせないと死んでしまう奇病・ゾナハ病患者の鳴海は、今現在、唯一確実に自分が笑いをとれる勝を守るため、そして笑いをとる術を身につけるのに都合がいい同サーカスに入った。そういったわけでふたりは数日前から貧乏サーカスにて共同生活を送っているのであった。


「どう?ジャグリング、少しは上達した?」
うがいで口をすっきりさせた勝が鳴海に尋ねた。
「ううーん、小手先の器用さが必要なの、ってオレ…あんま性に合わねぇんだよなぁ」
バシャバシャと水を跳ね上げながら鳴海は答える。
鳴海の得意は肉体労働。腕っ節と体力勝負。
「そういうおまえこそ、一輪車に乗れるようになったのかよ?」
「運動神経が必要なのって、あんまり得意じゃないんだよねぇ」
勝は鳴海と同じような返答をする。
勝の得意は超人的な記憶力と集中力。不器用ではない筈だけれども、それに体力がついていかない。
「ま、おまえの場合はなぁ…身体を鍛えることから初めねぇとなぁ」


その時、ふたりの背後から砂利を軽く踏む足音が聞こえた。
鳴海の顔を洗う手が一瞬止まる。
「おはようございます。お坊ちゃま」
「おはよう、しろがね」
下を向く鳴海の頭上でにこやかな朝の挨拶が交わされる。


しろがね。
勝を鳴海と一緒に救出に向かった、そして勝を守ることを使命と信じている謎めいた銀目銀髪の人形遣い。勝が仲町サーカスに身を寄せることになったのも、いつだったか勝を助けるために仲町に協力を求めたしろがねがその見返りに彼のサーカスに入団する条件を飲んだからだった。サーカス芸は何でもこなす、一流のシルカシェン。
付け加えると、美人。スタイル抜群。
ノリとヒロのマドンナ的存在。
鳴海は鼻の付け根に皺を寄せ、犬が水浴びをするかの如く、バシャバシャと顔を洗った。


「お坊ちゃま、朝ご飯の支度が出来ております」
「うん、分かった。兄ちゃんと一緒に今行くよ」
兄ちゃん、の単語にしろがねの眉毛がひくり、と動く。
鳴海は蛇口をきゅ、と捻って水を止めると濡れた顔を上げた。襟元からタオルを引き出して水滴を拭う鳴海と視線を合わせると、しろがねは身構えるように上目遣いになる。
「……」
「……」
無言。


しろがねの方から挨拶してくることはまずない。いつもこうやって睨んでいる。
口角を下げて鳴海の反応をいつも待っている(のかどうだかも怪しいのだがそんな感じに見える)。だから挨拶するのは専ら鳴海からなのだが、これまた難しいのだ。
にこやかに「おはよう」と言えば、「馴れ馴れしい」とつっけんどんに言われ、
無愛想に「おはよう」と言えば、「何を怒っている。朝の挨拶くらい機嫌よくできないのか!」とクドクドと説教をされる。
しろがねに倣い黙ったままでいると、「言いたいことがあるのなら早く言え!」と自分を棚に上げた罵声が飛び、挨拶を抜いて世間話を始めると「挨拶もできないのか」と冷たい視線に晒される。
一体どうしろって言うのか?
勝には自分の方からやさーしく挨拶するのによ。
他のサーカスの面子にはぶっきらぼうながらも、普通に「おはようございます」と挨拶するのに。オレには何でかケンカ腰。
この扱いの違いは何なのか、鳴海には全く理解ができない。


「おはよう」
鳴海はごく普通に、タオルで顔を拭きながら言った。
「今日もずいぶんと美人だな」
幾分かの皮肉もこめて褒め言葉をつけてみた。
しろがねは息を呑み込んでほんのちょっとの空白の後、鳴海には怒ったような、眼力の更に篭った瞳をくれて
「さあ、行きましょう、お坊ちゃま」
と返事もしないで勝を連れて去っていった。
おいおい、無視かよ。
勝は、ふたりともしょうがないなぁ、といった風情で鳴海を同情的に見て
「先に行くね」
と労わりの言葉を残した。


ぽたりぽたり、と前髪から垂れる雫越しに鳴海はしろがねの細い背中を見送った。
鳴海の鼻の頭にまた皺が寄る。
「わっけ分からん。理解不能だよな、あいつの思考回路ってのはよ」
鳴海はブチブチと腐りながらハブラシに歯磨き粉をくっつけた。
「ちぇ」
鳴海はフテフテしながらガリガリと歯を磨く。
「かっわいくね。あんなのに夢中になってるノリさん達が理解できん」
本当はしろがねと仲良くしたいのにできない(もしくはしてもらえない)鳴海はいつまでも負け惜しみを呟いていた。



◇◇◇◇◇

postscript
ゲストブックで勃発した「しろがねツンデレ劇場」萌え(笑)。本当は鳴海を束縛したいしろがねを書きたいわけです(すみません、書けてません)。でもツンデレ。ツンデレ属性ヒロインとして成長させるためには原作1-3巻の設定が不可欠です。

蛇足なのですが、勝を主人公として据えるためにいずれ鳴海を退場させるならさせるで、鳴海も短期間でも仲町サーカスで生活した方が、後々黒鳴海になって戻ってきたときに仲町サーカスの面々も鳴海を理解しようとする方向に動けたと思うんですよ。黒鳴海では新規に入団したとしても家族的な空気を大事にするノリたちに受け入れてもらえるはずはありません。彼らがただ黒鳴海をしろがねに辛く当たる嫌な新入りとして見る、のじゃなくて仲間として受け入れるためには元の気のいい兄ちゃん時代を知っておいた方がよかったように思えます。記憶を失くし自分たちを覚えていないにしても、あまりにも変貌してしまった鳴海の、仲町を去ってからの空白期間における体験とその苦悩。自分たちと一緒にしろがねを巡ってバカもやって、鳴海がしろがねをどう想っていたのか男同士だから知っていることもあると思うんです。なのにしろがねを殺したいくらいに憎んでいる。鳴海に何があったのか、仲町サイドでも理解しよう、そのもつれた糸をどうにかしてあげようという動きもあったのではないかな、と。鳴海の憎悪をどうにかしてやろうという別のアプローチもあったのではないでしょうか?誰も鳴海を理解しようとしないから、鳴海が独り善がりの憎悪をただしろがねにぶつけるだけの、責める一方のDV男みたいに描かれてしまう。鳴海の心理描写も一切ないから余計です。シベ鉄でふたりきりの時間を持たせてあげる計らいもしろがねのため、というだけではなく鳴海のためでもあって欲しいんです。いきなり鳴海が『仲間』って口にしたところであまりにも突発的過ぎる印象が拭えません。仲町サイドには鳴海に対するアプローチが足りない。8ヶ月も経っているのに新入り扱いじゃ寂しいでしょ。だれも「鳴海」って名前を呼んでないのだから。

長くなりました。また。
ま、そういった訳でこの「ツンデレ劇場」の設定を理解していただければ、と思ったのでした。
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