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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。







蜜月。





<7>


鳴海が自室に戻ると真っ暗な中にしろがねが待っていた。鳴海はここに来る前にしろがねの部屋に寄ったのだけどそこは蛻の殻で、食堂やらユーティリティルームやら、しろがねが立ち寄りそうなところも回っても彼女を見つけることはできなかった。鳴海が自分を避けていることを漠然と察していたしろがねが気を遣ってここしばらく彼の部屋にやってくることはなかったから、盲点だったとしか言いようがない。
「しろがね、こんなとこにいたのか?」
入口から鳴海にそう呼びかけられて、しろがねはゆっくりと振り返った。
「ちょっと、あなたに話したいことがあって」
逆光のしろがねの表情は少し分かりにくい。
「オレもだ。おまえに話したいことがあって探してた。…明かり、点ければよかったのに」
鳴海は入口近くのスイッチに指をかけた。
「月明かりで充分だと思ったの。この方が落ち着くから」
「…そうだな。オレたちには充分だな」


鳴海はスイッチから指を離すと大股でベッドまで進み、どかっと腰を下ろした。しろがねに瞳を向ける。窓の傍で月を背おうしろがねがとても綺麗だった。銀の髪や白い部屋着が蒼白く月光に透けて、今にも淡く溶けて消えてしまいそうで。鳴海は長い腕を伸ばして、そうっとしろがねの手首を捕まえた。細腕を痛めてしまわぬように、握るのではなく、開いた手の平にやさしく載せるように。それからゆっくりと、しろがねの手に指を添わせる。愛するが故に、そして愛を吐露することを許されたばかり故に、そして恋愛初心者故に、鳴海は相手を壊してしまいそうに力強くしろがねを抱き締めることしか念頭になかったからいけなかったのだ。愛するのに力はいらなかった。大事なモノは壊れモノを扱うように、それが基本ではないか。
しばらくぶりに鳴海が触れてくれたことを喜んだしろがねが鳴海の手に手を重ね、これまたしばらくぶりの笑顔を見せた。その手の力に、笑顔に、鳴海はまた泣きそうになる。しろがねの記憶を見ながら伝わってきた彼女の孤独、悲哀、絶望。今のしろがねから伝わってくるのは自分への溢れんばかりの愛情のみ。それを新たな不安で曇らせてどうする?





オレにとってこの世で最たる大事なヒト。
オレがこの世で最も幸せにしてあげたいと思うヒト。
自分でも信じられないくらいに愛しているヒト。
エレオノール、しろがね。





彼女は美人薄命の言葉の如くの永い人生をひとりぼっちで歩いてきた。
今も、自分が不器用なばっかりに寂しい想いをさせてしまっていた。オレの人生は最初から、そう、出会うずっとずっと前からしろがねの心に続いていた。時代を超えて、数多の男の中からオレを選んでくれた。それこそ天文学的な確率でオレたちは出会ってお互いを愛した。紆余曲折があって、オレには他にやらなくちゃなんないことがあって、そこに辿りつくのに時間がかかったけれど、これからは、オレの本当になすべきことを遮るモノは何一つないんだから。
オレのなすべきこと、オレにしかできねぇこと、正直オレ以外の誰にもやらせたくねぇこと。
オレの人生は全て、しろがねに捧げる。
これまでの彼女の永い人生の孤独を癒し、これからの彼女の長い人生を笑顔と幸福で満たすことが、オレの生きる理由。
もう絶対にしろがねに寂しい想いなんてさせねぇ。絶対に離れねぇ。
…愛するって難しいな。それが深ければ深いほど…。オレみたいに気の利かねぇヤツは尚更だ。


鳴海はゴシゴシと服の袖で目元を何度も擦った。
「ナルミ?どうしたの?泣いて…いるの?」
鳴海が薄明かりにも分かるくらいに目を赤くしている。しろがねが心配そうな声を出した。
「ん?うん……ちょっとな」
鳴海はしろがねに「こっちゃ来い」と手招きした。しろがねは心臓をドキドキ言わせながらおずおずと鳴海の傍らに腰かけた。拳ひとつ分の隙間。彼女の遠慮が恋人との距離に出ていて、鳴海は小さく苦笑いする。ずっとしろがねに不安を強いていたことは鳴海も重々分かっていたから。
「オレの座高が高ぇから首がくたびれんだろ?」
鳴海は壁際まで下がりしろがねと視線が合う高さで背を付けるとしろがねの身体をひょいと自分の脚の間に移動させ横抱きにした。しろがねが作った距離の遠慮を一気に打ち消す。後ろからそうっと抱き締めるとしろがねは幸せそうに鳴海の胸に頬をすり寄せた。しろがねも鳴海の腰に腕を回し、彼の服の胸元をきゅっと握る。
幸福がふたりを包む。言葉はしばし無用のものとなる。


温もりを楽しんで、その存在を愛しんで。
沈黙を挟んで、ぽつり、と鳴海が口を開いた。
「あのな。勝がな、軽井沢で千切れたオレの左腕、それをアメリカのクライオニクス会社に預けてたんだと。しろがね、知ってたか?」
「いいえ!そんなこと一言も…お坊ちゃまがあなたの腕を?」
しろがねがバッと身体を起こした。一転、驚いた表情になる。ああ、そうか、と思う。初耳だったのだ。
「ああ。事件の直後、阿紫花を通じて頼んでくれたんだと」
「そうだったの…。私、全然知らなかった…」
「その腕をフウのアメリカのラボでくっつけてもらうことになった」
「ナルミ…!」
「オレに生身の腕が戻ってくる」
その報告にしろがねがにっこりと微笑んだ。


「ナルミ…よかった…」
「ホント、よかった。オレのこの手足、硬いだろ?抱かれ心地が悪くてすまんな」
鳴海が苦く笑った。
「そんなこと!ナルミ…そんなこと、ちっとも…」
しろがねはそんな風に思ったことなど一度もなかったから、鳴海がそんなことを気にしているなんて考えもしなかった。そして彼女は即座に、鳴海がどうして自分を避けていたのかを悟った。
「ナルミ、これはあなたの手足、私があなたの腕に抱かれて心地悪いわけないでしょう?」
「とはいえ、元の手足に比べたら硬いだろ?」
鳴海は沈んだ瞳で開いたり握ったりさせた自分の手を見遣った。先程見たしろがねの記憶を思い出す。軽井沢でエレベーターに閉じ込められたときの記憶、あの時のやりとりをしろがねがどんなに大事にしていてくれたのか、あの時の自分の腕の温もりをしろがねがどれだけ愛しく思ってくれていたのか。それが、今の自分の腕にはないのだ。与えてやりたくともこの腕には温もりがないのだ。


しろがねは鳴海の手をぎゅっと握る。そして目力をこめて鳴海に言い切った。
「あなたの手足は筋肉の塊で、最初からものすごく硬かった!今と変わらない!」
「ぶふッ」
「な、何よ」
何だか知らないが膨れ口調のしろがねに、鳴海の口元には笑みがこぼれる。くっくっく、と堪えても笑いが止まらない。
「何?私、そんなに変なこと言った?」
「しろがね」
鳴海は徐々に笑いを治め、恐る恐る、最愛の存在を壊さないように、両手で彼女の頬を包んだ。
「ごめんな……不安だったろ?」
「……」
「この手な、自動人形を破壊するために作られたマリオネットの…。この手でおまえに触れたらおまえに気持ちの悪い想いをさせるんじゃねぇか、この腕でおまえを抱いたら抱き潰してしまうんじゃねぇか、って。そんな風に考えだしたら、おまえに触れることができなくなっちまった。どうしていいのか分かんなくなって、結果、距離を置くようなことになって……すまん」
「そんなこと…気にしなくていいのに」
手に手を添わせる。
「おまえは絶対にそう言うだろうと思った。だけどそれが本当かどうか、オレには分からねぇ。もしかしたらおまえはやさしいからオレを想って無理をしているのかもしれねぇ。とにかくオレはおまえに無理をさせたくなかった」
「ナルミ…」
鳴海はすうっと大きく息を吸い込むと同じだけ大きく息をついて、明るく笑った。胸の内をしろがねに吐き出してスッキリしたのだ。


「おまえのこと、人形云々ってことに拘って触れられなかったわけじゃねぇからな?そこんとこ、勘違いすんなよ?おまえはフランシーヌ人形の溶けたアクア・ウィタエを飲んだ、おまえの中にはフランシーヌもフランシーヌ人形もいる、おまえの中にいる誰かも含めて、オレはおまえを愛してるんだから」
「……」
「だからおまえは、絶対にそのことを気に病むな」
鳴海はしろがねの肩をやさしく抱いた。少しずつ力を加えて胸と胸とをぴったりと合わせる。
「オレが気にしていたのはおまえのことじゃなくて、自分のこと。おまえを愛したい、でもこの腕は愛するためのものじゃない。普通の義肢に代えればいい、でもこれは『しろがね』の仲間の形見で今はまだ手放せない。全てが終わったってのにオレの心がまだ勝手に板ばさみになってたんだ」
「……」
「でもこれで……生身の腕が戻ってくるって分かって、気持ちが楽になった。馬鹿だよな…オレ…」


愛する女の髪に鼻先を埋める。甘い匂い。ふわ、としろがねの腕が鳴海の首に回された。しろがねがしっかりと鳴海を抱きしめ返した。
「本当に莫迦ね」
「うん」
「あなたが私を抱き締める腕を持たなくても、私にはあなたを抱く腕があるのに。私が、あなたを抱き締めるのに」
「うん…」
「これからは気持ちを溜め込まないでね…私はどんなあなたも受け止める。私だって、あなたを幸せにしたいのよ?」
頬と頬を合わせる。ゆっくりと唇が近づいて、深く深く重なり合う。舌で相手の舌を舐め融かす。
キスのひとつひとつに、不安も悲しみも皆融けていく。ふたりの傷が急速に癒えていく。


「それでな、オレ、フウにたった今、おまえの記憶…見せてもらってきた。最初から最後まで」
一頻りの愛欲あふふるキスの交換の後、しろがねの部屋着のボタンを無骨なマリオネットの指でひとつひとつ外すという繊細な作業に悪戦苦闘しながら、鳴海はさりげなく打ち明けた。しろがねは視線をたどたどしい男の手元から、胸元に釘付けの瞳に移した。
「それでいなかったのね?夕食にも顔を出さないから……心配してた」
「あのさ、オレ、見てもよかった?見た後で言うのも何だけどよ」
鳴海は一瞬だけ、チラと視線を上げた。
「散々、見ねー興味ねー、って言ってたクセに。どうしたの?」
すこしずつ顕わになっていく自分の乳房に頬を染めつつ、しろがねは可笑しそうにくすりと笑った。
「そう言って怒ってくれてもいいんだが。オレの知らないおまえを皆が知ってるの、我慢できなかったんだもんよ」
鳴海のヤキモチが言葉の端々に透けて見える。しろがねはそれがくすぐったいくらいに嬉しい。
「いいの。あなたには見て欲しかったから。私を全部、知って欲しかった。見てくれたら…もしかしたらあなたは…なんて期待してたもの…。ちょっと恥ずかしいけど…で、どう…思った?」
「オレはおまえよりもおまえを知ってる自信があるぜ?」
鳴海はにやっと笑うと、「よし、最後のひとつ!」と気合を入れ直すと一番下のボタンと格闘を始めた。しろがねは無邪気な項に話しかける。


「あのね、さっき私も話がある、って言ったでしょ?」
「うん」
「私もね……事後承諾なんだけど、サハラでのあなたの記録、フウに見せてもらったの」
「…は?」
鳴海がぽかんとした顔を上げた。
「私ね…。あなたをすっかり変えてしまった絶望がどんなに巨大なものだったのか、どうしても知りたかったの。あなたがもしも、全てが終わった後でも私を人形の生まれ変わりだと蟠りを持ってしまうのだとしたら、その根幹にあるあなたの絶望の源を、私も理解したかったの。そういったあなたを理解できる何かご存じありませんか?って訊ねたらフウがサハラでのあなたの戦いをアイセクトで記録したものを出してきてくれて」
「あのジジイ」
「でも私、見ることが出来てよかったって思ってる。そして私は憎まれても仕方がないと思ったわ…。それくらい、あなたの経験した戦いは悲惨で悲壮だった…」
しろがねがまた自分を責めそうに思えたので鳴海は慌ててフォローを入れる。
「しろがね、オレはもうおまえを…」
「分かってる。今は大丈夫。それに本当にただ知りたかったの、あなたのことを全部。離れ離れになっている間にあなたを変えてしまった出来事を、私も知りたかったの。でも、本当はね、私も……ミンシアさんが知っているのに私は知らないことがある、それが…我慢できなかったの。あなたと一緒ね」
しろがねはクスクスと楽しそうに笑った。


「ホント、一緒だな」
鳴海も笑顔を返す。
最後のボタンが外れた。


「おまえに触れるついさっきまではなぁ…。生身の腕をくっつけてからおまえとしようって思ってたのになぁ…」
滑らかな白い肌に唇を添わせながら鳴海が呟く。
「そんなに生身の腕に拘らなくても…。再会した後は腕のことなんか気にしないでも、あなたしてたじゃないの」
「それを言われると、ちょっと…」
仲町サーカスに合流してからは、ゾナハ病の止め方を訊き出す名目でしろがねを何度も抱いた鳴海だった。あの時はしろがねを辱めることは彼女の責め苦になると思っていたし、実際愛し合うことは目的ではなかったから腕がどんなでも欠片も気にならなかった。
立派な大義名分、けれど大きな建前の影で
「正直、おまえを抱く理由が…欲しかっただけだったんだよな…」
と今ならば言える。意識的にも無意識的にも、心を通じ合わせるのが叶わないのならば、それが理不尽でもせめて身体を繋げたいと考えた結果だったのだろう。そんな有様で身体を重ねてもお互いに傷つくだけだったのに。


「それでもオレは自分のしたいようにしたから後悔はねぇけど。おまえは嫌だったろ?その…犯されたわけだし」
唇と舌で丹念に愛撫を与えていく。鳴海に生み出される快楽にしろがねは甘く吐息を漏らしながら言った。私はあなたに抱かれて嫌だって思ったことなんて一度もなかった、それが愛でなくても、私には喜びだった、と。愛撫に悶え、途切れ途切れのそれは多分そんなことだったろうと思われる。
「オレもだ」
鳴海が愛を以って、しろがねの体内に己を深く埋める。ようやく心も身体もひとつに繋がる。





それが愛でなくとも喜びだったのならば。
一体何と呼べばいいのだろう?
憎みながらも、憎まれながらも愛に根差したこの行為によって齎された感情は。
「愛している」
その一言に過去も未来も現在に収束する。




月華はふたりを濡らす。
これからはずっと蜂蜜のように甘い月。



End



postscript
本当はふたりの濡れ場も思いっきり書くつもりでこのSSを進めていたのです。でも、そうなる前段階で鳴海としろがねが消化しておいて欲しい話題がいくつも持ち上がってしまって、それを提起していたら最後の最後にエロ描写を入れるのは野暮のような気がしてきてね、触りの部分だけで止めにしました。新婚さんの初夜をのぞくのも野暮だったのかもしれません。このふたりの今後の性活生活はよどみなく幸せなものになるという標が立てばそれでいいのかな、と。

まぁ、私の創作の流れでたまたまふたりはこうでしたが、原作の面だけだと鳴海としろがねは(下手すると)童貞・処女の可能性もなきにしもあらず。特に鳴海!ガッチガチに緊張しきった鳴しろの初夜ってのも初々しいかもしれないけどカッコ悪いような、可愛いような。いや、きっとカッコ悪いよね、そんな瞬殺・誤爆鳴海は(汗)。
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