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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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元々鳴しろ勝が仲町サーカス団員→軽井沢→行方不明→再合流
の設定の原作ベースパロ。






覗き魔





天気もよく、むしろ暑ささえ感じる週末。
仲町サーカスのノリ・ヒロ・しろがねは昨日今日のこの土日、とある大きな老人介護施設にアルバイトに来ていた。入所しているお年寄りと身内に会いに来た家族への慰安が目的。広いロビーやホール、庭などで3人は入れ替わり立ち代り、芸を披露する。
加藤鳴海も来ていたが芸が未熟な彼はもっぱら荷物持ち等の肉体労働が仕事だった。今はキグルミに入って風船配り。


3人の芸が成功するとあちらこちらで笑いの花が咲く。とりわけクラウン姿で見事なジャグリングを披露するしろがねは流石と言おうか、鳴海が見ても鮮やかなくらいに芸の切れがいいい。どう見ても難易度の高そうなパフォーマンスをいとも簡単にこなしてみせる。
何と言ってもしろがねは世界に名立たる大サーカスの花形シルカシェンだったのだから。それが何の因果か貧乏サーカスに所属している。
こんなの、老人ホームで見られるなんて凄ぇ贅沢なんじゃねぇか?
自分には怒りっぱなしの人形女が大勢の笑いをとる、その様は何とも鳴海には納得がいかない。納得はいかないがはっきり言って、白塗りで赤い付け鼻のピエロ顔でもしろがねは可愛い。と思ってしまう。
そんな風に思う自分にも納得がいかない。
相手は自分に挨拶も満足にできない人形みたいな女なのに。
いかないけれど。
キグルミのクマはしろがねクラウンが芸を行う周辺に必ずその姿を現したのだった。





「なぁ、鳴海。ちょっと顔貸せ」
「いーいところに連れてってやるぜ」
鳴海がノリとヒロにそう声をかけられたのは仕事も終わり、後片付けをしているときだった。
「何スか?」
鳴海が返事をすると、ふたりは黙ったまま鳴海を手招きしている。ノリもヒロも目が山型の弓なりになっている。悪い顔だ。こんなときは大抵ロクなことを考えていない。
「穴場を見つけたんだ」
「今からそこに行く。おまえも来いよ」
「穴場?」
鳴海がちょっと好奇心を駆られて訊き返すと
「女風呂」
「しろがねの裸、覗きに行こうぜ」
と鼻の下の伸びきった先輩ふたりが振り返る。
施設側の好意で仕事後の汗を流せるように、と時間で区切られてはいるが風呂場を貸してもらえ、今しろがねは一足先に風呂場に行っているのだ。


「昨日、もしかしたら『使える』んじゃないかな~って場所を見つけてさ、さっきちょこっと確認したらもうバッチリ」
「少し高いところで足場が悪いから穴場なんだよ。あのしろがねも油断してるぜ。まさか覗かれるとは思うまい」
うぷぷ、と込み上げる笑いが止まらないノリとヒロの足取りは、まだ風呂場には大分距離があるというのに抜き足差し足忍び足だ。
「おまえも来いよ。仕事の後の目の保養しようぜ」
鳴海は返事に困った。


そりゃ女の裸体を見たいか見たくないかと聞かれれば、鳴海だって健康な若者だから見たい。それもとても見たい。金を払っても見たい。
でも相手があのしろがねとなると話は別だ。そこには意地が介入してくる。人形女のしろがねの裸を覗き見する、っていうのは同時に鳴海のプライドにも障る。ノリやヒロはプライドがないからいいけれど、もしも見つかったときの立場のなさったらないだろう。
あいつはどんな顔をするだろう。絶対に目を三角にして如何にも「最低~」って目で見るに決まっている。自分がしろがねの裸を見たがったなどと思われたくもない。
とはいえ、正直なところは見たい。十把一絡げにどんな女の裸体も見たいがしろがねは別格なのだ。それに、できたらノリやヒロには見て欲しくはない。自分だけが見たい。
意地と本音と建前が鳴海の頭の中をグルグル回る。
グルグル回って意地が勝った。


「いや、自分はいいっスよ」
鳴海の言葉にノリとヒロが目を丸くする。
「嘘付け。おまえだって興味あるだろ?ないとは言わせないぞ?なんたってしろがねのハダカなんだからな」
「オレは見たいぞ?何カッコつけてんだよ」
「いや…でもほら、オレはもうしろがねの裸は見たことがあるから…」
「「何っ!」」
ノリとヒロは鳴海のその場凌ぎの台詞に食いついた。本当のことだけど。
「いつだよ?!」
「どこでだよ?!」
ああ、しまったな。言わなきゃよかった。
鳴海はふたりに詰め寄られて、初めて会った日の夜に自宅の風呂場で素っ裸のしろがねとニアミスしたことを白状させられた。


「そ…そんなに近距離でしろがねの身体を拝んだのか?」
「それも明るい風呂場で正々堂々と…」
「正々堂々って。オレは覗こうと思ったわけじゃねぇし、あれは不可抗力ってヤツで…」
不可抗力でも鳴海はしっかりと見た。今も目を閉じればありありと細部まで思い浮かべることができる。これに関してだけは勝並みの記憶力が発動したとしか言いようがない。
何回かお世話にもなった。
「勝のヤツ、裸のしろがねに身体を洗わせただと?」
「小5だったら分かるぞ?少なくともオレは分かる」
「オレも分かる」
「あいつ…今日帰ったらシメテヤル」
「ウラヤマシスギル」


話題は勝に移ったようだ。だから鳴海は
「じゃ、オレはこの辺で…」
とさりげなくこの場を離脱しようと試みた。が。
「それとこれは話は別だ…一蓮托生って言葉を知らないとは言わせん」
「先輩命令だ。ついて来い」
新入りには選択肢はない。
まぁ、いいか…これでノリさん達に誘われたから渋々、っていう言い訳もできるわけだし。鳴海はすごすごと、ほんのちょこっとドキドキしながらエロい先輩の後をついていった。





「おおぅ……しろがねだよ……」
「アニキっ、オレにも覗かせて…」
「狭いんだから押すなって。順番…静かにしろったら気付かれるってば」
「分かったよ。で、しろがね、今どんな?」
「背中を向けてシャワーを浴びてる…尻が…イイ」
件の女風呂は二階にあった。細い足場に殆ど手がかりもない場所で、かなり上の方についている窓にノリとヒロは噛り付き、交互に中を覗き込んでいる。鳴海はその端っこで壁に寄りかかって背中でシャワーの流れる音を聞いていた。
「おっ…お…微妙…もうちょっとこっち向け…」
「ヒロ、替われ。今度はオレに見せろよ」
夢中になってしろがねの裸体を覗くふたりを尻目に鳴海は溜め息をついた。


一緒になってここにいる段階で立派な共犯者なんだけれど、やっぱりしろがねの裸が見世物になっているのは気分がよくない鳴海だった。ちょい前に、鳴海はしろがねが入浴中の風呂場を開けた。長いようで短い時間に鳴海はしろがねの裸を余すところなく見た。間近真正面からしっかりと見たから、今見られなくても別に悔しくはないけれど面白くはない。
しろがねの全裸を見たことがある男、ってのは自分だけで充分のような気がするのはどうしてだろう?(勝は子どもだからカウントしない。)
独占欲……?……まさか、な。
「あんなヤツの裸なんか、リカちゃん人形の服を剥いたようなもんじゃねぇか」
気持ちと反対のことを口にしてみる。
自分をこんな気持ちにさせるしろがねに何だかイライラもする。
ちぇ。人形女なのによ。


「うわ!ちょっと見えた!片乳!」
「触りてぇ~」
ノリとヒロの魂の叫びに鳴海がピクリと反応した。その眉間に皺が寄った。
うん。やっぱ良くない。
これ以上、ノリやヒロの視線にしろがねを晒すことは堪忍できなくなった鳴海は空中に足を踏み出すとそのまま落下し、足の裏でワザと大きな音を立てて着地した。砂利が派手な音を立てる。
「あ!何してんだよ、鳴海!」
「すんません。オレにはその足場、狭すぎて」
「静かにしろよ!気付かれるだろ?バカ!」
ったくしょうがねぇなぁ、鳴海はよう、とノリとヒロが風呂場の中に視線を戻すと、彼らの目の前に黙って怒っているしろがねが立っていた。物音で覗きに気が付いたらしい。
ふたりの背筋に冷たいものが流れる。


「いや…これには…事情が…」
「本当に深い事情があって…」
言い訳をしながらもチラチラと視線が下を向く(残念ながら陰になって見えないけど)。
「そんな事情など聞きたくない」
しろがねはふたりに向かって洗面器の中身をぶちまけた。高温の湯が顔面を直撃し、
ひゅるるるる~ドタリ
と、哀れにも覗き魔ふたりは真っ逆さまに落ちていった。
「熱湯にしなかった分、ありがたく思え」
窓から身を乗り出し熱い湯に加え捨て台詞も浴びせるしろがねと、アチアチイテイテと転げまわる先輩ふたりをニヤニヤと眺める鳴海の目が合った。
おまえもか、しろがねは鳴海のことも睨む。
おまえのハダカなんか興味ねぇよ、鳴海はべぇっと舌を突き出した。
「ふざけんな、鳴海!」
「てめー、そこにナオレ!」
ノリとヒロの吼え声を尻目に、鳴海は肩を聳やかして飄々とその場を立ち去った。


覗き魔を撃退し、改めて身体を洗い直したしろがねは頭からシャワーを浴びながら考え事をしていた。
どうでもいいことな筈なんだけれど、ちょっと気になること。
カトウは私のハダカに興味がないのか…、ということ。
確かにノリやヒロのように欲情剥き出しな鳴海は見たくない。
けれど、全く興味を持たれないのも何だか…嫌な気がする。
どうしてそんな気になるのか、しろがねにはよく分からない。
しろがねは理解のできない気持ち悪さを洗い流そうとシャワーの栓を捻った。
サラサラとお湯が泡を流していく。
胸の奥にチリチリしたものを感じながら、足元の泡が消えていく様をしろがねはじっと見送った。



◇◇◇◇◇

postscript
本来の鳴海も、ノリ・ヒロもギャグパートを担当するキャラな訳で、ちょっとでも絡んでくれてたらなぁ、って思うんですよね。元々ノリとヒロは面倒見がいいし、気のいい鳴海だったら仲良くなれただろうし、そんな3人がしろがねを巡って馬鹿をやって、勝が大人ってしょうがないなぁみたいな顔をして生活する、ってのも見たかったなぁ。でもそれをタイムリーでやったら…43巻も続いてないんだろうなぁ。
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