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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。


クラリッサがその男の姿を初めて見たのは、変哲もないある夏の日の午後だった。









迷宮 replicant.









Capter.1



ここしばらく高校生のクラリッサがわざわざ、自分の学校の隣にあるとはいえ小学校の門の前でこうしてトロい弟を待っているのは最近この村で、旅行者の行方不明事件が連続して起こったからだ。小学生以下の子供は登下校といえども一人で帰らせないように、大人だって人気のないところではなるべくひとりでは出歩かないように、との村長からのお達しがあったのだ。
「よう、クリス!これから隣町に遊びに行こうぜ?」
「よかったらカフェにでも寄ってかない?」
ハイスクールではダントツに美人で通っているクラリッサがひとりで退屈そうに立っていると何やかやと声を掛けてくる連中が多くてそれを追い払うのが面倒で堪らない。クラリッサにとっては田舎村の同い年の男子、なんて子どもっぽくって何の魅力も感じない。それにこんな狭い村から車を飛ばして30分の、町と言っても、一歩出れば野っ原と鬱蒼とした森が広がるばかりはこの村と何ら変わらない町のどこに見新しい遊び場があるというのか。



「ごめんね、エドと一緒に帰らないといけないから」
クラリッサは適当に笑顔でやり過ごしながら
「お子様…」
と悪態づくの繰り返し。
「いつまで続くのかしら。面倒ったらありゃしない」
周りに誰もいなくなると、クラリッサは整った顔を思いっきり顰めながらブツブツと文句を言った。
「ごめんね、クリス姉ちゃん!」
エドワードが学校の中からウサギのように駆けてきた。クラリッサは弟が追いつくのを待たずに歩き出す。
「待ってよ!」
エドワードが息を切らせながらようやくと追いついた。
「いいのよ別に、エドに謝られてどうにかなるものでもないし」
自分によく似た顔の弟の謝りの言葉に「いいのよ」と口は動いたものの、彼女の勝気なライトブルーの瞳は「あんたのせいよ」と訴えている。こんな時の姉には何を言っても無駄だということをエドワードは身をもって知っている。
「誘拐犯がこの町のどこかにいるってのならこの措置も分かるけれど、行方不明になった連中はどうせ…。そうそう。エド、なるべく早く下校してきてよね?毎日毎日、何をグズグズしてるんだか…」
「…ごめん」
エドワードはまた謝った。
ふたりは畑の畦道をトコトコと歩いていく。



その時だった。クラリッサが見慣れぬ男をその目に認めたのは。
黒い髪、黒い瞳、一見して東洋人と分かる容貌のその男はバックパックを背負って手に地図を持って、何やらどこやらを探している風で彼女たちの通り道に佇んでいた。遠目にも分かる、山のように大きな身体をしていた。
こんな何にもない辺鄙な小さな村に観光客なんて滅多にも来ない。しかも外国人観光客なんて尚更のこと。観光名所も外国人が働きにくるような大きな会社も農場も、ここにはないのだから。
それにしても何て大きな男だろう?東洋人って民族的に背が低いものだと聞いていたのにウチの村でもあんなに背の高いのは少ない。腕も胸も着ているシャツを引き裂きそうなくらいに筋肉が盛り上がっている。それに観光客にしてはとても薄汚い格好をしている。真夏の最中だというのに長袖のシャツを着ているし、ジーンズだって小さなツギ宛だらけだ。
『夏なのに長袖…着たきりスズメなんてこの男、シーズンの服を買うお金もないのかしら?ジーンズのあれって…もしかして銃創?』
もしそうなら犯罪者の匂いだってしてくる。目つきだって顔つきだってけっこう鋭い男だ。物騒な得物を持っていなくったって見るからに鍛え上げられた身体をしているあの男は腕ひとつで簡単に自分を縊り殺すに違いない。トロくて小さな弟なんかはイチコロだろう。
クラリッサはエドワードをスカートで庇うようにして立ち止まった。
もしも余所者が来るとしたら、『あれ』を奪いに来たのに間違いない。『あれ』を奪うために『あそこ』を探しているに違いない。



「行こう、エド。あそこにいる人のことは無視するのよ、絶対に目を合わせちゃダメ!」
「分かったよ、クリス姉ちゃん」
クラリッサはエドワードに耳打ちをして、繋ぐ手に力を込めると歩く速度を速めた。あなたのことなんて最初から私の視界になんて入ってません!と言いたげに顔を背けてさくさくと。
けれど弟の方はここいらでは非常に珍しい黒髪(それも男のくせに肩よりも長く伸ばしている)と近づくに従ってどんどんと大きくなる体躯に思わずチラリ、と視線を向けてしまった。途端、男の人懐こそうな黒い瞳と目が合ってしまう。クラリッサは弟が余所者と視線を交わしているのに即座に気づいて、更にスピードを速め通り過ぎようと試みたが、時既に遅し、
「なあ、そこのおふたりさん、ちょっと道を訊きたいんだけどいいかい?」
男ににっこりと笑いながら、顔に似合わない流暢な英語で話しかけられてしまった。
「あいにく今、急いでいますんで…」
「何ですか?」
素直な弟は男の笑顔にあっという間に警戒心を解いて返事をしている。
クラリッサはエドワードに『だから、アンタはダメなのよ!』と叱り付けてやりたい気分だったがコミュニケーションが成立してしまっている以上仕方がない。無視するほうが無礼だ。



「手短にお願いします」
クラリッサは人のいい弟の分まで毅然とした態度で、胡散臭い人物に目力を込めて、きっぱりと言った。間近に寄るとその背の高さを実感できる。首が痛い。
男は地図を指し示しながら
「ここいらへんに鍾乳洞があるって聞いてきたんだけれどさ、それの入り口ってどこにあるんだい?」
と訊ねてきた。
やっぱり。
クラリッサはジロリと男を睨んだ。
この村では昔から鍾乳洞には『あれ』があると言われている。やっぱりこの男も『あれ』が目当てなのだ。
「この村には鍾乳洞なんてありません」
「そんなはずはないんだけどなぁ」
男は困ったように頭をガリガリと掻いた。
「この村の誰に訊いても同じ答えしかもらえねぇから」
「だから子供ならば、って思ったのならお生憎様。そんなものは…」
「あるよ、こっちの森の奥に。鍾乳洞の入り口は何箇所かあるんだ。一番近い入り口は幹が途中でふたつに分かれている樫の樹が目印…」
「エドッ!」
ご親切にご丁寧に、鍾乳洞の入り口がある方向を指差しして教えるバカ正直な弟の頭に特大の拳骨が落ちた。
「痛いッ!何するんだよ、姉ちゃん!」
「それは余所者には教えないって、この村の決まりでしょ!」
「あ、そうか。で、でも…」
エドワードは男の顔を見上げた。黒くキラキラとした瞳が、不用意に口を滑らせたがために姉に叩かれた自分を気の毒そうに見下ろしている。この人は悪い人じゃないよ、と言ったところで姉の逆鱗に触れたことには間違いがない。エドワードはしゅんと肩を落とした。



「そうか。余所者にはタブーだったのか」
男は膝を地面についてしゃがみこむとエドワードの頭をそっと撫でて
「知らなかったから。ごめんな」
と言ってやさしく笑った。クラリッサは突き出された腕の太さに、まるでそれは角材か何かかと思ってしまった。その腕にクラリッサの観察の目が走る。エドワードを撫でた男の左袖は肘まで捲り上げられているのに、右袖は長いまんまでその上、手袋まできっちりはめている。続いて視線は男の足元に落ちる。履き古された靴はクラリッサが見たこともないくらいに大きな安全靴。
男の奇妙な風体にクラリッサの感じる胡散臭さは倍増する。
「鍾乳洞の入り口なんて訊いてどうするの?」
「そりゃあもちろん、入るのさ、中に」
クラリッサの問いかけに男は事も無げに答えた。もうじき18歳にもなるクラリッサに対しても男は人懐こい笑顔を向けてくる。クラリッサはそれが子ども扱いされているみたいで落ち着かなくて嫌だった。
「中に何が『ある』のか、知っているから入りたいのよね。あなたは」
「まぁ、噂程度に少しはね。君たちは知っているのかい?何が中に『いる』のか」
「うん。鍾乳洞には吸血鬼の人形が棲んでいるんだって。もう100年以上、あすこに棲んでいるんだって。人間の血を吸うから人形なのに動けるんだって」
エドワードが身を乗り出して、俄然瞳を輝かせてその話題に食いついた。
「そっか」
男はほんの少し笑顔を翳らせ、瞳をスッと細くした。
「信憑性のない噂話よ」
瞳を輝かせて語る弟とは対照的に、姉の方は大きな溜め息をつきながら素っ気無く否定した。



「あんたももう12歳になるんだから、そんな御伽噺じみたことを何時までも言わないの!」
「だって、おじいちゃんが僕ぐらいの頃に見たって。あの森で自分で動く人形と、大きなマリオネットを操る銀色の髪の人が戦うのを見たって。それで…自分で動く人形は壊されて鍾乳洞に落っこちたって」
「おじいちゃんはもうボケてるじゃない。お父さんだってそんな話を一度も聞いたことがないって言ってる。ボケたおじいちゃんの妄想よ。あんたもそんなのに付き合ってるから」
「でも!一番奥に入った人間は絶対に出てこないって話じゃないか!鍾乳洞から何とか生きて戻った人は化けモンがいた、幽霊がいたって皆口々に言ったって!だから五月蝿く言うんだろ?僕たちもあそこには近づいちゃダメだって。おじいちゃんの言っていることは本当なんだよ、吸血鬼がいるから」
「あすこの鍾乳洞は小さいけれど深くて中が入り組んで複雑なのよ!だから入ると迷って出てこられない、それだけ!」



釣り上がった青目に甚く真剣な青目が真っ向からぶつかって火花を散らした。自分を無視していきなり始まってしまった姉弟ゲンカに東洋人の男はどうしていいものやらとオロオロしている。仲裁に入ろうか、どうしようか。自分が原因のケンカだしなぁ、口を挟むとかえって泥沼か?、といったところ。
エドワードは男の手をガッと掴んでまるで味方になってもらいたいかのように訴えた。
「でもね、あすこには吸血鬼のものすごい宝物があるんだって。それをずっと守っているんだって。村にはそんな言い伝えがあるんだ。だからそれを聞きつけた宝物目当ての連中が…」
「だから吸血鬼も宝物も絵空事!私は嫌いよ、そんな非科学的なこと!そんな話に群がるヤツラが愚かなのよ」
「でも…おじいちゃんが…」
「ボウズはおじいちゃんが大好きなんだな」
男がまたエドワードの頭をクリクリと撫でた。大きくて温かな手に、エドワードはコクンと頷いた。
「非科学的なこと、か。でもな、お嬢ちゃん、世の中には常識じゃ計れねぇモンもあるんだぜ?自分で動く人形だって…」
「そんなこと言って、あなたも夜になったら人目を忍んで鍾乳洞に潜り込むつもりなんでしょ?あなただってありもしない一攫千金を求めていくらでもやってくるバカなトレジャーハンターのひとりでしょうが!」
クラリッサはエドワードの腕を引いて男から引き離した。
「そんなヤツラが行方不明になる度に捜索に借り出されるこの村の人間の苦労も考えてもらいたいわ!行くなら黙って、勝手に野垂れ死んでね!行こッ、エド!」
クラリッサは如何にも憤慨していますと言わんばかりにズンズンと小走りに去っていく。エドワードは男の方を名残惜しそうに振り返りつつ、姉に気づかれないように「バイバイ」と手を振った。男も「バイバイ」と手を振り返した。



「気が強ぇ女だなぁ…」
遠ざかっていく、色の薄い金髪を耳の辺りで揃えているその頭の形と、小奇麗な顔で初対面の男にも遠慮なしのキツイ言葉をぶつけてくるところと、小さな男の子とワンセットでいる姿が誰かに似ていると男は思った。
「そーゆー女、嫌いじゃねぇけどな」
男はへへっと笑って、それから人目を気にせずに時間を潰せる場所を探すことにした。



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postscript  
原作終了後、鳴海とエレは移動サーカスをしながら世界を回るわけですね。これはその旅の空の一コマみたいなものを書いてみたくて始めてみたんですけれど。オリキャラを出すのも初めてだし、オリキャラはハッキリ言って苦手なのでドキドキなんですが、原作終了後の話な以上、新しいキャラは出さざるを得ないんでどうかお許しください。

どこかの英語圏の国の、辺鄙な村でのお話。
タイトルの『迷宮のreplicant.』はC&Aの曲からお借りしました。
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