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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。





今日は文句のつけようのない秋晴れ。
そして、平和が戻ってから本格的に再始動した仲町サーカスの興行初日の目出たい日。
間もなく開幕するサーカスの裏側は緊張と興奮が蔓延して大わらわ。仲町の怒号がとんで、ノリ・ヒロ・ナオタが走り回って、涼子・勝・平馬が番組のイメトレを繰り返し、リーゼの指示でドラムが吠える。法安とヴィルマは雲の上から高見の見物。開幕に合わせ帰国してサーカスに合流しているしろがねも番組に飛び入り参加、スタッフとの衣装合わせや打ち合わせに余念がない。
団員が増えた新生・仲町サーカスはこれまで以上の活気、というもので満ち溢れている。
鳴海は、というと舞台に上がる予定がないので(正しくはいまだ人様に見せられる芸を見につけてないので)、どことなく気分ものんびりとテント前でキグルミ姿で子どもたちに風船配り。
青い青い空を振りかぶって
平和っていいよなぁ……
なんてしみじみ噛み締めながら。



そこに
「ナルミ」
と声をかけられた。
準備に忙しい筈のしろがねが、陽光に銀髪をキラキラとさせながら立っている。しろがねの表情が何となく強張って見えるのは打ち込みが近いからに違いない。だって、最近ではちょっと珍しい笑顔のないしろがねに上目遣いに睨まれる心当たりは、鳴海にはどこにもない(はずだ)から。
「ナルミにお客様です」
どうしてか、声も硬いしろがね。
しろがねの態度硬化の理由がさっぱり分からない鳴海だけれど、その指し示す方向に首を向けるとそこにはひとりの女性。外国人。それもかなりの美人の。
どこかで見たような気もするけれど、誰だったかが思い出せない。
メガネをかけた知的美人はキグルミに向かってにっこりと微笑んだ。
キグルミの中の男の鼻の下がちょっと伸びる。
しろがねにはテレパシーだかクレアボワイアンスだかの能力があるのかも知れない。キグルミの中で鳴海がどんな顔をしているのか分かるらしく、目が三角になった。



「どちら様?」と声に出して訊きたいけれど、夢を売るキグルミは子どもの目があるこの現状で口を開いてはいけない、いけない。鳴海はキグルミの上から口を押さえた。
知的美人は「オ久シ振リデス」とリーゼ以上に物凄くたどたどしい日本語で挨拶しながらペコリと頭を下げた。
「コンニチハ。私はしゃろん・もんふぉーるデス。なるみサン、私ヲ覚エテマスカ?」
キグルミは身じろぎひとつしない。一生懸命、記憶の海に投網を入れているところらしい。知的美人が助け船を出す。
「私ハかるなっくデアナタニ助ケテモラッタ教師デス。アナタハ私ノ命ノ恩人デス。アリガト。Merci beaucoup. 」
感謝の意を述べながら軽くすぼめられる、彼女の色っぽい口元にピンと来る。
頬をほんのり染めるシャロンと、ほんの少し頬を膨らませたしろがねの前で、巨大な犬のキグルミがぽん、と手の平を打った。







The jealous Moon & the honest sun.(1)







『よかった、すっかりお元気そうで!』
『こちらこそ、その節はどうもありがとうございました』
『あの時の子どもたちもあの後変わりなく?』
『ええ、一番大きい子はもうジュニアハイに通ってますわ』
テントの内側に引っ込んで、犬の頭を脱いだ鳴海と知的美人シャロンが再会の挨拶をする。鳴海のでっかい両手がほっそりとしたシャロンの手をがしりと包み、ぶんぶんと振り回すようにして握手。
そしてちょっと離れて   比較的近いのだけれど話には参加しない意思が読み取れるくらいの距離をとった   どこか不機嫌そうなしろがねもいる。
そしてそして更にちょっと遠巻きに、鳴海の元を訪れた外国美人の噂を聞き付けたノリ・ヒロ・ナオタが身を潜めつつ、興味津津で聞き耳を立てている。



『どうしてオレがこのサーカスにいるってが分かったの?』
『以前、こちらの勝くんに出会ったときにナルミさんの話をして、「どうしたらナルミさんに会えるかしら?」って訊ねたら、「平和になったら日本の仲町サーカスってところに問い合わせてみて」って言われたの』
『勝から聞いてる。シャロンさんが行き倒れた勝を助けてくれたって』
只今、会話は日本語が不慣れなシャロンに合わせてフランス語で展開されている(おかげでせっかく盗み聞きをしているのに三馬鹿には何が何だかさっぱりなのだった)。



続いてシャロン来日の経緯が語られた。
やがて平和が訪れたものの、とはいえ日本の小さな仲町サーカスの連絡先なんて遠くフランスからはよく分からない。問い合わせの段階で言葉の壁に阻まれることがよく分かった。だから鳴海と再会したい一心で日本語を習い、ネットで日本語検索が何とかできるくらいになったシャロンは辛抱強く検索を続けた結果、今回の仲町サーカス開幕の記事に辿りついたのだった。
頑張って拙い日本語で連絡を取って、「ソチラニ、かとうなるみ、オリマスカ?」と訊ねてみたら彼が期間限定でサーカスに滞在する旨を教えてもらった。急遽、3泊5日の強硬プランを組んでの今日は2泊目。
シャロンはようやく念願の男に再会できたのだった。



『そんなにしてまで会いに来て…?』
シャロンの情熱に鳴海の頭が下がる。
『それなのに申し訳ねぇ、すぐに思い出せなくて。名前だって勝から聞いていたのに』
『いえ、いいのです。色々……大変なことばかりでしたから』
身体を丸めて頭を掻く鳴海に、シャロンはゆっくりと首を振る。
『ただ私はどうしても私に再び命をくれた、命の恩人のあなたに会ってお礼が言いたかった……本当にありがとう』
瞳を輝かせて綺麗に微笑むシャロンと、「命の恩人」と連呼され感謝の握手を返されて心地赤くなり頭を掻く鳴海、それから何だか知らないけれどモヤモヤしてくる胸の内に思わず口が尖ってしまうしろがね。しろがねはぼそっと
「……いつまで手を繋いでるのよ……」
と独り言ちた(感動の再会の握手の流れが続いているのか今だ繋ぎっぱなし、今や相手の手を両手で握っているのはシャロン)。



『あっと、そうだ』
と鳴海が照れ隠しなのか大きな声を出して、何かを思いつく。
『しろがね。悪ぃんだけど勝を呼んで来ちゃくれねぇか?』
無関心を装いたいのだけれど、どうしても鳴海と自分以外の女性が一緒にいるシチュエーションを放置できずにさりげなく周りをチョロチョロしているしろがねに鳴海が声をかけた(身体もしろがねに向けたので、ようやく感動の握手は終了した)。
「お坊ちゃまを?」
シャロンに分かる様にフランス語で話し続ける鳴海に何となく反抗したい気持ちに逆らえないしろがねはわざと日本語で返す(ここでようやく、三馬鹿たちはこの先の事態が何となく読めた)。
「ああ、勝にとっちゃシャロンさんが恩人だからよ。シャロンさんがいなかったらあの英雄もただの食い倒れだったわけだから、礼のひとつもさせとかねぇとな」
「でももう打ち込みの時間が」
「だから大急ぎで頼むよ」
喜色満面で鳴海はシャロンに向き合う。



『シャロンさん、今日はサーカス見ていく時間あんだろ?』
とびきりの笑顔もくっつけられてシャロンの顔がボッと赤くなる。そんなシャロンの様子にしろがねの胸のモヤモヤはもはやムカムカに近くなる。
『で、でも私、チケットを持ってなくて』
『チケットなんていらない、いらない!是非見てってくれよ』
『はい、でしたらお言葉に甘えて』
結果、自分を引きとめるようなことをしてくれる鳴海にシャロンは甚く感激しているようだ。
『そうとなったら。ほら、しろがね、早く勝を連れて来てく……れれッ?』
鳴海は思わず心臓がギクリと引き攣ってしまう。
何故ならそこには負のオーラを全身から噴き出しながら無言で立ち去るしろがねの後ろ姿があったからだ。
鳴海の背中を冷たい汗が一筋流れた。



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