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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。







蜜月。





<4>


「お加減は如何ですか、リングマスター?」
洗濯を終えた着替えを手にしろがねがとある部屋にやってきた。
ここはフウがボードヌイ発射場内の少し広めの部屋に手を加えて急ごしらえの病室となっている。仲町、ノリ、ヒロは大人しく3つ並んだベッドに横になっていた。同じような隣の部屋には三牛親子。
「よう、しろがね」
「しろがね、さんきゅー」
「もう全然平気!」
あちこちを絆創膏やら包帯やらで白くした男たちが手を振った。しろがねは元気そうな面々ににっこりと微笑む。3人が思わず見惚れるくらいに晴れ晴れと。特にノリとヒロはこれまでになくどことなく艶めくしろがねの仕草や姿態に鼻の下が伸びてしまう。


今までしろがねがこんな風に笑うことなんてなかった。口角を上げて、白い歯を見せて、輝くような明るさで微笑んだ顔なんて一度だって見たことがなかった。特にあのアルバイターがやってきてからというもの、ただでさえ笑みに縁遠いしろがねは辛そうな顔ばかり、悲しそうな顔ばかりが目立っていたのだから。だから
「皆さんの経過が順調でよかったです」
と一言ある度にキラキラと光を巻き散らかされると、どうしたって彼女がこれまで過ごして来た過酷というものを考えてしまう。そうしてその過酷から開放されたしろがねが生まれ変わったことを手放しで喜ばしいことだと思うのだ。
しろがねは3人の洗濯物をそれぞれの籠にしまうと
「何か足りないもの、欲しいものはございませんか?」
と訊ねた。
「特にはないよ。食事も充分だし」
「メイド人形がDVDやらゲームやら持ってきてくれたしな」
男たちはしろがねにつられて喜色になる。
「そうですか?何かあったら言ってくださいね」
しろがねは仲町とノリのベッドの間にあるスツールに腰を下ろした。


「なぁ、しろがね。勝はどうしてる?」
線路沿いに点々と脱落した仲町サーカスのメンバーをフウのメイド人形が回収し、ここボードヌイにつれてきた翌日、宇宙から帰還した勝もまた救助されて戻ってきた。安静にしてください、というメイド人形の制止を振り切って仲町たちは遠巻きにでもいいからと勝を出迎えに行った。助けにいった鳴海に抱き抱えられて輸送機から下ろされた勝はくったりとしていた。顔色も悪く、死んでいるかのように見えた。皆が心配して見守る中、鳴海が「疲れ切って眠っているだけだ、心配ない」と言った。
駆け寄ったしろがねが鳴海の胸に額をつけてから、勝の上に屈み込んだ姿が印象的だった。
そのまま勝はどこかに運ばれていってそれきりだ。
「お坊ちゃまは今、精密検査を受けているところです」
「そっか」
「精密検査、と言ってもここでは限界があるのでフウが言うのにはなるべく早く、彼の手持ちで逸早く稼動できるラボに移動して行いたい、とのことですが」
このボードヌイには大した施設はない。治療をするにも大勢が長逗留するにも不向きだ。小さな子どもたちもたくさんいる。だからフウはできるだけ早く移動するべく、メイド人形たちを駆使して準備を進めているところなのだ。


「しろがねはお坊ちゃまに付き添ってやんなくていいのかよ」
自分たちの傍でゆったりとしているしろがねにノリが言う。
「お坊ちゃまにはリーゼさんがついてくださってますから」
無事に戻ってきた勝を見てしばらくは、あまりの嬉しさに涙が止まらずに泣きじゃくっていたリーゼだったが、今は常に勝について甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「前だったら物凄い剣幕で『お坊ちゃま!お坊ちゃま!』って誰にも面倒を譲らなかったのに」
「お坊ちゃまは……もう、私がお守りしなくてもお強くなられましたから」
ヒロの言葉にしろがねは複雑な笑みを見せる。
何時の間にか、しろがねは勝に守られていた。勝を守ることが彼の傍にいる存在理由だった。だからもはや、自分は勝の傍にいる必要はなくなったのだ。大丈夫、これからリーゼが勝のことを見守ってくれることだろう。もっと温かい存在として。


「勝、大したもんだよな」
「勝の話、早く聞きたいなぁ」
ノリもヒロも、何時の間にか自分たちよりも成長してしまった小さな弟に想いを馳せた。
「まあ、検査が終わっても草臥れてんだろうから向こうから顔を見せに来るまでは待っててやれ」
自分だって勝の顔を見たい仲町だったが、勝のことを考えて考えなしに行動しそうな息子たちに釘を刺しておく。
「へーい」
「それでさ、しろがね」
ノリが少し聞き辛そうに声をかけた。
「ヴィルマ…やっぱり…」
ヴィルマ、の名前が挙がってしろがねが整った眉を苦しそうに寄せた。その表情を見て、3人は察する。
「そっか、勝が言ってたんだ。でももしかしたら、って思ってた…。じゃ、ギイも?」
「ヴィルマの遺体はメイド人形たちが見つけましたけれど、ギイ先生はまだ…」
しろがねは蒼白な顔を俯かせ、膝の上に握り拳を作った。鉄道での出発前夜、頭を撫でてくれたギイの手の温もりが忘れられない。物心がついたときにはもうギイが傍にいてくれた。どれだけの距離をともに旅しただろう?どれだけの時間をともに過ごしただろう?厳しい師であった、けれどやさしい人だった。いつも、自分を気遣ってくれた。
唯一肉親のように思える、兄、のような人だった。
「ご無事でいてくださるといいのですが…」
しんみりとした重苦しい空気が室内に流れた。





「ちわス。リングマスター、ノリさん、ヒロさん、具合はいかがっすか?」
辛気臭い雰囲気を払拭する大音量の低音が狭い室内に響き渡り、見ているこっちの胸が透くような笑みを浮かべた大男がやってきた。仲町たちにとってそれが自分たちのサーカスでアルバイトをしているあの無愛想な男と同一人物であると認識されるまで時間がかかったとしても仕方のないことだろう。こんなにデカくて髪を伸ばしたマッチョを他に知らないから誰だか分かるようなものだ。
勝を連れてきた鳴海は、その小さな身体がメイド人形の手に渡り処置室に運ばれていく様を見送ると、真っ直ぐに仲町たちのところにやってきて
「皆のおかげで無事にシャトルを飛ばすことができたっス。ありがとうございました!」
とでっかい身体を頭が膝につくほどに曲げて礼をいうと、にこり、と歯を見せて笑ったのだ。
仲町たちが「こいつ誰?」と目を点にしても仕方ないだろう。何しろ「あの」アルバイターは笑わないどころかロクに口も利かず、どんよりと濁った瞳で他人を睨み付け、棘棘とした空気で他人から距離を置いてばかりだったのだから。普通にコミュニケーションをとっていた法安が不思議だった。


それが今はいつ見てもにこやかで穏やかで、自分から気さくに話かけてくる。眉間に深く刻まれていた皺は消え、瞳はピカピカと輝いて、険悪なムードだったしろがねとは傍から見ても仲良しどころの話じゃない。ギイのことで打ち沈んでいたしろがねも鳴海の登場で救われたような顔をしている。仲町たちは幾らか呆然と
「おう、いい加減だぜ」
と返すので精一杯だった。
正直、笑う無愛想(だった)アルバイターにまだ慣れない。
「何か持ってきてもらいたいものとかないっスか?言ってくれりゃあ何でもボードヌイ中、屋探ししてきますよ?」
ノリとヒロの目がキラリと光る。
「何でも?」
「何でも」
鳴海の言葉にノリとヒロが悪巧みをするような視線をチラと交わし、ふたり揃って
「ナルミ、ちょっとこっち」
と手招きをした。しろがねに聞こえないようにすべく、3人の頭をつき合わせてヒソヒソと会話をする。


「ほらさ、しろがねは女だから頼みにくいし、メイド人形に言ってもどうせ分からないし」
「おまえなら分かるだろ?男って必要じゃん?生理現象だからさ」
鳴海はこっちを訝しそうに伺っているしろがねの様子を素早く盗み見ると更に小声になって
「Hなヤツっスか?」
と囁いた。ノリとヒロの目が思いっきり弓なりになる。
「そうそう。本でもDVDでもいいんだけど」
「今、隣にも寄ってきたんスけど、ナオタさんたちにも同じこと頼まれましたよ」
「やっぱな。なぁ、どっかにねーかな?」
「絶対どっかにはありますよ。発射場なんて長いこと詰めるとこだし、男が泊まれば一泊だって必要になってくるもんだし」
「だろー?」
「どっかで調達してきてくれよ。もう溜まって溜まって」
「分かったっス。探して持って…」


「何を持ってくるの?」
いつの間にかしろがねが3人の頭の上から男の内緒話を覗いている。
「いや、何、ちょいと果物を、な」
3人はバタバタと身を引いた。
「そうそう、ちょっとナルミに持ってきてって頼んだんだよ」
「果物でしたら私が」
「いやいや、しろがねは他の雑用もあって忙しいからそれくれぇはオレがやるって」
「でも」
「いーから、いーから」
鳴海はしろがねの背中を押しやるとノリとヒロに向き直る。
「ノリさん、ヒロさん。ここじゃ多分、【日本の果物】は難しいと思いますけど」
「いい、【外国の果物】でもこの際、大味なのは我慢する」
「汁っ気さえ十分なら」
「あ、熟れすぎてんのは勘弁な」
「了解っス」
「ナルミ、果物なら厨房に…」


果物、が隠語になっていることに気がつかないしろがねは鳴海に本当の果物の在り処を教えようとする。真面目なしろがねへの返答に困った鳴海は苦笑いを浮かべて
「すまん、しろがね。急ぐからさ」
と逃げることにした。
「おう、ナルミ!」
「何スか、リングマスター?」
「オレにも適当に【果物】見繕ってくれや。オレは多少熟れててもかまわん」
「了解っス」
「オヤジ、好きだねぇ」
ノリたちがクスクス笑っている意味がしろがねには分からない。鳴海がニヤリと笑い顔を残して部屋を出て行くと、その外でトムたち子ども軍団につかまった。病気の苦しさからも自動人形の脅威からも完全に開放された子どもたちはどれも生命力に満ち溢れた満面の笑みだ。
「ナルミ!サッカーしようよ!」
「おう、いいぜ?だけどもうじき昼飯だからそれが終わってからな」
「はーい」
「もう何の気兼ねなく、いくらでも思いっきり太陽の下で遊べるからな…」
子どもに囲まれた鳴海の声が次第に遠ざかっていく。





「もう…」
もう、と言いながら鳴海が消えてもその方向を見つめるしろがねの頬はピンク色に染まり、やさしそうな柔らかい表情を見せている。
「ナルミは。本当はああいう風に笑う男だったんだな」
仲町が幸せそうなしろがねをどこか嬉しそうに見遣りながら言った。しろがねは再び仲町の傍に腰掛けると、「ええ」と大きく頷いた。
「初めて出会った頃のナルミはゾナハ病の発作が苦しそうで少し怒りっぽいところもありましたけれど、暖かな笑顔を見せる人でした」
あの笑顔にどれだけ私が救われたか、誰にも分かるまい。そう、ナルミですら。
そしてナルミは私を支配していた呪縛を解き放ち、心に棲みついた。
しろがねは鳴海を想うと温まる胸元を押さえた。


「けど、その笑顔が失せるくらいに、辛い経験をしたんだな、あいつ」
ノリが白い布団カバーに寄った皺に目を落としながら言った。
「オレらだって、ヴィルマがいなくなって辛いし、ヴィルマを殺した人形が憎いのに…。たくさんの死を目の当たりにしちゃあな…」
しろがねを宿敵として頑迷に憎み続けた鳴海が正しいとは思わないが、それでもこうして振り返ってみれば同情の余地がないわけではない。事情も知らず、ただしろがねを邪険にする嫌なヤツだと一方的に思い、鳴海に余所余所しい態度をとっていた自分たちが少し恥ずかしくなる。何も知らなかったとはいえ、自分たちが気楽な日常を謳歌していたとき、鳴海の双肩には世界がかかっていたのだ。


「あんなツラでもオレたちより年下だもんなぁ」
「ハタチだっけ?」
「まだ19歳です」
「見、見えねぇ」
「そうですねぇ」
しろがねは朗らかに笑った。そんなしろがねの笑顔を皆して見守る。
「でもよかったな、しろがね」
「何がですか?」
「大好きだったんだろ?あいつのこと」
「え?」
しろがねの頬がボッと赤くなる。
「は…まぁ…」
「仲直りできてよかったじゃないの」
「笑ったり、そんな風に照れたり。そんなしろがねが見られるなんてさ」
「それもナルミのおかげなんだろ?」
「はい」


しろがねは何の躊躇いもなく即答する。とっておきの笑顔をつけて。
「こんな幸せそうなしろがねが見られてオレらも嬉しいぜ」
オレたちじゃどう頑張ってもこんな笑顔にしてやれなかったもんな。失恋の寂しさもこめつつ、ノリとヒロはしろがねの幸福を祝福した。





鳴海と想い合えて幸せ。
なのだけれど。
しろがねは出発前に愛撫を交わそうとしたあの時から自分に触れようとする鳴海の仕草の中にどこかひっかかりを感じていた。
今はそれを避けるために触れることをあえて控えているような距離感がある。皆不自由しているんだから、とお互いの肉体的な接触を戒めるのだ。鳴海が何かを思い悩んでいるのがしろがねには分かる。鳴海はしろがねがそれに気づいていないと思っているようだが。


私がフランシーヌ人形の生まれ変わりであることへの嫌悪感が鳴海の中に残っているのだろうか?
時間が経つにつれて冷静になると、どうしてもそれが喉に刺さった小さな小骨のように気になるのだろうか?
愛を誓い合っても、消えない蟠りは存在するのだろうか?
そんな恐れがどうしても拭えず、しろがねは笑顔の下で恐怖に慄いていた。
鳴海に見放されてしまうのではないか、という恐怖に。





postscript ようやく取り戻した平和な日常。エピをひとつ挟みました。鳴海と仲町サーカスの面々との溝を埋めるエピが欲しかったのです。

この先、このふたりはどこから見ても円満な生活を築いていってもらわねば鳴しろ信者としては納得がいきません。鳴海はともかく、しろがねにとって仲町サーカスは実家です。だのにダンナである鳴海が仲町の面々とあんなギスギスした関係ではお話になりません。個人的に鳴海にはノリヒロとバカをやれる関係になって欲しいんですよ(涙)。

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