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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。







蜜月。





<3>


鳴海はこれから勝を迎えに行くつもりでいる。
出発まで、それほど時間があるわけでもない。
だから本当は、その隙間の時間でしろがねと濡れ合っている場合ではないのだ。
こんな風にしろがねを硬く熱く欲しがっている場合ではないのだ。
でもどうしても、この喉元までに突き上げてくるものを押さえることができない。
性急すぎるのは自分でも気づいている。
できるならばもっとゆっくり、時間をかけてしろがねを愛したい、愛してやりたい。
これまで彼女を引き裂くようにしか抱いたことがないのだから。
己の欲望を遂げるだけに終始し、冷たく犯したことしかないのだから。
だから。
想いが通じ合った今はやさしく、いたわるように、抱いてやりたいのに。
だのに。


しろがねが唇を齧り取られるのではないかと思うくらいに、鳴海は激しいくちづけを繰り返した。深く捻り込まれる鳴海の舌に応え、しろがねはその肉厚な舌を噛み千切らんばかりに強く吸い上げる。鳴海の太い腕はしろがねの肋骨をへし折りそうな力で抱き締め、しろがねの細い腕は大樹を絞め殺すしなやかな蔓のように鳴海の首に巻きつく。鳴海の巨躯の重みを受け、しろがねは胸を合わせたまま浅く幸せな吐息をした。鳴海はしろがねの呼気すらも逃さず、唾液とともに啜り上げる。鳴海の唾液もまた舌を伝い、しろがねの口腔を満たす。男と女の唾液は循環し、程よく混じった甘露をふたりは喉に落とす。
「ん…んっ…」
飲み下し切れずしろがねの口角から溢れ、耳や首筋に垂れ落ちた唾液を鳴海が唇で追いかけた。肉欲を隠さない熱い息を敏感な部位に吹きかけられてしろがねは身を捩り逃れようとするも、鳴海の濡れた舌はやすやすと彼女の動きについてくる。女の甘い嬌声が男の理性を失わせる。
勝を迎えに行くこと、出発まで間がないこと、それらが頭から抜け落ちてしまいそうになる。


いい加減、やめねぇと。
オレの代わりに戦ってくれた勝がまだ帰ってきてねぇ。
ボードヌイへの道中、落伍した仲町の皆も戻ってきてねぇ。
安否の危うい名前も挙がっている。
そんな中、こんなことをしているのは不謹慎だろう?
どうしたらこの逆上せ上がった脳ミソはそこんとこ分かってくれんだ?
ああ、だけどだけど。
欲しい。
しろがねを今すぐに抱きたい。


分かっている。鳴海もしろがねも、勝の不在に浮かれてはいられないことなど痛切に。
勝こそ、自分たちの恩人なのだから。彼なしで、ふたりの愛の成就はありえなかったのだから。
けれどこれまでの、触れたいのに、愛し合いたいのにそれが許されなかった時間が長過ぎた。
限界を遥かに超えたところまでふたりは忍耐を重ね過ぎた。
ひたすら人間らしい欲求よりも非人間的な責任と義務に応えてきたふたりにとって、確かな人肌とそこから切ない程に感じる愛情が何物をも凌駕してしてしまったとしても詮無いことだろう。
積年の孤独と破壊的な重圧、残酷な運命の神の手からの開放。
ようやく手に入れた愛情発露の権利。


熱を帯びた鳴海の唇が徐々に下方に移る。相変わらず、餓えた肉食動物がようやく仕留めた獲物をガツガツと食むような、衝動を制御できていないことが赤裸々に伝わる幾分乱暴な愛撫ではあったけれど、しろがねはそれを喜んで受け入れた。鳴海が自分を欲しがってくれている、それが肌に沁み入るようで嬉しくて堪らなかった。涙が零れた。心と心が融け合うように、お互いがお互いに心を開放していることが実感できる。
これまでは肌と肌を重ねても、身体がひとつになっても、鳴海の心はどこか遠く離れた場所にあって、そのどうしても縮められない距離の空しさに血の涙を流したものだった。鳴海から与えられるただひとつの感情は憎しみだった。だけれど無関心よりは憎悪の方がきっとマシだろう。だから辛い思いをしても、心が繋がらないのならばせめて身体を繋げたいと願った。
そこに相手からの愛がないのだとしても。自分から捧げる愛は無尽蔵だったから、それでよかった。


でも今は、狂おしい程の鳴海からの愛情がここにある。
しろがねは鳴海の背中に回す指に力をこめた。
「あ…あっ、ナル、ミ…」
「しろがね…」
幸せに咽ぶ声が己の名を呼ぶ。鳴海は心が奮い立ち、あまりの感動に鳥肌が立った。理性は完全に断ち切られた。
しろがねの身体に纏われた簡単な作りの部屋着の前を開く。見事な乳房の上で既に硬く尖る先端が鳴海を誘っていた。鳴海は迷うことなくそれに口をつけた。
「あぅ…あ…あ…」
しどけなく、しろがねの身体がくねる。身体から立ち上る女の匂いが濃くなる。甘いその体臭に鳴海はクラクラと酔いしれた。
鳴海の舌先は夢中でしろがねの乳首を貪り、両手はその両の丸みを包んだ。
しろがねをもっともっと気持ちよくさせてやりたい。彼女にくれてしまった悲しみを悦びに塗り替えてやりたい。
鳴海は柔らかく、滑らかなしろがねの乳房をやさしく揉んでやろうとした。





揉もうとして、
鳴海は急に
行為を途中で止めた。





指が、強張って動かなかった。





「ナルミ?」
いきなり動きの止まった鳴海にしろがねは怪訝そうな、どこか心配そうな声をかけた。
「……すまん、こんな中途半端で。今は…止めとこう」
鳴海はしろがねの胸に頬を押し当てたまま、呟くように言った。
「え?」
「勝が戻ってきてねぇのにさ…。勝はあんな小せぇのに大仕事をしてよ、今大変な思いをしているってのにオレらがこんなことしてるの、やっぱよくねぇよなぁ」
今言ったことをチラとも思っていなかったわけじゃない。でも、止めた本当の理由はそれじゃない。
鳴海は戸惑いを苦笑いに隠しながらゆっくりと身体を起こした。しろがねも鳴海の口にした言葉にハッとした顔をしている。
「そ、そうよね。お坊ちゃまに失礼よね。嫌だわ、私ったら…」
しろがねも着乱れた部屋着の前を合わせながら、鳴海に次いで身体を起こした。
「私も分かっていたの。お坊ちゃまが無事に戻られるまでは自重しようと。けれど、どうしても心が…」
あなたでいっぱいになってしまう。
気恥ずかしそうに罰が悪そうに小さく微笑んだ顔にほんの少し、乱れた前髪が何とも愛おしく、鳴海はそれを直してやろうと手を伸ばした。伸ばして、躊躇したようにしろがねの顔の直前でまた手が止まった。


「ナルミ?」
「何でもねぇよ…」
どうにか恐る恐る、ぎこちない指先で前髪を除けてやった。相手の動作の中に忍び込んだ何らかの変化を敏感に嗅ぎ取ったか、しろがねが不安そうな瞳を向けている。鳴海はしろがねに触れることを躊躇ったのは自分を戒めたからだというフリをして
「ごめんな、我慢しきれねぇで。今は浮かれている場合じゃなかったんだよな」
と彼女の不安を誤魔化した。
「いえ、ごめんなさい、私の方こそ…」
勝の帰還よりも自分の感情を優先してしまったことに強い罪悪感を抱いていたしろがねは鳴海の言葉を素直に受けとった。しろがねの反応に彼女が覚えた不安を解消できた手応えを得た鳴海は密かに安堵の息を漏らした。
「謝るなって。オレだってこうしたかったんだから」
鳴海は両手をしろがねの傍らのシーツについて、身体だけで近づくとしろがねの額に唇を寄せた。
「ナルミ…」
しろがねが鳴海の腰に腕を回し、逞しい顎に、厚い唇に軽いキスのお返しをする。キスをすること、肌と肌を重ねることでは鳴海の躊躇いは生まれない。もっともっと、しろがねが欲しくなる。鳴海の理性の糸がまた切れそうになる。
けれども、しろがねと愛し合うためには『この手で』彼女に触れなければならない。次にまた、さっきと同じように触れることに躊躇いを見せて途中で止めてしまったら今度こそしろがねを誤魔化せない。鳴海は次第に深くなるキスを交わしながらこの先どうしていいのか分からずに苦悩した。


と、室内に軽いノックの音が響く。唇を合わせたまま鳴海としろがねの動きが止まり、続いてメイドロボットの抑揚のない声が聞こえてきた。
「ナルミ様。出発の準備が出来ました。ヘリポートにおいでください。フウ様がお待ちです」
鳴海はホッとした。唇は潔く離れた。
「おう」
と鳴海が返事をすると、メイド人形が静かに入室してきた。メイド人形は寄り添って恋人の会話を交わしてたことが明らかなふたりの姿を見ても顔色ひとつ変えないけれど、鳴海としろがねは相手が人形であっても濡れ場を目撃されたら恥ずかしい。
「ダメね、わたしたち。言った先から…」
「ホントだな。名残惜しいけど、今はこれで我慢、な…」
くっついているのは危険とばかりに鳴海は立ち上がる。
「オレはもうヘリポートに行くわ。それで勝の着水地点に出発するけどさ、今度はちゃんと、勝も連れておまえのところに帰ってくるから…心配しねぇで」
扉に向かう鳴海の背中にしろがねが慌ててすがりつく。


「わ、私も一緒に行きます。せめて見送りを…」
さあ行きましょうとドアノブに手を伸ばすしろがねに鳴海は
「おいおい、そんなカッコで表に出るのは勘弁してくれよ」
と押し止めた。
「?何かおかしい?」
「おかしい?って、それ部屋着だろ?」
「大丈夫、ショールを羽織れば。それならいいでしょう?」
「おまえがよくてもオレがヤなの」
「何が?」
根本的にしろがねは分かっていない。上も下も下着をつけていないのに、布地の薄っぺらい、合わせも浅い、そんな格好で人前に出たらどれだけの衆目を集めるかということに。鳴海ですら改めてしろがねの天辺から爪先までを見渡して赤面してしまうというのに。
「あのな、これまではどうだったか知らん。おまえが露出に無頓着なのもハダカ同然でウロつきまわるのが平気なのも知ってら」
「でもこれ」
裸じゃないわよ、と言いたいしろがねを鳴海は遮る。
「布地が覆ってても透けてんのはダメ」
「……」
それに何の問題があるの?としろがねは眉を顰めている。


空気の読めないメイド人形が
「ナルミ様。出発の準備が出来ました。ヘリポートにおいでください。フウ様がお待ちです」
と繰り返した。鳴海としろがねは一瞬問答を止めてメイド人形に目をやったが再び当座の議論に戻る。
「だって私、あなたが出かけるのであればできるだけ傍にいたいのですもの」
「そりゃオレだっておまえの傍にいたいのは山々だよ。ああもう、分かんねぇかなぁ。好きな女の肌を見るのは自分だけの特権、そんな風に思いたい馬鹿な男のうわ言だと思ってくれよ。大抵の男は自分の女が他の男に肌をさらすのは嫌なもんなの!惚れた弱みとでも何とでも」
「分かった。きちんと着替えてからあなたを見送りに行く」
鳴海が驚くほどあっさり、しろがねは引いた。しろがねは鳴海の口から「好き」とか「惚れた」とか「自分の女」とかいう単語がボロボロと零れたことがとても嬉しかったのだ。だから鳴海の言うことは何でも聞いてあげようと思った。


「それじゃ、後で」
「おまえが来るまでは絶対に出発しねぇでいるから」
「ん」
ふたりは自然と唇が引き合う。
「ナルミ様、ヘリポートにおいでください。出発予定時刻まで後…」
「分かったよ!おめぇら人形ってのはマジで融通が利かねぇよなぁ」
恋人たちのムード、などを感じる機能などないメイド人形に鳴海は噛み付いた。しろがねは可笑しそうにクスクス笑い、「またね」と鳴海を送り出した。
廊下に出た鳴海は、ふう、と溜め息をつく。
「ナルミ様、ヘリポートにおいでください」
「クドいなぁ、この石頭!ほら案内しろよ!」
鳴海の言葉を受け、メイド人形は歩き出す。鳴海はその背中に、け、と舌を突き出した。


「でも…融通が利かなくてかえってよかったのかもな…」
一転、その顔に苦しそうな色が滲む。
この手でしろがねに触れる機会を与えられずに済んで。もしもメイド人形が空気を読んで気を遣ってくれていたら、鳴海はしろがねをどうやって愛撫していいのか分からずに彼女に再度不穏な想いをさせてしまうところだった。
鳴海は自分の両の手の平をじっと見つめて複雑怪奇な表情を浮かべると、固い握り拳を作り、メイド人形の後を大股でついていった。





postscript
そう簡単にはさせません(笑)。と言いますか、鳴海は想いが通じ合った後からが真っ当な意味での恋心を熟成させる期間に入ったのではないかと思うのです。結局のところ初めて会ったテントの時点で「一目惚れ」をしていたことにされてしまったのですが、軽井沢での離脱までにしろがねに対し「愛」なんてものを感じていたとは到底思えず、あの告白で思わず口走ってしまったと考えた方がむしろ自然で(そうあって欲しいとも思う)。

仮に恋愛感情を抱いていたのだとしてもそれは未成熟なものだった筈です。その後、鳴海は記憶喪失になりしろがねのことを忘れ、憎悪の対象としか見られなくなります。そしてどの段階で記憶が回復したかは定かではありませんが、しろがねへの愛情が復活したのだとしてもそれは非常に鬱屈されることを余儀なくされ、愛は深く大きくなったのだとしても円やかに醸される時間は与えられなかったわけです。相手の気持ちを思い遣る余裕はなく、ただ自分の想いを御するので精一杯、逆に愛している事実を打ち消そうと極力考えないようにしていたに違いないんです。

だから何の制約も受けずに愛し合えるようになって初めて、鳴海はしろがねと愛することに向き合ったと思うのです。どうすればしろがねを一番幸せにしてやれるのか。愛しているからこそ悩みの種も出てくるのではないですかね?
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