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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。







こんなにも、月が美しいものだなんてこれまで感じたことはなかった。


昨日、シャトルを運ぶ客車の中から見つめた月は、何とも物悲しく見えたというのに。


愛する人ともう二度と今生で見えることがないのかと思うと。
愛する人に憎まれたまま、この愛が終わるのかと思うと。


辛くて、切なくて、苦しくて、胸が切り裂かれてしまいそうなくらいだった。
胸が重苦しい空気に酸欠になってしまいそうだった。
どうにも抗えない絶望に、胸が押し潰されてしまいそうだった。


けれど、今はどうだろう?
胸が喜悦で膨らんで、弾けてしまいそう。
胸の内側から押さえきれないほどの温かい何かが溢れ出してくる。


同じものでも受け取る側の心が変わると、見え方が変わる。

人間とは本当に不思議な生き物だ。







蜜月。







<1>


しろがねの銀色の瞳が銀色の月を見上げる。
灯りを落とした部屋、もうベッドに横になった方がいいのは分かっているけれど今夜は興奮して眠れそうにない。
しろがねは窓際に立ち、月を飽くことなく見つめながら幸福な吐息を漏らした。


勝がフェイスレスから訊き出したゾナハ病を止める方法は彼女が歌を歌うことだった。
その歌を歌い終わると、どこからともなく拍手が巻き起こった。
長い長い、『しろがね』の戦いの歴史の終焉。
哀しくて淋しい、しろがねの91年の人生の報われた瞬間。
フウは彼女に手を差し伸べて、「ご苦労様」と声をかけた。
フウにもまた、彼なりの万感の思いがあるのだろう、その手は小刻みに震えていた。
「さぞかし疲れただろう?勝くんのことは心配しなくていい。汚れを落としてゆっくりと休みなさい」
フウはしろがねにそう言うと、今度は鳴海の元に労いの言葉を掛けに行った。
しろがねはメイド人形に案内されて、発射場の宿泊施設の一部屋に落ち着くと、ボロボロで血塗れのウェディングドレスを脱いだ。
そしてシャワーを浴び、すっかり汚れを落とすと用意されてあった部屋着に袖を通した。
一緒に食事も用意されていたが胸がいっぱいであまり進まなかった。







いろんなことのあった一日だった。


本当に、いろいろなことが。








まさか、勝が鳴海の代わりに宇宙へと旅立っただなんて夢にも思わなかった。
しろがねの『お坊ちゃま』は何と強い男子に成長したのだろうか?
発射場に着いたしろがねは、フェイスレスの元に向かったのが勝だと聞いて愕然とした。
鳴海もまた同様に顔色を無くしていた。
自分の背中を守ることができるほどの男が、小さな男の子、それも彼の記憶の中でいつも泣いてばかりいた勝だったなんて夢にも思わなかったのだ。
勝のついた「自分はベテランの『しろがね』だ」という嘘を信じて疑わなかった。
それくらい、鳴海と背中合わせに戦った勝は強かった。
自分の背中を預けられるだけの頼もしさがあった。だから、自分の負うべき責任を託すことができた。
ふたりは勝の無事を祈った。
けれど、しろがねは勝からの連絡を一日千秋の思いで待ち侘びながら、同時に思った。


もう、お坊ちゃまは私を必要としないくらいにお強くなられた。
そして私にもまた、自分が人形ではなく人間だと完全に信じられる日が訪れた。
私からはお坊ちゃまのお傍にいるという存在理由はなくなったのだ。


しろがねは月を見つめる目を細めた。
一度、勝の傍にいるという存在理由を失ったことがある。
そのときのしろがねの動揺は筆舌に尽くしがたかった。哀しくて苦しくて、これからをどうしていいのか分からなくて。
けれど、今は少しも動揺をしていない。哀しくも苦しくもない。
むしろ、胸はこれからの期待と希望に満ち溢れている。
ただ、こんなにも早く、勝が自分の元から巣立つ日が来るとは思わなかった。
何時の間に、こんなにも強くなっていたのか。


しろがねは勝に感謝せずにはいられない。
勝は、鳴海を地上に残してくれた。
自分と鳴海の幸せを願って、小さな身体で大きな責任を背負って。
そうして勝はフェイスレスの心を砕いた。
ゾナハ病の止め方を見事訊き出して、今は地球への帰還の途についている。
「この星空のどこかにお坊ちゃまがいらっしゃるのかもしれない」
どうか一刻も早く、どうかご無事で。
しろがねは手を胸の前に組むと、星空に祈りを捧げ、想いを馳せる。








いろんなことのあった一日だった。

本当に、いろいろなことが。








確かにしろがねは勝のことが心配だ。
だけど今、それよりも何よりも彼女の心の大半を占めているのは加藤鳴海だった。
鳴海を想うとしろがねの心がじんと痺れてくる。
鳴海のことしか考えられなくなる。
勝がまだ帰還していないというのに、鳴海で心がいっぱいな自分は薄情なのではないか、と思う。
でも、溢れてくる感情を塞き止めることは到底できない。


ナルミが私を「愛している」と言ってくれた。
やさしく肩を抱いてくれた。
光り輝く瞳で私を見つめてくれた。
力強く、私を抱き締めて、神さまの前でキスをくれた。何度も、何度も。
しろがねは自分の唇を細い指先でそっと触れた。舌先で指の腹を舐めてみる。
蘇る、官能的な感触。
しろがねは思わず身体を震わせた。
「不謹慎ね……お坊ちゃまがまだお帰りになられていないというのに。自分のことばかり、考えてしまって」
そう言いながらも、彼女の指は唇をなぞり続ける。


もう一度、鳴海のくちづけが欲しい。
骨が折れそうなくらいに強く抱き締めて欲しい。
輝く星の帰ってきた瞳で熱く見つめて。
憎悪しか語らなかったその唇で、私への愛を囁いて。
そんなことを考えていると、しろがねは心だけでなく身体もまた熱くなる。
こうして鳴海と離れていると、あれが夢だったのではないかと不安になってしまう。
あんまりにも突然の、鳴海の愛の告白だったから。


「きっとナルミもどこかの部屋で休んでいるはず…。メイド人形に聞けばどの部屋か教えてくれるかもしれない…」
パッと閃いた考えにしろがねは弾かれたようにドアに向かった。
けれど、ドアノブに手をかけようとした瞬間、動きがピタ、と止まってしまった。
いい考えだと、思ったのだけれど。
鳴海は草臥れているはず。
もう眠ってしまったかもしれない。
部屋着のまま訪ねていったら、物欲しそうに思われるかしら?
それにもしかしたら、こんなに一緒に居たい、話をしたいと願っているのは私だけなのかもしれない。
しろがねはつい最近までのふたりの温度差を考えると、ベクトルが同じ方向を向いたはずの今でさえ鳴海との間に隔たりがあるような気がして怖い。


鳴海を愛することを許されたしろがねの心は哀しい覚悟をしなくてよくなった分、抑制が効かなくなってしまった。
際限なく、鳴海への想いが溢れ出て、自分で自分の想いに溺れてしまいそうだ。
この甘い苦しみは鳴海に会えばきっと治まる。
睫毛の先にでもいいからそっとキスをもらって、「愛している」ともう一度その一言を囁いてもらえれば、きっとぐっすりと眠れる。
「そ、そうだ、ナルミに『おやすみなさい』を言ってなかった。行ってみて、ナルミが寝ていたら静かに引き返せばいい」
しろがねはショールを取りに戻り、それを身体に巻きつけると今度は揚々とドアを開いた。
勢いよく足を踏み出して、しろがねは唐突に壁にぶち当たった。
温かい壁に鼻をぶつける。


「?」
「わ、悪ぃ…」
声が天井から降ってくる。
しろがねが真上に首を向けると、何だかバツの悪そうな、恥ずかしそうな顔をした鳴海と目が合った。
「ナルミ?」
鳴海がしろがねの部屋の前に立っていたのだった。



postscript
鳴海としろがねの初夜話、です。鳴海としろがねがどこで、どのタイミングで初夜を迎えたのか、は人それぞれ思うところはあるかと思います。私自身、彼らの初夜に関しては数シチュエーションの妄想物件があります(笑)。今回はその中から、原作終了直後のボードヌイ、といういささか忙しなさを感じるシチュのチョイスです。しかも私がこれまでに書いた鳴しろ再会後の鳴海鬼畜SSを踏まえての初夜、心の交流のない肉体関係は経験ありのふたり設定、です。

実は、心無くも関係を持たせたのにも私なりの理由がありまして。

原作内で、エレが顔無しに拉致されたとき、痛めつけられる子どもたちの画像を強制的に見せられたエレのセリフ、「これ以上、私の何が欲しい?」が非常に気になりましてね。ああ、顔無しにイタズラされちゃったのかな…って思っちゃったんですよ。顔無しの身体は機械ですからね、アレはできませんけど、いろいろと玩ぶことはできますから。エレから徹底的な憎しみが欲しいってなら、あの変態オヤジは何かとんでもないことをした可能性もなきにしもあらず。少年誌だから表に出ないだけで、ね。200年も待ったフランの生まれ変わりを目前にしてほっぺをベロリだけで治まるかな…と、あくまで私の妄想ですが、それだったらそれ以前に鳴海とどんな形であれ結ばせてあげたかったわけです。言い訳おしまい。けど、そういうことですのでご了承のほどを。これまでのことは全てリセットして、『愛あるH』を初めてする、ということで。
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