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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。






 

 

 

 

 

 

 

灰色の段階。

 

***** 色相その2 消炭色の海に沈みこむ記憶 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***** ミンシアは悪意のこもった視線でエレオノールを貫く。

どうしても、その存在が許せない。*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海はミンシアの気分転換のために彼女の車椅子を押しながら邸内を歩いていた。

イリノイでの怪我が思いのほか酷く、こうしてミンシアが車椅子に乗れるようになったのもようやくのことだった。本当は車椅子の微かな振動も、傷ついた身体に響き、堪える。鳴海がミンシアのためにどんなに静かにゆっくりと車椅子を進め、その手足で衝撃を和らげていてくれているのだとしても。

だけど今のミンシアは、ベッドの上でじっと横たわってばかりいる気にはなれなかった。

あの女が来たから。

ミンシアはやつれきって、すっかり面変わりしてしまっていた。

でも、こうして鳴海がいつも気遣い、傍に居てくれることがミンシアは嬉しかった。

 

 

 

 

 

ミンシアがエレオノールと実際に顔を合わせたのはこれが初めてだった。エレオノールはサハラのテントの中で見たフランシーヌ人形に、本当に瓜二つだった(それは偽物だったのだけれど)。

背筋が凍りそうなほどに、美しい容姿。

それを思うにつけ、ミンシアはサハラで哀しく散っていった、そして今際の際に人間であることを証明して逝ったしろがねたちを思い起こさずにはいられなかった。

彼らはあの人形のために死んだのだ。

父の死も、フランシーヌ人形あってこそ。

あの憎らしいフランシーヌ人形を内包する女。

エレオノールへの憎しみが自分でも止められない。

まるで鳴海から憎悪の毒が伝染し、ミンシアの身体を病となって蝕んでいるようだった。

だが、ミンシア自身、そのエレオノールへの憤りが、鳴海の純粋な自動人形に対する烈火の怒りと同じものではないことを知っている。

 

 

 

 

 

これは浩然の気に端を発する感情ではない。

それはむしろ、エレオノールを『女』として見るが故の、嫉妬。

鳴海を思慕するがための黒い悪感情。

 

 

 

 

 

初めてミンシアが鳴海と一緒にイギリスでフウに会い、エレオノールの話を聞いたとき、フウは

「エレオノールが日本のサーカスにいる事情は鳴海も関係しているが、鳴海はその記憶を失っている」

との旨を語った。ゾナハ病を止めることと、フランシーヌ人形への憎悪で頭をいっぱいにしていた鳴海はその話には全く興味を示さず、結果、どういった経緯が彼らにあるのかは聞かず仕舞いだった。

そしてそんな会話があったことすらも鳴海は忘れてしまっているが、ミンシアは今になってそれが気になって仕方がない。

鳴海とエレオノールの間にはどんな縁があるというのだろう?

何度か屋敷の中で見かけただけだが、その度にミンシアはある確信を濃くしてゆく。

 

 

 

 

 

エレオノールは、あの人形の生まれ変わりの女は、ミンハイを愛している。

 

 

 

 

 

それは同じく鳴海に想いを寄せる者だからこそ、匂いを嗅ぎ取ることが出来た。

女の、勘。

世界がこんな状態になっても尚、自動人形を二体も引き連れた真夜中のサーカスの首領の生まれ変わりのあの女は厚かましくも自動人形を破壊すること、ゾナハ病をこの世から駆逐することに命を賭している鳴海を愛しているのだ。

許せない。

エレオノールは断じて鳴海には相応しくない。

だが、そんなふたりは日本のサーカスで、数ヶ月間、寝食を共にしていたのだ。

その間、何かがふたりの間にあった、ということはないのだろうか?

エレオノールが美しいことは、同じ女から見ても、例え人形の生まれ変わりなのだとしても、認めないわけにはいかない。エレオノールがミンシアが歯牙にもかけないほどの容姿であったならば、こんな焼け付くような焦燥感を抱くことはなかっただろう。

鳴海の心の奥底で憎悪以外の感情が微かにでも芽生えたということはなかったのだろうか?

鳴海とエレオノールの関係は鳴海の言う通り、ミンシアが傍で見ていても険悪で、何も心配することはないようだがどうしても一抹の不安が拭えない。

 

 

 

 

 

記憶を失う前の鳴海は、もしかしたらエレオノールを愛していたのではないのだろうか?

もしかしたら、お互いに気持ちを打ち明けあうことはなかったにせよ、相思相愛だったのでないのか?

 

 

 

 

 

そのことを考えただけで、ミンシアの心は醜い嫉妬で塞がれる。

何しろ、エレオノールの方は鳴海にどんなに憎悪を向けられても彼を愛し続けているのだ。

一見、純粋無垢に見える、天使のような顔をして。

重たい水差しをぶつけるくらいではミンシアの心内が晴れることは決してない。

鳴海のその記憶がずっと戻らないで欲しい、とミンシアは心底願った。 

 

 

 

 

 

イリノイ急襲のために合流してからずっと、鳴海の口が語るエレオノールの話には、聞いているミンシアがたじろぐほどの憎悪の毒が詰まっていた。己の唇から撒き散らしながら、己の心を腐食させ、己の身体を糜爛させる猛毒の瘴気のような激しい憎悪。

エレオノール、その名は呪いの呪文。

鳴海はミンシアの前で、エレオノールへの鬼気迫る憎悪を隠そうとはしなかった。

それが。

「姐さんの恨みはオレがはらすさ。自動人形の生まれ変わりなんざオレが認めねぇ」

ベランダから美しい庭園を遠く見遣りながら、鳴海の発したその言葉はまるで決まり文句のようで、以前のような憎悪の毒は明らかに薄れている。ミンシアはその微妙なセリフに含まれる色の変化に気づかないわけではなかったが、それでも鳴海のエレオノールに対する否定の言葉を聞くことで彼女は心を慰めた。

そう、鳴海がエレオノールを許すはずはない。

サハラに消えたしろがねのみんなのためにも、研究所の地下に今も横たわる気の毒な子どもたちのためにも。

「早く身体を治さなくちゃね…」

ミンハイと一緒に、あの女と戦うために。

静かに闘志の炎を燃やすミンシアの瞳はまさに般若のそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***** エレオノールは途方に暮れる。

自分にできることは何なのだろう?

できることは何でもしなければ。

それが命を削ることでも。*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミンシアの部屋へと戻る途中、エレオノールが回廊でギターを爪弾きながら子守唄を歌っていた。

鳴海はエレオノールを一瞥すると無関心を装い、その傍らを通り過ぎた。

車椅子を押し続ける鳴海の背後から、遠く低く、柔らかいその歌声がいつまでも鳴海を追ってくる。

 

 

 

 

 

鳴海はあれからエリの求愛を断った自分の言葉についてずっと考えていた。

正直なところ、エリの求愛を断ったことなどすっかり忘れていた。エリと別れた後の鳴海の道行きは壮絶で、そのような牧歌的なことを思い出す暇などどこにもなかった。鳴海の心のどこにもそんな余裕すらなかった。

だが、エリに自分が忘却の彼方に置いてきたその出来事を教えられて、その事に気を取られている鳴海は見た目はいつも通り振舞ってはいるように見えるものの、その心中は激しく動揺していた。

確かに、あの時、エリの言った通りのことを鳴海は彼女に告げたのだ。

勿論、一語一句、正確には覚えてなんかいない。

だが、確かに鳴海はエリに話したのだ。

 

 

 

 

 

銀目で銀髪の女のことを。

事故で記憶を失った自分の中に残る哀しそうなその女のことを。

その女とどういう関係なのか、まるで分からないけれど、いつかはオレが笑わせてやりたい、と……。

エリにそう告げて彼女の求愛を断った。

そのことは思い出した。でも、肝心の、その女の顔が思い出せない。

本当に、エリの言う通り、その女がエレオノールなのかどうか。

鳴海はギリッと唇を強く噛み締めた。

 

 

 

 

 

自分とエレオノールとの間には何か絆でもあったのだろうか?

思い出せないが、自分の中に残っていたはずの銀目銀髪の女はエリの言う通り、十中八九、エレオノールなのだろう。

裏付けなどどこにもない。でも、そうなのだと思う。

バスジャックの後、エレオノールは何かを言いかけていたが、自分のことはどうでもよくなっていた鳴海はその言葉を遮った。

実際問題、今現在だって、鳴海は自分の未来も過去もどうでもいい。

だが、エリの言葉が鳴海の頭の中を木霊する。

 

 

 

 

 

でもこの先、エレオノールさんに『責任を取らせた』後であなたの記憶が戻ったら、

あなたは自分のことを許せますか?

 

 

 

 

 

もしも。

オレが覚えていないだけで、エレオノールがオレの掛替えのない女なのだとしたら?

オレが忘れているだけで、オレの魂がエレオノールをかつて求めていたのだとしたら?

オレの知らない『オレ』の気持ちが、エレオノールがいなくなった後に戻ってきたら?

 

 

 

 

考えたって答えが出るはずもない。

どれもこれも『もしも』が頭にくっついた、仮定の上での話にすぎない。

それに鳴海の歩くレールの先にあるものは金輪際、変わることがないのだ。

 

 

 

 

 

そう、鳴海の『エレオノールに責任を取らせる』という前提は変えようがない。

エレオノールはこの手で殺さねばならない。

そうしないと、何の罪もないのにゾナハ病で死んでいったマークたち、今も助けを求めて絶望的な喘ぎを続けるベスたち、鳴海の命を救うために自分の生を手放したしろがねの仲間たちに合わす顔がない。

いずれ、殺す。それが鳴海に課された責任。義務。

例え、鳴海の記憶にどんな事実が隠されているのだとしても、前提は変わらない。

鳴海の顔には苦渋が滲む。

それでも、いや、それならばなお、『覚悟』は必要なのではないのだろうか?

もしかしたら自分が心底惚れていた女を、この手で殺すという『覚悟』が。

『覚悟』をもってエレオノールを殺したのならば、『オレ』も納得するかもしれない。

『覚悟』を決めるためには、抜け落ちた記憶を取り戻さねばならない。

 

 

 

 

 

「どうしたの、ミンハイ?足音が、乱れてるわよ…?」

「何でもねぇよ、姐さん。ちっと考え事」

鳴海はできるだけ何事もないような声で返事をして、顔を仰向ける。

ミンシアは、その黒々とした不安と嫉妬と憎悪の綯い交ぜになった感情が胸の中で大きく膨らむのを唇を噛んで堪えた。

 

 

 

End 

 

 

 

postscript     『灰色の段階』はYMOの曲のタイトルだけをお借りしました。ただひたすらにしろがねを憎んでいた頃は『黒』。しろがねと結ばれた頃を『白』に例えるとしろがねへの憎悪が薄れ始めてから告白するまでが中間色の『灰色』なのかな、と。それも時間を追うごとに段階的に黒い憎悪が薄れていくイメージが合うような気がして。さて、この回のスポットはミンシア姐さんです。誌面の都合とか、少年誌だからとかの制約を抜いて、しろがねに悪意をぶつけるほどのミンシアが鳴海への愛にどう決着をつけたでしょう、というのが悩むところです。原作ではしろがねを思い切り一発殴って笑顔で終わりです。スポコン物の主人公たちの和解の仕方みたいです。夕焼けが似合いそうですね。実際の(しかも大の大人の)三角関係だったら、そんなに簡単なものではすまないでしょう。身体がボロボロでさえなければ、ローエンシュタインの前半戦で鳴海に対し実力行使に出て既成事実を作っていた可能性は大きいです。ハリウッドで主演女優をはれる器の持ち主ですよ?絶対に海千山千、手練手管で鳴海なんて赤子の手を捻る以下です。けれど心身ともに、鳴海とは進展なし。鳴海はもう帰って来ないわけだから、想いを打ち明けたかったでしょうね。でもそれをしなかった。鳴海の立場を考えるとできない。ミンシアの想いは宙ぶらりんですよ。でも、しろがねとも短期間で笑顔で和解。ミンシアもしろがねに負けず劣らず鳴海を愛しているから、(それともページの都合上?いやいや、そんなことは言ってはいかん)、ということなんでしょうが、それではあまりにもきれい過ぎやしませんか?ミンシアは勝気でさっぱりとした気質ながらもかなりの激情の持ち主。彼女の愛の昇華のさせ方はもっと爆発的なものにして欲しかったです。

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