忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰色の段階。

 

***** 色相その3 墨染め色の憎悪は焦から淡へ変化する *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***** エレオノールは歌を歌い、サーカスの皆は芸を披露する。

自分たちにできることをやると決めた。*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいる間は余計なことはするな。大人しく人形どもと一緒に部屋に引っ込んでいろ」

 

 

 

 

 

エレオノールは鳴海がいつ見ても、何かしら甲斐甲斐しく働いている。

もっとも、子どもたちには怖がられ、大人たちには罵声を浴びせられ、時に激しく突き飛ばされて、ほとんど仕事にはなっていない。彼らの冷たい反応にエレオノールは文句を言うわけでもなく、腐るわけでもなく、ただ淋しそうな小さな笑顔を浮かべ耐えている。

素直に謝罪の言葉を口にして。

それはまるで、今まで仲町サーカスにいたときの自分とエレオノールの縮図のようで、鳴海は何だか見ていて気分がよくない。

何で気分が悪いのか、自分が自分で分からない。

そもそも、引っ込んでいろ、そう言ったのはエレオノールの姿をただ視界に入れたくないからか、それとも、子どもたちや米兵に虐げられているエレオノールをその境遇から脱したいからか、その淋しそうな顔を見たくないからなのか。

鳴海はちっと舌打ちをした。

そんなことを考えている自分に嫌気が差す。

 

 

 

 

 

いいじゃねぇか、あいつが誰にどんな仕打ちを受けたとしても。

フランシーヌ人形の生まれ変わりなんだ。

あいつのせいで世界中が苦しんでいるんだ。

米兵たちにどつかれるくらい、大したこたぁねぇ。

鳴海は自分にそう言い聞かせた。

 

 

 

 

 

「でも…人手が足りないとエリ様に伺いましたので…」

鳴海を見上げるエレオノールの銀色の瞳はいつも変わらない。

決して逸らすことなく、真っ直ぐに鳴海の瞳を射抜く。

どんなときも、鳴海が彼女にどんなことをしても、どんな言葉をぶつけても、透明で澄み切った瞳で、鳴海の心を見透かすような瞳で。

そして、いつもいつも、瞳を逸らすのは鳴海の方。今もまた、鳴海が視線を左方へとずらした。

こいつは悪で、オレは正義を代弁しているはずなのに!

鳴海はエレオノールと目を合わせ直すと白眼視する瞳に事のほか力を入れて、しろがねの澄んだ瞳に対抗した。

「エリ公女が絡んでいるなら、オレはもう何も言わねぇが、おまえの存在がここにいるみんなに不安を与えていることを忘れるな」

「はい」

エレオノールは淋しそうな微笑を浮かべる。

その表情に鳴海の胸の中が激しく痛んだ。

まるで目前に鏡があるかのようにエレオノールを傷つけた言葉がそのまま反響し、己の心までをもずぐずぐと刺し貫く。

 

 

 

 

 

オレは本当に、こんな顔をこいつにさせたいのだろうか?

もっと、違う、他の顔をさせたいと……思っていたときがあったのだろうか?

エリ公女に語ったように、笑わせてやりたいと……。

 

 

 

 

 

間近でその顔を見て、そして頼りなげな細い背中を見送って、鳴海の胸の奥はキリキリと痛み続けた。鳴海はこれまでだったら作るまでもなかった無関心な顔を懸命に保った。

 

 

 

 

 

おかしい。

オレの中の何かがおかしい。何かが狂ってきている。

あえて、意図的に『憎悪の仮面』を被らないと、憎悪の顔を保てない。

今までは、エレオノールが傍にいるだけで、エレオノールのことを考えただけで憎悪の炎を吹き上げることが出来たのに。

憎くて憎くて、おぞましくて、エレオノールにいとも容易く憎悪の面をくれてやることが出来たのに。

もしや、エレオノールを憎むことが難しくなってきているのか…?

「……」

その現実は鳴海を途轍もなく愕然とさせた。

 

 

 

 

 

「相変わらずじゃな、新入り」

飄々とした声が後ろから鳴海にかかる。

「法安さん」

肝の据わった豪快じいさん。法安は、今は亡き祖父ケンジロウをどことなく彷彿とさせるので、鳴海は結構好きなのだ。

「特に不自由はないっスか?」

「酒が思うように呑めないことくらいかの?まあ、贅沢は言ってはおれんの」

法安はカカカと笑う。鳴海もほんの少し口の端を持ち上げた。いつも気づくと法安のペースに乗せられている。

ニ、三、話を交わした後、法安は何の脈絡もなく、突然こう切り出した。

「おめえはまだ、しろがねを憎んどるのか?」

その言葉は鳴海の緩んだ頬は瞬時に強張った。

法安は孫をいとおしむ好々爺の目で鳴海を見つめている。

「…憎んでるっスよ…」

鳴海のその返事に法安は臭いものを嗅ぐような顔をした。

 

 

 

 

 

「そうかい」

法安はじっと鳴海を見つめ、その中の本心を探ろうとしているかのようだ。

フッとやさしげに目を細めると言葉を続けた。

「じゃが、ワシにはしろがねはただの淋しい娘に見えるがの。ちっとも皆が口にするような恐ろしげなモノには見えん」

「法安さん……オレは……」

オレは何だと言いたいのか。その後の言葉がどうにも上手く続かない。

ふむ。法安は深い息をついた。

「おめえがそんなに若いのに大変な思いをしとるのは分かる。そりゃ、おめえの背負う全ては理解できん。おめえとしろがねの間に何があったのかは知らん。しろがねがその悪いヤツの生まれ変わりなのかどうかもワシには分からん。このジジイがはっきりと言えることはおめえもしろがねもどっちも心根が真っ直ぐだということじゃ」

「……」

「おめえも8ヶ月、しろがねを見続けてきたんじゃろ?だったらもう、本当はおめえの中で答えは出ているんじゃろ?しろがね、という女の本質が良いモンなのか、悪いモンなのか。理屈じゃなくてよ?」

「……」

「人を憎むのはくたびれるもんじゃよ」

鳴海は法安の話を大人しく聞いていた。まるで祖父に諭されているようだ。

鳴海の眉間が苦しそうに歪む。 

 

 

 

 

「おめえみたいな男はこうと決めたことは最後まで突っ走るじゃろうからワシの言葉がどこまで届くかは悩むところじゃがこれだけは覚えていてくれよ。しろがねはワシらの家族じゃ。しろがねに何かあったら悲しむのはワシだけじゃない。仲町のモンは皆しろがねを愛しとる。しろがねが悪いモンじゃない、みんながそう信じとる」

法安はそう言うとしばらく言葉を切ったが、ふと大袈裟にポンと手を打って

「おお、ここの連中の言う通りだと、ワシらはそんな悪いヤツを大事に思う馬鹿者の集まりってことになるなあ」

と言い足した。

「法安さん…」

「ワシにとっては今はおめえも可愛い孫のひとりじゃよ。それにワシはおめえを買っておる」

「……」

法安は変わらず、孫を慈しむじいさんのようにニコニコと鳴海を見ている。

鳴海は苦虫を噛み潰したような顔をしてじっとしていたが、法安に軽く頭を下げると背中を向けて、その部屋を後にした。

「全く、頑固者だのう。難しい顔ばかりしおって。ちっとくらい笑ったらどうじゃ?」

最後の言葉は法安の独り言なのかもしれないが、どなりんジジイの独り言は格別大きい。

そして法安の言葉はいちいち鳴海の耳に痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から見える庭はとても美しい。

青空に庭園の手入れの行き届いた緑が映えて、まるでポストカードのようだ。

緑の木々を揺らすやさしい風に、汚らわしい銀色のゾナハ虫が充満しているなど信じられないくらいだ。鳴海はそんな景色を見遣りながら、エリの言葉、法安の言葉、そしてエレオノールの瞳を思い返していた。

「ナルミ。ここにいたのですか?」

エリに声をかけられるまで、彼女が近寄ってきていたことにも気がつかなかった。

それくらい考え事に没頭していた。

深く考えることなんて一番苦手なことなのにな、鳴海は自嘲する。

「何スか?」

鳴海はいつも通りの顔を作る。

エリとは特に大事なことを話し合ったことなどなかったかのように鳴海は振舞う。

「フウさんが部屋でお待ちです。エレオノールさんの記憶のことで…」

眉ひとつ動かさない鳴海の表情がかえってエリに不自然な印象を与えた。

エリがじっと自分を見透かすように見ていることが気まずくなった鳴海は、早々にその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フウの部屋に向かいながらも鳴海は思考の迷路にはまり込む。

エリも、法安も、自分がエレオノールを憎むことを止めさせるような発言をする。

どうしてなのだろう?

エレオノールを、フランシーヌ人形の生まれ変わりを憎み、殺す事こそが、鳴海に与えられた使命、責任、義務だというのに。

エレオノールをオレが憎まないでどうする。

「本当に…憎まないでどうしろってんだよ…」

確実に薄まっていく憎悪。

眉間に深い皺を刻んで、目元を顰め歯を食い縛る自分に気付き、先程の法安の独り言を思い出した。

「『ちっとくらい笑ったらどうじゃ』、か……」

鳴海はギイと再会してからは、かつてギイとルシールと三人で旅をしていた頃の、悩みながらも、でも今では楽しく思い出されるあの頃の感情がどことなく戻ってきてギイや子どもたちの前では少しずつ笑えるようにはなってきた。

けれど、以前のように大きな口を開けて屈託無い笑顔は作れない。

腹の底から大きな声を出して明るくは笑えない。

笑う、という行為は幸せな行為だ。

鳴海はサハラ以降、自らが幸せになる権利は放棄した。

今もゾナハ病に苦しむ子どもたちが治るまで、サハラで散った仲間たちの遺志『フランシーヌ人形を破壊する』が果たされるまで鳴海が自分自身の幸福を追い求めることは絶対にありえない。

「今のまんまじゃ……オレはとてもじゃねぇけど笑えねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――笑えないの――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海の頭の中に突如閃いた女の声。鳴海の心臓がどくりとうねった。

立ち止まり、ばっと周りを見渡す。

誰もいない。

鳴海は目を見開き、顔色をなくした。

「……『わらえないの』……何なんだ……どこかで聞いたことがあるような気がするのは、どうして……」

もう一度、その言葉がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――笑えないの すまない すまない――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海はこの言葉を聞いたことがあった。いつ、どこでかは分からないけれど、確かに聞いたのだ。

必死な、悲痛な、涙に濡れる、女の声。

それは、鳴海のよく知っている声に似ていた。

「ちくしょう…」

鳴海の閉ざされた記憶の扉。

厚い絶望と憎悪の真っ黒な霧で隠されていた記憶の扉。

いまだ絶望は残るものの、憎悪はその色を薄くした。

そのためにその存在が明らかになってきた記憶の扉はほんの少しの隙間を作っていた。

押し込めていた思考が徐々に徐々に漏れ出していく。

扉の内側に何か蠢くものが垣間見える……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海がフウに聞かされたのは、エレオノールの記憶の中にゾナハ病の止め方は存在しない、ということだった。

「エレオノールはゾナハ病の止め方を知らない…」

鳴海は色もなく呟いた。

「確かに彼女は幼い頃、フランシーヌ人形の溶けた生命の水を飲んだ、それは確かだ。彼女自身の自我が芽生える前のほんの幼少の頃の記憶の中に、彼女のものではあり得ない記憶が複数混じっていた」

「複数」

「おそらく、フランシーヌ人形と、そのモデルになったフランシーヌの記憶」

その言葉に鳴海の心の底の底に棲む何かが雄叫びをあげた。

「フ、フランシーヌ?」

「フランシーヌ人形には彼女の髪が移植されていたからね」

鳴海の脳裏に銀の記憶が蘇る。フランシーヌの死んだ日、彼女の遺した髪を金に託した光景が。

フウは淡々と話を続けた。

「だが、エレオノールが成長して以降の記憶の中には全く別人の記憶は存在しない。

彼女の記憶を具に精査したが、どこにもフランシーヌ人形の痕跡はきれいさっぱりなかったよ」

鳴海はじっと立ち尽くしたまま、黙っている。

「ナルミ君、彼女は…」

「フランシーヌ人形の生まれ変わりには違いない。オレのすることには変わりがない」

「エレオノールの記憶、見るかね?」

「いや、オレはあいつの記憶には興味がねぇ。今聞いた話で充分だ」

 

 

 

 

 

あの時、間違った情報を鳴海に与えてしまったことをフウは後悔をしていた。

自分の根拠のない憶測を鳴海に語ってしまったがために、その後の鳴海の指針が確定してしまったのだ。

責任と義務にものすごい重圧を受けていた鳴海はその言葉に従い、エレオノールに辿り着き、彼女を憎むことで今日まで自分の心の支えにしてきたのだ。

それに、鳴海の言う通り、エレオノール自身にフランシーヌ人形の記憶はなくともその生まれ変わりなのは紛れもない事実。

 

 

 

 

 

「……この後、大事な話をみんなにしたい。ミンシアさんと一緒に地下に降りてくれるかな?」

「地下?」

「私の計画を話したい」

フウは静かに言うと瞳を閉じた。

 

 

 

End 

 

 

 

pospscript    何だか書くのがすごく難しくなってきた…。ちょっとツギハギ感が否めない。ローエンシュタインでの原作の間を縫っているワケですが、原作の方も少し時間軸がズレているところがあって辻褄を合わせるのに四苦八苦してます。大体、ローエンシュタインにどれくらいの期間滞在していたのかがさっぱりで…。シャトル計画発表から出発まで2日間なのは原作にあるのでいいとして、それ以前は何日?少なくともしろがねの衣装はミモザ模様のワンピースとシャツドレスみたいなワンピースの2種類。エリは衣装変わらず。ミモザ模様の服は9巻でエリが着ていたものと同じなので、エリの服を借りているのでしょう。しろがねが非常にもったいない血の提供を何日もやっているというエリの発言もあるのでそこそこ滞在しているようですが、衣装だけを追っかけちゃうとほんの1、2日。衣装はそんなに着替えを持ってこられなかったのかもしれません。でもまがりなりに王様の別荘で、しかも大金持ちフウがいて、山ほどのメイド人形がいるんだからもうちょっと何とか…。この回で書きたかったことは、鳴海は確かにしろがねの記憶を見なかったかもしれませんが、肝心な結果は聞いているはずだと思ったんです。フランシーヌ人形の記憶はない、ということを。それを踏まえて、この後の鳴海はしろがねを『もとは自動人形だった』、ブリゲッラ戦の回想で『人形のなりそこない』と呼ぶだけです。要するに、どんなに憎んでいる顔をしても、もう彼の中でしろがねは人形じゃなくて人間確定なんです。あああ、それにしても地下で鳴海に腕を絡めて立っているミンシアが憎そい!あの「私のミンハイよ」って顔!しろがねに対するものすごいアピール。鳴海もやらせとくな!彼女はもう一人で立って歩けるんだから!

繰り返しになりますが、鳴海の記憶回復時期は原作でまったく触れられてませんので、読み手各人が推理するしかありません。ですからこの話は私の妄想にすぎません。

皆さんと意見が違っても許してくださいね。

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]