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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

 

 

 

灰色の段階。

 

***** 色相その4 憎悪の色は銀鼠から白に 絶望の色は烏から濡烏に *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***** フウは作戦を伝えた。

鳴海は宇宙に赴くこととなり、エレオノールは自分の記憶を皆に見せた。*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、あなたのしろがねです」

 

 

 

 

 

エレオノールは鳴海を熱く見つめる。

想いの丈を込めて、鳴海に対する愛情を隠さない。

あなたの手で人間にしてもらった私の心が、私を人間にしてくれたあなたを恋い慕い、愛し、求めている。太陽に向かって手を伸ばしても、その手が太陽に届くことがないように、私の想いはあなたに届かないのかもしれない。憎悪する私からの愛情など、あなたに迷惑がられるだけだから、これまではずっと自分の胸の奥に押し隠していたけれど、どんなに私があなたを愛しているのか、今は少しでも分かって欲しい。

私のあなたへの愛情が、いつもあなたとともにあることを。

どんな時でも、あなたのことを私の気持ちが抱き締めていることを。

そして、この募る想いが、あなたの私への憎悪を溶かして中和してくれることを切に願っていることを。

分かって欲しい。

エレオノールは鳴海を熱く見つめる。

かつて軽井沢で、鳴海とエレベーターに乗ったことを思い出す。

鳴海とふたり、狭い檻に入れられて。

私はあなたの温もりを知った。

今、私とあなたしか乗っていないこのエレベーターが壊れてしまえばいい。

動かなくなればいい、永遠に。

停まって、暗い空間に、私をナルミと閉じ込めてもらえたら。

あの時に戻れたら。

そうしたら、ナルミは元のナルミに戻ってくれるかしら?

私の心を温かな至福の光で満たしてくれたナルミに戻ってくれるかしら?

冷えた私の肩を、その腕で力強く、抱き締めてくれますか?

にっこりと、私に微笑みかけてくれますか―――――?

 

 

 

 

  

鳴海は

視線を逸らした。

 

 

 

 

 

「いずれ殺す」

鳴海はそうエレオノールに言い捨てて、エレベーターを降り、彼女に背を向ける。

エレオノールは力なく俯いた。

涙が零れてしまいそうだった。

鳴海はカツカツと硬い靴音を響かせながら、エレオノールから離れていく。

彼女を拒絶する強そうな背中とは裏腹にその表情は何とも不安定なものだった。

心がグラグラする。

鳴海はぎゅうっと瞼を閉じた。

エレオノールの言葉が鳴海の耳を離れない。

「ふざけるな……」

鳴海はギリギリと歯を食い縛った。

「ふざけるなよ……」

 

 

 

 

 

オレがあいつに冗談を言っただと?

『おまえはオレの女になる』だって?

 

 

 

 

 

それに

『私は、あなたのしろがねです』、だと?

 

 

 

 

  

「何なんだよ…それ…」

鳴海はマリオネットの指関節が軋むほどに拳を握り締め、唇に血が滲むほどに噛み締めた。

あいつは、自分が言ったことの意味を分かっているのか?

馬鹿じゃねえのか?

こんなにも自分を憎み、自分を殺そうとしている男に向かって、何でそんなことが言えるんだよ!

『私は、あなたのしろがねです』?

おまえがオレのものだって言うのか?

オレのしろがね?

オレの、女?

「くだらねぇこと言いやがって…」

鳴海の顔が苦しそうに歪む。

それに、『お坊ちゃま』って誰だ?

エレオノールの声で『お坊ちゃま』というセリフを以前、これでもかと聞いたような気がするのは何故だ?

何かが今にも殻を割って飛び出してきそうな蠢動が、鳴海の脳ミソの中を転げまわっている。

突然、初めてフウに会った日、フェイスレスがダウンロードを試みていると教わった男の子の顔が脳裏に浮かんだ。

あの時、その少年の顔を見て心のどこかがホッとしたのを覚えている。

鳴海はその少年を初めて見たはずだった。

けれど、「生きている」ことを知って、報われた、とそう思い泣きそうになっている自分が胸奥にいた。

それ以来、憎悪と絶望に突き動かされていた鳴海が彼を思い出すことはなかったが。

「心に吹く風…」

どうしてか、師父の言葉が口をついた。

ああ、そうだ。確か、フラーヴィオと戦ったときに…。

途端、その男の子の顔がみるみる間にとてもとてもいい笑顔に変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナルミ兄ちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男の子は鳴海の名を呼んだ。

今にも泣き出しそうな顔で、鳴海は廊下を急ぐ。

こんな顔を誰にも見られたくない。一刻も早く自室に戻らねばならない。

鳴海は部屋に駆け込むと、後ろ手に鍵を閉め、呆然とソファに座り込んだ。

 

 

 

 

  

とてもいい笑顔を見せる男の子。

「オレはこの子を知っている」

この子がきっと、エレオノールの言う『お坊ちゃま』。

「う…」

鳴海はシクシクと痛み出した頭を抱えた。

バラバラと、頭の中にどこからかジグゾーパズルが落ちてくる。

鳴海の眼球が目まぐるしく動いて、勝手に動き出した記憶に必死に対応している。

バラバラバラバラバラバラバラバラ。

無数のピースが降り注ぎ、跳ね返る。

どれもこれも、パズルのピースに描かれているのはその男の子とエレオノールの姿ばかり。

「何で…こんなにあいつが…オレの中にいるんだよ…」

鳴海は惑乱した。

エレオノールは鳴海を睨み、怒り、柔らかく微笑み、泣き顔を見せる。

このエレオノールは、サハラ以後の仲町サーカスで見た彼女じゃない。

こんなエレオノールは見たことがない。

仲町サーカスにいたときエレオノールが鳴海に見せた顔はどれも皆、哀しそうで淋しそうで苦しそうで辛そうで。

同じ人物には違いないが、記憶した時間が違う。

でも、どのエレオノールも鳴海はよく知っていて、懐かしくて、そして愛おしい。

 

  

 

 

 

そう、愛おしい。

胸が苦しくなるほどに。

 

 

 

 

 

鳴海はしばらく動かなかった。

そのジグゾーパズルのピースひとつひとつを頭の中に丁寧に並べていく作業をしていたのだ。

だけど、大量すぎて、ひとりで一枚の絵を完成させるのには時間がかかる。そして鳴海には時間がない。

どうしたらいいものか、鳴海は途方に暮れた。

後もう少しで、かつてどこかに落としてきた大事な記憶が蘇る。

その記憶を手に入れたほうがいいのか、それともこのまま放置したらいいのか、どちらが鳴海にとっていいことなのか、鳴海には分からない。

分からないけれど、どちらを選んでも結局は後悔を必ずするのだろう。

人生の分岐点が現れたとき、YESかNOか、右か左か、どちらかを選んでも多かれ少なかれ後悔はついて回る。

選ばなかったもう一つの道はどこに繋がっていたのだろうか、今よりも良い未来が用意されていたのではないのか、と。

それはどんな選択肢でも同じことで、まったく後悔しないことの方が少ない。

ただ、鳴海は自分で選んだ場合、後悔しないことが多かった。それは己の心の持ちよう。

何故なら、どんな結末を迎えようと、それは自分の選んだ道だから。

そして鳴海は自ら進む道を決めた。

鳴海は身体にぐっと力を入れると勢いよく立ち上がり、決然として部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海は一度も立ち止まらず、脇目もふらずに廊下を進むと、躊躇いもなく、ある扉を開けた。

部屋のベッドに横たわる、狐目をした男と目が合った。鳴海を見た男の目はきゅううっと更に細くなる。

阿紫花。鳴海の欠けた過去を知る男。

 

 

 

 

 

阿紫花はベッドに腰掛けたヴィルマとふたり、さんざん煙草をふかしていたようで室内は紫煙に曇っていた。

「ここは重傷患者のいる部屋とは思えねぇな」

「へへ……すいやせんねぇ……」

「アシハナ、おまえに聞きたいことがあって来た」

「アタシもそろそろ兄さんが来る頃じゃあないか、なんて予感がしてやした」

ヴィルマは黙って腰を上げると、鳴海の横をすり抜けた。

「…オレがここに来たって誰にも言うなよ。もちろん、あいつにも」

鳴海はヴィルマにきつい視線を向ける。

「わかったわよ…」

ヴィルマはヒラヒラを手を振って見せた。その紅い唇にはほんの少し、安堵の笑みが浮かんでいたが鳴海は気付かない。

扉の閉まる重い音が消えると、鳴海は早速切り出した。

「おまえの知っているオレのこと、全部話してくれ」

阿紫花は新しい煙草に火をつけると、美味しそうに深々と吸い込む。

「よござんす。アタシが初めて兄さんに会ったのは……」

阿紫花は煙を吐き出しながら、ゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

鳴海は阿紫花のベッドの傍らに椅子をひき、目を瞑って黙って話を聞いている。

その話が進むにつれて鳴海の中のバラバラのパズルは次第に、そして自然にその形を整え始めた。

阿紫花の話は本当に大まかなものだったが、鳴海には充分だった。

枠組みと、大きな絵の部分が出来上がれば、枝葉末節を埋めることは大して難しい話じゃなかった。

「……てなわけで、坊ちゃんは兄さんの片腕を抱えて戻ってきたってわけでさ……」

阿紫花の話が終わった頃には、鳴海の記憶は完全に戻っていた。

「手間かけさせたな、すまねぇ」

「いえいえ、アタシもこれで肩の荷が下りやした」

鳴海はすっと立ち上がる。

「……阿紫花…この話は……」

「他言無用。分かってまさ。心配しねぇでおくんなせぇ」

鳴海は軽く頭を下げると阿紫花の部屋を出て行った。

バタン、と重々しい音を立てて鳴海が部屋を出て行くと、阿紫花は吸殻を灰皿に捨てた。

「記憶が戻ったとこで、何にも変わりゃしませんけどね。かえって兄さん、苦しい思いをするんじゃねぇですかい?」

他人の不幸は蜜の味。

そう呟いて阿紫花は新しい煙草に火をつけたけれど、今舐めた蜜は甘いところが顔を顰めるくらいに苦かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***** ようやく戻った大切な記憶。

でも、それは鳴海の絶望の形を変え、更にその色を濃くしただけだった。*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海はようやく理解した。

自分が、何に目を塞ぎ、何を見失っていたのかを。

本当の自分にとって、何が一番大事で、何を一番必要としていたのかを。

そして、加藤鳴海、という男にとって、エレオノールという女がどういう存在なのかを。

鳴海の中のエレオノールに向けられていた憎悪は影も形もなく氷解した。

日向に置かれたグラスの中の氷のように。温かな紅茶の中に入れられた角砂糖のように。

オレはいったい今まで何をしていたんだろう?

鳴海はこれまでにエレオノールに対してとった行動を思い出すにつけ、立つ鳥肌を抑えられない。

それでも、あんな仕打ちをしたオレに、あいつは言ったのだ。

私は、あなたのしろがねです、と。

あんな酷いことを、あんな惨いことを、したオレに。

肉体的にも精神的にも血を流し、傷つけられ、辱められたのに。

オレはあの哀しくて淋しい女に、とんでもない、取り返しのつかないことをしたのだ。

でも、鳴海はそれを謝るわけにはいかない。

 

 

 

 

 

誰かを好きになる、愛する、その愛する人と相思相愛になる。

それは至上の幸福だ。

戦いに明け暮れ、憎悪と絶望に打ちひしがれ草臥れきった鳴海の心は、エレオノールを愛することでどんなにか癒されるだろう?

「おまえを愛している」

鳴海のその一言は、これまで辛そうな顔ばかりさせていたエレオノールを笑わせてあげられるに違いない。

エレオノールの心もまた、鳴海に憎悪されて絶望と辛苦に塗れ、疲弊している。

エレオノールと手を取り合ったら、きっと心が崩れるくらいに感動で揺さぶられるだろう。

お互いの傷ついた心を舐めあうように、その身体に舌を這わせ、思いのまま愛し合えたらどんなに素晴らしい事だろう。

けれどそれは、実現しない儚き事。

鳴海はエレオノールに責任を取らせなければならない。

全てが終わった後に、鳴海はこの手で、エレオノールを殺さなければならない。

彼女の中には宿敵、フランシーヌ人形が溶けているのだから。

己の愛する女を、己の手で、殺す。

それが鳴海に課せられた責任。

サハラで鳴海に命を譲った、凄惨な人生が報われることのなかった『しろがね』の仲間たち。

何の罪もないのに幸福をすべて奪われ、羽根をもがれた小鳥のように死んでいったマークたち。

無数の命の上に成り立つ、鳴海の命。

 

 

 

 

「ルシール……あんたの言ったこと、今になって思い出すなんてな……」

だけどもう、手遅れだ。

オレは引き返せないところまで来てしまった。

 

 

 

 

「覚悟を、決めなきゃ…」

握り締められた鳴海の拳は小刻みに震えていた。 

 

 

 

 

End

  

 

 

 

postscript     何とも盛り上がらない記憶回復と相成りました。私の記憶回復予想時期がエリ邸にいるときな以上、これが限度でした。ひっぱった結果がこれですみません。あそこでは劇的な事件は起きてないですからね、例えばギイとエレを巡る戦いの最中、とかなら盛り上がるかもですが、あのときにはもう記憶は回復済み、しかもエレへの秘めた愛は確固たるものにいつの間にかなっているとゆー…。書いてて遅ればせながら気がついたんですが、エリ邸でのエレベーターは軽井沢でのエレベーターに対応してるんですね。軽井沢では鳴海→エレ、エリ邸ではエレ→鳴海の心に温かさを注ぐ対比になっていることにようやく気付きました。それから、書きたかったこと。鳴海はルシールの言葉を思い出して噛み締めたんですよ、ってこと。原作ではスルーされてましたからね。

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