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灰色の段階。
***** 色相その5 これからのふたりには真珠色の祝福を *****
***** 『えんとつそうじ』に目を潰された鳴海は地上に残された。*****
「勝手なことをほざきやがって…!待ちやがれ!えんとつそうじ……っ!」
鳴海は自動人形の残骸に蹴躓いて、地に両手をついた。
眼球が焼けつく様に痛む。
視界は黒とも白とも赤ともつかない、何にも見えない。
「ふざけんな!」
この使い物にならない網膜がすっかり元に戻るのにどれだけの時間がかかるのだろう?
オレは一刻も早く、シャトルに乗り込まないといけないのに!
このままだと、あの『えんとつそうじ』とかいうヤツが宇宙に行くことになる。
オレはこの手で、ゾナハ病を止めて、ベスたちを、今も世界中で苦しみに喘いでいる人たちを助けたいのに!
そのためだけにオレは四肢を投げ打っても、心を絶望で真っ黒に染めても、ここまで這い蹲って、やってきたのに!
『しろがね』の仲間たちの遺志を継いで、オレは血反吐を吐きながら進んできたんだ。
全ての決着をつけるのはオレの責任だ、オレの義務だ!
オレからそれを取り上げてどうする!
地上に残されたオレが、ここで、何をしろって?
オレに幸せにしてやれるヤツがいるだって?
「くそっ!どっちに進めばいいんだよ…!」
鳴海は立ち上がり、『えんとつそうじ』の走り去る音の方に歩き出した。
人間がみんな「昔」を背負って、「今」を生きなきゃなんないなら、この世は幸せになっちゃダメな人間だらけじゃないか。
でも、オレは。
幸せになってはダメだろう?
だから、オレはあいつを憎むふりをした。
あいつだって、幸せになってはダメだろう?
フェイスレスを追って、宇宙に行ったらもう地球には帰れない。
その事実は鳴海に新たな絶望を与えたけれど、同時にエレオノールを殺さねばならないという責任からの開放をも意味した。
地上に戻って来られなければ、エレオノールを殺すことはできない。
彼の桎梏となっていた責任が解かれた瞬間だった。
この世で一番愛する人をこの手にかけなくてもいい。
彼女は地球で幸せに生きてくれれば。例え、その地球に自分の姿はなくとも。
だが、『えんとつそうじ』は鳴海に地上に残れと言う。
ならば、再びエレオノールを殺す責任が発生するのか?
いいや。
鳴海はもうエレオノールを殺す気は無くなっていった。
エレオノールを巡るギイとの勝負は着いていない。
そして、ギイはボードヌイにはいなかった。
分かっていた。あれが死に臨んだギイとの約束だったことを。
鳴海にはギイが自分に託した想いを無碍にすることはできない。
一度外れてしまった責任や義務という桎梏は、鳴海を再度繋ぎとめることはできなかった。
エレオノールを殺さなくてもいい。
どんなに鳴海の心が軽くなったことか。
これで、このまま、地上に残ることになったとしても、鳴海はもうエレオノールを殺さない。
とうの昔に、エレオノールがフランシーヌ人形の生まれ変わりだという蟠りは消えてなくなっていた。
そんなことはどうでもよかった。
憎しみの仮面を被っていただけで、鳴海の中には押さえ込まれたエレオノールへの愛情が逆巻いていたのだから。
オレは。
幸せになってもいいのか?
それは『しろがね』の仲間や、ゾナハ病で死んだマークたちへの裏切りにならないのか?
ベスたちがいまだ苦しんでいるのに、幸福な感情に浸ってもいいものなのか?
『しろがね』の仲間はただ鳴海に生きて欲しかった。
過去を見つめるのではなく、未来に向かって歩いて行って欲しかった。
自分たちの分まで。
マークだって、ベスだって、自分たちのためにここまで血を流し、懸命に戦った鳴海のことを誰も責めない。
「ありがとう」と感謝こそすれ、幸せになることを誰も咎めたりはしない。
例え、フェイスレスにゾナハ病を聞き出す役目を誰かが代わったとしても、鳴海が子どもたちのことを忘れたわけではないのだから。
鳴海が自分で作り上げ、自分を縛り上げていた『責任』『義務』という名の亡霊が消滅する。
過去はすぎてしまった、もう、どうしようもできない!
だけど今はなんとかできる!
もうオレは宇宙には行けない。地上に残るしかない。
地上で明日を作らなくてはならない。
ならば今、オレのできることは何だろう?
おまえには幸せにしてやれる人がいるだろう?!
鳴海の脳裏に閃いたのは、列車から落ちる間際、エレオノールの見せた笑顔だった。
エレオノールは鳴海に憎まれていると信じたまま、鳴海を守るために敵とともに列車から落ちた。
最後まで鳴海への愛を口にして。
「いつかまた 私と出会ってくださいね」
鳴海の中でフランシーヌの最期とシーンが被る。
エレオノールは血塗れで、最強の自動人形ハーレクインといるのだ。
あの怪我で線路に落ちた。それだけだって、無事かどうか…。
銀は今一歩のところでフランシーヌを助けられなかった。炎に巻かれる彼女の姿をただ見ていることしか許されなかった。
フランシーヌは死んで、銀は彼女をその腕に抱くことが叶わなかった。
鳴海は力強く拳を握り、見えない瞳で前を睨んだ。
オレは嫌だ。
あいつをこの腕に抱けず、死なせてしまうのは!
オレは、あいつにまだ謝ってねぇんだから!
鳴海の瞳はようやく今を、そして未来の方を向く。
「おおい、新入り―――!」
法安の声が聞こえた。
「法安さん?」
「どうしたんじゃ?おめぇ、目が見えて…」
「法安さん!頼みがある、車を出してくれ!」
「な、何じゃ?」
これまで見たことのない鳴海の表情に法安は息を呑む。
仏頂面で辛気臭い面ばかりだった鳴海の、初めて見せる血の通った人間の表情。
「線路を平走して、あいつが落ちたところまでオレを運んでくれ!オレはあいつを助けねぇと!」
法安はニヤリと笑う。
「あいつって誰じゃ?」
「しろがねだよ!」
***** 数分後、鳴海は法安の運転するジープで愛する女の元に向かう。*****
「ようく掴まってろよ、振り落とされんな!」
法安はアクセルをベタ踏みして、とんでもないスピードでジープを走らせる。
悪路をフルスピードで走るジープは跳ねまくって、時折ひっくり返りそうになる。
「待ってろよ……しろがね、無事でいろよ……!今、おまえのところに行くからな……!」
オレはおまえに伝えたいことがあるんだ。
おまえはオレの、しろがねなんだろう?
勝手にいなくなるんじゃねぇ!
今の鳴海には既に絶望も憎悪もない。
あるのは溢れんばかりの愛情。
鳴海は誓う。
これからの時間は全部、愛することに使うよ、ルシール。
だから頼む。しろがねの無事を祈っててくれ!
もうじき、祝福の鐘が鳴る。
ふたりの運命の道が交差する。
End
postscript シベ鉄にてエレがハーレクインと落下した地点は大体ボートヌイまで20キロの地点、平均速度130キロだと到着まで10分くらい。機関室をブリゲッラに破壊されたから速度が幾分落ちたにしても15分。到着して諸々準備をしていた時間を30分と予想。発射場を襲ったディアマンティーナ率いる自動人形が何体いたのかは分からないけれど、カピタンの部隊と同じ3000体だと仮定して、これまた鳴海が一体を破壊するのにどれだけを要するかは分からないけれど、勝とノルマを1/2にして、一撃必殺一体3秒で破壊するとして戦闘終了まで75分。そこから法安の運転する車でエレの落下地点まで戻るのに、同じく平均時速130キロを出したとして10分。ここまでの所要時間は2時間10分。そこからエレが拉致られている町を探し出し、まさにめくらめっぽうに歩き回ってエレのいる教会に辿り着くまでいくらなんでも30分はかかるんじゃないのか?全部で最短2時間40分と予想。うち、鳴海VSブリゲッラは5分弱程度?長足クラウン号が大破するくらいの追っ手はディアマンティーナ隊の先発部隊?それを全て鳴海が数分で撃破したってことですよね?ホント、いくら雑魚とはいえそんなに簡単に退けられるなら、一体ずつ現れた自動人形は仲町の皆にお願いしなくても瞬殺だったろうに…。そして同じく、勝さんの説得も5分弱?すんごい巻き状態ですね。たかが5分の説得でここまで引っ張りに引っ張った憎悪の解消…。鳴海の網膜が元に戻るのに一時間か…それくらい、打ち上げを待ってもいいんじゃないか?与圧服を着たり何なりで、飛び立つまでには目が治るよ、とか言っちゃダメ?勝の説得後、いきなりエレのいる教会に現れた鳴海の話、なんですがやはり唐突感が否めませんね、すみません。後書きも長くなりました。鳴海の憎悪も絶望も真っ白になりました。これにて灰色シリーズはおしまいです。