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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

真っ青な空に白い軌道を残してシャトルは肉眼では見えないほどに小さくなった。

高く高く、それを見送る人々の希望をのせて。

鳴海としろがねもその姿を見送った。

ふたりは近く近く寄り添って。

 

 

 

 

ようやく、しろがねの心は報われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自動人形たちの福音。

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと見えるようになった鳴海の瞳に映ったしろがねは

とめどなくきれいな涙の雫といっしょに心の底からの笑顔をこぼした。

生まれて初めてこぼれた笑顔。

もちろん、鳴海もしろがねの笑顔を見るのは初めてで、彼は思わず言葉をなくした。

 

 

 

 

 

 

 

鳴海と初めて会った日のしろがねは決して表情を緩めることがなくて

車通しのカラクリの後、「自分は人形だから笑えない」と苦しそうな顔を見せて

「おまえはオレの女になる」という鳴海の冗談にほんのちょっと口角をあげて柔らかい表情を作った。

そして、鳴海の発作を止めることができずに謝りながら泣く顔だけを残し、鳴海は記憶を失った。

記憶を失った鳴海がこれまでしろがねにさせた表情は、いつも哀しくて苦しそうで辛そうなものばかりで。

笑顔とは遠くかけ離れた顔を、鳴海はしろがねにずっと強いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

それが今、しろがねはこんなに嬉しそうに、幸せそうに笑っている。

自分の胸に飛び込んできたしろがねを鳴海は力強く受け止めて、やさしく抱き締めた。

飽くことなく、ふたりの唇は重なる。

鳴海もしろがねも、どんなにお互いの唇に触れたかったことだろう?

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、行くか。法安さんが待ってるんだ。あんまり待たせるのも悪ぃしな…」

鳴海は後ろ髪を引かれる想いでしろがねと唇を離す。

「そうね、帰りましょう」

これから自分たちには有り余るほどの時間があるというのに、『今』という時間を手放すのがもどかしい。

もう一度、軽いキスをして鳴海はしろがねの身体に腕を回し、その身体を支えるようにして歩き出した。

歩き出してすぐ、しろがねはピタリ、と足を止めた。

「どうした?」

「今……何か聞こえて……」

しろがねは首をめぐらす。耳に届く声無き声を、か細い想いを懸命に辿る。

しろがねの心に聞こえた、儚い何か。

「何かが私を呼んでいるの。私、それに応えなくては」

しろがねはゆっくりと確実に歩き出した。鳴海もそれについて行く。

 

 

 

 

教会の隣の建物の影で、しろがねは、そして鳴海はその声の主を知った。

「アルレッキーノ」

半壊して蹲るその胸には抱えられるようにして首だけになったパンタローネ。

「パンタローネ……ふたりとも」

もう止まってる。彼らはもう、動かない。

「おまえのために、ここまで来たんだな。こんな身体で」

「……」

しろがねは動かない二体の自動人形の傍らに膝をついた。

その頬に、新しい涙が跡をつけた。

「彼らも可哀想な存在。確かに彼らはこれまで人間を殺し苦しめてきたけれど、それは彼らのせいじゃない。そのように作った者のせい……使った者のせい」

しろがねはアルレッキーノの髪を撫で、パンタローネの頬を撫でた。

「これまで、よく私に仕えてくれました。ありがとう……安らかにお眠りなさい」

その言葉を発したのはしろがねなのか、それとも彼女の中に眠るフランシーヌ人形の心なのか。

鳴海には分からなかったが、それはもうどちらでもいいと思った。

しろがねは鳴海を振り返った。

「ナルミ…あの…」

「こいつらを運べばいいんだろ?お安い御用だ」

「あ、ありがとう…」

「礼には及ばねぇよ。こいつらがいなかったらシャトルは飛んでないかもしれねぇんだから」

こいつらも、仲間だよ。

鳴海はしろがねの頭をやさしく叩く。しろがねは目尻を指で拭った。

 

 

 

 

 

 

 

 

アルレッキーノの身体を両腕で捧げるように抱える鳴海の後ろを、パンタローネの首を胸に抱いたしろがねが続く。

「ありがとう」

変わらぬ忠誠を捧げ尽くしてくれた自動人形たちに、しろがねは、そしてその心の中のフランシーヌ人形は感謝を述べる。

感謝の言葉とともに、心からの微笑みを。

永きに亘った自動人形たちの悲願。自動人形たちの女神の微笑み。

それは自動人形たちにとってのまたとない福音。この上ない喜び。

 

 

 

 

 

 

 

しろがねは自分と鳴海に愛の祝福を与えてくれた、半ば崩れかけた教会を振り返った。

願わくば、罪深きも気高い、彼らの魂にも神のご慈悲がありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

二度と動くことのないアルレッキーノとパンタローネの顔には満ち足りた笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

End

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