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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

 

 

『ニーハオ、ウォイージアトン(はい、加藤です)』

 

 

受話器から聞こえてきた声に、鳴海は一瞬言葉が詰まった。

この声を最後に聞いたのっていつになるんだろ?

軽井沢の一件に首を突っ込むだいぶ前だ。

懐かしい声。

その声の主は中国にいる、加藤鳴海の実の母―――――。

母親の安否が気になっていた鳴海はホッと安堵の息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Would you celebrate?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウェイ?(もしもし?)』

受話器の向こうの母親は返事のない電話を訝しく思ったようだ。

「ウェイ……もしもし、おふくろ?オレだけど」

『…………』

今度は受話器の向こうが黙る番。

「もしもし?」

『誰かのイタズラじゃないんでしょうね?鳴海?本当に、鳴海なの?』

「うん……久し振り。全然連絡を入れなくてごめん」

『…………』

久方ぶりに息子の声を聞いて、感無量になっちなったのかな?泣いてんのかな?

鳴海がそんな感傷に浸りつつあったその時、特大の雷が落ちた。

 

「今まで何処ほっつき歩いてたの?!

 

この放蕩息子!!!」

 

鳴海は鼓膜が破れたと思った。思わず受話器を目一杯離す。

離してもはっきり聞こえる母の声。

 

 

『あんた今まで何してたの?警察と菅野先生から連絡があって急いで日本に帰ってみれば、家は半壊しているし、あんたは行方不明になっているし、警察に捜索願を出しても一向に埒が明かないし!母さんがどんだけ心配したと思ってんの?!このバカ息子!!犯罪や事故に巻き来れたんじゃないか、ゾナハ病の発作でどっかでのたれ死んでるんじゃないかって……』

母親の言うことはいちいちもっともだ。

 

 

だけど、軽井沢以降の鳴海には『母親に電話』する、なんてことはすっかり抜けていた。それどころじゃなかった。他のことに心を占められすぎていて余裕がなかった。

イノシシだから、という理由もつけられる。

 

 

「すまねぇ……。ホント、謝るから。実際、事故と事件に巻き込まれてたんだよ」

受話器の向こうの母親は大きく溜め息をついた。

『その上、世界中があんな大変なことになっちゃって』

「おふくろは大丈夫だったか?」

『ええ、大丈夫だった。苦しかったけど、かあさんも家も会社も恙無く』

「そりゃよかった」

その言葉に鳴海も胸を撫で下ろす。

『鳴海、ゾナハ病は?苦しい思いはしてない?』

「治ったよ、オレ。ゾナハ病」

『そうなの?ああ、よかったわねぇ……よかった』

母の声は幾分涙声だ。

『……それで鳴海は今、どこにいるの?どこから電話してきてるの?』

どこにいるの?と聞かれれば

「アメリカ」

 

 

そう、今、鳴海がいるのはアメリカ。

ただいま、同行したフウに冷凍保存してあった左腕をくっつけてもらい、そのリハビリ中。

 

 

『アメリカ?何でまた?』

「ここにいる経緯を話すととんでもなく長くなるんだけどな……それはまた今度ゆっくりと」

『アメリカじゃ日本で探しても見つからないはずね』

多分、アメリカもイリノイ辺りを探さないと見つからなかったけれど。

『……とにかく、良かった……あんたが無事で……。かあさん、幽霊でもいいから鳴海に会いたかったのよ?どんな姿でもいいから、鳴海に帰ってきて欲しいって…』

「そっか、そりゃあ、話が早ぇ」

「え?」

「実はさぁ、言い辛いんだけど両手両足がもげちゃってさ。左腕はまあ何とか戻ってきたんだけど、右腕と両足が義手義足になっちまってよー」

「は?それ、何の冗談?」

「冗談だったらよかったんだけどなー…。久し振りの電話でこんな悪趣味な冗談は言わねぇよ」

「じゃ、じゃあ、本当に?」

「うん、でもすごくいい義手と義足でさ、外見じゃ分からねぇし、自分の手足と同じに動くから心配しないでくれよ」

「…………」

母親は絶句している。当たり前だ。

「五体満足に産んでくれた身体、こんなことになってごめん。それだけはまず、言っときたかった」

「……よっぽどなことが、あったのね?」

「うん」

 

 

母親の頭の中には、赤ん坊の頃の懸命にバタバタさせる鳴海の小さな手足や、小学生に上がってもどんくさくていつも転んでばかりの鳴海の膝に薬を塗りながら「痛いの痛いのとんでけー」をしてあげた思い出が押し寄せた。

母親の記憶に残る我が子の手足の思い出。

母親は自分の手足もまたもがれたような気がした。けれど一番辛いのは息子自身なのだ。

母は鼻をすすった。

 

 

「何にしても、鳴海、あんたが生きていてくれてよかった。それであんたがいる場所はどこ?かあさん、すぐに行くから―――」

「大丈夫、もう少ししたら日本に帰るつもりだから」

「でも、かあさん――――」

「大丈夫。もう行方不明になったりしないから」

「…そう?だったら、遠回りになるけど、こっちに一度寄りなさい」

「うん、そうする。それからさ……ちっと言いづらいんだけど……」

言いかけて鳴海は言いよどんだ。

5年に一歳しか年を取らない身体になりました。髪と右目が銀色になりました。電話口で話してたところで理解してはもらえまい。

少し考えて、この話は会った時でいいや、と鳴海は思った。

『何?何が言いづらいの?かあさん、もう何を聞いても驚かないわよ?』

鳴海はちょっと間を置いて、彼にとっては一番重要な話を切り出した。

「うん、あのさ、オレ、一緒になりたい女ができた」

『は?』

何を聞いても驚かないと言った先から、母が再び絶句している。

 

 

毎朝、苛められるから学校に行きたくないと泣いていた鳴海が?

牛乳が飲めなくて給食の時間が終わっても昼休みが終わっても机に座らされていた鳴海が?

拳法を習い始めてようやく逞しくなってきたと思ったら勉強そっちのけで筋肉バカになってしまった鳴海が?

彼女ができるなんて浮ついた話のひとつもなく、一度だって女の子を家に連れてきたことのない鳴海が?

 

 

『結婚するってこと?誰?ミンシアちゃん?』

「ち、違ぇよ!」

『だってかあさん、あんたの身の回りにいた女の子ってミンシアちゃんしか思いつかないんだもの』

「才賀エレオノール、っていうんだ」

『何?外人さんなの?』

「うん、フランス人。すげえ美人だぜ?絶対驚くぞ、賭けてもいい」

『はあ―――…。あんたがねぇ……』

母親は再度絶句した。

「そっちに行く時、彼女と一緒に行くからさ。おふくろに会って欲しい。紹介したいんだ」

鳴海はしろがねのことになると嬉しくて嬉しくて舌がよく回る。

今も本人は自覚がまったくないのだけれど、ようやく想いの通じ合った愛しい彼女のことを母親に話しまくっていた。

要はノロケ話。

母は、かつては異性にまったく興味を示さずに身体を鍛えることばかりに夢中になっていた息子の変わりようにいささか驚いた。

この子の口から女の子の話が聞けるなんてねぇ……。

 

 

『鳴海はその人のことが好きなのね?』

「うん」

『その人…エレオノールさんはあんたでいいって言ってくれてるの?その……手足のこととか……』

「うん、全部知ってる。オレは彼女じゃないとダメだし、彼女もオレじゃないとダメなんだ」

オレたちはオレたちでないと歩いていけない。

『そう。だったら連れてらっしゃい』

母親は言った。

「あのよ…」

『なあに?』

「祝福してくれるか?オレたちのこと」

 

 

自分としろがねがこれから歩んでいく道は事の他、長くて厳しいものになるのだろう。

母親が老いても、息子とその嫁の見た目は時間が止まったように変わらない。

そして、母親のその腕に孫を抱かせてやることはできない。

次に会うときは、そんな事実を突きつけなくてはならない。

それらを思うと鳴海の心は痛む。

 

 

『当たり前でしょ?祝福するに決まってるでしょ。何、心配してんの?』

母親の声は明るかった。

『鳴海。かあさんはね、あんたがゾナハ病になって、いつ死んでもおかしくない、長生きはできないかもしれないって知ったときに覚悟を決めたのよ。遠からず、この子は私の手の届かないところに行ってしまう。先に待つ兄弟のところに行ってしまうんだ、って。それが、もう死ななくていい、かあさんよりも先に死ぬことがないって聞いて、どんなに嬉しいか。

手足が無くなったって言うから、もうこの子は一生独り身なんだ、ってガッカリしてたら一緒になってくれる人がいるって言う。こんなに素晴らしいことはないでしょう?祝福しないわけがないでしょう?』

「……」

鳴海は言葉をなくす。胸が痛いくらいに切なくなった。

「ありがとう…」

その一言が、鳴海の精一杯の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海が受話器を置く間際、鳴海の個室にノックの音が響き静かに扉が開いた。

大きな紙袋を提げたしろがねが入ってくる。

「着替えを持ってきたわ…あ、電話中だった?」

「いや、もう終わりだったから……おふくろと電話してた」

「おかあさ…ま?」

「うん。軽井沢の、それもずいぶん前から連絡をとってなかったからなぁ…今、ようやく…元気そうだった」

「そう。よかったわね」

しろがねはにっこり笑って、鳴海の服を紙袋から取り出して部屋に作り付けのタンスにしまった。

 

 

「それでさ……日本に帰る途中、中国に寄ろう。おまえをおふくろに紹介したいんだ。その話をしてたんだ」

「え?」

しろがねは目を丸くする。

「そ、それで?おかあさまは何て?」

「連れていらっしゃい、ってさ」

「そ、そう…」

何だかしろがねがオロオロしているので、鳴海は彼女の傍に近づいた。

「どうした?」

「いえ、あの、その……私、ナルミのおかあさまに気に入ってもらえるのかな……。

ほら、私って本当はずっとナルミよりも年上だし、それどころかおかあさまよりもずっとずっと年上だし……

他にも……いろいろ……」

鳴海は不安がるしろがねの肩をそっと抱いた。

くっついたばかりの左腕で。

「平気。何も心配はいらねぇよ。こんなべっぴんさんで働き者の女、鐘や太鼓で探してもオレには見つけらんねーよ。おまえにはもったいない、そうおふくろに言われるだろうよ。……それにいろいろあるのはオレも同じだ」

「ナルミ…」

「それにな、これからはもう何があっても、オレはおまえの味方だから。誰が何と言っても、オレはおまえを見間違えたりしないから。おまえにはもう…絶対に淋しい思いはさせないから、安心してくれよ」

「うん…」

鳴海は自分に身体を摺り寄せるしろがねの香りのよい髪にくちづけると、その身体をやさしく抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかあさま、か……。私にも、そんなふうに呼べる人ができるのね…何だか恥ずかしいな…」

頬を紅潮させながら、まだ見ぬ鳴海の母との語らいを想像しているしろがねを胸に、母親に自分たちふたりのことを祝福すると言ってもらえた喜びを、鳴海はじっと噛み締めていた。

 

 

 

End

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