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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。


 

 

 

warning !! 

こちらのページにあるものは鳴海としろがねの恋愛にまったく関係のないものになってしまったお話です。

年齢制限はありませんが、ミンシア・ギイ・阿紫花・ジョージのファンの方には怒られてしまうかもしれません。

彼らのイメージが崩れるのはちょっと、という方は読むのを止めましょう。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

【とら 虎】

〔俗〕酔っ払い。泥酔者。

 

 

 

鳴海は下戸だ。

酒の味が分からない。

どこが美味いのか、どうして酔うと気持ちよくなれるのかさっぱり分からない。

度数の高い酒なんかを飲んでいる人と同じ部屋にいるだけでも、実は匂いが鼻をついて辛い。

中国での修行時代、何度も飲まされて、自分でも何とか酒に慣れようとしたが上手くいかなかった。

飲めばすぐに潰れて、すぐに気持ちが悪くなって。

大して飲んでもいないのに次の日ずっと吐き気と頭痛に悩まされなくてはいけない。

鳴海にとって酒は鬼門。

あんなもんを笑いながら飲む奴等の気が知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では明日は夜明けとともにこちらを出発して欲しい。よろしく頼むよ」

フウの言葉でイリノイに向かうメンバーの会議は終わった。

会議が終わっても、暗くて重い空気が部屋の中を支配する。

主にその刺々しいほどの空気を撒き散らしているのが加藤鳴海であることは、そこにいる誰の目にも一目瞭然だった。ミンシアはそんな鳴海の姿に何となくいたたまれなくなって

「私、部屋に戻ってシャワーを浴びてくる」

と部屋を後にした。

「明日は早いからね。皆、軽く寝酒でもどうかね」

フウが声をかける。

特に異論はなく、そこにいた全員がメイド人形に案内されてとある一室に通された。

カウンターが設えられた、薄暗くて落ち着いた雰囲気の、ロンドンの夜景を一望できるフウ自慢の特設バーだ。全ては何気ないけれど、全てに金がかかっているだろうことは容易に想像できた。

 

 

 

「今日は無礼講だ。どんな酒でも好きなものを好きなだけ飲むといい。世界中の酒がここにはある。好みをメイドたちに伝えたまえ」

鳴海はカウンターに腰掛け、オレンジジュース(スペイン・バレンシアのフウお抱え契約農場お取り寄せオレンジ使用のフレッシュジュース。仏頂面ながらも『すげー美味い』と感心している)を飲んでいると、隣のスツールに阿紫花がやってきた。

「兄さん、ご無沙汰ですねぇ」

阿紫花は細い目を更に狐目にしながらフウ秘蔵のモルトウィスキーをトワイスアップで楽しんでいる。

「兄さんは、酒、やらねぇんですかい?まさか飲めない、ってんじゃあ…」

「オレは……まだ未成年だから飲まねぇんだよ。飲めねぇんじゃねぇ」

鳴海はどうしてもこの狐顔の男に弱いところを見せたくなくて見栄を張った。

「オレのガタイを見りゃ分かるだろ?本当はいくらでも飲める」

問わず語りになっていることに鳴海は気がつかない。

阿紫花の目は更に更に狐目になった。

「虎の威を借る狐、張子の虎ってこたぁねぇでしょうねぇ?」

 

 

 

【とらのいをかるきつね 虎の威を借る狐】

権威を持つ者の力に頼っていばる小人物の例え。

 

【はりこのとら 張子の虎】

見かけは強そうだが実は弱い人のこと。

 

 

 

け。

鳴海は図星を指されて視線をオレンジジュースに戻した。

「でぇ…どうですかい?記憶は…戻りましたかい?」

阿紫花は柳の葉っぱで切れ目を入れたような目に、ほんの少しの好奇心を込めて訊いた。

「……いいや」

「夜は長いですからねぇ、何なら暇つぶしにでもお話しやしょうか?」

「……」

鳴海はオレンジジュースから視線を外さない。

グラスの中で氷がカランと鳴った。

「東京であたしと兄さんが初めて会ったのは…」

「ちっと、待ってくれ。頭を冷やしてくる」

鳴海は阿紫花にそう言い残すと、ひとりベランダへと足を踏み出した。

阿紫花は苦悩の深そうな鳴海の背中をいかにも他人事のように眺めると

「他人の不幸は蜜の味」

と呟いて煙草に火をつけた。

紫色の煙が立ち上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、ここにいたんだ」

シャワーを浴びてさっぱりし、ついでに法安から「アンドロメダ星人」と呼ばれる衣装も着替えたミンシアが合流する。

「お嬢さんも一杯どうですかな?」

法安と日本酒談義に花を咲かせていたフウ(ふたりともフウの幻の日本酒コレクションで利き酒中)が、メイドにミンシアの席を作らせた。

「お酒は飲めますかな?」

「うん、人並には。でもいつも記憶がなくなっちゃうの。嫌いじゃないけど弱いのね。だから、一緒に飲んだ人は口を揃えて飲まない方がいいって言うわ」

「女性がお酒の席で酩酊すると何かと危険ですからね。今夜はほどほどにしましょう。シャンパンなんていかがです?」

ギイ(まったく遠慮もなくシャトー・マルゴーを開けまくっている)が、ミンシアの隣にシャンパンのボトルを携えてやってきた。

「ギイ・シャルルマーニュ。僕の名前が入ったシャンパンです。美しいあなたに是非飲んでいただきたい」

「せっかくだから、ありがたく頂戴するわ」

メイドが持ってきたシャンパン・フルート(ガラス器は全てバカラ)に黄金の液体が満たされると4人はグラス(法安とフウは古伊万里のお猪口。これもフウ自慢のコレクション)を鳴らした。

「明日…頑張りましょうね」

ミンシアはそう言って、窓の外に見える鳴海の背中を切なそうに見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海は夜の風に髪を靡かせながら眼下に見えるロンドンの夜景を瞳に映していた。

ひとり、静かに考える。

阿紫花の持っている、鳴海の記憶。

鳴海自身は失ってしまって持っていない記憶。

記憶を失った原因が含まれている記憶。

その後どうしてフランスで『しろがね』として復活したのかの鍵となる記憶。

サハラ直後のあの時だったら、何の躊躇いもなく阿紫花から訊けただろう。

 

 

 

でも、今は。

もう自分の過去も未来も現在すらもどうでもよくなってしまった今では、訊いたからどうだ、という感が否めない。

それに。

それ以上に、阿紫花の話には何か重大なことを覆してしまいそうな事実が含まれていそうな気がして、知るのが怖いのだ。

それが何かは分からない。

漠然と、怖いだけ。

 

 

 

そう、例えば、エレオノール。

憎んでも憎んでも憎み足りないはずのエレオノールを、それを教えてもらったら根底から憎めなくなりそうな予感がして怖いのだ。

どうしてかは分からない。

意気地がない。勇気がない。

本当は知らなくてはならないのかもしれない。

知った方が、失われた記憶を埋めた方がいいのかもしれない。

でも、知らない方がいいような気がしてならない。

鳴海はエレオノールのことを考えた。

憎い、憎い憎い人形。

憎い憎い、と思いながらも、この数ヶ月間、彼女を間近で観察し続けた結果、徐々に鳴海の中で蠢動しようとするものがある。

自分の中の奥底で蠢く何かと阿紫花の情報が手を繋ぐようなことがあってはならないのだ。

すべてに決着がつくまでは。

「やっぱ……阿紫花に訊くのはよそう……」

ふう、と大きな溜め息をついて、憂いを湛えた、

ファティマだったら『色っぽい…』とか言いながら頬を赤らめそうな顔で鳴海がベランダから戻ると、そこはすでに。

地獄絵図。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリノイ襲撃組はみんな酒が強かった。

鳴海を除いて。

 

 

 

ギイは勿論、酒が強い。

もっぱらワイン一本槍だが、彼にとってのワインは水のようなものらしい。

オリンピアの中にはワインが収納できるギミックがあるくらいだ。

 

 

 

法安は酒豪だ。

老いてもなお、彼は鳴海よりもはるかに多くのアセドアルデビド分解酵素を持っている。

貧乏サーカスにいなければ、一日一升は軽いと豪語する。

 

 

 

フウも法安と似たようなものだ。

潤沢な資産に物を言わせて最高級の酒を日々嗜んでいる。

『しろがね』である彼は長年をかけて鋼の肝臓を手に入れた。

 

 

 

阿紫花も酒好きだ。

ヒマさえあれば酒を口にしているかもしれない。

酒と煙草は放せない。

 

 

 

ジョージはそれほど酒が好き、というわけではないが飲めるクチだ。

嗜む程度には、と彼は言うが、いくらアルコールを飲んでもまったく顔色が変わらない。

平気な顔で茶色い酒をストレートで飲む。

 

 

 

ミンシアは……。

 

 

 

「姐さんには酒を飲ませるな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海の叫びは時既に遅かった。

「ああら、ミンハイ、やあっと帰ってきたろねぇ…相変ららず、辛気臭いカオひてんじゃないわよう」

アンタ、全然飲んでらいれしょ?

ミンシアの目が据わっている。高級シャンパンをラッパ飲みだ。

赤い顔。呂律の回らない舌。へべれけ。

鳴海がベランダに出ていたのはほんの10分足らずのはずなのに。

「おおーい、ギイ!あたしの酒がなくなったのら――!新ひいヒャンパン持ってこおい!」

ミンシアは大虎になっていた。


 

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