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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。





「はぁ、はぁ、はぁっ」
どさ、と背中を敷布に付けた。肌に浮いた汗が布地に浸み込む。
番う時、鳴海はいつも全力だ。毎夜毎日、自分に付き合わされるしろがねには申し訳ないと思うけれど、夢中でのめり込んでしまう。しろがねに、のめり込まされてしまう。こんなにも自分に幸せをくれるしろがねが、本当に愛おしくて堪らない。想いが体の中で膨れて、爆ぜてしまいそうで、いつもいつも苦しい。
そして、今回はいつもに増して全精力を注ぎ込んだ。しつこかった自覚がある。しろがねに許しを乞われる程、執拗に攻めた。何もかも、じやじやと燻る嫉妬心のせい。返す返す申し訳ない。
しろがねは火照った顔をこちらに向けてくったりとしている。途中で軽く意識を飛ばしていたからこのまま眠りに就くと思う。


「はぁっ…はーっ…」
ようやく荒げた呼吸が治まってきた。鳴海は横目でしろがねの長い睫毛が伏せられているのを確認して、そーっと長い腕を伸ばすとしろがねから遠ざけていた本を取り上げた。
『タロット解析入門』。
頭の上で静かに本を開く。予想通りの、オカルト的色彩の濃い文面と挿絵が並ぶ。
(ええと、コインひとつにコップがふたつ、ってしろがねは言ってたっけ?)
太い指がページを捲る。
(お。コップふたつ。『聖杯の2』。どれどれ…)
じっくりと目を通す。
「ふうん…」
書かれている内容に思わず、鳴海の鼻から面白くなさそうな音が漏れた。真顔で次のカードのページに移る。
(コイン…は『五芒星』ってのか。それの1…)
字面をなぞる目元がやはり面白くなさそうに顰められた。


「何て書いてあったの?」
突然のしろがねの声に、少し悪いことをしているアタマのある大きな身体がギクリとした。合掌に本を挟むように、ぱたん、と閉じる。眼球だけをしろがねに巡らせると、彼女はふんわりと微笑んでいた。
「な、何だ、寝てたんじゃねーのか」
「半分寝てる…身体はもう、動かないもの…」
「なら、ぐっすり…」
「ナルミ、読んでくれる?」
「何を」
「ナルミが今読んでいたページを」
しろがねは可笑しそうに笑っていた。自分の悪さも考えもお見通しにされている。鳴海は諦めて、ページを捲る。
「意味のとこだけ読むぞ?」
「うん」
「コップ2個は…『愛』『結婚』『セックス』…」
その他にも幾つかカードが持つ意味を読み上げる。
「もう一つのカードの意味は…?」
「コイン1個……『幸福、地上の楽園、最高の喜び、完全な満足、最高の知性・真理。富。たいへん好ましい前途と繁栄』…」


鳴海の朗読が終わると、しろがねは満足げに安堵した溜息をほうっと漏らした。
「…ありがとう」
「良かったじゃん。占いの相手とは相性文句無しでよ」
「そう思う?」
「そりゃ…『最高の喜び』だの『完全な満足』だの、『愛』だの『結婚』だの『セックス』だの、どこに問題が見つけられんだよ」
『セックス』で『完全な満足』とか。
言葉の端々に嫉妬が滲みそうになるのを懸命に押し留める努力をする。そんな単語を列挙していた本が忌々しくて、サイドテーブルへと押しやった。
「そうよね。良かった…」
しろがねは頬を薔薇色に染めて本当に幸せそうだ。
「怖がって聞かなかった、あの時の占いの最終結果は、これ以上ない最高の結果だったのね…」
今のしろがねが満ち足りた表情を見せているのは、自分との情事だけが理由じゃないのが、何とも妬けて仕方がない。彼女の頭の中に自分以外の他の男が思い描かれているのかと思うと、口惜しくて仕方がない。


「あのよ…」
「何?」
「でさ、占いの、その相手って誰なわけ?」
「誰?」
「要はさ、おまえ…相性を占いたいような男がいたの?」
「どうしてそんなことを訊くの?」
質問に質問を返されて、鳴海は目を泳がせて頭を掻いた。
「いや…何となくな…」
何となくな質問には「さあ」とだけ答えておく。
「さあ、って何だよ」
何となく、質問した割に鳴海は食い下がる。鳴海のヤキモチをくすぐったく感じながら、当時の自分を思い返して、しろがねは少し苦笑気味に微笑んだ。しろがねに苦笑いされ、鳴海はぐるんとうつ伏せになると枕に顔を埋め、しぶしぶ嫉妬を白状する。
「だってさぁ……オレと出逢った時だっておまえは自身を人形だって信じてたのによ、そんなおまえが相性占いの引き合いに出したってコトは、そいつはおまえにとってよっぽどの男ってことだろ?おまえは自分を過小評価してるけど、どんな男だっておまえが欲しくなる。占いの結果がこんななら、そいつとだって…おまえは幸せになれただろうからさ。オレと一緒になったのは…オレにとってタイミングが良かっただけでさ…」
堰を切ったように鳴海のヤキモチが唇から流れ出す。
「どんな男でも?…あなたも?」
「それを今更オレに訊くかぁ?」
ふてふてと、鳴海の顔が更に枕に潜った。だけど左手はそろそろとしろがねに伸びて、シーツの上で脱力している細い手をキュッと握った。


「そんで…誰とおまえを占ったの?リシャール、とはその頃に出会ってた?それとも、ギイ?ギイだってなら、その…まぁ、許せ…る、よーな、いや、ダメだな…」
「いなかったの」
鳴海の耳に、しろがねの声が届く。
「占いをしてくれるって言うんだけど、私には好きな男なんて誰もいなかったの。誰の顔も思い浮かばなくって」
「へ、へぇ…」
しろがねの言葉に何食わぬ声色を出しつつも、特定の誰かがいなかった事実が嬉しくて鼻の穴が膨らんでしまう。
「それで占い師に理想を問われて、適当に答えたの。『カラダの大きいヒト』ってだけを。『理想』なんて全く抱いていなかったから、本当に、適当に考えて…。適当な人との、相性占い」
チラ、と片目が覗き、銀目と合う。
「何だソリャ。じゃあ、おまえは存在もしねえマボロシとの相性の結果が知りたくなったのか?」
隣で広い肩が思いっきり竦められた。すっかりとヤキモチが余裕に置き換わっている鳴海が可愛らしくて目が細まってしまう。


「それでね……占い師の話を思い出してみて、もしかして、って思ったの。あれはナルミのことだったのではないのかしら、って」
「オレ?何でよ?まだ出逢ってもねぇのに」
不思議そうな声を出して、鳴海がしろがねへと首を向けた。
「フリーのひとが、不特定の誰かを占うことは珍しくないのではないのかしら?『私はいつ頃結婚できますか?それはどんな人ですか?』という風に」
それもそうか、と鳴海思った。勘違いの勇足が少し気恥ずかしくて
「…占いなんて、興味ねーからなぁ」
と誤魔化してみる。
「占いでね…未来で出逢うそのヒトは、力持ちで、不治の病持ち、そう言われたのよ」
「……」
「だから……あの占いの結果が知りたくなった……あなたとの、占いの結果だから、知りたくて、怖かった…」


布ずれの音をさせて身を寄せると、鳴海はしろがねと額同士をそっと擦り合わせた。
「もし、占いの結果が悪かったら、おまえはどうした?」
間近から覗き込む黒い瞳の向こうに銀色の星が透けて見える。しろがねと悠久を歩くために同じ星の下に現れてくれたひと。
「結果が悪くても。あなたから死ぬまで離れない。私が、死ぬまであなたを愛し続けることは変わらない」
鼻先で鼻先とキスをする。お互いの息がかかる距離、この権利を手放す気はない。
「占いの結果だけが外れた、って思うだけよ」
「オレだって、死んだっておまえを離す気なんざねぇさ。占いでどんな未来があるって言われても、気に入らねぇモンは覆すだけだ」
心配すんな、そう言って鳴海は笑った唇を触れ合わせた。そうして、いつしか、ふたりはキスをしたまま眠りに落ちた。





二月の雪に埋まり、
三月の風に吹かれ、
四月の雨に打たれた。
どんなに苦しくて辛いことも全部全部、
五月に花を咲かせるため。


そして今、花はきれいに笑っている。
大好きなひとの隣で。



End



postscript
相も変わらずに回りくどくて分かりづらい話になりました…。
『三月の風 四月の雨 五月の花を咲かせるため』という小エレとルシールのやりとりをSSにしたものをベースにした鳴しろの話、です。

サハラでのルシールの花道、彼女は最期に遺言めいた別れの言葉をかけに瀕死の鳴海の意識の中に現れます。「残された時間を憎むことではなく愛することに使いなさい」と後の黒鳴海化を戒めるかのような言葉を遺し、旅立っていくわけですが。
この時点ではルシールとエレが婆孫の関係にあることを作中で語られていないため、鳴海にもボヤかした表現で留まってます。確かに鳴海はルシールにとって、手のかかるけれど憎めない最後の生徒だったと思いますし、若い新人『しろがね』の双肩に全てをおっ被せて先に退場することを心配もしたでしょう。だからこその鳴海との最期の別れのシーンには納得です。

ただ、また違った意味でエレのことも気に掛けていないわけがないと思うのです。今生で名乗り合うことは叶いませんでしたが、エレは彼女の孫なのですから。娘アンジェリーナの遺児なのですから。鳴海にしたように、エレの顔も最期に見に行ってもいいんじゃないかと思ったのです。そしてずっと伝えることが出来なかった「祖母からの言葉」を掛けてあげさせたいな、と思ったのです。
サハラ裏でのエレは勝の家出や何やらでそれどころじゃなさそうなので、あえて物語が始まる前のエレに挨拶に行かせてみました。星から見たら、人間の現在過去未来の流れにおける数年のズレなど誤差にもならないのでいいかな、と(適当)。

占いは勿論、結果ありきです。
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