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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

 

私の心はそれまで真っ白だった。

それは『純粋』とか『無垢』とか、

そういったキレイな意味でではなくて

漂白された紙、大量生産された磁器のイメージ。

『人工的』ということではない。

『味気ない』『殺風景』、といったところか。

 

 

 

 

 

にんぎょうのいえ。

 

 

 

 

 

私の心は人形の家。

内側から閉塞された空間。

数学的に完璧な正方形。

壁はもちろん恐いほどの白。

扉はあるけれど、

壁に白い絵の具で描かれているただの絵にすぎない。

白い壁に白い絵の具だから、

どこに扉があるのかも分からない。

私がここから出て行くことはないのだから、

外界を繋ぐ扉に何の用があるだろう。

壁には窓がある。

窓の外にはマリオネットを操る誰かの手が踊る。

自動人形が私を殺しにやってくる。

恐いものしか見えない。

外には恐いものしかない。

他人と関わるのも面倒だ。

感情を捨てて、必要以上に口もきかない。

私は人形の家に住む人形。

壁に掛かる絵にはたくさんの人の顔。

みんな私と同じ銀の髪、銀の瞳。

みんな違う顔なのに、みんな同じ表情。

これが私の家族。

人形の家族は人形。

何が辛いことなのか、もう忘れた。

身体を傾けると瞳を閉じる眠り人形のように、

私の心は誰に会っても何を見ても自然に閉じていく。

誰に教わったわけではないが、いつの間にか覚えていた。

真っ白な部屋は時折暗闇に包まれる。

そして四方の壁が私に向かって迫ってくる。

私の息の根を止めようと見慣れた家具の陰から悪魔の手が生えてくる。

でも死なない。死ねない。

何故なら私は『不死人』だから。

いつもと変わらない心。

いつもと変わらない人形の家。

 

 

 

 

 

ある日、私の心の扉をドカドカ叩く男が現れた。

うるさい、何だ?

こんなことは初めてだ。うるさいうるさい!

どんなときでも感情を表に出したことのないこの私が

男に対し、怒りを露にする、怒鳴る、引っ叩く。

その男は扉を叩くことをやめないやめない。

男は私を怒鳴り、叱った。

男は私に冗談を言った。

男は私を何度も何度も助けてくれた。

真っ白で静謐だった私の人形の家は

だんだんと淡く色付いて、騒々しくなっていく。

とうとうその男は外から扉をこじ開け始めた。

私自身、初めて知った私の心の扉の場所。

恐る恐る近づいて、扉に触れてみる。

温かい。なんて温かいのだろう?

ほんの少し開いたその隙間から光が差し、

その温かいものが瞬く間に私の中に流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

隙間から見えたその男はにっこりと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

その笑顔が遠ざかっていく。

『待って!行かないで!』

私は渾身の力を振り絞って扉を開けて、

自分から人形の家を飛び出した。

私を人形の家から引きずり出した男は

燃え盛る屋敷の奥へと姿を消した。

そしてそれきり、会えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

私の心はもう白くなくなった。

あの男を想い、血の涙を流す。

苦しくて切なくて辛くてやりきれない。

後悔に後悔を重ね、悔やんでも悔やみきれない。

殻の中に閉じこもっていれば知らなくてすんだ感情。

 

 

 

 

 

 

 

辛くても、悲しくても、涙に溺れてしまっても、

でも、もう私は人形の家には戻らないと決めたのだ。

もう二度と戻りたくない。

もう二度と。

 

 

 

End

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