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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

 

 

 

左瞳から零れる涙

 

 

 

 

 

 

 

夜のしじま。

 

銀色の月。

 

間近に聞こえる潮騒。

 

月明かりに鈍く光る刃。

 

刃が食い込んだ黒いマリオネット。

 

首元を刃に晒された身も凍るように美しい顔をした女。

 

本物のフランシーヌ人形。

 

自動人形の首領。

 

諸悪の根源。

 

鳴海の憎悪の対象。

 

ゾナハ病の治し方を知る女。

 

憎悪、憤怒、絶望、重圧、重責、それらは鳴海の心を占めるもの。

 

 

 

 

 

 

 

この銀色の髪の、銀色の瞳の女などオレは知らない。

ようやく見つけた本物のフランシーヌ人形、人形どもの首領をオレが知っているはずがない。

「―――そして壊す。
そうしないと…マークやべス…死んでいった仲間にカオも…向けられねえ……」

 

 

 

 

 

 

 

左の瞳から静かに流れ落ちる一筋の涙。

 

鳴海の左瞳は黒い瞳のまま。

 

しろがねと出会った、あの日と同じ黒い瞳。

 

唯一、『しろがね』になりきれなかった左瞳。

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海は感極まって自分は泣いたのだと思った。

確かにそれもある。

だけど、本当の涙の理由は左瞳しか知らない。

何故ならもう、鳴海は彼女のことを忘れてしまったから。

左瞳だけが覚えているしろがね。

左瞳が泣いたのは、己に課せられた責任のために愛する彼女を殺さねばならない苦悩のため。

何もかもを忘れてしまった鳴海の代わりに左瞳が泣く。

もう二度と泣くことはない、覚悟の涙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星空の帳。

 

やさしい月の雫。

 

平行線の男と女の影。

 

愛する男に殺される未来を受け入れた女。

 

愛する女を忘れた己と、可哀想な愛する女への、黒い左瞳の嘆きの涙。

 

 

 

End

 

 

 

 

postscript     やっと再会できたのに、しろがねに対し記憶を失った鳴海が「フランシーヌ人形」と呼びながら刃を突きつける、あのシーン。「ゾナハ病の治し方を聞き出す」と言った鳴海は歯噛みをし、憎悪を隠そうともしないのに、「そして壊す」と言った鳴海は一転して哀しそうに涙を流します。涙が流れたのは左目だけ。左の目は黒いまま、何故か銀色にならなかった唯一の場所です。「そうしないと、カオ向けが出来ない」、『そうしないと』という表現にも引っ掛かります。この時点の鳴海はしろがねがフランシーヌ人形と信じて疑ってませんから、鳴海本人は何も意図してません。無意識に出た言葉だと思われます。『本当はおまえを壊したくはないんだ』という、深層に押し込められた鳴海の嘆きのように私は解釈したのでした。鳴海の左目は、鳴海自らも知らない本人の隠れた気持ちを表す窓なのかもしれません。黒い瞳、『しろがね』になりきらなかった部分、記憶を失う前の鳴海、そんな寓意が含まれている気がして。ローエンシュタインのエレベーターの中で「私はあなたのしろがねです」と言われ、しろがねから目を逸らしたとき、ギイに「エレオノールを男としてどう思っているのか」と訊ねられて目で物を言ったときも、左目が描かれています。たまたま藤田先生の描きやすかったのが左目なだけなのかもしれませんが、そこに意味があったほうがきれいだなぁ、と思ったんです。 

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