忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

原作にそったパロディです。

 

 

 

 

あの日からまともに眠れない。

眠りはオレに安らぎを与えてくれるものではなくなった。

眠りに落ちると、必ず同じ悪夢が待っている。

 

眠れない。眠りたくない。あの悪夢はもう見たくない。

 

忌まわしいしろがねの身体はそれほど睡眠を必要としないが、それでも全く眠らなくていいわけではない。

 

眠りたくはないが、睡魔はやってくる。

 

 

睡魔は慈悲深い腕でオレを抱き締めると、いつもの悪夢の番人にオレを引き渡す。

 

 

 

眠りたくない。あの夢の場所には行きたくない。

 

 

 

 

でも、容赦なく、

 

 

 

 

 

オレは夢の中に放り出される。

 

 

 

 

 

 

 

白い月の顔をした虚無の骨。

 

 

 

 

 

 

瞼が閉じた、と思った刹那、鳴海はいつもの悪夢の中に居た。

うんざりだ。またここに来てしまった。

一面の砂漠。あの日見た地獄の風景。

あの日から鳴海の心はここから一歩も進めない。

 

 

ここは焼け付くように寒くて、凍てつくように熱い場所。

汗ばむように乾いていて、骨と皮になりそうなくらい湿っている。

無風なのに、目の前の朽ち果てたサーカスのテントは

魔女の黒衣のようにバタバタとはためいている。

空は底無しの漆黒の闇。

雲ひとつないのに、星一つない。

あるのは、大きな月だけ。

月は、銀色の光を下品に蒔き散らし、

風雨に長年晒された頭蓋骨のような白い顔で

目も鼻も口もないのに、にたりと笑って途方に暮れる鳴海をあざ笑っている。

 

 

この月こそが鳴海の悪夢の番人。

鳴海の心に巣食う、虚無だ。

虚無は目を凝らせば凝らすほど輪郭がぼやけ、視界の外へと逃げていく。

なのにいつも鳴海の傍にいて、ゲタゲタとけたたましく狂ったように笑う。

口もなくて声も出ないくせに。

 

 

足元にはぐるりと十六方を取り囲む無量大数の砂、砂、砂。

サラサラとした粘着質の砂は虚無の骨でできている。

白いのに、無垢じゃない。

白いのに、赤くて銀色。

砂に混じって那由多の自動人形の残骸。

砂に混じって阿僧祇の人形破壊者の、かつて人形破壊者だった石。

 

 

ここにはいたくない。どこかにいかなくては。

それがどこかはわからない。あてもない。

でも足を動かさずにはいられない。

鳴海の足は懸命に前へと動いているのに、その場から動けない。

その滑稽な姿を、虚無がまた笑う。

足を踏み出すたびに足元の自動人形の、または人形破壊者だった欠片は

鳴海に踏まれて粉々に砕け、断末魔を上げる。

鳴海の心を少しずつ千切っていく恐ろしい断末魔。

 

 

わかった。わかったから。

おまえたちはオレが残らず壊してやるから。

アンタたちの無念はオレが晴らすから。

そんなに泣くな。泣かないで。

大丈夫、オレはもう、生きてはいるけど生きていないから。

死んではいないけど死んでいるから。

オレはもう、自分の希望も幸福も何も欲しがらないから。

死んでもなお、アンタたちをこうして縛りつける地獄の機械を壊すこと、

苦しみの螺旋を壊すことだけを目的に呼吸をするから。

 

 

だから。

オレを許してくれ。

 

 

『かわいいナルミ。

おまえの心の中には憎悪と絶望だけがあればいいんだよ』

虚無の月がいやらしく微笑み、そう大声で囁く。

五月蝿い。おまえなんか大嫌いだ。

 

 

鳴海は月が嫌いになった。

ほんの少し前までは、

大事な誰かに似ていて、その大事な誰か思い出させる月が

大好きだったような気もする。

でももう忘れた。

幸せな過去なんて、幸せのない未来しかない鳴海には必要ない。

 

 

これ以上はもう動けない。

自分のものだけど自分のものではない手足が重い。

身動きの取れない鳴海の前を銀の煙を棚引きながら、

真夜中のサーカスが通る。

 

 

まだおまえたちはそんなにいるのか。

オレの仲間は死んだというのに。

それを撒き散らすのはやめろ!もうやめてくれよ!

サーカスのパレードは喧騒的な静寂さで進む。

ゆっくりとものすごい速さで、後ろへと前進する。

ここでは何もかもが歪んでいる。

気がおかしくなる。

オレも狂っている。

 

 

すぐ近くにフランシーヌ人形が立っている。

偽者はオレが壊した。ならば、おまえは本物だな!

激しい憎悪が鳴海を焼き焦がす。

その白い首を刎ねにいきたいが、鳴海はもう動けない。

フランシーヌ人形はそんな鳴海を冷たく一瞥すると

パレードへと引き返し、

そのまま溶けるように掻き消えた。

そこには残されるのはいつも鳴海と虚無の月だけ。

 

 

月は泣きながら笑う。

『また壊しそこなったね。

ダメだね、かわいいナルミは』

鳴海は身を震わせ、砂を握り締めた。

 

 

そこでいつも唐突に、

夢は終わる。

 

 

 

 

 

 

目を開けるといつもぐったりと疲れきっている。心も身体も。

鳴海は大きく息を吐いた。

 

 

最近では。

仲町サーカスに来てしばらく経った最近では

その悪夢の終わり方が少しずつ変わってきている。

最後に目の前に立つのがフランシーヌ人形から

エレオノールになってきている。

どちらも同じモノのはずなのに、変化しているのが、分かる。

冷たく一瞥して立っているだけだった人形が、

哀しげに寂しげに薄く微笑むように涙をこぼす人形に。

 

 

その顔を見るのは嫌だ。

憎しみが薄れそうで嫌だ。

エレオノールを憎めなくなるのは、困る。

オレの中の憎悪が薄れるのは虚無のヤツも嬉しくないらしい。

最後はいつも高らかに笑っていたヤツが

歯噛みして怒っている。

歯もないのに。

ざまあみろ!

 

 

そう、オレにとっては夢も現も関係ない。

どちらも、悪夢に代わりがない。

 

 

鳴海は現実世界のエレオノールという人形を

見つめるように睨んだ。

 

 

 

End

 

 

 

postscript    鳴海が100%エレを憎んでいた段階から、記憶が戻っていながらあえて惨い言葉を彼女にぶつける段階になるまでが、どの時点でどのくらいだったかは原作では詳しく語られていないので想像の域を越えません。モンサンミッシェルでしろがねを鳴海に託す勝が「僕は感じているんだ、下にいる人は必ずしろがねを受け止めてくれる」と言っています。勝は鳴海だと分かっていないのだから、勝は「心」を感じたわけで、とするとこの時点の鳴海は「しろがねを受け止める」器を持っていることになります。まあ、「物質的な意味」でただしろがねの身体を受け止めるくらいの器、という解釈もできないわけじゃないですが…。できれば前者の解釈であってほしいです。

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]