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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。

  

 

 

才賀エレオノールはある閑静な住宅街で育った。
両親と年の離れた兄との4人家族。

ちょっと人と違うのは母親がフランス人だということ。

それで母親譲りの銀色の髪と瞳をしているということ。それは兄のギイも同じ。

エレオノールの母親は生来女らしい性質の人で口調も人当たりも柔らかいのに、彼女は年の離れた兄がとても大好きでいつも傍にいたせいか、シニカルなギイの真似をしているうちにすっかりそれが沁みついてしまった。

まったく女らしくないその口調や態度に、家族はほんの少しだけ心配した。

こんな娘を好きになってくれる人があらわれるのだろうか、と。

でも、エレオノールがどんなに高圧的な態度をとろうと、どんなに威圧的にしゃべろうと、母親譲りの美貌の前ではそれらはあまり意味がないだろう、まあ差し引き丁度いいんじゃないか、と楽観的な家族は笑って流した。

 

 

 

才賀家の隣は加藤家だった。

両家は夫婦同士で仲が良かったので昔から家族ぐるみの付き合いがあった。加藤家の家族構成はおじいさんとその息子夫婦、とその一人息子。一人息子、鳴海はエレオノールより一学年上だった。

ふたりはいわゆる幼馴染。

ところが、このエレオノールの幼馴染は『鳴海』なんて男らしい名前がついているのに、とんでもない泣き虫で弱虫だった。ギイに「おまえの名前、『ナルミ』の漢字が間違っているんじゃないか?愛海、とか成美とか」と女の子の名前のようにいつもからかわれていた。それをいつも年齢よりも大人びたエレオノールがたしなめた。

 

 

 

身長もエレオノールよりも低くて、体つきもヒョロヒョロで、運動なんてからっきしダメで、好き嫌いが多くて牛乳も飲めない。こんな鳴海は近所の悪ガキの格好の標的でいつもいじめられていた。えーんえーん、と泣いている鳴海をやっぱりエレオノールが庇った。

悪ガキ連中はみんな、エレオノールのことが気になっていたが子供の悲しさで
「わー、外人が怒ったー!」
などと口々に彼女を囃し立てながら、そして
「女に守られてカッコ悪ぃー!」
と鳴海に捨て台詞を残して去っていく。

 

 

 

肩を並べて家路につきながら、ぐすんぐすんとなかなか泣き止まない鳴海にエレオノールはお気に入りの花柄のハンカチを差し出した。

「もう泣くな。いじめっ子はいなくなった。だからもう泣くな」

年下のエレオノールに叱られて、鳴海の目には新しい涙が浮かぶ。

「ご…ひっく…ごめ…ひっく…ん」

立ち止まってまたぐずぐず泣き出す鳴海のその顔をエレオノールはぐいぐいとハンカチで拭いてやった。そのハンカチを鳴海の手に握らせて、もう反対の手を繋いであげて、家までひっぱって歩く。

「ナルミは、私よりお兄さんなんだろう?ナルミは3年生で私は2年生なんだから」

そう言われても、鳴海の涙は止まらない。

悔しくて、情けなくて。

弱虫な自分が嫌だった。

いつも自分より年下の女の子に守られているのもカッコ悪くて仕方がなかった。

その女の子が自分の好きな子ならなおさらで、しかもその子は自分を庇うばっかりに、悪ガキに「外人」だなんて悪口を言われている。

それもみんな自分のせいなのだ。

 

 

 

「もう、泣くな」

「う…ひっく…うん…」

鳴海は手のかかる弟みたいだ、とエレオノールはいつも思っていた。

鳴海を守ってあげるのが自分の役目なんだと、お姉さん風を吹かせたエレオノールはいつも考えていた。

泣き虫で弱虫でとっても世話が焼けるけど、泣き止んだ後に「ありがとう」と微笑む鳴海の優しい顔がエレオノールは大好きだった。

鳴海は自分がいなければダメなのだ、とエレオノールは思い込んでいた。

ずっとずっと鳴海の傍には自分がいて、いつか大人になるのだと信じていた。

このままの関係がずっと続くと信じて疑わなかった。

 

 

 

信じて疑わなかったけれど。

その年の夏休みの終わり、鳴海は引っ越すことになった。

両親の仕事の都合で中国へ。

こればっかりは子供の力でどうなるものでもない。

エレオノールの家の隣にはおじいさんだけが残ることになった。

鳴海は日本でだってこんなにいじめられていたのに、言葉の通じない中国ではどんなにかいじめられるだろう。

顔に出さなかったけれど、エレオノールは心配だった。

しかもいつも庇っていた自分はそこにいないのだ。

 

 

 

鳴海がエレオノールの家に最後の「さよなら」を言いに来た日、エレオノールはあの、いつも鳴海の涙を拭っていたお気に入りの花柄のハンカチを鳴海に手渡した。

「もう私は鳴海が泣いてても涙を拭いてあげられないから、これで自分で拭くといい」

「ありがとう。でも、これを使わないですむように頑張るよ」

鳴海はエレオノールににっこりと笑った。

エレオノールが大好きだった笑顔。

でも、もう、もう、見られない。

 

 

 

どうしてか、今日、泣いたのはエレオノールの方だった。泣くつもりなんかこれぽっちもないのに銀色の瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れる。

「どうしたの?エレオノールが泣くとこ、初めて見たよ。泣くこと、あるんだね」

「……」

いつもとは反対に鳴海がエレオノールの涙を拭ってやる。

その花柄のハンカチで。

「お正月とお盆にはおじいちゃんのとこに帰ってくるから。まったく会えないわけじゃないって」

えぐえぐと声を殺して泣くエレオノールの頭を鳴海は撫でた。

何だか初めて鳴海がお兄さんっぽいことをしている、泣きながらエレオノールはそう思った。

 

 

 

また遊ぼうね。

そう言って、鳴海は中国へ行ってしまった。

 

 

 

 

postscript      イメージは種ともこさんの『謝謝ByeBye』。引っ越す小さな男の子が好きな子に「ぼくを覚えていてね」という歌です。しろがねを普通に家族の中で暮らさせてあげたいな、というのがもとです。ひとりぼっちじゃない人生も経験させてあげたいな、と。エレパパママにも娘と生活させてあげたいな、と。原作は可哀想な親子愛でしたから。すべてが終わった後、勝はしろがねに彼女の生い立ちを教えてあげたのでしょうかね?もう勝しかそれを知る人はいないし、教えてあげたほうがしろがねのためだと思うんだけど…彼女は自分のルーツを知らないから。よく話の中でしろがねを「日仏ハーフ」の設定にしています。「日本人のハーフで銀目銀髪になるのか?」という疑問はなしの方向で。

 

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