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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。






殺人シェフと哀れな子羊





「えーと…つぎは砂糖を小さじ1、と。えい」
「りょ、涼子さん?それは大さじですよ?5㏄って書いてあるのが小さじで、それに1杯っていうのはすり切りで決して山盛り一杯ってことでは…あ、それにこれは後からかけるソースを作るのですよ?鮭に直接かけちゃ駄目ですってば!」
「平気平気!最後には一緒に食べるんだし。次は…」
「ちょっと待ってくださいっ!ええと、今の砂糖が大体レシピの6倍強の量があったから…あら?何だか焦げ臭いですよ?涼子さん!肉じゃがの野菜が焦げてます!鍋の火が強過ぎです、中火でいいんですよ。それに酒を振って…え?何しているんですか?それは酒じゃありません、お酢ですよ?」
「あ、ホントだ。ごめーん、大丈夫。ちょろっとしか入ってないから」
「ちょろって…(アシッドな肉じゃがが出来上がるわね、きっと…)」
「あ、しろがねさん。鮭が焼けたみたい。んー、いい色♪」
「はい?もう?まだ焼き始めて2分も…涼子さん、フライパンも強火ですよ?これじゃ中はまだ生ですよ?」
「もう、しろがねさんたら心配性ねぇ。サーモンは寿司ネタにもあるもの。多少生でもイケるわよ」
「これは加熱用の切り身です!」


台所から聞こえてくるしろがねの悲壮な叫びを背中で聞きながら
「一体、おまえの彼女はどんなモンを食わせてくれんだろうなぁ…」
ハハハ、と鳴海が引き攣り笑いを浮かべた。
「無事で済むんだろうなぁ、今夜の夕食」
聞こえてくる会話の内容からすると、涼子の腕は料理上手のしろがねが今夜だけ教示したところでどうにかなるレベルではなさそうだ。料理があまり上手くないとは前々から聞いてはいたけれど「あまり上手くない」なんて控え目な表現ではおそらく間に合わないだろう。包丁の使い方が危なっかしいくらいなら可愛いものだが、涼子の殺人シェフっぷりには可愛らしさは皆無だ。むしろ堂々とした豪快さが漂っている。
鳴海も料理は玄人ハダシだから今の台所の惨状が目に浮かぶようだ。きっと後片付けも大変なことになっているんだろうな、そんな覚悟も必要らしい。
「まだいいよ、鳴海さんもしろがねさんも……食べる前から身体ン中に解毒剤が流れているようなモンじゃん。その点、オレはガッツリ常人だからさ…」
平馬は既に青ざめた表情で肩を落としている。
「そ、そりゃそうだ」
確かにその通りだが、食材に火が入っている入ってないの他にも味付けも衝撃的なものがされている様子なので、それが舌に載ったときの戦慄を想像するにつけ鳴海は身の毛のよだつ思いがする。しろがねのリカバリーも役に立たない気がしてならない。
「毒と分かってるモンを呑み込むってのは結構磨り減るよ」
平馬は青色吐息だ。
「おまえはそれがいつもなんだもんな」
「うん。どっちも料理上手な鳴海さんとこが羨ましいよ」
キリキリと既に痛み出した胃を押さえ、はあ、と平馬は遠くを見遣った。


先日、鳴海宅に夕食をご馳走になりに来る予定だった平馬と涼子だったが、涼子の作った差し入れ料理の味見を(強制的にさせられて)した平馬は出かける直前に激しい腹痛と下痢・嘔吐に見舞われ、予定はあえなくキャンセルとなった。
「まさか救急車を呼ぶ騒ぎになってるなんてなぁ」
平馬が地獄の苦しみを味わっているとも知らず、ほのぼのと美味しい料理をしろがねと頂いていたことを申し訳なく思う鳴海であった。
「腸炎ビブリオとサルモネラ菌がダブルでさ…そりゃあね…解凍して時間のたったエビとクラッシュした殻が混じってる卵液とで作成された半生エビフライじゃね…」
「確実にやられるな…。教えてくれれば駆けつけたのによ。退院してから事後報告なんて水くせぇぞ」
「カッコ悪くて見せられっかよ、あんなヘロヘロな姿!」
点滴を引きずりながらトイレを何度も往復したあの情けなさ!他人の奥さんとはいえ絶世の美女であるしろがねに見っとも無い自分を見られたくない、平馬の切ない男心なのであった。
かつて飲んだしろがねの血のおかげで回復は人並み以上に早かったけれど、ダメージはダメージだ。
「涼子も分かってるんだろ?おまえの食中毒の原因」
「アンタの胃腸が貧弱なのよ!って言われた」
「マジか?鬼だな」
「彼氏の食あたりの原因が自分の料理だって凹むようなヤツが人様の台所を借りてまで地獄料理を作るわけないじゃんか。日も経ってないんだぜ?そんなに」
涼子は今、先日のお詫びと称して皆に手作り料理を振舞おうとしているのだ。ノリノリで。
「涼子さん?炊飯器に入れる水の分量、かなり少なかったんじゃないですか?芯が…残って…これは硬っ…」
なんてしろがねの声が聞こえてきた。ただ白米を炊くのにコレか、とふたりのゲンナリ度が上がる。
「涼子さん?レシピには豆板醤とかチリソースとか…書いてありませんけど?いいのですか?」
「辛い方が美味しいわよ、肉じゃが」
「あっ、タバスコもそんなに。辛味は各自がそれぞれにつければよかったのではないですか?もう、手遅れですけど(ただでさえアシッドで微妙な味付けだからかえって激辛に均されてよかった…と思った方がいいのかしら…?)」
美味しくねぇよ、肉じゃがを辛くするなら精々七味唐辛子だろ?と平馬はブツブツと呟いた。持参してきたレシピも全く役に立っていないらしい。というか、何のためにレシピを持ってきたのかが分からない。


「おまえ、偉いなぁ…ちゃんと食ってんだもんなぁ、アレをいつも…」
鳴海の瞳には尊敬の色が浮かんでいる。そんなことで鳴海に尊敬をされても平馬はまるで嬉しくない。嬉しくないが多少の気の持ち直しはできた。
「だってさぁ…リョーコなりにオレに美味いもの、食わせようとしてるんだって思うとさ。食ってやんねぇと。…たまたまこの間はオレも次回公演の新しい演目の練習が始まったばっかでくたびれてたんだよ。だから胃腸が追っつかなくってさ。ある意味、涼子の言ったこと当たってんだ」
「男だな、平馬」
鳴海の大きな手の平が平馬の頭を撫でる。こうして鳴海に褒められるのはいくつになっても大人になっても胸がいっぱいになる平馬だった。
「涼子だってオレのためを思って…ワザとやってるんじゃねぇからさ」
と、平馬がヘヘヘと照れ笑いをしている先から
「りょ、涼子さん、せめて盛り付けはキレイにしませんか?」
「しろがねさん、これを食べるのは平馬よ?気にしない気にしない。アイツなんかは適当でいいのよ。あ、でも鳴海さんとしろがねさんのはこっちよ。きれいでしょ?」
あっけらかんとした悪びれもない、涼子の「平馬軽視」発言。平馬は、ごち、と額をテーブルにつけた。鳴海は気の毒そうに若い友人の肩を叩く。
「ねぇ、涼子さん。料理のお勉強、しませんか?私でよかったら日本にいる間…」
「大丈夫よ~。経験値を積めば何とかなりますって」
「何とか…なりますか?」
何とかならねぇだろっ!しろがねさんの申し出を何で断るんだよ!と心の中で叫んでも仕方がない。
あいつは自分というものがまるで分かっちゃいない。


「ねぇ鳴海さん…」
「何だ?」
「今度、オレに料理教えて。自衛することにした、オレ」
「おう。いくらでも教えてやる」
鳴海も苦笑するしかない。
「ありがと。もお、オレが料理の勉強をするしか未来がねぇってよっく分かった。それから…今夜のオレの死に水とって、頼むよ、万が一のとき」
「おう。まぁ今日は泊まってけ。万が一(無事でいられることの方が万に一つかもしんねぇが)発症して容態が急変して、もう死ぬってなったらオレの血をやるからさ」
「うん。そうして…」


「さーあ、できたわよ!こっち来てー!」
最後の審判のときが来た。
鳴海と平馬のいるリビングに女ふたりが呼びに来る。朗らかな涼子の顔とは裏腹に、しろがねの顔には疲労の色が濃く見えるのは何故だろう?
鳴海は自分の傍らに膝をつく愛妻に
「ご苦労さん」
と労いの言葉をかけた。
「できるだけフォローはしてみたけれど…」
地獄を天国にすることはできなかったとしろがねはちょっと涙目だ。
「うんうん。頑張った頑張った」
クリクリと頭を撫でてあげる。
片やどんな地獄料理も甘く味付けされそうなカップル。
が、もう片方のカップルの動向はなかなかに切実だ。
「平馬ったら!何をグズグズしてんの!いらっしゃいってば!」
諦めの境地に辿り着いた平馬は覚悟を決めつつ、ノロノロと立ち上がった。ダイニングからリビングへと流れてくる微妙かつ凄烈な香りに卒倒しそうになりながらも。
「さあ、テーブルについて!今日のは自信作なんだから!」
毒薬の自信作?
首根っこを掴まれて引っ張られるようにして歩いていく平馬の後姿に何となく、手を合わせてしまう鳴海としろがねだった。
地獄の晩餐が始まる…。


哀れな子羊に神のご加護のあらんことを。



End


postscript
『コロッケとクロケット』の続編、みたいなもの。涼子が殺人料理を作った一文が膨らみました。涼子みたいな可愛くて運動神経がよくて頭のいい優等生タイプってどこかに穴があった方が親しみやすいと思うんですよね。完璧すぎない方がいい、欠けた部分は徹底して、ということで殺人シェフ(笑)。裏設定的には、添加物は嫌いだし本物志向のために食材はいいものを使うけれど、昔かたぎの勿体無いジジイっ子だったために多少(かなり)の消費期限オーバーは気にしない。食材の切り方に繊細さは欠片もなくダイナミック。火加減という概念もあまりないので仕上がりはコゲコゲが生かどっちか。レシピよりも自分の舌を信用する(けれど味覚音痴の疑いが)。頑張れ、平馬!
あ、原作上に涼子が料理下手だという描写は一切ありません。念のため。
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